夢追い旅
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出る杭は打たれる

 翌朝、カオルにお早う!の挨拶をしていたら、旗手社長から携帯があった。今日ミーが二人の携帯を買い替えに行く予定にしていた。
「段取りよく片づけてくれたようだな?」
 専務辺りから報告を受けたのだろう。
「問題があれば?」
「君に任した。ところで今から神戸に来てくれ」
と言ってホテルの名前を告げた。団長に声をかけて私服で家を出る。途中で社内からミーに連絡を入れる。
 昼前にはホテルに着いた。フロントに名前を告げると、最上階の部屋を教えてくれた。ドアをノックすると旗手社長が顔を出した。窓際の椅子にどこかで見たような恰幅のいい顔があった。
「スーパーD社の社長だ。昔からの先輩になる。昨日から泊まり込んで話を続けている。ようやく方向が決まったので来てもらった。専務は今日から地検に呼ばれている。だからこれからの動きは君に任せる」
 二人ともパジャマ姿で砕けているが、かなり疲れた様子だ。
「書き物はないから頭に入れてくれ。専務には君に伝えると言ってある。この調子なら明日の朝には呼び出しがある。どうも僕の夢のストーリーはここでお終いになるようだ」
「そこまで?」
「出る杭は打たれる。古い言葉だがまだしっかり生きているのさ」
 ここで初めて冷蔵庫からビールを出してきて栓を抜く。今まではコーヒーを飲んでいたようだ。
「おそらく長い裁判になるだろう。だが会社は潰したくない。そのためには本当のリストを見せるわけにはいかない。総理も同じだろう。小林が持ち出したリストを本物にしてしまうのだ。2つ目からは出したくない名前が並んでいる。これは僕以外総理と君だけだ真実を知っているのは」
「それで会社は生き残れますか?」
「残るいや、残す」
 どうやら旗手社長は真実を墓場まで持って行く気だ。
「いい時期を見て専務にバトンタッチした代表をD社の社長に譲る」
 D社の社長が頷く。ここまで話は決まったようだ。
「君も落ち着いたら、自分の将来を考えてくれ。しばらくは頼むよ」
 珍しく旗手社長が握手してきて、最後にD社の社長の手がそっと二人の手を包んでいる。旗手社長の涙を始めてみたと思った。
















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ジャンル : 小説・文学

かなわない願望

 3日ぶりのホワイトドームだ。11時を過ぎているのだが、まだフランケン達が5人ほどカウンターにとまっている。団長がオムライスを作っている間に寝ているカオルをそっと抱く。この子は周囲の賑やかなのはお構いなく、時間が来たらおとなしく眠ってしまうようだ。背中でフランケン達がお金を投げ入れて出てゆく音がする。
 ビールの小瓶を黙っておく。
「心配をかけるね」
「一日中ベンチャー事件ばかりが流れているものね」
「心配が図に当たってしまったよ」
「でもそれは旗手社長の方針だったのだから仕方がないよ」
 団長には知らず知らず愚痴を言っていたのだろう。
「手は打てるだけは打った。運を天に任せるしかないな」
 それは周平の本音だ。団長は洗い場を済ませると、自分も小瓶を出す。
「ところでケイ君は報告をしたと言っているが?」
「ええ、15件の救急病院から伯母さんが運ばれた病院を探し出したわよ。全身癌だったようなの。3か月ほど病院にいたけど、ある日息子が迎えに来ると言って出て行ったらしいの。その時の看護婦さんを見つけたので詳しく話を聞いたと言っていたわ」
 息子が迎えに来るか。やはり伯母は最後まで周平を息子と認めていたわけだ。それは伯母、いや母のかなわない願望だったのだ。
「その看護婦さん周平の大学入学の時の写真を見せられたって。えらい若いのねって聞いたら、それから会ってないと言ってたらしいの。ケイ君面白い情報を見つけたの。その看護婦さん、半年後にばったり市場で伯母さんに会ったの」
 ケイ君が買った住宅地図を広げる。市場周辺を赤丸で囲っている。
「たった半年で痩せ焦げてお婆さんのようになっていた。買い物かごを首からかけて歩いていたから、そんな遠いところには住んでいないとケイ君の意見。もう一度彼には大阪に行ってもらう。何が何でも周平にお母さんに私を紹介してもらいたい。ここに来てもらって4人で暮らすのよ」
   








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査察

 翌朝、テレビにベンチャーの本社の玄関に段ボールを抱えたスーツ姿の一団が入るシーンが映し出された。どの番組でも同じシーンが繰り返し流されている。周平とミーは昨夜も毛布を持ち込んで泊り込んだ。運び込んだ段ボールの中身を再点検して、消却するものとここからも持ち出すものとに分ける。ミーはNビルに出かけて、社長室の整理をして、裏の会社の事務部をこのビルの空き室に移動させた。4tを2台藤尾が調達してきた。
「何か手伝うよ」
 昼過ぎにケイ君が顔を出した。
「団長の指示か?」
「これ3人分の弁当だ。大変なことになったな。逮捕されることは?」
「今のところない。伯母の?」
「すべて団長に話している」
「カオルは元気か?」
 こっくりと頷く。
「テレビ見ているかい?」
 総務部長の声だ。また公衆電話からかけているのだろう雑音が聞こえている。
「そちらの指示通り、小林の部屋はすべて調べてみた。とくに怪しいものはなかった。そちらの言うようにその他のものはそのままにしている。社長室も同様にした。あのリストは本社にはないだろうね?」
「表では一切触っていませんから。銀行の方はどうですか?」
「今後の判断待ちだそうだ。専務曰く、メインのS銀行とM銀行次第だそうだ」
「小林と秘書は?」
「まだ泊められている。小林はどこまで知っているんだ?」
「Kジャーナルに出たあのリスト以外はノンタッチです。彼も使い込みやバックがばれているのは了解していますから、駆け引きですべてを話すことはしないと思いますよ」
 だがこれからどうなるのか周平にもわからない。周平は目をこすりながら書いた『噂の真相』の記事をケイ君に運んでもらうことにした。Kジャーナルの黒崎が赤坂に絡んでいたことを記事にした。どこまで彼らを牽制できるか分からない。








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ベンチャー事件の始まり

 翌日のKジャーナルに未公開株のリストがぼやかせて載せられた。これを持って来たのは轟だ。周平もミーも思い思いにソファや椅子を並べて寝ていた。あれから裏会社に書類の段ボールを運び込んだ。手伝ってくれた藤尾と運転手は自分の事務所に戻って仮眠をとった。気が立っていたのかミーがなかなか寝付けず持ってきたワインを二人でいつの間にか空けてしまっていた。いつ寝たのかも覚えていない。
「Kジャーナルには黒崎の車が残っていて、部屋には数人がいるようだった。今ダチに張り込みを続けさせている。それからY新聞の系列の雑誌を買った。やはり同日であの小林と秘書の映像をベンチャー事件としてシリーズ掲載を始めた」
 ここにはまだリストらしきものは載せられていない。
 私設秘書から携帯が入る。
「やられたな。昨夜第1秘書から電話で3か月前付の解雇を言い渡されたよ。そちらとの関係もなかったということにしてもらえということだ」
「そうだろうね。これだけ聞きたいのだが、未公開株はあのリスト通りに配られた?」
「おそらくリストの半分もその通りに配られていないね。あくまでも想像だが」
 これは総理が自分で振り分けたのだろう。
「噂でいいから集めてくれ」
「分かったよ。失業者だからな」
 携帯を切った途端、本社の総務部長からの電話だ。
「銀座には公衆電話がないね。小林と秘書が警察に入った。解雇は済ませている。これからはこちらから電話を入れる。社長もそうだ」
「社長は?」
「ヘリで大阪に。任せたと言っておられた。でも未公開株の身内売買は業界の恒例だったはずだが?」
「でもそれを恒例としてきた人達が恒例でないと決めたらどうなるのでしょか?」
「私には考え付かないな」
 これが黒崎の言う上の人達なのだろう。










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導火線

 団長に連絡を入れて、今日はNビルに泊まり込みをすることになった。旗手社長も8時にはSハウスの社長と出て行った。専務と総務部長は1時間前に会社に戻っている。ミーは黙々と段ボール箱を作って書類を分けて入れ始めている。周平は藤尾に携帯を入れて腹心を連れて運び込みを手伝ってもらうことにした。
「ここまでしないとダメなの?」
「ああ、これはYテレビの社長の仕掛けだ。小林が導火線として利用された」
「彼は意志があるの?」
「ないだろうね。ファイナンスの社長を下されて、融資が否決になったことで完全に黒崎の手先になった。Yテレビの社長からいくらかの金が出ているのだろうな」
「金には敏感な男だからね」
 周平は未公開株の3つのリストを自分の鞄に入れる。一つは試案のリストであの野党の代議士の名前はない。2つ目は野党の代議士名が加わったもの。3つ目は旗手社長の修正が入った最終版。だが総理の手元では全く違うリストになっているはずだ。
「旗手社長はどう動くかしら?」
「最悪まで読み込むだろうね」
 10時には藤尾が3名を連れてきて、まず書類から軽トラックに積み込む。それから30分遅れて4tが到着する。こちらにも3人が乗り込んでいる。4tは赤坂の地上げ現場の一室に運びこまれる。これは周平の指示だ。おそらく大規模な査察がが始まると想定している。旗手社長も同じ考えだ。
「素早い対応だな」
 轟が黒づめの作業服で入ってくる。彼はパソコンからデータを抜き出して、その他は完全に消してしまう。それから携帯や防犯カメラにも取り掛かる。
「しばらくKジャーナルを張り込んでくれ」
「彼奴らが動いているのか?」
「間違いない」
 書類を藤尾と周平が乗り込んで裏会社に運び込む。4tは2時間遅れて赤坂の地上げの一室に運びこまれる。轟は作業を済ませるとKジャーナルに走る。
 周平が藤尾と作業を終えて戻ってきたのは、薄っすら空が明るくなってきている。がらんどうになった部屋の真ん中にミーが胡坐を組んで座っている。そこにワインボトルがある。これはミーが冷蔵庫にいつも入れているボトルだ。
「後ろ姿は男だね」
「待ってたのよ。3人でサヨナラの乾杯しようよ」




















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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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