夢追い旅

夢に乗る

 ファイナンス会社の処理も密かに終えた。重なるようにバブルの崩壊の音が増々大きくなっている。旗手社長のベンチャー事件も紙面から消えて、今は銀行の統廃合が一面を賑わせている。そんな中、これも密かに総理が入れ替わった。待っていたように私設秘書が一党員になった元総理の第1秘書に返り咲いた。彼の編集局は今や経済研究所となり、周平が編集局長に収まっている。だがもう周平の出番はなさそうである。
 団長の『アンの青春』はバブルに逆行するように着実に売れている。それとアングラと称する劇団に巻き込まれるように団長の舞台にも火がついている。
 そんな時に藤尾が久しぶりにホワイトドームを訪ねてきた。
「珍しいね?」
「もうマスターになりきったか?」
「マスターなんかじゃないわ。ただの止まり木の鳥」
 これから舞台に行く団長がビールの小瓶を2つ抜く。
「この並びのアパートを地上げしているところが泣きついてきた。それでしばらくこちらの会社で抱いてみようかと思っている。だがホワイトドームを上げるというプランは難問だ。だがいずれこの周辺は都心に近い絶好の土地としてマンションが立ち並ぶと思う」
「だが相当な時間がかかるな」
「それで相談だ。この隣地で劇場をやらないか?その間にすべてを上げてしまう」
「考えてもいい?」
 真顔で団長が答える。
「新橋のビルも赤坂の残地も処分しようと思っている。ここの空いたビルに引っ越ししようかと思っている。あのあたりも今は国税が調査を始めた」
「劇場を作る?」
「一度夢をかなえてみたい」
 カオルも言葉をしゃべれるようになった。団長は伯母ではなくママと呼ばせている。周平はパパだ。だがいずれ仏壇に並んでいるアンとカオルの写真の説明しなければならない時期が来ることを知っている。そのためにも周平は団長の夢に載ってみたいと思う。







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バブル崩壊とともに

 若い新社長と元大阪支社長の不動産会社の社長の反対があったが、予想通りM銀行頭取の仲介で総理の選んだ不動産会社の合併となり上場取り消しの噂も吹き飛ばされてしまった。総理はこれで院政を引く資金ができたらしく禅譲の話が飛び交う。M銀行頭取は内諾通りS銀行をサブバンクにし経営陣の入れ替えを要求、会長、社長ともに退任とし、初の女性社長を誕生させた。
 この頃からバブルの崩壊が始まる。
「ご無沙汰してます」
 元副社長の時には何度か旗手社長同席で話し合ったことがある。
「やはり」
「いや今はしがない文屋です」
 隣に常務の総務部長が掛けている。ここは旗手社長の社長室だ。会長も前社長もこの部屋には入らなかった。
「取り巻きの連中もすべて中心から外しました。まだ元気の残っている飛ばされていた役員や部長を戻しています。今回の不動産部門の消却で本社の負債は0になります。再建計画は当初15年とも言われていましたが、8年で完了します」
「問題のファイナンス会社は?」
 社長はさすがに負債を袋詰めにしている会社のことを忘れていません。
「それも総理が見合い相手をすでに用意しています。こちらは不動産会社のように鮮やかに行いません。あれっという感じで消えてゆきます」
「あなたは表に出ないのですか?」
「裏があってるようです。これからは旗手社長を知らない人たちの時代が来ます。そういう意味で繋ぎとしては難しい時代です。大きな負債とともに大切な風土も失いました。次は何を頼りに会社を立ち上げてゆくかが課題ですね」
「それは分かっているわ。でもまた呼んだ時に来てよね?」
 周平は深く頭を下げて裏扉から消えてゆく。
 新しい時代が来たのだ。









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ホワイトドームの一日

 『アンの青春』が本になると言う。これについては団長、ケイ君、周平の意見が食い違い調整に時間がかかった。団長は自分が表に出れない人間だからと下がる。それでケイ君をダミーで押そうとする。周平は母のことを団長に書きてもらいたいと下がらない。結局2対1で団長の松七五三を取って松七五三カオルとした。
 本の出版に続いて劇場もテントから広い劇場に代わったが、きわどいシーンをたくさんカットされて団長はむくれ気味だ。それにやはり大きな場所になると出場者も他の劇団から借りざる得ないことも増えた。だが依然として団長とヒロシ役の少女が人気を博している。団長は密かに2作目にかかっている。2作目には同棲して結婚まで考えた物書きが出てくる。ケイ君の調べでは彼は文壇の売れっ子になっているようだ。
 周平は最後のノートにを恋敵の友達に送ろうと考えている。それで最近はほとんど新橋のビルにもいかないで、歩き始めたカオルと公園に出かけたり、ホワイトドームの定位置で思い出したようにぽつぽつとノートに書きこんでいる。
「お前はこのノートを段ボールの中に投げ込んではいないだろうな」
といつも同じ言葉をかけてはノートを閉じている。
「寝てしまった?」
 舞台から帰ってきた団長の声で目を覚ます。ホワイトドームのカウンターには劇に出れない常連が一列に並んで飲んでいる。最近とみに色っぽくなったユキがカウンターの中にいる。彼女が時々ワンピースの胸を広げってつんととがってきた乳首を見せる。そして「わたしも舞台に出たい!」という。
「いや、このノートも最後にしようと思ってね」
「それより今度舞台に出ない?」
「2作目ができた?」
「テントで2作目をと話をつけてきたのよ」
「ユキはヒロシの恋人で初出演。カオルは楽屋に連れて行く」
 ユキは飛び上がって喜ぶ。ユキはヒロシ役の少女に嫉妬していたのだ。
「周平はアンの恋人の物書きよ。できたらトーキのような無声映画の小説に言葉をぶつけてみたいのよ」
「そうだなあの小説は風景のような日常を描いていたな。もっと二人の生々しい言葉があったはずだ」
「その果てにアンは二人目の子供を流産した」
彼女の舞台が目の前に見えるようだ。






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明日の道

 ミーの店はもうオープンしている。案内状は来たが1か月が過ぎてしまっている。またミーも新橋のビルにも顔を出さない。そういう周平も最近は新橋から足が遠ざかっている。新橋のビルには赤坂の整理を行う新会社の社長となった藤尾が一人で動かしている。彼に引き継いで下がるべきかと考えた時期もあったが、今はもう少し彼とも話を続けて行こうと考えている。
「ベンチャー会社はこれからどうなるんでしょうかね?」
 ミーの店に走るタクシーの中で藤尾が聞く。
「ぜい肉を落としてスリムになるべき時期だろうね」
 今日ミーの店に行こう決めたのは藤尾である。どうも藤尾はミーの店に何度か足を運んでいるようだ。
 エレベターを上がると外はもう真っ暗だ。慣れた足取りで店の中に入ってゆく。
「やっと来てくれたのね?」
「少し恥ずかしいね」
「別れた恋人に再会した気持ち?」
「あれから旗手社長とは?」
「もう会わないと言われた。それでやっとこの道を始められた。周平とはまだ別れていないよ」
 ちょうど舞台に女性陣が並んで挨拶をしていて、思ったよりたくさんの客がボックスに掛けている。
「店を始めて見てね、これからしたいことが見えてきたの。周平もそうだと思うの。藤尾さんが前に来た時もその話をしたよね。そういう意味で旗手社長は私達に任せてくれたと思うの。大きなことなどできないけど、やってみたいことをこのチームでだめかしら?」
「いいと思うな」
 藤尾が同意している。
「最後の仕上げが残っている。だがその考え方には賛成だ」
「今夜は飲んでショーを見ていてね。今度はビルにうかがうわ」















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最後の一押し

 約束通り『噂の真相』の編集長から旗手社長の不動産会社の見合い相手が知らされてきた。それを持って久しぶりにベンチャー会社の本社の会長室に行く。彼はほん最近まで代表取締役社長だった。だが急に白髪が増えた好々爺の代表権のないお飾りの会長に成り下がってしまった。それだけではなく一番若い取締役を社長に任命したのだ。
「ご無沙汰だね?」
 会長が声をかける。隣のソファに総務部長が難しい顔で腕を組んで座っている。
「新社長は新聞で見ました。あれは旗手社長の意志だったんですか?」
「違う」
 総務部長が首を振る。
「独断で決めた。だから部長は機嫌が悪い。だがもう旗手社長は株主でも総帥でもない。だから私が判断した」
「それはいいのですが、子会社の売買は旗手社長が権限のある統帥時代に決められた。それにすでに総理が動いて話が来ています」
「新社長に相談すべきでは?」
「サラリーマン社長に出番はないと思いますよ。旗手社長は今でも大株主です。それに社長から総理に断わってもらえますか?」
 D社社長の株は旗手社長の裏資金で買い戻されている。
「・・・」
 会長は無言で椅子から立ち上がって部屋を出てゆく。
「どうしたのですか?」
「眠れないとさ」
 総務部長がため息を漏らす。
「念のために旗手社長が言っていた女性を副社長に入れた」
「ああ、やり手の」
「万が一と旗手社長が6か月前に入れていた」 
「M銀行の頭取に表の仲介をお願いしますか?」
「それはいい。新社長では従うしかないだろうね。ファイナンスの方は?」
「これは不動産会社の売買代金で本社の借り入れを消した段階で買い手に渡します」
「となると再建計画は大幅に短縮される。それにこの会社は負債のない優良会社に変身する」
 部長の握手の手を握り返す。やはりもう少しやるしかなさそうだ。















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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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