夢追い旅 2016年09月

リスト

 轟から柳沢の報告が来たが、どうもやくざの兄貴を妹ががっちり押さえているようで、簡単には柳沢に繋がらないようである。これでは会長まで行くことは今のところない。どうも黒崎は今回は会長からいくばくかの金を懐にしている雰囲気である。今は周平は黒崎とは付かず離れずと認識している。
 先ほどミーと二人で議員会館から出てきて、Nビルに戻って代議士から渡されたリストを広げて睨んでいる。
「感想は?」
 ミーが応接室の鍵を閉めて、ブランディとビールの小瓶を抜いてテーブルの端に置く。彼女は明日の朝一番にニューヨークに行く。旗手社長と現地法人で合流するらしい。その時にこのリストを渡すようだ。
「納得行かない部分がある。株の配分が代議士の派閥配分が多すぎる。それに他の派閥や野党とのパイプが見えない」
「そう。全体を握るには主要な人が掛けているし配分が小さいわ」
 ミーの頭の中にはしっかり派閥人脈が入っている。
「あの曲者代議士の指摘は正しいわ。これじゃあ首相指名選挙資金のようよ」
「そう思う。だが、旗手社長は方針を曲げないだろうね」
 意見は参考にするが、自分の考え方は変えない。ワンマンのワンマンの由縁だ。とくに政界ルートには正解というものはない。
「ミーは銀座のはずれにあるビルに行ったことがある?」
「ないわ」
 やはり白髪の老紳士は別ルートだ。
「黒崎のようなルートは何本くらいあるのかな?」
「そうね、私の知っているのはもう一人テレビによく出ている経済評論家だけかしら。でもこういう時には力にはならないね」
「一度あの老紳士に漠然と聞いてみるか」
 珍しく旗手社長に関しては身内として心配している二人である。






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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

「帰りに覗くからさ」
 轟の連絡が入った。今日は顧問から早めに釈放されて、8時にはホワイトドームに着いた。でも珍しく病院関係者が5人もまとまって止まり木にとまっている。目玉さん達が端の方に窮屈にとまっている。どうも一人が退職するようである。もう70歳くらいに見える常連のレントゲン技師だ。団長が珍しくカウンターの中で相手している。周平はちびりちびりと小瓶のビールを飲んでいる。
「待たせたか!」
 轟が春らしいセーターで入ってきた。10時を少し回っている。
 無言で封筒を差し出す。この厚さでは20万か。ということはあの情報は黒崎のところで100万したようだ。
「黒崎さんのところか?」
「ああ。これから記事のネタを届けるって言って出たよ。ネタ元はこちらなのにさ。でもな、周平を張れと言ってたぞ」
「別ルートだろ?」
「ああ、分かっていりゃいい」
 どうも旗手社長の別ルートは知らないらしい。この世界も複雑だ。周平は上着のポケットから原稿用紙の入った封筒を出して渡す。時間中に書いたものだ。加瀬は自殺じゃないということの記事でほのめかした。
「柳沢はどうしてる?」
「会長宅を2度ほど訪ねているが居留守を使われている」
「会いたくないだろうな」
 会長にとって柳沢の役割は終わっている。厄介払いでしかない。この辺りの頭が回らないようだ。だが、柳沢には新しいM商事でははめるところがない。このところがまた事件を起こす導火線にならなければと思う。
「周平はいつまでこんな中途半端な仕事をしているのかい?」
 轟はいつの間にか団長の入れてくれた湯割りに口をつけて聞く。二人はそういう話をする間柄になっている。
「それこそそちらは?」
「俺は捨てられるまで狗さ」
「産まれる子供のためにもそうもいかんな」
とは言ったもののまだ漠然としている。M商事のけじめをつけるところからだ。








テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

裏工作

 今朝はカオルがフランケンに負ぶさって里帰りをした。ずいぶんお腹が大きくなっていて、その分顔が小さく見える。周平は嘘の直行の連絡を入れて朝食を3人で食べた。メニューはカオルの希望で団長のお気に入りの一つのオムライスである。でも11時には国崎の事務所に呼ばれている。
 5分前に国崎の事務所に着くと、ソファに珍しく舅が義足をつけて座っていた。
「歩けるのですか?」
「無理をして出てきた」
 機嫌の悪そうな響きだ。国崎は机に座ったままだ。呼ばざる客だったようである。
「M銀行から副頭取が来たみたいだね?」
 国崎の口調では知らされていなかったように聞こえた。
「ええ、顧問で私の部屋にいますよ」
「相談役が?」
 舅が口をはさむ。もともと舅が相談役の右腕だった。
「M銀行の頭取の独断のように思いますが」
「どうやら次は仲間外れにされるようだな」
 国崎の口がへの字に曲がっている。
「だが、そうは簡単に話はまとまるまい。会長から苦情の連絡が入ったよ。社長の譲歩もなく、相談役もフラフラだ。社長は一方的に会長の退任を求めている。周平何か手はないかね?」
「轟が情報をつかんでいるので持ってこさせます」
 マキのグラブ購入費をあの口座から出している。これを記事にすればいいだろう。これは轟の稼ぎにしてやるのが周平にとっても安心牌だ。すべての情報を握っていると思われては猜疑心が湧く。
「次に柳沢だ。警察も参考人として釈放している」
「彼奴は危険だ!」
 舅が叫ぶ。
「そうです危険人物です。だがこれ以上材料はそろっていません。監査役の自殺もようやくチンピラが車をぶつけてというところが現状ですね。監査役を殺す動機がない」
「そうだが」
「加瀬の自殺を轟に探らせています」









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会談

 ここ連日会長室で会長、社長、相談役の三者会談が続いている。その間、顧問はその会議には全く参加せず、部屋の中で書類三昧である。今日は組織図の説明を朝からさせられている。周平は呼びかけられるたびに、指名された人物の派閥の説明とコメントを要求される。それで人事部長を呼びましょうかというと、君の目で見たコメントがほしいという。
「君はこの会社で出世したいと思う?」
 コーヒーが運ばれてくると、急にこういう質問が始まる。舅のように煙草を吸わないので助かるが。
「確かに初めの頃は出世したいと思ってましたが」
「が、今は?」
「足の引張合いでは何か虚しいように」
「なるほど、思ったより大人ですね。幾つですか?」
 どうも大学の教授に質問されているような気がする。
「35歳になります。バツイチですがね」
「子供は作りなさい」
「そうですね」
 カオルの顔が過った。
「私も59歳までは頭取争いをしてましたね。それが副頭取になった途端憑き物が落ちたようにどうでもよくなりましたよ」
「何だかよく似た気持ちです」
 最近とくに出世したいという気持ちがなくなった。
「少し私に力を貸してください」
 顧問が真すぐに周平を見つめて言った。







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B勘

 さすがに定年間際まで銀行員だっただけはある。顧問は一日中書類を見ていても飽きないらしい。時々思い出したように質問をしてくる。非常に常識人の質問なのだけども、M商事を理解するにはあまりにも常識人過ぎる。1引く1はゼロにならない。
 ただ周平には声をかける人が1名増えたことで動きずらい。談合と言っても、それは何の?という具合ですぐに外に出てゆけないのである。
「遅いわ」
 呼び出したミーがへそを曲げている。
「旗手社長は?」
「言うだけ言ったら飛び出していった」
 その姿が見えるようだ。ミーも言いながらくすっと笑っている。
「周平は代議士に運ぶお金がどこから出ていると思っている?」
 ミーがパソコンを開きながら尋ねる。
「B勘だからね。本社の経理部長辺りが汗を流してるんだろうね?」
「この会社は社長が仕組みをこしらえているの。実は私はそれの担当」
「まさか」
「そのまさかよ」
 パソコンの画面に会社が並んでいる。
「今は7社だけども、これからどんどん増えるわ」
「この会社の社長はあの小林?」
「そう。裏方の人間が社長の名前を貸している。ここでB勘を作り出しているの。この会社は風俗の仕事をしている」
「ミーが社長だね?」
「お釜クラブ。私のねいさんがママをしているわ」
 なるほど。本体の事業ではないところからB勘を生み出しているわけだ。
「もう私では支えきれないの。周平に見てもらえと言ってたわ」
「これはラブホテルか」
「もう25軒になるよ」
「なるほどなあ。M商事は経理部長が担当しているので、挙げられてばかりだ。税理士は?」
「腐れ税理士がいるわ。持ち出しは禁止、ここで見るの」










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銀行管理

 新聞を見て、自分の会社の人事を見るとは周平は呆れた。M銀行から副頭取が顧問の肩書でM商事に来るようだ。さっそく朝一番に内線で相談役から部屋に呼ばれた。
「どうぞ」
という声で相談役のドアを押す。
 相談役の前のソファに白髪の紳士が掛けている。周平が名刺を出すと、
「まだ名無しだからね」
と笑う。
「新聞を見た通りだよ。しばらく君の部屋を開けてもらいたい」
「顧問室ですか?」
「それと会社の歩き方を教えてあげてほしいんだよ」
 相談役が冗談のように言う。
「定年でのんびりと考えていたんだが、もう少し頑張れということで。だが銀行員人生だからね。会社の常識というのがない」
「どこまで?」
 これは相談役に向けた質問である。
「詳しくは言えないのだけど、銀行管理になったと思えばいい」
「そんなことは」
 顧問が笑いながら否定する。どうやらいずれ顧問が社長か会長になって運営をするような感じだ。どこまでを伝えるかこの辺りが難しい。この人事は黒崎にも情報はなかったようだ。これはM銀行の頭取の意志だろう。
「赤坂は片付いたらしいね?」
「借り入れは終わりましたが、問題は片付いていません」
「そうか」
 顧問は予想通りというように頷く。
「これから会長室と社長室に行く。まあ…」
「ご苦労様です」
 周平のその声を聴いて、顧問はにっこりと笑う。組み易い上司なのかもしれない。











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過去の扉

 ホワイトドームで二人きりになったのは11時半を回っていた。団長が下で余ったおでんを2階の部屋で鍋でもう一度温めてくれる。周平はビールとウイスキーを持ってあがる。
「何を持って帰った?」
「日記よ。大学ノートに書いていたのが3冊見つかった。大学に入った頃から事件の2か月前まで」
「見せてほしいな?」
「見せない。恥ずかしいの。もう一人の私の裸を見られるような」
 二人で黙って乾杯をする。
「どちらを愛していたんだ?少し気になるな」
「ずっと悩んでいたようだわ。でも最後のノートがないので分からない」
「記憶は戻らないか」
「そのほうがいいのじゃないかと今は思っている」
「そうだなあ」
 なんだか団長の意志に従いたいと思った。これは新しい出会いで恋なのだと思う。
「でも京都の下宿にしては長かったな」
「実は怒らない?」
「ああ」
「通天閣のある街に」
「まさか?」
「伯母さんに会いに行ったの。でもね、周平の書いていたアパートはなくなっていたの」
「古いから立ち退きなったんだな」
「私伯母さんに会いたいの」








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再会

 赤坂の契約が正式に行われることになった。M商事からは息子の部長と周平が参加する。Sハウスからは副社長と藤尾が顔を出した。S銀行がSハウスの資金を出すので銀行取引としては身内取引のようなものだ。M銀行からは運転資金として200憶が出たので、400憶で抹消の許可が出たわけだ。それでも取引は1時に始まって、6時までかかる。周平は先ほどから腕時計を何度も見ている。6時の新幹線で団長とケイ君が戻ってくるのである。それで近くの寿司屋を予約している。
「課長一杯どうですか?」
銀行を出た時に部長に声をかけられたがそのままタクシーに乗った。
「遅刻だよ」
 ケイ君の声が店の中からする。
「食べていてくれたらよかったのに」
「と言ったけどね、団長に待ちなさいと睨まれたわけ」
 団長の目が松七五三聖子の目をしている。
「ずいぶん長かったね?」
「ええ、記憶は戻らなかったけど、久しぶりに松七五三聖子に出会ったわ」
「どこに行った?」
「下宿に連れて行ってもらった」
「団長、2時間も屋根から外を見ていたぜ」
 二人で屋根に寝そべって、飽きずに話をしていた。
「何か見えた?」
「夢の中の風景と同じだったわ」
「そうか、思い出すよ。3人で朝までそこで飲んでいたこともあった」
「らしいね。次の日に納屋を見せてもらったの。警察に押収されなかった私物を大家さんが残しておいて山積みになっていたの。そのうちの何点かを貰ってきた」
「団長、ホテルの部屋に籠って締め出しを食らってたんだぜ」
 今夜は二人でホワイトドームで昔のように朝まで話そう。










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発覚

 どうも旗手社長には黒崎のようなルートが何本もあるようだ。ミーはそのルートの個人秘書をしているようだ。周平にその仕事の束ね役をしろということのようである。
 団長とケイ君はもう1週間もホワイトドームを開けている。定時にはケイ君から簡単なメールが入るが心配だ。カオルの見舞いは毎日目玉さんにお願いしている。彼は病院の仲間の生き字引なのである。 
 柳沢が予定通り参考人で引っ張られた。だがそれと同時に田上専務の持っていたと思われてた組合の裏口座のコピーが例のブラックジャーナルに掲載された。周平もこれはしばらく触れないでおこうとしていたものである。黒崎と会長の話が崩れる恐れがあるし、赤坂と絡んでもつれる恐れがある。
 それで今日は田上専務を相談役の個室に呼んで事情を聴く羽目になった。
「これはいわゆる裏口座のコピーですか?」
 専務は相談役に向かってこくりと頷く。
「現物は専務がお持ちですか?」
「社長が今はお持ちです」
「社長がブラックジャーナルに出すようなことはないだろ?」
 相談役が口をはさむ。
「一時会長が管理していた時期があるんですが、おそらくコピーを取っていたのでは」
 それはありうる話である。それを何かの理由で柳沢が預かっていたのだろう。
「この通帳の件はあまり表ざたにしたくない」
 相談役の本音だ。あまりにもかかわっている人物が多い。過去に派閥争いにこの資金を握ったものが勝利してきた。逆に相談役はこの資金を手にできなかったから社長の椅子を手にすることができなかった。
「そういうことだから、専務から社長に通帳を渡すように伝えてください。さもないと、M銀行の頭取からとなると進退伺になります」
「伝えてみます」








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早春

 泣きつかれて担当医に頼んで半日だけカオルをホワイトドームにフランケンに担いで帰ってもらう。すっかり物干し台が小さな小部屋に改装されている。そこに蒲団を敷いてカオルを寝かせる。その時カオルを持ち上げて周平はあまりに軽くなった命の重さをひしひし感じた。
「いい部屋だなあ」
 久しぶりに元気で、ポンポンと壁を叩いている。
「子供ができたら戻ってきて、団長も入れて4人で暮らすんだ」
「楽しみ!団長と交互に寝ていいからね」
 カオルにとってセックスは生命の証のようだ。
 下からフランケン達の笑い声が聞こえる。
「子供の名前決めたかい?」
「そんなの言ったってまだ男か女もわからないし、狐が決めてよ」
「そうだな」
「狐も子供ができたら詐欺師から足を洗って、ホワイトドームでマスターしたらいいのに」
 カオルの中では周平はいつまでも狐の詐欺師なのである。そしてカオルは子供のままだ。
「それなら店を少し広げないとな」
「でもあのカウンターはそのままにしておいてね。みんなとまるところがなくなるもん」
「冷蔵庫は少し大きいのにしないとビールが入らないしな」
「カオルお風呂がほしい!だって銭湯に行くと子供に間違えられるし、狐とお風呂の中でセックスがしたい」
 フランケンの声が下からする。
 急にカオルは駄々をこね始める。そろそろ帰る時間だ。
 フランケンに抱えられると短い病院に続く路地を歩く。もうすぐ春は近い。そんなに短い路地の道のりでカオルはもう眠ってしまっている。







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ピーナッツ

 この事件が片付いたらM商事を辞めようかという気になっている。もうここですることはない。かといって、旗手社長のところに行くか、ホワイトドームのマスターになるかは全く見えないでいる。一時あった熱病のような出世欲も嘘のようになくなってしまっている。ただ最近は若い時の伯母の顔ばかりが浮かぶ。時々そんな気持ちを飲みながら団長に話したことがあった。
 旗手社長はやはりあの代議士に任せることを決めたようだ。それで今日は赤坂の料亭で二人が会うことになっている。だが形式は周平とあの秘書の予約を入れた料亭の個室で行われる。周平は相談役に黒崎に呼ばれたと会社を早めに出た。
 女将の酌で黒子の二人が飲んでいると、双方に同時に携帯が入る。その合図で女将が席を外す。襖が両側から開いて代議士と旗手社長が同時に入ってくる。握手をすると何か話してわずか5分の会談だ。ミーが後ろからいつもより大きな黒革の鞄を抱えて畳の上に置くと、そのまま出て行ってしまう。周平が清算に連絡を入れている前に代議士は秘書と持ってきていた黒革の鞄とすり替え出てゆく。それを待っていたようにミーが入ってきて空の黒革の鞄を持ち上げる。
「社長は?」
「大阪に出かけたわよ」
「いくら入っていた?」
 最近はそんなことを聞ける仲になっていた。
「ピーナッツが10個よ」
「これは?」
「認可のお礼よ」
「そんなに凄い認可か?」
「おそらくしばらく独占で仕事ができると言ってたわ」
 どうも表の仕事のようだ。でも黒崎は絡んでいないようだ。
「これから富士山に走らない?」
 ノーは許さないという響きがある。
「車に社長から私達にピーナッツ2個貰っているの」





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後始末

 舅は片足を切断することに決まった。
 それで臨時の人事移動があった。相談役の息子が部長となって、周平が不動産事業部課長を兼務することになった。相談役からは実際の作業の推進をするように直接依頼があった。
「これからどうすれば?」
 部長室で息子から声をかけられた。
「まず、これからSハウスに向かいます。200億で赤坂の買い付けを貰うことになっています。その足でS銀行に向かい、融資の担保抹消の依頼をするのです」
「でも外してくれないのでは?」
「200憶では無理です。でも前もって話を入れてあるので、条件が出ると思います」
 ここまでは舅が根回しを終えている。
「それからM銀行の頭取に予約を入れていますので会います」
「M銀行の条件が出るわけだな?」
「条件はすでに相談役と聞いています。その準備に入るわけです。でも、ここは我々では役不足なので頭取に任せます。不動産事業部としては取引書類をまとめる作業を今日から始めます。問題は赤坂の不明資金の解明です。ここまでは不動産事業部長の仕事ですね」
「とは言っても?」
「不明金の始末をしないと、M銀行もハイとは言いませんよ。そのためにすでに裏口座を引き上げる用意はしています」
 これは藤尾が作業を約束してくれている。
「なんでも調べているんだな」
「これが本来の調査部の仕事なんです。会長はこの調査部を利用して社長になり会長になりました。社長になる人はここをしっかり押さえていないとダメです」
 あなたは次の次社長なのですよと心の中でつぶやく。


















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裏取引

 団長がケイ君を連れて京都に出かけた。
「夢の中でぼんやりと風景が見えるの」
 出掛けにそんな言葉が耳について離れない。
 周平はカオルに顔を見せて、遅刻をして黒崎の事務所にでた。ソファに轟が座っている。
「昨日車の中で会長と会った」
 黒崎がぼそぼそ言い出す。この人の動きはいつも謎である。
「会長が取引を言い出した」
「引退しますか?」
「そうだ。M銀行の頭取とも話をしたようだ。だが条件が難しい」
 腕を組んで天井を見ている。
「まず、柳沢を逮捕させる」
「脅されているんですね?」
「のようだ。それで轟に例のチンピラの毒殺に柳沢が絡んでいる情報をタレこみさせる」
「例の車の衝突痕を出すんですね。監査役の事故と繋げる?」
「今なら引っ張りますわ」
 と轟が口を挟む。
「加瀬まで?」
「いや少し時間を稼ぐ。その間に会長引退の道を作る」
「でも、赤坂の不明金の問題も出てきますが?」
「まず、柳沢だ」
 崩れる時は何もかもが同時におこる。それが予想できない。






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落とし穴

 旗手社長から直接携帯が入った。
「今どこか?」
「M商事にいますが?」
「出れるか?」
「いいですよ」
「会社の前に15分でミーの車を着ける乗ってくれ。詳しくはミーから聞いてくれ」
 周平は慌てて上着を着ると外に出る。幸せなことに、最近は直接指示を受ける上司がいない。玄関に出ると、もうミーの車が入ってくる。
「どうしたんだ?」
「早く乗って走りながら話す」
「これから会うのはね、旗手社長の友達の代議士なの。なかなかの曲者なんだけど今回の政界ルートに異議ありと言っているのよ。話を聞いてほしいとのこと」
 そう言うなり、東京駅の丸内側を細い路地を入ってゆく。
「ミーか。時間がないから手短に言うからな」
 周平の名刺もテーブルに置いたままでしゃべり始める。
「社長に政界ルートの話を聞いたが不味いぜ。未公開株の件はもう有名になっとるぞ。彼奴がすべて配分を決めると自分の金のことのようにやっておるわ」
「それは不味いですね。でもどうすれば?」
「ルートのボスを教えるからそこを通じて渡すんだ。でないと本当に渡っているかどうかも分からん。それだけならいいが、そこからややこしいことが起こるかもしれん」
 そこまで言うともう立ち上がっている。
 テーブルに請求書だけ残っている。
「突風のような人だな」
「でも一理あるわ。これは周平の言葉で伝えるのよ」




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小さく見えた

 嫌な予感がして、轟に柳沢の張り込みを頼んで、ケイ君には記者のねぐらとなっているアパートに再び隠しカメラを取り付けてもらった。あのねぐらについては轟はどんな作業をしているかは明かさない。どうもこれは黒崎との契約なのだろう。
 休みの今日は2階の古い物干しを潰して部屋を増築する工事に入っている。どうもこのあたりは増改築未登記は当たり前のことのようだ。フランケンの友達が3人来て朝から鋸を引いている。せめて、カオル母子の部屋を作ろうと周平が提案した。団長とでか鼻さん達はキャバレー公演で朝から出ている。カオルの代役で17歳の家出少女が参加している。
 カウンターには早くも常連が3人勝手に入って飲んでいる。
「引っかかったぜ!」
 ケイ君がカメラを持って入ってきた。
 カメラを再生して見せてくれる。
「時間は22時05分、ドアをこじ開けて侵入。ほら柳沢の顔だろ?」
 間違いない。
「部屋を特定するためにアイドルのブロマイドを張っておいた。もちろんセットした時に撮影もロシアの少女に頼んだ。会いたがっていたぜ」
 ということは轟はどこかでまかれたのだろう。
 周平と記者が同一人物とはまだ気づいていない。
 ケイ君は冷蔵庫からビールの小瓶を二本出してきてあける。
「ケイ君も何かまともな仕事についてはどうかな?」
「それや無理だぜ!」
「産まれてくる子供のおじさんだからな」
「おじさんにしてくれるわけ?いつまでもそうやなあ」
 周平はポケットから1万札を2枚出す。
「でも心配なんだな。昨日もカオル覗いたがなんだか半分くらいに小さくなって見えたさ」
「ああ心配だよ」
 ケイ君には本音で話せる。









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導火線

 舅が朝、五反田の駅で何者かに突き飛ばされ重体の連絡を相談役から受けた。そのままタクシーを拾って病院に向かう。
 病院に着いた頃は応急手術は済んでいて、警察の聴衆も終わった後でベットに横たわっていて意識もあるようだった。
「どうしたんですか?」
「いや、押されたんだ」
「相手は?」
「分からん」
「足が入ってきた電車に跳ねられたようで当分歩けない。だが、おそらく柳沢だと思う」
「警察に?」
「いや。確認したわけでもないので言ってはいない」
「あの日二人でずいぶん話されてたようですが?」
「奴は狂っている。マドンナを隠したのも、自分を追い詰めているのも僕だと思い込んでいる」
 舅の目も周平から見ると異常だ。
「君も気を付けた方がいい。奴は僕が指揮をして君を動かしていると思っている。それとKジャーナルの記者を調べている。すごく怯えている」
「どんな話をしたんですか?」
「話じゃない。マドンナから手を引けとか赤坂から手を引けとか正常じゃない。あの調子なら会長も逃げ腰になっていると思う。いや、脅しているかもな。根っからのチンピラだ」
「監査役の事故死の件、チンピラの毒殺、加瀬の自殺偽装すべて彼が絡んでいます。そもそもお二人が絡んだ藤尾さんの強姦偽装から事件は始まっているのですよ。もともと藤尾さんをはめる絵を描いたのは部長です。柳沢はすでに強姦していたマドンナの写真を餌にひきこんだ。知っていたんですね?」
 舅はしばらく黙ったままで、
「誰に聞いた?」
「マドンナです」












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指示

 ミーから携帯が入りNビルの旗手社長の部屋に呼ばれた。
「赤坂の方は?」
 書類を目を通している社長が顔を上げて聞く。ミーは二人分のコーヒーを入れてテーブルに乗せる。
「Sハウスに正式に指値の依頼書を出すことを役員会で決めました。Sハウスには伝わっているかと思いますが?」
「社長からどうすると言ってきたのさ」
 Sハウスには周平が代理で依頼書を届けている。
「金額はどうする?」
「100億から社内の根回しをしていますが、200憶が妥当かと」
「よし、段取りにかかるようにSハウスには伝えよう。だがS銀行が200憶では抹消には応じないだろう?」
 旗手社長は別の書類に印鑑を押しながら俯いて話を続ける。ミーは新しいスーツを出してきて、着せ替える準備をしている。
「M銀行頭取は条件付きで運転資金を出すと言っています」
「会長の退任か」
 スーツのズボンの履き替えをミーが手伝う。
「未公開株の政界ルートだがな、与党と野党を別建てにしてと思うんだが?」
「小林さんから」
とミーがレターを渡す。
「小林君がな、ルートの一部を任せてほしいというのだが、黒崎さんは反対している。お金の件は信用がない」
「私もそう思います」
 ミーが同意する。
「とにかく一度あの代議士に会って彼の意見も聞こう。二人で行っておいてくれ」
と言いながらもうコートを手に立ち上がる。
「その時あの国の土地の件も聞きておくんだ」










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家族

 薄暗くて長い廊下を抜けてカオルの病室に入る。まだ、朝食の最中の患者もいる女性専用の大部屋だ。
「来てくれた!」
 べそをかいたようなカオルの顔がある。
「どう?」
 団長が心配そうに言う。
「狐が来たからもう元気!」
「先生からも言われたけど、しばらくここにいた方がいいわよ」
 首を激しく振る。
「今日はいい話を持ってきたの。駄々をこねないで」
 団長は周平がサインと判を押した婚姻届を広げて預かっている小さな印鑑を出す。
「結婚してくれるんだ!へえ、狐の名前田辺周平というのね?」
「カオルは吉川薫か」
「この印鑑と戸籍謄本が服に縫い付けてあったそうよ」
 団長がカオルを起こしてボールペンを持たせる。
「これで生まれて来た子もちゃんと籍に入れるわ。名前も考えないとね」
「タナベカオルか」
 カオルが何度も繰り返しながら絵文字のような字を書く。
 ひとしきりはしゃいでいたかと思うと、いつの間にかうとうとしている。周平と団長は娘を見舞いに来た夫婦のように先生に挨拶をして区役所に続く路地を歩き続ける。
「あの押入れの金を使ってくれ」
「あの黒革の鞄ね」
「1000万ある。やましい金じゃない」
「いいの?」
「これからはすべて3人、いや4人のものさ」
「結婚するからどこか二人は部屋を借りないとね」
「だめだ。4人で暮らす」
 なんだかこれだけは崩せないと周平は思った。














テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小さな幸

 藤尾の地上げ事務所から帰りがけにマキの携帯に留守電を入れた。周平がホワイトドームの前に来た時にさわめきの中からマキの声がした。
「マドンナは?」
「私のマンションの近くに両親といるわよ」
「それならいい。柳沢に気を付けろと言っといてくれ」
 それだけで切った。時計を見ると9時を回っている。ドアを開けると、でか鼻さん達が一列に並んで飲んでいる。団長が黙ってビールの小瓶を出す。
「何か作ろうか?」
「特製の焼そばで、カオルは?」
「今日フランケンに病院に担いで行ってもらったのよ」
 そう言えばいつぞや棺桶を運ぶ大きな男がカウンターで飲んでいる。
「どうした?」
「急にもどしたのよ。お腹の子が心配なので病院に運んだの」
「それで?」
「つわりにしては早すぎるし取りあえず今日泊まって明日精密検査をしてもらう。このまま出産まで預かってもらおうかなと思ってるの周平は?」
「そのほうがいい」
「まだ子供は降ろしたほうがいいと言われているの」
 団長もビールの小瓶を開けて飲む。
「それと入籍もしないと子供の行き所がないわよ」
と言いながら婚姻届を引き出しから出してくる。
「明日遅刻できるかな?周平がカオルにサインさせてね。喜ぶから」
「分かった」

 









テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

手負いの野獣

 役員会議の中で会長派と社長派が紛糾した。舅が赤坂の裏口座の提出を求めたのである。これに社長が合意をしたが、会長はそんな口座は見たことがないとうそぶいた。柳沢も藤尾から引き渡しを受けたことがないと回答。これについて相談役が調査を進めてS銀行に依頼すると約束した。柳沢は逆に田上専務に組合の裏口座の提出を求め、これについても存在しないと逃げに出た。これについても相談役が調査を約束した。  その二つの難問がそのまま周平の肩にかかってきている。何とも頼りない経営陣だ。だがどちらも周平にはある程度の目途を持っている。  舅の目が虚ろだ。  逆に柳沢の目が燃えている。追い詰められた野獣の目だ。  二人が応接に入って出てこない。ともに仕掛けあったと信じているようだ。その間に藤尾を呼び出して赤坂の地上げ事務所で会うことにした。 「見ましたよ。大胆な記事書きましたな」 相変わらずコップ酒を飲んでいる。 「あの裏口座で確認したいことが?会社名が消えていたのだけど?」 「ああ、あれは使っている地上げ屋ですわ。今はこちらの仕事をしてもろてますがな」 「名義変更は?」 「おそらくそのままやろうな。通帳とカードは渡したが、印鑑はもともとその会社のもやから。でもこれも社員の名前で作った裏口座やさかい」 「記帳内容の依頼を銀行にかけたいのでお願いできますか?」 「いいですよ。銀行は私がついていきますわ。作成の時もそうでしたからな」 「柳沢に注意してください」  ここまで追い詰められたら何をするか分からない。

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燻りだす

 匿名で藤尾の記事をKジャーナルが載せた。その後の赤坂について不良債権としてM商事が1000憶の負債を抱えてるという内容だ。これはすでに前に周平が書き上げていたのを活字にしたのだ。今回は使途不明金がこの不良債権に潜り込んでいるという藤尾の匿名の告発の形になっている。大胆に裏口座の銀行支店名まで公表されている。これを受けた形で舅が役員会議に赤坂の売却稟議を上げた。柳沢も参考人で呼ばれている。
 同日、やくざの兄貴の参考人として妹が警察に呼ばれている。
 周平は轟を呼び出して新橋の喫茶店で最近の進捗を聞いている。
「朝から焼きそばとビールかい?」
「熱海から五反田まで戻って飲んでる暇もなかったんでね。それに警察の方には元デカを張り付けた」
「熱海の毒殺のチンピラの調べがだいぶ進んでいるようや。妹も共犯とにらんでいるね。ただどうして殺されたのがはっきりしていない。柳沢の名前は出ていないようや」
「マドンナは?」
「おそらく半月前から準備していたようや。管理人の話ならかなり大胆に大ごみを出していたそうや。本人は模様替えをするといってたらしい」
「覚悟の上の引っ越しだな。最後の荷物は引っ越し業者ではなく身内が昨夜に運び出したようだ。行先はつかんでるようだな?」
 軽く頷いた。
「マドンナの実家も調べたが、こちらは2か月の前に引っ越ししてしまっている」
「舅が慌てていたよ」
「分かるな。女を好きになるとこうなるんや。俺も今の彼女も金の切れ目が縁の切れ目や分かっているさ」
 ぶつぶつ言いながらもう1本ビールを頼んでいる。
「しばらく柳沢を張ってくれないか?次には柳沢をひっぱり出す。これは黒崎さんところから金が出るように手配するからさ」


















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ラインを外れる

 マドンナの退職届で社内は持ちきりだ。
 轟から昨夜マドンナのいう熱海のホテルの状況の確認が取れたという報告と、今朝はマドンナがマンションを引っ越しを終えたとの連絡が入った。彼女の引越先はマキに聞けば心配ない。
 突然慌てた声で舅から内線が入り、不動産事業部の個室に呼ばれる。
「どうしたのです?」
 舅らしくない取り乱し方である。
「マドンナが・・・」
「本人から話はなかったのですか?」
「留守電が入っていた。それで朝一番マンションを覗いてみた。もぬけの殻だ」
「柳沢は?」
「先ほど会社に電話を入れた。向こうも慌てていた」
 周平は少し意地悪く、
「どんな話し合いになっていたのです?」
ととぼけて聞いた。
 舅は吸いさしの煙草を荒々しく揉み消す。
「入籍の準備もしていた。マンションも買った。後は柳沢を葬るだけだった」
「柳沢のところに行ったのでは?」
「それはない」
「親子ほど年が違うんですよ?余程彼女自身が愛していないと難しいように思いますが」
 昔の舅にこんな口をきくことはできなかった。彼も許さないだろう。
「今は周平の方が情報力は上だ。調べてくれないか?」
「心当たりを調べてみますよ。それより相談役と次の戦略を話されているんですか?」
「いや、妙に慎重になっている」
 やはり相談役は舅と距離を置きだしている。
「赤坂の100億円での処分をそちらから取締役会に上げてもらいませんか?」
「どうして?」
「Sハウスに意思表明しないと話は消えますよ」
「分かった」
 舅は浮足立ってしまっている。

















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根回し

 周平がSハウスの社長と会って赤坂の指値の話を持って帰ったことになった。黒崎と相談で100億という数字を出した。今日はそれで不動産事業部で会議が行われている。結論が出せることはないが、舅は評価はこれでも十分だという説を続けている。そこになぜ1000億の投資が100億になったのかについて調査をしている。それは全体の中で不透明な会計が行われているという指摘だ。
 久しぶりに相談役の部屋に呼ばれた。
「今朝M銀行の頭取から電話が入った。それで君が聞いてきた100億の話もしたよ」
 どうも黒崎も手早く動いたようだ。
「評価としてはそんなものだろうということだよ。買い手としては今のところSハウスしか考えられないから慎重に扱うようにと言われている。君は感触としては?」
 相談役は人はいいが自分の信念というのに欠ける。
「でもS銀行はそんな値段で担保は外しませんよ」
「頭取も同じことを言われた。この際会長を引退させる。社長も抱き合わせする。この辺をまとめたらM銀行もメインとして資金応援も可能になると」
「その話は課長の私では荷が重すぎますよ。鈴木取締役は?」
「いや、頭取が今回は伏せておくようにとのことだ」
 会長の処分と絡むと判断しているのだろう。舅は会長の懐刀だった男である。それにこの動きには黒崎の影が見え隠れする。旗手社長が柱だが黒崎が得意の根回しをしている。舅は確かに一歩先を歩いてここにたどり着いたが、でも手持ちの駒が少なすぎる。マドンナに捨てられる舅は見たくないと思う。男の目でしか女を見れていないのだ。
「もう一度Sハウスの社長に会えるか?」
「材料が用意できますか?」
「本社の建替えを任せるというのはどうかな?」
 この話はここ数年上がっているが、銀行の融資が決まらないでいたのだ。どうもこれもM銀行の案のようだ。
「しばらく内緒にしておいてください」











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密室

 カオルのお腹が目立つようになってきた。今日は団長が病院に付き添っている。ホワイトドームは誰がいなくてもお客が番をする。周平はカオルの写真を撮りだしている。生まれてくる子供に見せる母親の写真と周平の写真だ。どういうわけか団長は反対もせずにシャッターを押してくれたりする。
 サングラスの太田黒は日本から姿を消したようだ。
 周平は朝からSハウスに赤坂の売買の交渉に出かけていることになっている。どちらに転んでもこの件は旗手社長が時期を握っている。
 周平は昼過ぎにネクタイを締めてNビルに行く。旗手社長が盛岡から戻ってくるのである。黒崎も小林も呼ばれている。
 ミーはよそよそしく周平の紅茶を入れて部屋をさがる。
「専務から連絡が入ったが、不動産子会社の上場はほぼ決まったようだ。いよいよ赤坂の処理を始めなければならなくなったよ」
 機嫌がよい。
 だが華々しい舞台にはここにいるものは上がれない。すべて黒子だ。
「赤坂がらみはこの際すべて小林君のところに移してくれ。金がいる。赤坂か未公開株かどちらかで資金を作る」
「M商事も腹をくくったと思います」
 率直な意見を述べる。
「だったら1度Sハウスに指値をさせれば?」
「いくらで?」
「10分の2の200億でどうだろ?」
「それでは」
「計算ではどうなる?今までの儲けと差し引いて会長が食ってしまった200憶だけが食い込むじゃないか」
 旗手社長は計算をしているのだ。黒崎さんそれでM銀行と話をして下さい」
「S銀行のほうは?」
「Sハウスの新規貸し付けの方がメリットは大きい。それにS銀行の頭取はこのからくりはお見通しだから」





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告白

「もともと不動産事業部に入った歓迎会の日に柳沢に薬を飲ませれて写真を撮られたのです。それで何度もホテルに付き合うようになりました。彼はいつも写真をばらまくと」
 柳沢なら考えられることである。
「藤尾さんの時はすまないと思っています。でもあの時はそれしか思いつかなかった」
「鈴木取締役が絡んでいたと?」
「あの頃は柳沢の上司が鈴木部長だったのです。その時に秘書課に転籍を条件に付けたのは私です」
「君は部長を愛している?」
 これは是非聞いてみたいことだった。俯いていたが、
「どちらも愛していません。ただ守ってくれるのは鈴木部長だと。でもいつまでも関係を続けていられないと、マキさんに打ち明けたのです。そのためには自分の働きの場を変えようと。ただ今は写真をまかれるだけでは済まない殺人の容疑がかかっているとマキさんに言われているのです」
「熱海の温泉を尾行したことは?」
「柳沢は知りませんが、私はバックミラーで周平さんの顔を見ています」
「あの貸し風呂で柳沢は抜け出して現場に行った?」
「はい。実は気分が悪いとホテルの人を呼んでしばらく・・・」
「証言がとれるように考えたのですね?」
「はい」
「柳沢は迎えに来ていた車で現場を往復しています」
「あのワゴン?」
「はい」
「この話はしばらく伏せておいてください」
 この使い道はまだ考えがつかないが、轟に裏だけ取らそうと思った。








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真相の足掛かり

「今晩店に来ない?」
 珍しい誘いがマキから入った。今日は朝からミーは盛岡に出かけている。
 周平は溜まっていた談合の書類を夜までに整理して、銀座の少し街はずれにあるマキのクラブに到着した。
「おめでとう。遅くなったがね」
「いいのよ」
 マキがソファーに案内してくれる。
「店は?」
「ぼちぼちね。社長もあまり顔を見せなくなったし、毎日のように来ていた田上専務はなしのつぶて。でも独り立ちするにはいい機会」
 店の女の子が二人両側に座る。マキは忙しそうに客を迎えに立ち上がる。
「ごめんね、面白い人に会わせてあげるわ」
 マキが女の子を連れて席に戻ってくる。
「マドンナ!」
「そんなに固くならなくていいのよ。彼女、時々アルバイトで入ってもらっている。もともと同じ秘書課だったので親しいのよ」
 確かに同じ秘書課にいた。
「周平に会いたいというのは彼女のリクエストよ。しばらく席を外すね」
 何から話してよいのか戸惑う。
「柳沢のことも鈴木のこともよくご存じだと思います。柳沢のママに平手打ちをされたときもいましたね。何も弁解しません。でも加瀬さんの件は私はまさかあんなことになるとは思ってもいなかった」
「でも鞄もロープも揃えましたね?」
「はい。これは別れるという柳沢の頼みを聞いただけです」
「柳沢と別れる?彼と組んで藤尾さんを罠に掛けましたね?」
「脅されていたのです。でも信じてもらえませんね」
 まるで別人のようなマドンナである。


























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政界ルート

 あの日から団長はもう太田黒の話はしなくなった。
 やくざの兄貴は拘留期間が延ばされた。その間に事務所にもがさ入れが入った。こういう報告は轟が詳細に入れてくる。
 周平は最近はミーと行動することが多くなった。M商事が終わってNビルの秘書室に出かけて二人で政治家のリストの整理をする。まず顔とプロフィールを覚える。それからランク付をしてゆく。ピーナツのマークを付けてゆくのだ。それをミーが旗手社長に届けて修正が入ってくる。
 9時を過ぎるとミーはブランディを飲み始める。周平にはビールの小瓶を買ってくれている。旗手社長は連日盛岡に出かけている。
「盛岡に彼女でもいるのかい?」
 冗談で聞いてみる。休みにはミーも泊りに出かけている。
「山を買い込んでいるのよ。牧場とスキー場を作るらしいよ。高層ビルの温泉ホテルもできるわ」
「事業かな?」
「趣味が半分ね」
「で周平どうするの?」
「そうもいかないさ」
 転職のことを言っているのだ。
「その会社で偉くなりたい?」
「いや、行きがかり上今は抜けられない」
「男の人って不思議ね?」
「君もその仲間だぜ」
「私は女、それ以外ではないよ。だから抱いてほしいよ。今夜泊まらない?」
 その言葉を聞きながら団長とカオルの顔を浮かべている。もし二人と会っていなかったらミーともっと深い間になっていたと思う。どこかに気の許せる同性というのがあるようだ。だが今の仕事は嫌いではない。
「明日はこの人と会ってほしいと言われている」
 ミーが写真を抓む。









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邂逅

 今日は団長と代官山に出かける。デートではない。団長の交渉で太田黒が会うと伝えてきたからだ。カオルは二人がホテルに行くと勘違いして朝から機嫌が悪い。それで別々にホワイトドームを出て代官山の路地の奥のレストランで会うことにした。
 すでに二人はテーブルに掛けていた。メニューは適当に頼んでもらった。
「久しぶりだな」
 サングラスの太田黒が周平を見て言った。
「しばらく日本を離れるので伝えることは伝える。あのリンチ事件は予定外のことだった。出国の打ち合わせで集まったのだ。それが警察に密告したものがメンバーにいた。今更名前を上げても仕方がない。彼女から田辺ともう一人はだめだという返事は貰っていた」
 確かに周平は松七五三聖子に誘われていてぐらついていた。それで故意に会わないようにしていた。団長には記憶はないようだ。
「リンチ事件が起こったのでばらばらに出国することになった。だから配置場所がみんな別々になった。5年がたってようやく彼女の部署が分かった」
 太田黒が1枚の新聞写真を広げた。
「ここに写っている兵士の一人が彼女だった。私はその頃領事館の使い走りをしていた。その頃は戦闘が激化していて会いに行けたものではなかった」
 団長が赤ワインのボトルを頼んだ。
「ある日爆撃にあった記事を見て会いに出かけた。すでに顔は原形をとどめていなかった。それに松七五三聖子でもなくなっていた」
「それで日本に連れ帰ってくれて整形手術をしてくれたわけね」
「彼女を愛してた?」
 あえて周平は尋ねた。
「ああ、だが受け止めてもらえなかったさ」
 2度乾杯を繰り返して太田黒は細い路地に消えて行った。









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仲間

 鞄の中身は1000万の札束だった。周平は無造作にホワイトドームの2階の戸棚に置いた。お金には無頓着だが、旗手社長の気持ちは伝わった。
 ミーに呼ばれて翌日旗手社長の代理で代議士のパーティに出ることになった。ホテルのパーティルームに行くことになった。旗手社長の招待名の葉書を受け付けで出すと、顔馴染になった秘書が丸テーブルに案内してくれる。舞台の中央のテーブルでテレビでよく見る代議士の顔やSハウスの社長の顔もある。
「秘書がこれから紹介する政治家は顔を覚えておいてね」
 ミーが注意する。
「メモなんか取ったらだめよ。後で写真を見せるから焼き付けるの」
 さっそく秘書が来て案内を始める。ミーはもう顔のようだ。冗談を言い合っている。周平は胸のカードを見比べて名刺を出すのが精一杯だ。与党だけではなく野党もいる。50枚の名刺がなくなる頃には汗だくになっている。当の代議士は少し遅れてやってきて、挨拶を済ませると周平の顔を見ると、
「今後協力関係でお願いするよ」
と馴れ馴れしく肩を叩いて出てゆく。
「演技だから」
 ミーが笑っている。どうもミーには子ども扱いだ。パーティの途中でミーが周平の袖を引っ張って立ち上がる。
まだ紹介する相手がいるようだ。パーティルームを出るとエレベーターに乗る。ポケットから部屋の鍵を取り出す。慣れた手つきで周平のズボンをずらす。
「旗手社長もここに来るとこうするの。これで仲間よ」





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