夢追い旅
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チンピラの仏

 Kジャーナルで藤尾の名を伏せた記事が田辺一郎の名前で活字になった。
 会長がS銀行の頭取に呼ばれたようで、昼一番で柳沢を載せて社用車で出かけて行った。社長室では社長派が朝から部屋にこもりきりである。相談役はM銀行の頭取に会いに舅を連れて出かけた。こんな調子では会社の業績も上がることがない。最近は中間派に相談役を推す声が出始めている。
 背広のバイブレターが鳴って携帯を覗く。そのまま応接室に入って鍵をかける。轟からだ。
「お宅の記事が出たな」
「ああ、今どこだ?」
「黒崎さんの事務所だ。あのチンピラの死体が出たんだ。それで刑事から内々に説明を聞いていた」
「どこで見つかった?」
「熱海の山だ」
「それなら加瀬が自殺した・・・」
「そうだ。そこからそんなに遠くない。近くの人が散歩に来て発見して届けたらしい。この刑事には黒崎さんから写真が渡されていたようだ。それでわざわざ仏さんを確認してくれた。身元が分かるものは何一つなかったが、顔が潰されていたわけでもなかった。先ほど本人確認に刑事が出かけた」
「あの兄貴の事務所か?」
「そうや。毒殺らしい」
「経緯は?」
「おおよそ説明した。兄貴はとぼけているが、この刑事はマークしたようだ。それがこの現場にあのマドンナの革鞄が出てきたのだ。それでこれから刑事と一緒に出かける。それから」
と言いかけた時に、相手の声が黒崎に代わる。
「今どこだ?」
「会社ですよ」
「用事を作ってM銀行の本店に来てくれすぐだ」
「名前は?」
「M商事の鈴木周平でいい」
とは言われたが、すでに離婚届を出して田辺周平に戻っている。もちろん会社では今まで通り鈴木姓のままだ。












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ジャンル : 小説・文学

ねじれ

 旗手社長から携帯が入り、藤尾から赤坂購入の真相を記事にするように頼まれた。真相は別に自分に聞かせてくれという条件付きで、記事は会長を追い詰める内容でという注文である。藤尾には小林から連絡が入っていて、久しぶりに赤坂の地上げ現場で二人で酒盛りすることになった。 
「藤尾さんは真実だけ話してくれたらいいですよ。脚色はこちらの方でします。藤尾さんの名前も出しませんし、不利になるようなところはカットします」
と言ってお椀に日本酒を注ぐ。
「そうですね。もともとは会長直々に呼ばれて、赤坂の地上げを不動産事業でしてもらうということから始まりましね。当時の不動産事業部長が反対していたので私に番が回ってきたのだと思いますわ」
「どういう説明でした?」
「名前は明かせないが数社で赤坂を上げるということで、資金はS銀行から出るとも」
 この辺りは旗手社長の説明通りだ。
「S銀行では誰に?」
「クラブで会長にS銀行の営業本部長の紹介を受けました。会長は次期頭取だと言ってましたわ。それ以降は支店長と融資はしてもらっています。ほとんど詳しい調査はなくお金が出ていましたね」
 部屋の石油ストーブで熱いぐらいになって藤尾はシャツ一枚になった。
「その数社というのは想像つきますか?」
「それは現場でぶつかるのではは~んと気が付きましたよ」
「名前はいいです。このベンチャーの会社もS銀行から金が出ていますね?」
「でも担当支店が違うんですわ。これは噂ですが、赤坂は営業本部長から頭取直轄になったようで」
 二つの支店名を書いてもらいます。これも派閥争いか。会長は営業本部長のラインである。
「いつ頃からこのねじれが起こったと思います?」
「うん、辞める半年前から急に買いのスピードが増し始めたな。その頃から会長の裏金抜きが頻繁になったわ。立ち退きの和解金が抜かれるので、心配になって会長に一言言ったんですわ。何しろあの金が合わないとなるとこちらの責任になるんや」
「その裏金の通帳は?」
「柳沢に引き継ぎましたわ。それからあの事件が起こって退職したんですわ」
「会長は藤尾さんが目障りになって、柳沢がそれにうまく乗ったということですね」
「通帳のコピーはとってますわ。必要ならだしまっせ」








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対面

 先月から団長に20万円を入れている。ほとんどホワイトドームから出勤している。カオルの調子は少しはよくなっているが、1日の半分は寝ていないとダメなようだ。彼女は顔を見るとセックスを求めてくるが、団長が許さない。医者から注意をされているようだ。かといって団長に体を求めるわけには行かない。変な三人の生活だ。
 休日は夕方まで周平が何もなければカウンターに入る。でも客は勝手にビールを出してきたり、つまみの袋を出してきて食べて、自分で勘定をを済ませて帰る。無人販売機のようなものだ。夕方になって、団長が買い物に出かけて付きだしを作る。食事は定番のものをみんなが頼む。ちょっとした共同生活のような店だ。病院関係者が大半だ。古い医者や介護士も来るようである。
 今日はまだ団長は買い物から戻っていない。カオルは濃厚なキッスをしてから眠ってしまった。
 いつの間にか轟がカウンターにかけて自分で湯割りを飲んでいる。
「呼んでくれりゃいいのに」
「何を言ううんや。やってるのに声かけられんやんか」
「悪いな。今日は黒崎さんの?」
「いや、団長のリンチ事件の調査や。お金は先払いでいただいてるものでね」
 元刑事上がりに頼んでいた件だ。
「リンチ事件では1人死亡している。別の大学の学生だ。2人は重体で救出されていた。加害者と思われるのは同じセクトの学生だ。7人いたと記録されている。名前が記録されているのが5人。ここに例の太田黒の名前も松七五三聖子の名前も出ている」
 指名手配を受けた時の二人の写真をカウンターに置く。サングラスを外せばこれは太田黒と判別する。だが、松七五三聖子は記憶に重ならない別人のようだ。口を真一文字に結んでいる。
「逃亡した学生は一人も見つかっていない。ダチの元刑事が重体の一人の身元を見つけた。女性で今は結婚して子供もいるようだ。同じ大学で松七五三にオルグされたようだ。タンカーに乗る話になっていたが仲間割れになったらしい」
「これが私かあ」
 白い指が写真をつまんでいる。前のサングラスの太田黒が見せた写真とまたずいぶん変わっているようだ。
「気の強そうな顔してるね」
































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茶番劇

 今日はM商事の役員会に出席することになった。
 赤坂の処分についての臨時の役員会で、M銀行の指示で相談役が調査委員長として招集、周平は調査委員の一人として参加することになった。舅が現状の説明をする。ある意味ではまた舅の参加に入った形である。だが今は周平は旗手社長に魅力を感じ始めている。
「ジャーナル誌を調べた結果、ベンチャー会社がこれ以上赤坂の物件を買う気がないのはどうも本当のようです」
 壁に赤坂の地図が映し出されている。お仲間の土地買収の情報も入っていないし、国の土地も白紙でマークもされていない。結局会長も利益ばかり考えて将来の構図が見えていない。柳沢はただ買い込んでいただけである。
「残地の投下資本は1000億ですが、現状で購入先はありません。地上げが未完成なままで、接道もない評価が限りなく0に近い。不動産事業部ではお手上げですね」
「会長は?」
 社長がここぞとばかりに口をはさむ。
「もともとすべてを買い上げる予定だったのにつべこべ口をはさむからこうなる」
「その件は今は繰り返しても、M銀行の回答が先です」
 相談役が一番若い常務を見る。彼は最近相談役に回っている。
「M銀行はこの回答次第ではしばらく融資は見合わせると言っています。S銀行は赤坂にはもう融資しないと」
「いえ、支店長からは追加担保を500億も言われています」
 経理部長が譫言のように言う。
「S銀行はわしから話をする」
 会長はもう切れそうだ。昔だったら誰もここまで追い込みはしない。それだけ会長の力は弱くなっている。ただ社長も連座の責任を取らされている。今入院している田上専務のことが重たい。
「警察のほうは?」
「顧問弁護士の説明では監査役については事故の見方が強いようです。加瀬さんの自殺も今のところ新しい事実は出ていません。でもご存知のように田上専務に疑いはかかっています」
「赤坂は?」
「Kジャーナルとは接触ができていません。他の大手の週刊誌も書き始めています」
 まるでマッチポンプのような状態だ。舅がどこまでつかんでいるかだが・・・。
 どちらにしても会議のための会議でしかない。

















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密談

 旗手社長の車に乗り込むと、議員会館に吸い込まれてゆく。周平は運転手から黒革の鞄を預かって、秘書よろしく社長の後ろを追いかける。社長は顔を合わせてから一言も口にしない。黒崎とも違うし舅とも違う。必要がないからしゃべらないという感じだ。
「先生はもうすぐ国会から戻られます」
 秘書がそれだけ言うと、部屋を出てゆく。
「地図はしっかり頭にあるか?」
「はい」
「赤坂の土地の中に未回収部分に国の土地がある。広大な面積でどんと幹線に接している。ここが入るか入らな いかで土地の価格に大きな差が出る。もともと不可能として計画外にしていた。M商事の会長にもこの情報はない。だが黒崎さんの昔の議員ルートで道が見えた」
「買い上げるのですか?」
「いや、新しいビルの中の専有部分と等価交換する。だが、もちろん簡単なことではない。その交渉を君に根気よくやってもらう。黒崎さんが君が適任だと言う。ほんとは黒崎さんにお願いしていたのだが、あまりにも顔がさすらしい。この業界ではまだまだ彼は有名人なんだ」
 この人はズバリとものを言う。
「二人でトイレに行く。その時この鞄は忘れてゆく」
「お金が?」
「ああ、金額は知らないほうがいい。それから議員と会うことになるが、こちらが手ぶらで帰ることになったらひとまず成功だ」
 緊張が見て取れる。
「トイレをお借りしても?」
 入ってきた秘書に声をかける。彼も承知済みのようである。二人で退席する。
 10分ほどかけて、トイレに並ぶ。すると先ほどの秘書が
「どうぞ」
と声をかけてくる。
 ソファの上にもちろん鞄は消えている。
 テレビでよく見る顔だ。
「今後は彼が寄せていただきます」
 握手を交わすと、5分で会談はお仕舞だ。

 



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夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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