夢追い旅

嫌な予感

 出勤前に団長とカオルの顔を覗いた。昨日お腹の中の赤ちゃんの診察があって、女の子であることを告げられた。
「いよいよ名前を決めないとね」
 団長がカオルを励ますように言う。周平はなぜか胸が一杯になって外に出た。今日は取引先へ直行ということで、ミーと議員会館で待ち合わせをしている。未公開株の配分前に渡す現金のリストと現金の引き渡しだ。これについても代議士の不透明な配分と小林の追加配分の問題を残したままの実行である。
 待ち合わせの駐車場にすでにミーの車が入っている。周平の顔を見ると二つの黒鞄を持ち上げて歩いてくる。
「やはりだめっだたのね」
 リストの変更が受け入れられなかったことを言っている。片方を周平が持つ。二人で2億はある。これに追加の未公開株が加わる。それだけお金をかけても採算が合うと旗手社長は判断している。
 代議士の部屋に通されると、珍しく代議士本人と秘書が先に座っている。
 儀式のように黒鞄が交換される。このお金を配分される人数は未公開株の3倍ある。主要な人物だけに未公開株が渡される。というのは現株の購入資金を融資する必要があるからだ。
「例の赤坂の土地だが等価交換の話が近々に来る。その打ち合わせは君に入ってもらいたい。それに」
と言ってポケットからメモ書きを出す。
「このお金を明細通り現金で用意して、同席する彼に渡してくれ」
 周平とミーがメモを覗きこむ。3名の名前と金額がある。見たのを確認すると代議士は細かく破り捨てる。
 これで今日はお仕舞だ。
 車に乗り込むと、ミーがため息をつく。
「嫌な予感がするわ」
「ああ」
 周平も同感だ。車は暗黙の内にミーのマンションに向かう。
 








 

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裏社会

 珍しく旗手社長から直接呼出しを受けた。手短に銀座のレジャービルの名前を告げられて、その最上階に来るようにということである。タクシーを降りて、この辺りはマキのクラブのある近くだとようやく分かった。銀座のはずれになる。
 がたがたと音を立てながらエレベータが上がる。どの階もクラブかスナックである。だが、まだ陽が高いので誰も乗ってこない。このビルは旗手社長の趣味ではない。階上に着くとまた相応しくない中国の貿易商社の名前がすりガラスに印刷してある。
「あの」
 ドアから顔を出す。
「もう1階上がって!」
 おばちゃんの怒鳴り声がする。これはビルを間違えたか。だが、暗がりの奥に階段がある。
「階段は歩くものだ」
 旗手社長の声が頭の上でする。
 確かに部屋があるがこれは不法建築のようだ。でも、思ったより立派な古めかしい家具が並んでいる。テーブルの向こうに70歳には見える優男が座っている。その前に旗手社長が息子のように座っている。その横に餅を叩きつけたような小太りの男が窮屈そうに椅子に掛けている。周平が名刺を出そうとすると、旗手社長が目でやめとけと合図する。
「今後は彼がこちらに来ますよ」
「そうか。次はそのまま上がってきなさい」
 周平を一瞥して、
「あの代議士は食わせもんじゃ。よっぽど気を付けることだ」
 どうやら周平がお金を届けているあの代議士のことを言っているようだ。
「そうそう黒崎は悪さはしてないかな?」
 どうも黒崎を呼び捨てにしているようだ。
「よく動いてくれています」
「そうか。だが奴は八方美人だからくれぐれともな」







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裏のメンバー

 ケイ君の小林の調査報告が届いた。前回の彼の調査を具体的に裏付ける証拠も揃ったことになる。ミーに簡単に調査の内容を伝えて、旗手社長の時間を取ってもらうことにした。
 ミーから連絡が来たのは昼過ぎでこれから証券会社に来てほしいということだった。不動産会社の幹事証券ということだが、あの証券マンの会社ではないようだ。
「どうぞお待ちです」
 伝えられていたのか応接室にすぐに通された。中に入ると、あの証券マンと二人で打ち合わせしていたようだ。彼は周平の顔を見ると軽く会釈をして外に出てゆく。
「小林の悪さがいろいろ出てきたんだろう?」
 調査票を受け取るなりの一言だ。社長もよく分かっているのだ。それでもじっくり書類に目を通す。
「いよいよ会長が降りるという話だが?」
「条件のすり合わせで時間を食っています」
「さすがにこれでお仕舞だろう。裏のメンバーからも嫌われているからね」
「裏のメンバー?」
「この国は一部の人達に動かされている。会長もそこに入れたのだが敵を作りすぎた。かと言って私もまだ新参者だから同じ運命になるかもね」
 舅もその裏のメンバーと通じて道を踏み外した。
「小林もあと少しのところに来ると、悪い癖が出てくる。でも今更未公開株のリストの変更は無理だ。すべての欲が絡んでいる。よじれた糸を戻す方が難しい。取りあえず小林の裏の会社の社長を交代しくれ」
「私でいいのですか?」
「ミーとも相性がいい」
 旗手社長は調査票を内ポケットにしまうともう時計を見ている。リストの変更はなしだ。
「それと代議士の件もそのまま進める。もう時間がない」






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時の流れに

 M商事に銀座のママが押しかけてきた。周平が携帯に出ないからだ。現在は舅と別れて会長の愛人に戻っている。非常に我儘な人だ。
 会長室の応接に人事部の人間が気を使って通したようだ。
「ずいぶん避けられたものね!」
 相変わらずの口調だ。もうテーブルには煙草の吸殻が3本も溜まっている。
「そういうのではありませんが」
「まあいいわ。相談役にうまく取り込んだようね?」
 そういう風に伝わっているのか。
「今までM商事からは少なくとも15組は入れ代わり立ち代わり店に来てくれていたのに先月などは誰も来ない。調査部も1度も使っていないどういうわけ?」
「経費節減です」
「そんなの通じないよ!はっきり言ってよ」
「会長からは?」
「あの人も来ないわ」
「彼女はどうしています?」
「子供を抱えて私の店に出てるわ」
 煙草の煙に舅を思い出した。
「会長はおそらく近々退任されると思います。現在その調整にかかっているところです」
「次のポジションは?」
「今のところ白紙です」
「何が悪かったの?」
「何とは言えませんが、右腕を変えられたのが躓きと言えば躓きです。柳沢さんをご存知ですね?」
「よく来てくれていた部長ね」
「彼が今は右腕です。でも危険な男です」
「じゃあ鈴木とよりを戻したら?」
「鈴木さんにも私にもどうすることもできません。後は時の流れに任せるしか」







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 顧問に調査部の進行中案件の報告書を提出した。赤坂案件と柳沢問題が大きな柱になっている。顧問は受け取ると座るように促して、ゆっくりページをめくる。
「確かに鈴木部長は最初会長の右腕だったと思いますが?」
 顧問は顧問なりに会社のイメージを作り始めています。
「前回の相談役と社長戦を戦った時は確かにそうでしたが、それから柳沢さんが藤尾課長退職の件から右腕となりました。それで鈴木部長は相談役に近づいて復権に力を貸しました。銀座のママをご存知ですか?」
「会長のとは聞きました。鈴木部長の奥さんだったようですね?」
 相談役や人事部の報告が入っているようである。
「娘さんと離婚した?」
「はい」
「君は何派になるのですか?」
「ただの風ですよ」
「でも何でも知っている?」
「もうそういう情報も必要なくなると思います」
「そうなればと思います」
 顧問は笑っています。周平は数週間前に書き上げていた自己退職願をポケットから出した。
「どうして?」
「すべきことはなくなりました」
「私はそうは思いませんね。これからが本当の仕事場じゃないかと思うのですが。とくに現場を動かしてゆくには私や相談役のようなきれいごと人間では無理ですよ」
と言いながら、
「取りあえず預かります」
とポケットにしまい込む。
「めどは?」
「あと一押しです。だがこれが結構重たい」







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