夢追い旅 2016年08月

未公開株

 久しぶりに黒崎の事務所に呼ばれた。昨日のマドンナの騒動は手短に轟に伝えた。まさかすぐには黒崎に伝えることはないだろう。値打ちがつくまでじっくり温めるはずだ。
 ソファにすでに小林が掛けている。その横に一度見たことがる証券マンが黒崎と話している。
「今日は?」
「ちょっと応援してほしい」
「赤坂の?」
「いやあれはしばらく塩漬けだ。小林さん説明してくれよ」
 小林は子会社のファイナンスの社長をしてから気位が高くなっている。藤尾の話だ。
「今度グループの不動産の会社が上場する」
 藤尾が以前に部長をしていた会社だ。
「未公開株を配ることになった」
「これは慣例みたいなものさ」
 証券マンが説明する。黒崎は黙って煙草を吹かせている。
「財界ルートは旗手社長のとこでとなったが、政界ルートは私が面倒見ることになった。だが私が直接動くのは不味い。それで二人には手足で動いてもらいたい。まだ方法は決まっていないが旗手社長は政界ルートの元締めはあの代議士と言っている」
 赤坂の関係もあるし、次期総理の声も高い。
「二人はすぐに株の段取りに入ってくれ。彼とはもう少し話がある」
 二人が出て行ったのを確かめて、
「えらい信用されたもんだな」
と笑う。
「正式に社員で来ないかと言っている」
「旗手社長が?」
「これは気持ちだってさ」
 黒崎が黒革の鞄をテーブルに置く。










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雌猫

 マドンナは急ぐ風もなく、タクシーを拾って赤坂のホテルに着ける。周平は前のタクシーを追いながら携帯を覗く。ケイ君からはまだ報告はない。尾行は肌に合わないようだ。彼女は一人でレストランに入ってコーヒーを頼む。待ち合わせしているのか。周平も背中になる位置に座って週刊誌を開く。
 あと10分で8時になる。柳沢とは別行動なのか。となるとここに現れるのは舅だ。どうもマドンナと舅と柳沢の関係が呑み込めない。
 入ってきたのは柳沢だ。
 その時にケイ君からメールだ。
「後ろの席にいる。柳沢をつけてきた」
 携帯の画面に文章が入る。だが彼の姿は見えない。
「少しやばいことになる。狐は精算してロビーに出た方がいい」
「どうして?」
 回答はない。そっとレシートを持って立ち上がる。その横を物凄い勢いで駆け込んできた女がいる。もう少しで飛ばされそうになる。レッジのそばの席にケイ君の顔が見える。ほんの瞬間の出来事だ。駆け込んできた女がいきなりマドンナにピンタを食らわす。柳沢が間に入る。店員も飛んでくる。
「この雌猫が!」
 マドンナはハンドバックで応酬しながら席を離れる。
 柳沢が女を取り押さえている。周平はロビーに出てくるマドンナの背中を追いかける。思い切って同じエレベータに乗り込む。さすがに動転しているのか、マドンナはランプばかり見ている。客室階で飛び出すように降りる。周平も後に続く。
 部屋のドアをノックする。そこから顔が半分覗く。ガウンに着替えている舅だ。
「さすがに暴走族のヘッドだけある」
 ケイ君のメールが入ってくる。









 

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跡継ぎ

 珍しく柳沢がM商事の廊下に現れた。
 人事部で調べてみたが、分譲マンション専門の不動産子会社の企画部長で都内にいるようだ。今日は周平の書いた記事で会長室に来たようである。この二人の関係はどこまで絡んでいるのかよく分からない。会長室に出入りする幹部はほとんど限られてきている。
 周平は携帯を入れてケイ君に柳沢の尾行を頼むことにした。周平はマドンナをマークしようと思う。
「手空いていますか?」
 最近時々相談役の息子が部屋を覗く。
 舅が使っていた部屋を応接代わりに使っている。課内の女性が気を使ってコーヒーを運んでくる。どちらかというとビールの小瓶を抜いて持ってきてもらう方が肌に合う。
「赤坂について解決の方法を探れと相談役に言われていますが課長はどう思います?」
「そちらの部長の見解は?」
 他人ごとに聞こえるがいずれあなたがこの会社を背負うのだ思うと力が抜ける。かといって舅のように次に掛ける気持ちも今はない。
「Sハウスの方は?」
「声をかけたが、火中の栗を拾うところまではいきませんね」
 息子は会社の歩き方からやり直しだ。
 内線が鳴る。どうやら柳沢が会長室から出てきたようだ。ケイ君にメールを入れる。
「部長は開発部の裏口座を持っているんですか?」
「そんなのあるのですか?」
「部長に聞いてください。この口座は初代の課長が赤坂案件の領収書の出せない売買の資金に使っていたのですよ。それが柳沢開発部長に引き継がれた。ここまでは調べられていますが、柳沢部長から会長に渡ったのかどうかは分かりません」
 おそらく舅はその口座の存在は知っているが彼の手元にはないはずだ。息子に伝えるということは暗に相談役に伝えることにもなる。舅であれば闇に葬りかねない。
 ケイ君からメールが入る。尾行を始めたとある。次はマドンナだ。柳沢に遅れること1時間後マドンナが定時に退社をした。周平は内線を受ける会社を飛び出した。











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罠をかける

 やくざの兄貴が任意同行で引っ張られた。この情報は轟から入った。
「どこからだ?」
 周平は相談役に赤坂の報告をして部屋を出たところだ。空いている応接室に移動しながら話しかける。
「黒崎さんにやくざの兄貴の件について説明した。これは金ずるだからな」
 それは轟との約束だ。彼は情報によってお金の多寡が決まっている。周平はもう少し曖昧な関係だ。最初は舅の部下として動いていたが、そのうちに黒崎の関係だけになった。今は旗手社長の意志を強く感じている。
「それで?」
「少し仕掛けてみようということになった」
「仕掛ける?」
「赤坂の地上げと繋げてくれということだ。この記事はそちらの仕事だぜ」
「材料は?」
「国崎さんに監査役の車にぶつけたチンピラの車の写真と、監査役の車の衝突痕の写真だ」
「それで証明できるのか?」
「証明などいらないさ。疑惑で十分ということだ」
 揺さぶりをかけようということである。それとここからは警察の仕事だというのだ。
「今日はいつ終わる?」
「早くて8時かな?」
「じゃあ、ホワイトドームで飲んでるさ」
「お気に入りだな」
「あの店はいい」
 確かに暇なときは周平などお構いなしにカウンターにとまっている。団長も妙に話が合うようだ。








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青春

「最近ケイ君見ないが?」
 10時過ぎにホワイトドームに戻る。赤坂の調査票をここ3日かけて作成していたのである。取りあえずM銀行に提出する体裁だけはできた。投下額合計に未購入部分だけは明白になった。ただ不可解なことが多すぎる。まず投下額と売買購入金額が全く合わない。
「今晩には戻るって電話があった」
 周平はカウンターの端に掛ける。まだ7人ほどがワイワイとしゃべって飲んでいる。
「どこに?」
「京都」
「まさか?」
「そのまさかよ。太田黒が電話を入れてきて、狐を思い出したって」
「怒ってない?」
「いいえ、なんだかどこかで会っていたような気になってたのよ」
 ビールの小瓶を抜いて渡す。
「私の横で写っていたのが狐だとはねえ。でもそれ以上は思い出せないのね」
 ちょうどドアが開いてばつの悪そうなケイ君の顔が覗く。
「裏切ったわけやないで!」
 周平は黙って椅子を譲る。
「ここが松七五三聖子の下宿だ」
 写真をカウンターに置く。団長は取り上げて見つめているが、記憶にはないようだ。彼女の下宿は2階にあって大きな瓦屋根に夏場は蒲団を出して月を見ながら寝たことがあった。周平もその友達もよく泊まったことがあった。できたのはその友達が先で、周平が割り込んだ形になった。いや二人彼氏のような関係だった。そこに太田黒が絡んできたという感じだった。
「私って誰とも寝る女だったのね?」
「いや俺たち二人だけだったと思う」
 それほど3人がいる時間は長かったように思う。
「私にも青春があったのね。でもこの話はカオルには内緒よ」









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見えないもの

 M商事の会長に変わってベンチャーの旗手社長の名前が経団連の副会長に上がった。
 相談役に頼まれて周平は朝から赤坂のM商事の未販売地と登記を現地で確認している。周平の課と不動産事業部で合同で10人体制で始めたが、日が暮れるころになっても、半分も進まない。これはM銀行に提出を求められている。
「少しいいかい?」
 周平の背中にジャンバー姿の轟が立っている。路地の細い道を抜けて赤坂見付の古い喫茶店に入る。
周平がコーヒーを頼むが、轟はビールの小瓶を頼んでいる。
「チンピラの死体は正式に毒殺と判定されたよ。近くにマドンナの黒革の鞄があった。警察は取りあえず押収して帰ったがそれほど重要なものとは見ていない」
「そうだろうな」
「そこまでは警察にはまだしゃべっていない。証拠がないからね」
 携帯が鳴ってここで解散するがいいかと尋ねてきた。取りあえず委員会の委員だから。それで周平もビールの小瓶を頼む。
「それが一つ黒革の鞄の中を刑事に見せてもらって、あの加瀬の首つりのロープの切れ端を見つけた。写真を撮って少し拝借した。それと加瀬のロープと比べた。同じものだ」
「やはり柳沢は絡んでいたんだな」
「そうだ。あの尾行は無駄ではなかった。ロープを買った店も見つけた。とても若い可愛い女の人が買ったので店員が覚えていた。店の防犯ビデオを元刑事に調べてもらうさ」
「マドンナは共犯だな」
「分からんね。なんでも決めつけないことにしている」
と言いながらポケットから小さく折りたたんだ謄本を出してくる。
「マドンナのマンションは分譲マンションだ。持ち主は鈴木取締役だぜ」
「まさか!」
「女は分からんぜ。女で身を持ち崩した俺が言うんだからな」
 轟は妙に自慢していう。











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吹き溜まり

 今日は休日だが団長とケイ君ら役者の面々は前衛劇場に朝から詰めている。周平は用意されていた朝ごはんをカオルに作って食べさせた。ちょっとした間隙を抜いてカオルが体を求めてくる。夏蝉のように少しの時間でも惜しむようなセックスである。
「もう寝た方がいいよ」
「一緒に寝て!」
 だがいつの間にか寝息がする。体力がなくなってきているようだ。蒲団を被せて店に降りる。
 目玉さんが座っていてビールを飲んでいる。
「みんなといかなかったんですか?」
「いや、今日の芝居には出番がないわ。それよりカオルは?」
「今寝ましたよ」
「狐はこれからどうするんや?」
 カオル達には周平はいつまでも詐欺師の狐なのだ。
「もちろん生まれてくる子の」
「気張らんとええで。カオルの子はみんなが面倒見る。ここにおる男達はみんなカオルの父親や。めくらのワシでも何度も抱いてもらった。狐の子でよかったいうもんや」
 周平も隣にかけてビールを開ける。
「カオルはいつから病院に?」
「そうやな。団長が来るもう少し前やったかな。母親が未熟なカオルを連れて病院に来とった。齢は二十歳くらいの時やったかな。時々売春でお金を稼いでたみたいやな。この辺りはそういう女の子が多かったわな。それがいつの間にか母の姿を見んようになったな」
 カウンターにカオルの写真を出してみせる。全裸の写真だ。
「ここの男はみんなこれを持っている。カオルが1000円で売っとった。みんなの恋人やったわ。それが団長と一緒に生活するようになった。ホワイトドームはどぶ川の吹き溜まりのようなとこやが、俺たちには最高の安息場所や」
 ひょっとしたら伯母にとっても新世界という町がそうだったのかと周平は思う。
 いつの間にかカウンターに電線の雀のように常連たちが並んでいる。みんな思い思いに飲み物を出してきて、あてに鋏を回してあけている。であるだけのお金をせんべいの空き瓶に入れてゆく。







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 旗手社長の携帯に電話を入れる。舅の話をそのまま伝えた。
「今2か所からSハウスに赤坂の土地の売りの話が来ている。その一つがM商事できっと不動産事業部のラインだろう。もう一つがS銀行からだそうだ。しばらく様子を見よう」
「パーティ券の話は?」
「ミーから聞いた。手配しておいた。ミーを抱いたかね?」
「まさか」
「彼奴の体はいいよ。一度抱いておくんだ。好みだって言ってたよ。今赤坂ため池のビルにいるんだが、ちょいと付き合わないか?」
 周平は腕時計を見る。6時を過ぎている。
「15分ほどで行けます」
「着いたら声をかける」
 周平は相談役の部屋を覗いて、談合があるので出ると伝えて外に出る。どうも最近は相談役の側近と見られているようだ。
 どうやらファイナンスの会社に来ているようだ。ため池の角地に来るとガラス張りのビルを見上げる。
「ここだ」
 屋台の中に引っ張られる。
「同じのを入れてやってよ」
 コップ酒に熱燗を入れてもらう。
「あまり似合わないですね」
「だろ?誰も見つけられないさ。創業の頃ここに連れってきてくれた社長がいるのさ。暇ができたらここで飲むようだ。初心忘れべからずだそうだ。このコップを手にすると身が引き締まる」
 周平は逆に通天閣の街が懐かしくなる。街がおぼろげながら映る。そして伯母の顔がいつまでも若いままで浮かんでくる。もう会わないと言われて頑なに守っている自分がそこに入る。
「君はいつまでM商事にいるんだね?」
「よく分からなくなってます」
「人生は短いよ。すべきことが山のようにある」
 何か自分に話しかけているような響きがある。
「日本を動かす。世界を動かす。それが夢だ」











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男と女

 会長の経団連副会長の推薦が取りやめになったという記事が一般紙に出た。それに合わせて社長が相談役を会長に提案しているかのような噂が流れている。田上専務が退院してきてその会議に出席している。彼も今のポジションを守るのに必死である。今は加瀬の自殺説が主流のようだが、まだブラックジャーナルの情報が信じられている。
「今手が空いているか?」
 舅からの内線である。
 不動産事業部に入ると、応接に通されてコーヒーが出る。
「待遇がいいですね?」
「君はもう部下ではないしね、それに強いラインを握っている」
「もうフラフラですよ。でも旗手社長はご存知でしょう?」
「ああ、だが信頼されなかった。彼の信頼がなければあのメンバーにいてもだめだ」
 そういうところが旗手社長と合わないのだろう。
「ところで相談だが、Sハウスと繋いでくれないか?」
「急にSハウスという名前が?」
「君の談合先で、旗手社長のメンバーでもあり、赤坂の隣接地を押さえている」
 どうやらかなり調べだしたようだ。
「あそこなら幹線道路に繋がるから欲しがる思うがね?」
「確かにそうですが、M商事の赤坂の土地はいわくつきですし、実際にまとまっていません」
「条件を付けてくれてもいいし、単価を叩かれてもやもえん」
 この土地の処分が大きな山になってきている。頭の中で旗手社長の顔が浮かぶ。その横の国の土地の話が漏れる前にたたきたいところだろう。
「談合先の部長でどこまで話になるか分かりませんが。ところでマドンナとは?」
「柳沢と私とどっちを取るか見ていたまえ」
 舅は柳沢がマドンナのマンションに出入りしていることも知っているようだ。そこまで賭ける必要があるのだろうか男と女のことは分からない。










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ミー

 やくざの兄貴が賭博の件で警察に上げられた。轟の情報では別件捜査のようである。
 旗手社長から携帯が入ってミーと一緒に前回の議員にもう一度革鞄を届けてくれということである。旗手社長は今岩手にいるようである。
 議員会館の前に車が止まっていて、ミーがスーツ姿にサングラスをして降りてくる。革鞄を受け取ろうとするが、がっしり抱えて話さない。目で先に入るように促す。
 やはり前の秘書が出てくる。前と違って目が笑っているようだ。また二人して革鞄を置いてトイレに立つ。
「そちらあっちだよ」
 周平が女トイレを指す。でも聞こえないように男子トイレに入る。そして急所をつかんでにたと笑う。
「あんたもつかんでみる?」
「まさか」
「そのまさかよ」
 応接に戻ると、議員本人が座っている。
 ミーが秘書の名刺を出す。
「こんな秘書さんならどこにでも連れて行きたくなるな」
 打ち解けている。どうやら話はまとまったようだ。
「来月にパーティがあるんだけどもね、秘書と話しておいてくれるかな?」
 そういうともう次の客のところに出かけてしまう。
 議員会館を出ると、ミーが車を走らせて六本木のマンションの地下に入る。
「セックスは求めないからお酒は付き合ってよ」
 部屋には大きな動物のぬいぐるみが並んでいる。
「私も社長と同じで信頼できないと組まない。互いに信頼するためには本当の姿も見せないとね。あなたにはなんというのかからっとした陰りがあるのよ。社長にも私にもある」
「幾つ?」
「25歳になったわ」








 

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落としどころ

「どうぞ」
 M銀行の頭取室に入る。
 ソファの両端に監査役と舅、反対側に黒崎が座って真ん中に頭取が掛けている。この体制なら周平は黒崎側に座ることになるだろう。
「そろそろ結論を出しませんか?」
 頭取が口を開く。
「もともと同じ穴の貉だったんですから、確かにいろいろ動きましたからねそれぞれが」
「そもそもS銀行の頭取とは話がついたのですか?」
 黒崎が口を開く。
「そうですね。S銀行さんも営業本部長を系列の不動産会社に送ります。赤坂はもともとこちらが始めだしたものですからね。ただ銀行が直接できないもので何社かに相談しました」
 淡々と話す。
「M商事もここまで来たら整理しないとと思いますが、会長も力をつけられて容易には降ろせないとこに来ています。それに当銀行の出向社長が役割を忘れて」
 ははあと力なく笑う。
「彼にも別の仕事で帰ってもらいます。とは言え」
「刑事事件まで起こしています」
 黒崎が監査役を始めとした事件について言っているようだ。
「そうです。それなりの落としどころが必要ですね。ただまだ公にできないことも多くあります。それにそんなにうまく解決できるかもわかりません。思いがけない時代の力が動いています。新しい人たちの力もついてきていますしね」
「思わない力とは?」
 相談役が初めて口をはさむ。
「一つはバブルですよ。日本は力以上に伸びすぎました。それに合わせて自由化の流れが止められません。まずこのメンバーでは停戦としましょう」
「止めれない流れも?」 
 黒崎が旗手社長たちの流れを指して言っている。
「それは仕方がないですよ。それが時代が求めているのなら」














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チンピラの仏

 Kジャーナルで藤尾の名を伏せた記事が田辺一郎の名前で活字になった。
 会長がS銀行の頭取に呼ばれたようで、昼一番で柳沢を載せて社用車で出かけて行った。社長室では社長派が朝から部屋にこもりきりである。相談役はM銀行の頭取に会いに舅を連れて出かけた。こんな調子では会社の業績も上がることがない。最近は中間派に相談役を推す声が出始めている。
 背広のバイブレターが鳴って携帯を覗く。そのまま応接室に入って鍵をかける。轟からだ。
「お宅の記事が出たな」
「ああ、今どこだ?」
「黒崎さんの事務所だ。あのチンピラの死体が出たんだ。それで刑事から内々に説明を聞いていた」
「どこで見つかった?」
「熱海の山だ」
「それなら加瀬が自殺した・・・」
「そうだ。そこからそんなに遠くない。近くの人が散歩に来て発見して届けたらしい。この刑事には黒崎さんから写真が渡されていたようだ。それでわざわざ仏さんを確認してくれた。身元が分かるものは何一つなかったが、顔が潰されていたわけでもなかった。先ほど本人確認に刑事が出かけた」
「あの兄貴の事務所か?」
「そうや。毒殺らしい」
「経緯は?」
「おおよそ説明した。兄貴はとぼけているが、この刑事はマークしたようだ。それがこの現場にあのマドンナの革鞄が出てきたのだ。それでこれから刑事と一緒に出かける。それから」
と言いかけた時に、相手の声が黒崎に代わる。
「今どこだ?」
「会社ですよ」
「用事を作ってM銀行の本店に来てくれすぐだ」
「名前は?」
「M商事の鈴木周平でいい」
とは言われたが、すでに離婚届を出して田辺周平に戻っている。もちろん会社では今まで通り鈴木姓のままだ。












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ねじれ

 旗手社長から携帯が入り、藤尾から赤坂購入の真相を記事にするように頼まれた。真相は別に自分に聞かせてくれという条件付きで、記事は会長を追い詰める内容でという注文である。藤尾には小林から連絡が入っていて、久しぶりに赤坂の地上げ現場で二人で酒盛りすることになった。 
「藤尾さんは真実だけ話してくれたらいいですよ。脚色はこちらの方でします。藤尾さんの名前も出しませんし、不利になるようなところはカットします」
と言ってお椀に日本酒を注ぐ。
「そうですね。もともとは会長直々に呼ばれて、赤坂の地上げを不動産事業でしてもらうということから始まりましね。当時の不動産事業部長が反対していたので私に番が回ってきたのだと思いますわ」
「どういう説明でした?」
「名前は明かせないが数社で赤坂を上げるということで、資金はS銀行から出るとも」
 この辺りは旗手社長の説明通りだ。
「S銀行では誰に?」
「クラブで会長にS銀行の営業本部長の紹介を受けました。会長は次期頭取だと言ってましたわ。それ以降は支店長と融資はしてもらっています。ほとんど詳しい調査はなくお金が出ていましたね」
 部屋の石油ストーブで熱いぐらいになって藤尾はシャツ一枚になった。
「その数社というのは想像つきますか?」
「それは現場でぶつかるのではは~んと気が付きましたよ」
「名前はいいです。このベンチャーの会社もS銀行から金が出ていますね?」
「でも担当支店が違うんですわ。これは噂ですが、赤坂は営業本部長から頭取直轄になったようで」
 二つの支店名を書いてもらいます。これも派閥争いか。会長は営業本部長のラインである。
「いつ頃からこのねじれが起こったと思います?」
「うん、辞める半年前から急に買いのスピードが増し始めたな。その頃から会長の裏金抜きが頻繁になったわ。立ち退きの和解金が抜かれるので、心配になって会長に一言言ったんですわ。何しろあの金が合わないとなるとこちらの責任になるんや」
「その裏金の通帳は?」
「柳沢に引き継ぎましたわ。それからあの事件が起こって退職したんですわ」
「会長は藤尾さんが目障りになって、柳沢がそれにうまく乗ったということですね」
「通帳のコピーはとってますわ。必要ならだしまっせ」








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対面

 先月から団長に20万円を入れている。ほとんどホワイトドームから出勤している。カオルの調子は少しはよくなっているが、1日の半分は寝ていないとダメなようだ。彼女は顔を見るとセックスを求めてくるが、団長が許さない。医者から注意をされているようだ。かといって団長に体を求めるわけには行かない。変な三人の生活だ。
 休日は夕方まで周平が何もなければカウンターに入る。でも客は勝手にビールを出してきたり、つまみの袋を出してきて食べて、自分で勘定をを済ませて帰る。無人販売機のようなものだ。夕方になって、団長が買い物に出かけて付きだしを作る。食事は定番のものをみんなが頼む。ちょっとした共同生活のような店だ。病院関係者が大半だ。古い医者や介護士も来るようである。
 今日はまだ団長は買い物から戻っていない。カオルは濃厚なキッスをしてから眠ってしまった。
 いつの間にか轟がカウンターにかけて自分で湯割りを飲んでいる。
「呼んでくれりゃいいのに」
「何を言ううんや。やってるのに声かけられんやんか」
「悪いな。今日は黒崎さんの?」
「いや、団長のリンチ事件の調査や。お金は先払いでいただいてるものでね」
 元刑事上がりに頼んでいた件だ。
「リンチ事件では1人死亡している。別の大学の学生だ。2人は重体で救出されていた。加害者と思われるのは同じセクトの学生だ。7人いたと記録されている。名前が記録されているのが5人。ここに例の太田黒の名前も松七五三聖子の名前も出ている」
 指名手配を受けた時の二人の写真をカウンターに置く。サングラスを外せばこれは太田黒と判別する。だが、松七五三聖子は記憶に重ならない別人のようだ。口を真一文字に結んでいる。
「逃亡した学生は一人も見つかっていない。ダチの元刑事が重体の一人の身元を見つけた。女性で今は結婚して子供もいるようだ。同じ大学で松七五三にオルグされたようだ。タンカーに乗る話になっていたが仲間割れになったらしい」
「これが私かあ」
 白い指が写真をつまんでいる。前のサングラスの太田黒が見せた写真とまたずいぶん変わっているようだ。
「気の強そうな顔してるね」
































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