夢追い旅
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裏方同士

「何時ぞやぶりですね。鈴木部長はお元気ですか?」
 ここは新橋にある、彼の事務所らしい。
「今日のセットは?」
「国崎さんですよ。そうですね。新しい名刺頂けますか?」
 ベンチャー企業の小林取締役がどこまで国崎と話が進んでいるのだろうか。薄ぺっらな取り持ち部長に見えたが、案外役者なのかもわからない。周平は名刺を出しながら、相手が出す前回とは別の名刺に目を通した。
「ファイナンス会社の社長なのですね?」
「会社を買い取って、ここに会社を移したところですよ。まあ、うちの社長は何をし出すかわからない。とにかくここに座っていろということで座っていますが」
 若い女子社員が、コーヒーを運んでくる。
「国崎さんとは?」
「ええ、一時はあそこで運転手をしていました」
「それなら鈴木とは?」
「いえ、入れ替わりだったようですね」
 今のベンチャーを調べてみたが、小林の名前は会社設立時の友人の一人と記されていた。
「確かに友人ではありますがねえ、詳しく言うと、一つ上の先輩になるんです。やはり会社を起しましたが、不渡りを出して国崎さんにお世話になり、そのうちに、国崎さんの命令でベンチャーの一員に加わったというのが事実ですよ。資金担当のような位置ですね。彼もそれをわきまえていて、私を会社の表には据えませんでしたよ」
 不満はあるようだ。だが腹を割る相手ではなさそうである。
「何か指示が出ていますか?」
「いえ、指示はあなたの方から来るものと聞いています」
 そう言う彼のところに先ほどの女の子がメモを持って入ってきた。
「今晩どうですか?副頭取がうんと言ってもらえば、・・・」
「銀行ですか?」
「今回、銀座の本社ビルを買うのです。この話を持ってきたのは、国崎さんですよ。S銀行の融資付きだということで、社長が乗ったのです」
「あの上場会社の本社ビルですね」
 M商事にもこの話はあったが、さすがにこの金額は役員会議でまとまらなかった。とくに反対したのは、ライバル銀行から来ていた社長だった。この融資額がS銀行から出れば、メイン銀行が入れ替わることになる。
 今度は小林は自分の携帯に出た。
「はあ、分かりました。今からあのアパートに来てくれと言えばいいのですね」
 どうやら、国崎からの呼び出しのようである。






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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

匿名

 帰りがけに、自分が飲んだと思う分だけのお金を貯金箱に入れて帰る。
 まるで昨日のことが夢のように、日常が始まる。でも不思議に、周平の心の中に拠り所ができたのはどいうことだろうか。
「課長!取締役がお呼びです」
 わざわざ朝一番取締役係の秘書が声をかける。
 加瀬係長が聞き耳を立てている。
 周平は長い廊下を歩いて、会長室の手前にある取締役の部屋をノックする。
 ドアを開けたところには社員が10人ほど並んでいる。ここでは会社の資料の整理や、イベントの準備や、総会対策あらゆることをしている。だが彼らにして、周平の課は同じ傘下でありながら謎の部屋なのである。
「入ります」
 軽いノックとともに部屋に入る。
 舅は大きな机の椅子にもたれて、ゆっくり煙草をふかしている。煙が周平に近づいてきそうな頃、ゆっくり立ち上がってソファに座る。周平は呼吸をはかるように、ソファに同時にかける。
「沖縄だったそうですね?」
「ああ、それはそうと国崎さんに会ったかね?」
「はい」
「多少は調べたのだろう?」
 話は聞いたという素振りである。
「会長が動き出した」
「いよいよ次の体制ですか?」
「今の社長が妙な動きをし過ぎる。だがそれは時間の問題だったがね」
「それが国崎さんと関係が?」
「いや、もっと大きな動きだ」
「会長も絡んでいる?」
「彼の後ろの組織が動き出した」
「後ろに組織が?」
「ある」
 コツコツとテーブルを叩く。これは舅の無意識の癖である。どこまで話すべきか考えている。
「実は、会長が社長に抜擢された時も、この後ろの組織が動いた。会長はどんな約束をしたのか知らないが、今はそこの中心メンバーの一人になっている。国崎はその命令で今回も動いている。私も会長から餌を投げられた」
「餌?」
「社長の席だ」
「11番目の取締役ですよ」
「昔もそうだった」
「国崎と動くということですね?」
「今度は段取りに時間がかかるだろう。君は一人で動いてもらう。経費はこの通帳で落としてくれていい。もちろん領収書などいらない。会社には匿名の仕事に就くということにしている。でも、今の会社に出てきて作業もしてもらう。二人の周平が必要なんだ。これから小林さんに会ってもらう」







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 再び、あの不思議なスナックの椅子にもたれている。
「詐欺師という条件で、歓迎するわ」
 相変わらず表情のない顔で団長が答える。ケイ君がにこにこ笑って隣の席にかける。
「詐欺師と呼ぶわけにはゆかないから、狐でいいかしら?」
「狐、悪くない」
 ケイ君が一人納得している。
「私はビールにするけど」
「同じので」
 いつの間にか、カウンターに6人ほどの顔が並んでいる。周平が周りを見渡していると、
「一人心配な子が欠けているんじゃないの?」
と笑いながら、ビールを注いでゆく。
「この子は、狐のファンだからね」
 ひょっこりとカウンターの中からカオルが顔を出してる。
「本当に鋸で引きはしないよ。カオルがあんたを呼ぶって言わなかったら、この席に座ることはなかった。でも、座ったことがいつの日にか後悔することになるかもね」
「団長らしい言い回しだよ。この俺もそう言われたが、結構楽しんでいるよ」
 ケイ君が話をとりなしている。
「カオルさんもビールを飲んでるが?」
「ああこの子の好物だよ。でも歳は見た目より上だから心配はいらない」
「歳は言わないこと!」
 カオルの目が吊り上る。
「これはクラブの厨房で頂いたものだから、遠慮なくいただいて」
 さっとあちらこちらから手が伸びてくる。カオルが周平の分を皿に分けてくれる。
「この集まりは劇団か何か?」
「何かちょっとましなことをしようと5年前から始めた。もともと本業はスリ集団だね」
 ケイ君が悪ぶりもなく言う。団長も否定しない。
「このスナックは昨年亡くなったママからいただいた。家賃さえ払えば使えるようにしてもらっている。この2階にカオルと私が住んでいる」
「姉妹?」
「あまりまとめて質問はしない。なんでも、最初から分かってしまったら面白くない。狐も、最初は詐欺師からの出発よ」





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夢の中に住む少女

「この子は好みなんだが」
 マントの男が、鋸を引くだろう男に小さな声で話しかける。何とも濃厚なデープキッスをする。小人が重そうな棺桶を起こして中を見せている。どうしてもキッスに目が行く。鋸男も、残念そうに棺桶の準備を手伝う。もう一度、全裸の少女の全身にスポットライトが当たる。
「私は、魔術師ではありません。これなる少女が人形でない生身であることはお分かりいただけたと思います。出来ればもう一日、この子の愛撫に時間をかけたいところなのですが、その気持ちを抱いてお別れする時に、私は生きがいを感じる人間なのです。愛するから、その命を奪いたい」
 マントの男が、少女を棺桶に寝かしつける。それからゆっくり小人も手伝って棺桶を床に寝かせる。鎖を巻きつける音がリアルにする。
「少し嫌な鋸の音がしますが、僅かの瞬間ですので我慢してください。ちょうど少女の体の部分にさしかかると、鈍い音がしますが、その音は嫌だという人は、今から耳をふさいでおいてください。その時、たまに微かな悲鳴が聞こえることもあります。これは私には読み込めないことです」
 すでに筋肉男が、棺桶に鋸を載せている。
 確かに、鋸を引く単調な音を出している。小人が例の耳をバタバタさせて舞台の前を動き回る。そして、はったと立ち止まって棺桶に耳を澄ませる。ぶにゅ~という嫌な音と同時に、微かにひ~という声がしたように思う。合わせて小人が尻餅をつく。鋸がゆっくり引き抜かれる。鋸に赤い血の跡が見える。舞台の照明が薄暗くなる。
 マントの男が、30センチほど切り離された棺桶を動かせてみせる。
 観客は誰も声を出さない。男はマントを脱いで、恭しく棺桶にかぶせる。
「ショーはこれにて終わりです。これはマジックショーではないですから、もちろんもう一度この舞台に少女を立たせることはできません。種明かしもなしです。私たちが住んでいるこの世界でも、こういう不思議なことは何時でも起こっています。でも、あえて気づかないことで、ほとんどの人は通り過ぎてゆきます。でも少女は、いつもあなたの夢の中にいます」
 照明が明るくなったときには、棺桶も、マントの男もいない。ベレイボーをかぶったケイ君が演出家として舞台で案内されて頭を下げている。
 周平は、自分の夢の中にも少女が住んでいると漠然と思った。







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幕が開く

 約束の時間に、もう一度クラブに戻る。
 入口で名前を言うと、片隅のカウンターに案内してくれる。
 水割りが出てくる。メモ用紙にケイ君とある。舞台がはけたら、一緒に車で店に行くなら、団長の了解はとったと、走り書きがある。
 ざわめきが収まって、舞台にスポットライトが当たり、黒マントの男が映し出される。
「世の中には不思議なことがたくさんあります」
 団長の声である。
 幕が開いて、小人が棺桶のようなものを引きずってくる。
「しばらく世間の煩わしいことを忘れて、私の不思議な世界にご案内します。そう、一つだけお約束してください」
 七色のライトが、不思議な世界にいざなう。
「この場でどのようなことが起こりましょうとも、警察などに通報したり、写真を撮られたりすることのないようにお願いします。すべて、異次元のこと、ショーが済みましたらすっかり忘れて、楽しいお酒を過ごされますように」
 棺桶を引っ張ってきた小人の顔がライトアップされる。あのでか鼻である。もう少し背が高かった気がする。黙々と棺桶の鎖を解いている。重そうな鎖の音質効果がいよいよ怪しげに響く。
「今夜は皆様方のために、一人の少女を買ってまいりました」
 その声を待っていたように、でか鼻の小人が棺桶の蓋を重そうに開ける。
 クラブの観客が、いつの間にか中腰になって棺桶の中を覗いている。何か白いものが少し見え隠れしている。片方の幕から、上半身裸の筋骨隆々とした男が、いかにも重そうな鋸を持って入ってくる。黒マントの団長が、棺桶の中に体を沈める。裸の手がマントにかかる。何とも緩慢な動作だが、時間が止まったように感じる。
「おお!」
という歓声が起こる。
 全裸の少女、いやカオルだ。目を閉じている。団長は軽々と片手で支えると、形の良い乳房を鷲づかみにする。今度は、明るすぎるくらいの照明が少女を映し出す。逆に明るすぎて見えないのだ。人形でないとでもいうように、マントの男は少女に頬ずりをしながら、瞳を開ける。瞳は、一点を見つめている。
 

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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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