夢追い旅 小説

虚をつく

 今日は乳母車に乗ったカオルを連れて団長が山の手線の駅まで送ってくれた。周平のことをパパと呼び団長のことをママと呼ぶ。周平はカオルの瞳の中にカオルを見ている。まるでカオルは小さなカオルの体を借りて蘇ってきたようだ。
 周平は書き上げてきたノートが出来上がるたびに松七五三聖子の恋敵であった友人に送り続けている。でもそろそろ終わりにしようと何度か手紙を書きかけたがそのままになっている。
「行ってらっしゃい!」
 団長の声でカオルにバイバイをする。
 ベンチャー事件は収まるどころか日に日に燃え盛ってゆく。昨日は専務が新社長になって旗手社長が会長になる人事が発表されたが焼け石に水だ。それで新社長から神戸行きを頼まれて東京駅で総務部長から旗手社長の手紙を受け取る。
 新神戸に着くと知らされたホテルの部屋番号に直行する。
「いよいよだな」
 手紙を手にしてD社の社長が神戸を見渡せる広いガラス窓に向かってつぶやく。
「彼は自分の望んでいるものを伝えるために今の会社は守りたいと言っている」
「何をしようとされているのですか?」
「専務では持つまいと思っている。彼は常に縁の下の力持ちであり続けた。このままでは押しつぶされるとみている。それで私に会長職をしてくれと言っている。世間は二人の仲を知らない。だから虚をつくことになる。いい作戦だが、火の中の栗をつかむには段取りがもう少しいる。だがこれはうちの社員に係らせることが出来ん」
「何をすれば?」
「新社長に売り上げを落とすなと伝えてくれ。銀行もあまりにも巨額ゆえ融資を止めることはできない。だが彼らに任せておくと新社長を銀行から送ってくる。それでは潰れたも同然だ。新社長が会長をお願いに回っている噂を流してくれ」
「分かりました」
「彼を将来の人達が評価する日がきっと来る。私は信じている」







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ジャンル : 小説・文学

かく乱工作

 小林がふけた。会社は民事裁判を取り下げた。問題は許の件だ。その調査は轟に任せている。裏の業界では約束を守ることが大切だ。
「結構大変な作業よ」
 ミーがテーブルに積みあがった雑誌の切り抜きをしている。
「Y新聞系がベンチャー事件を連載にしているけど、ここが一番過激ね。未公開株のリストに沿って実名で調査報告をしている」
「ファイナンスの方に査察が入った。リストの人間で借り入れをしてるケースが結構ある。ファイナンスの社長からは借入リストを貰ったが、裏のリストの人間はいないようだ」
「社長交代の議論が始まっているわ」
 これは定期的に総務部長から報告が入る。
「旗手社長は交代については腹案がありそうだ。でもここは裏のこちらは関わらない」
 チャイムが鳴って轟の顔が防犯カメラに映る。これは藤尾がつけてくれた。
「許の件だが大阪と東京の組が探し回っている。彼は京都駅裏の土地を買って双方に商談を持ちかけて値段を釣り上げていたようだ。それが買えなかったでは済まないな。殺される」
「どこにいる?」
「1日前までは京都の会社にいた。今は行方不明だ。小林は?」
「約束を守ってふけたよ。例の不動産の大阪支社長は?」
「調べてみたが会社にこもりきりで泊まり込んでいるという話だ。案外二人とも気が小さいな」
 ミーも周平も暗黙の内で考え続けていることがある。どこまでやるかということだ。これは旗手社長が拘留されるまでに旗手社長の意向は伝え聞いている。裏のリストさえ消してくれたら好きな道に進むがいいということだ。
「轟、この記事をいつものところに届けてくれ」
 『噂の真相』もしっかり業界紙の仲間入りをしている。今度はYテレビ社長がM商事会長と組んで乗っ取りを企んでいる情報を赤裸々に書いている。もちろん黒崎と舅も伏字で乗せている。
 だがベンチャー事件を消し去れないと思っている。ただ旗手社長の希望の核心だけそらしてくれということに全力を注いでいる。






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墓場まで持ってゆく

「まさか君が出てくるとはな」
 小林が腕を組んでテーブルの照り返しをじっと見ている。
 本社の総務部長に今回の裁判提訴で話し合いがあるということで、今は使われていない旗手社長の社長室に呼んでもらった。ここなら裏戸から入れる。
 テーブルにはケイ君が証拠を集めてくれた損害額のリストが5ページにもなっている。
「黒崎はあてにはならんだろう?」
 黙って答えない。
「旗手社長には貸しがあるようだね?教えてもらっていないが」
「ああ、貸しがある。これは誰にも言っていない。誰でもここまで上がって来るにはいろいろある。でも調子に乗りすぎたな。昔は同じ夢を見た仲だった。俺がやりすぎた」
「その話も、この事件も墓場まで持って行ってくれないか?」
「今度はお前が俺の立場になる日が来る」
「そうだろうな。でも表には出てゆく気がない。それにいつまで続けるかもわからない」
 それは真実だ。ただ区切りは付けたい。
 妙な沈黙が続く、二人が思い思いに始めてコーヒーに口をつける。
「黒崎にはあのリスト以外に情報がない」
「そうだ。彼奴は約束を守らない。そちらの条件は?」
「裁判の和解取り下げだ。今持ってる金は小林さんのものだ」
「悪くない話だ。だがもう一つ頼まれてほしい。許から脅されている」
 ケイ君の調べでは今回融資が実行されないことで、許の持っている土地も大阪のやくざの土地も接道部分を持たないことになる。話をまとめた許が詐欺をしたことになる。そもそも融資を止めた小林を責めるのだろう。
「こちらは調査して力を貸すとしか言えないが」
「それだけでいい。消えるさ」
 周平はその合図で総務部長と弁護士を呼んだ。小林は消えざる得ないだろう。














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激震

 長い夢を見ていたような疲れが体に残っている。でもそれは夢ではない。ホワイトドームの2階の部屋に母の赤い財布がカオルの写真と並んで置かれている。そして団長が買ってきた小さな額に若い時の母の写真が飾られている。
 だが何もまだ終わっていない。『噂の真相』のリスト公開が政界、経済界に激震を起こしている。
「少し整理して私から話すよね」
 ミーが様々の形の違う椅子に掛けているメンバーに声をかける。これらの椅子は赤坂の遺留品だ。
「社長は拘留が決まって、本社で専務が中心になって弁護士団を結成した。こことは私達は連携しない。リストについてはKジャーナルがこれは下書きで真実は別にあると主張しているわ」
「そうなのか?」
 藤尾が聞く。ケイ君も轟も参加している。
「知らないほうがいい。でもKジャーナルは先手を取られた形になっているわ。いよいよ大手の週刊誌がこぞって書き始めた」
 テーブルに何冊も積み上げてある。
「秘書と小林が釈放されたわ。秘書は本社の総務部長が面談した。彼は小林に焚き付けられて付き添っただけです。ほとんど何もわかっていない。それでしばらく解雇ということで雇用保険暮らしで様子を見て裏の会社で引き取ることに」
「小林はその足でKジャーナルの黒崎を訪問している」
 轟が補足する。
「向こうの記事は鈴木部長が書いている。だがそれほどの情報はないはずだ。問題は小林だな」
「それは本社の方ですでに損害賠償事件を提訴している。3億ほどの請求額ということ」
「最後は和解で口を塞ぐしかないだろう。ケイ君は訴状の事件の裏を固めてくれ。藤尾さんはSハウスの社長と赤坂の整理をしてくれ。必ず次は赤坂に飛び火する。ところでこのビルは?」
「今のところ無人の孤島のようだわ。玄関に小型の防犯カメラを藤尾さんに付けてもらった」
 当面このメンバーで当たることになる。






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カーネーション

 ホテルの支払いを済ませて、5人で約束の10時に不動産屋の前に着いた。作業着を着た年配の親父が腰に鍵をじゃらじゃらぶら下げて無言で先頭を歩いてゆく。昨日の話はホテルに戻って、ケイ君と買って貰っていた弁当と缶ビールを飲みながら周平が話をした。それでカオルも連れて行くと団長が決めた。
「あれから覗いてもいないからなあ」
 少し言い訳がましく独り言を言いながら鍵穴に差し込む。
 張り付けたべニアから朝のほのかな光が漏れて、年代物の小さな卓袱台を照らしている。
 周平は確かにそこにうつ伏せに寝ている母を見たような気がした。団長の手が肩をしっかり抱きかかえてくれている。母親譲りのカオルのくりくり目が不思議そうに周平を捕らえている。その端に缶ビールに萎れた花が語りかけるようにポツンと置かれている。
「カーネーションですか?」
「よく分かったねえ。アンさんはよく1本買ってきて挿していたよ。それで手向けのつもりでなあ」
 伯母は若い頃からカーネーションが好きだった。それで周平も彼女が機嫌の悪い時はそっとカーネーションを貰ってきて挿していた。これは捨てた男が初めてのプレゼントに贈ってくれた花だと話していた。でも1本なのは自分の灯なのだと言っていた。
 壁板に周平の写真が貼られていた。団長が大切にハンカチに包んで鞄にしまい込む。
 押し入れから首から下げていたという大きめの紅い財布を出してくる。これは伯母がいつも持ち歩いていたものだ。そっと中を開いてみる。郵便局の通帳に50万ほどが残っている。5万単位で毎月出金が続いている。それと田辺の印鑑。後は10数枚のデビュー当時のブロマイドが入っている。団長が宝物のようにカオルを背負った胸に抱きかかえる。
 母はついに語らず一人で旅立ってしまった。周平はぼんやりと卓袱台を抱きかかえるように残して行った母の香りに慕っている。
「さあ、一人ずつカーネーションを挿してね」
 いつの間にか団長が買ってきたカーネーションをカオルに握らせると全員に配る。親父が缶ビールに水を汲んできて卓袱台に置く。
「お母さんは今日から私達と暮らすの。家族よ」









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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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