夢追い旅 小説

雌猫

 マドンナは急ぐ風もなく、タクシーを拾って赤坂のホテルに着ける。周平は前のタクシーを追いながら携帯を覗く。ケイ君からはまだ報告はない。尾行は肌に合わないようだ。彼女は一人でレストランに入ってコーヒーを頼む。待ち合わせしているのか。周平も背中になる位置に座って週刊誌を開く。
 あと10分で8時になる。柳沢とは別行動なのか。となるとここに現れるのは舅だ。どうもマドンナと舅と柳沢の関係が呑み込めない。
 入ってきたのは柳沢だ。
 その時にケイ君からメールだ。
「後ろの席にいる。柳沢をつけてきた」
 携帯の画面に文章が入る。だが彼の姿は見えない。
「少しやばいことになる。狐は精算してロビーに出た方がいい」
「どうして?」
 回答はない。そっとレシートを持って立ち上がる。その横を物凄い勢いで駆け込んできた女がいる。もう少しで飛ばされそうになる。レッジのそばの席にケイ君の顔が見える。ほんの瞬間の出来事だ。駆け込んできた女がいきなりマドンナにピンタを食らわす。柳沢が間に入る。店員も飛んでくる。
「この雌猫が!」
 マドンナはハンドバックで応酬しながら席を離れる。
 柳沢が女を取り押さえている。周平はロビーに出てくるマドンナの背中を追いかける。思い切って同じエレベータに乗り込む。さすがに動転しているのか、マドンナはランプばかり見ている。客室階で飛び出すように降りる。周平も後に続く。
 部屋のドアをノックする。そこから顔が半分覗く。ガウンに着替えている舅だ。
「さすがに暴走族のヘッドだけある」
 ケイ君のメールが入ってくる。









 
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ジャンル : 小説・文学

跡継ぎ

 珍しく柳沢がM商事の廊下に現れた。
 人事部で調べてみたが、分譲マンション専門の不動産子会社の企画部長で都内にいるようだ。今日は周平の書いた記事で会長室に来たようである。この二人の関係はどこまで絡んでいるのかよく分からない。会長室に出入りする幹部はほとんど限られてきている。
 周平は携帯を入れてケイ君に柳沢の尾行を頼むことにした。周平はマドンナをマークしようと思う。
「手空いていますか?」
 最近時々相談役の息子が部屋を覗く。
 舅が使っていた部屋を応接代わりに使っている。課内の女性が気を使ってコーヒーを運んでくる。どちらかというとビールの小瓶を抜いて持ってきてもらう方が肌に合う。
「赤坂について解決の方法を探れと相談役に言われていますが課長はどう思います?」
「そちらの部長の見解は?」
 他人ごとに聞こえるがいずれあなたがこの会社を背負うのだ思うと力が抜ける。かといって舅のように次に掛ける気持ちも今はない。
「Sハウスの方は?」
「声をかけたが、火中の栗を拾うところまではいきませんね」
 息子は会社の歩き方からやり直しだ。
 内線が鳴る。どうやら柳沢が会長室から出てきたようだ。ケイ君にメールを入れる。
「部長は開発部の裏口座を持っているんですか?」
「そんなのあるのですか?」
「部長に聞いてください。この口座は初代の課長が赤坂案件の領収書の出せない売買の資金に使っていたのですよ。それが柳沢開発部長に引き継がれた。ここまでは調べられていますが、柳沢部長から会長に渡ったのかどうかは分かりません」
 おそらく舅はその口座の存在は知っているが彼の手元にはないはずだ。息子に伝えるということは暗に相談役に伝えることにもなる。舅であれば闇に葬りかねない。
 ケイ君からメールが入る。尾行を始めたとある。次はマドンナだ。柳沢に遅れること1時間後マドンナが定時に退社をした。周平は内線を受ける会社を飛び出した。











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罠をかける

 やくざの兄貴が任意同行で引っ張られた。この情報は轟から入った。
「どこからだ?」
 周平は相談役に赤坂の報告をして部屋を出たところだ。空いている応接室に移動しながら話しかける。
「黒崎さんにやくざの兄貴の件について説明した。これは金ずるだからな」
 それは轟との約束だ。彼は情報によってお金の多寡が決まっている。周平はもう少し曖昧な関係だ。最初は舅の部下として動いていたが、そのうちに黒崎の関係だけになった。今は旗手社長の意志を強く感じている。
「それで?」
「少し仕掛けてみようということになった」
「仕掛ける?」
「赤坂の地上げと繋げてくれということだ。この記事はそちらの仕事だぜ」
「材料は?」
「国崎さんに監査役の車にぶつけたチンピラの車の写真と、監査役の車の衝突痕の写真だ」
「それで証明できるのか?」
「証明などいらないさ。疑惑で十分ということだ」
 揺さぶりをかけようということである。それとここからは警察の仕事だというのだ。
「今日はいつ終わる?」
「早くて8時かな?」
「じゃあ、ホワイトドームで飲んでるさ」
「お気に入りだな」
「あの店はいい」
 確かに暇なときは周平などお構いなしにカウンターにとまっている。団長も妙に話が合うようだ。








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青春

「最近ケイ君見ないが?」
 10時過ぎにホワイトドームに戻る。赤坂の調査票をここ3日かけて作成していたのである。取りあえずM銀行に提出する体裁だけはできた。投下額合計に未購入部分だけは明白になった。ただ不可解なことが多すぎる。まず投下額と売買購入金額が全く合わない。
「今晩には戻るって電話があった」
 周平はカウンターの端に掛ける。まだ7人ほどがワイワイとしゃべって飲んでいる。
「どこに?」
「京都」
「まさか?」
「そのまさかよ。太田黒が電話を入れてきて、狐を思い出したって」
「怒ってない?」
「いいえ、なんだかどこかで会っていたような気になってたのよ」
 ビールの小瓶を抜いて渡す。
「私の横で写っていたのが狐だとはねえ。でもそれ以上は思い出せないのね」
 ちょうどドアが開いてばつの悪そうなケイ君の顔が覗く。
「裏切ったわけやないで!」
 周平は黙って椅子を譲る。
「ここが松七五三聖子の下宿だ」
 写真をカウンターに置く。団長は取り上げて見つめているが、記憶にはないようだ。彼女の下宿は2階にあって大きな瓦屋根に夏場は蒲団を出して月を見ながら寝たことがあった。周平もその友達もよく泊まったことがあった。できたのはその友達が先で、周平が割り込んだ形になった。いや二人彼氏のような関係だった。そこに太田黒が絡んできたという感じだった。
「私って誰とも寝る女だったのね?」
「いや俺たち二人だけだったと思う」
 それほど3人がいる時間は長かったように思う。
「私にも青春があったのね。でもこの話はカオルには内緒よ」









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見えないもの

 M商事の会長に変わってベンチャーの旗手社長の名前が経団連の副会長に上がった。
 相談役に頼まれて周平は朝から赤坂のM商事の未販売地と登記を現地で確認している。周平の課と不動産事業部で合同で10人体制で始めたが、日が暮れるころになっても、半分も進まない。これはM銀行に提出を求められている。
「少しいいかい?」
 周平の背中にジャンバー姿の轟が立っている。路地の細い道を抜けて赤坂見付の古い喫茶店に入る。
周平がコーヒーを頼むが、轟はビールの小瓶を頼んでいる。
「チンピラの死体は正式に毒殺と判定されたよ。近くにマドンナの黒革の鞄があった。警察は取りあえず押収して帰ったがそれほど重要なものとは見ていない」
「そうだろうな」
「そこまでは警察にはまだしゃべっていない。証拠がないからね」
 携帯が鳴ってここで解散するがいいかと尋ねてきた。取りあえず委員会の委員だから。それで周平もビールの小瓶を頼む。
「それが一つ黒革の鞄の中を刑事に見せてもらって、あの加瀬の首つりのロープの切れ端を見つけた。写真を撮って少し拝借した。それと加瀬のロープと比べた。同じものだ」
「やはり柳沢は絡んでいたんだな」
「そうだ。あの尾行は無駄ではなかった。ロープを買った店も見つけた。とても若い可愛い女の人が買ったので店員が覚えていた。店の防犯ビデオを元刑事に調べてもらうさ」
「マドンナは共犯だな」
「分からんね。なんでも決めつけないことにしている」
と言いながらポケットから小さく折りたたんだ謄本を出してくる。
「マドンナのマンションは分譲マンションだ。持ち主は鈴木取締役だぜ」
「まさか!」
「女は分からんぜ。女で身を持ち崩した俺が言うんだからな」
 轟は妙に自慢していう。











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