夢追い旅

茶番劇

 今日はM商事の役員会に出席することになった。
 赤坂の処分についての臨時の役員会で、M銀行の指示で相談役が調査委員長として招集、周平は調査委員の一人として参加することになった。舅が現状の説明をする。ある意味ではまた舅の参加に入った形である。だが今は周平は旗手社長に魅力を感じ始めている。
「ジャーナル誌を調べた結果、ベンチャー会社がこれ以上赤坂の物件を買う気がないのはどうも本当のようです」
 壁に赤坂の地図が映し出されている。お仲間の土地買収の情報も入っていないし、国の土地も白紙でマークもされていない。結局会長も利益ばかり考えて将来の構図が見えていない。柳沢はただ買い込んでいただけである。
「残地の投下資本は1000億ですが、現状で購入先はありません。地上げが未完成なままで、接道もない評価が限りなく0に近い。不動産事業部ではお手上げですね」
「会長は?」
 社長がここぞとばかりに口をはさむ。
「もともとすべてを買い上げる予定だったのにつべこべ口をはさむからこうなる」
「その件は今は繰り返しても、M銀行の回答が先です」
 相談役が一番若い常務を見る。彼は最近相談役に回っている。
「M銀行はこの回答次第ではしばらく融資は見合わせると言っています。S銀行は赤坂にはもう融資しないと」
「いえ、支店長からは追加担保を500億も言われています」
 経理部長が譫言のように言う。
「S銀行はわしから話をする」
 会長はもう切れそうだ。昔だったら誰もここまで追い込みはしない。それだけ会長の力は弱くなっている。ただ社長も連座の責任を取らされている。今入院している田上専務のことが重たい。
「警察のほうは?」
「顧問弁護士の説明では監査役については事故の見方が強いようです。加瀬さんの自殺も今のところ新しい事実は出ていません。でもご存知のように田上専務に疑いはかかっています」
「赤坂は?」
「Kジャーナルとは接触ができていません。他の大手の週刊誌も書き始めています」
 まるでマッチポンプのような状態だ。舅がどこまでつかんでいるかだが・・・。
 どちらにしても会議のための会議でしかない。

















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密談

 旗手社長の車に乗り込むと、議員会館に吸い込まれてゆく。周平は運転手から黒革の鞄を預かって、秘書よろしく社長の後ろを追いかける。社長は顔を合わせてから一言も口にしない。黒崎とも違うし舅とも違う。必要がないからしゃべらないという感じだ。
「先生はもうすぐ国会から戻られます」
 秘書がそれだけ言うと、部屋を出てゆく。
「地図はしっかり頭にあるか?」
「はい」
「赤坂の土地の中に未回収部分に国の土地がある。広大な面積でどんと幹線に接している。ここが入るか入らな いかで土地の価格に大きな差が出る。もともと不可能として計画外にしていた。M商事の会長にもこの情報はない。だが黒崎さんの昔の議員ルートで道が見えた」
「買い上げるのですか?」
「いや、新しいビルの中の専有部分と等価交換する。だが、もちろん簡単なことではない。その交渉を君に根気よくやってもらう。黒崎さんが君が適任だと言う。ほんとは黒崎さんにお願いしていたのだが、あまりにも顔がさすらしい。この業界ではまだまだ彼は有名人なんだ」
 この人はズバリとものを言う。
「二人でトイレに行く。その時この鞄は忘れてゆく」
「お金が?」
「ああ、金額は知らないほうがいい。それから議員と会うことになるが、こちらが手ぶらで帰ることになったらひとまず成功だ」
 緊張が見て取れる。
「トイレをお借りしても?」
 入ってきた秘書に声をかける。彼も承知済みのようである。二人で退席する。
 10分ほどかけて、トイレに並ぶ。すると先ほどの秘書が
「どうぞ」
と声をかけてくる。
 ソファの上にもちろん鞄は消えている。
 テレビでよく見る顔だ。
「今後は彼が寄せていただきます」
 握手を交わすと、5分で会談はお仕舞だ。

 



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貉同士の戦い

 団長のリンチ事件については轟の仲間の刑事上がりに頼むことにした。
 黒崎のところは作業ごとに現金で支払いがされるが、ベンチャーの旗手は定額で振り込みがある。Nビルに呼び出しがあり、出かけてみるが今日は藤尾が顔を出した。ミーが二人分のコーヒーを入れてくれる。
「今度は秘書室長ですね」
 藤尾がどこまで聞かされているのか分からないが、陽気に声をかける。
「藤尾社長に赤坂の近況を聞いておいてください。1時間後には社長と出かけていただきます」
 ミーが冷たく言い放つと、応接室を閉める。
「貴方が仲間でほっとしましたよ。どちらかと言うと黒崎さんや小林さんは肌に合わないのですわ」
と言いながら、赤坂の地上げの地図を広げる。
「社長は隠し事は嫌がりますから、現状の話をしっかりします。2回に分けてM商事から買い取った部分は緑と黄色の区画です。で赤い部分がまだM商事で抱えているところです」
「この水色の部分は?」
「これは当初からこの会社が買い上げていた部分です」
「同じくらいの広さで紫色の地域が点々とありますが?」
「これはお仲間の会社が買い上げている部分です」
「お仲間?」
「もう何人かは会われたと思いますよ。実はM商事の会長も初めはお仲間の一人でした。それが途中でS銀行と組んで暴走し始めたようです」
「それでは説明がつきませんよね。S銀行は今こちらの会社についていますよね?」
「よく分かりませんが、S銀行にも派閥があるようで、頭取争いをされている方が会長についているということです」
「M商事も同じ貉ですね」
「あたしには関係ない話ですが、今の状態ではM商事の土地は死地です。実はこの紫色の部分のさる会社ならその土地は幹線に繋がるのですよ。ぎりぎりまで引っ張ってそこに繋いでほしいこれが社長の本音です」
 どうも自分では説明しないタイプのようだ。だが、専門家の説明のほうが理解しやすい。
「もうすぐ車が付きます。出かけてください」
 ミーの声がドア向こうでした。








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過去の扉

 今日はカオルが店に立っている。団長もカオルが子供を産むのを渋々認めたようだ。
「周平は血液型は?」
 ケイ君が聞く。
「O型だ」
「俺もOだ。困ったことだな。カオルもOだ」
 カウンターの端でぼそぼそと言う。
「確率から言うと、俺の子供の可能性が団長の言うように高い。だがそれでは子供は不幸になる」
「ケイ君らしくないな」
「いや、フェアーじゃないような気がするんだ」
「時々遊んでやってくれればいいよ」
 周平は妙に子供が産まれることで道に迷っている自分が救われるような気持になっている。舅に言われたわけでないが、離婚届も判を押してポストに入れた。ただ彼があそこまでマドンナに惹かれているとは思いもしなかった。男と女は分からないと思う。
「そのぐらいにしてカオルは上でゆっくりしなさい」
 団長が降りてくる。昨日は真夜中までクラブで舞台をやっていたようだ。
「狐は会社じゃないの?」
「さぼりだよ」
 小声で言う。カオルは周平を詐欺師として疑っていないのだ。でもまあ、詐欺師のような仕事をしている。
「あのリンチ事件を詳しく調べたいの」
「ああいいよ」
 ケイ君が周平の顔を見て答える。
 どうもサングラスの男、太田黒から何か情報を得ているようだ。
「それは詐欺師の狐が調べよう」
と言って団長からリンチ事件の記事のコピーを受け取る。






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迷走

 再び会長の別荘に入ったという報告が轟から入ったのは昼過ぎだった。途中で高速のパーキングに入って、それから何の変化もなく別荘のガレージに滑り込んでいる。ガレージは連絡が入っていたのか、シャッターが開いたままになっていて車ごと吸い込まれたというのだ。しばらく監視を続けるということである。
 団長に携帯を入れるが、いつもと様子が違うので、カオルをもう一度病院に連れて行くとのことだった。
 タクシーを拾って走り出した時に、ケイ君から携帯が入った。
「少し雑音が入るがどこから?」
「新幹線の中だから」
「どこに行っていた?」
「それはないでしょう。京都・・・」
 そこでいったん切れる。
「トンネルに潜るとダメだね。東京駅には30分後に着くが会えないか?」
「何か分かった?」
「ああ、一度一緒に入った喫茶店覚えている?2階なら空いているから…」
 またそこで携帯が切れた。
 その連絡の後から待っていたように携帯が鳴る。
「やられたぜ」
 轟の声だ。
「別荘の中に忍び込んだ。やくざの兄貴が昼過ぎに車を一人で出したのでな。買い出しだろうと思ったんだが」
「まさか」
「そのまさかだ。あのパーキングで車を乗り換えた。1分ほどパーキングに入るのが遅れた。管理人にも確認した。会長から電話が入って、昼に荷物を取りに来させるのでガレージを開けておいてくれと本人からだ」
「会長も絡んでいる?」
「積極的か消極的かはわからんがね」
 確かに、密やかに会長と柳沢は会長の自宅で会っている。
「これはまだ思いつき程度だけど、柳沢は会長を脅す材料でも持っているような気がするな」
 これは周平の独り言である。












 

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