夢追い旅 2016年11月

ベンチャー事件の始まり

 翌日のKジャーナルに未公開株のリストがぼやかせて載せられた。これを持って来たのは轟だ。周平もミーも思い思いにソファや椅子を並べて寝ていた。あれから裏会社に書類の段ボールを運び込んだ。手伝ってくれた藤尾と運転手は自分の事務所に戻って仮眠をとった。気が立っていたのかミーがなかなか寝付けず持ってきたワインを二人でいつの間にか空けてしまっていた。いつ寝たのかも覚えていない。
「Kジャーナルには黒崎の車が残っていて、部屋には数人がいるようだった。今ダチに張り込みを続けさせている。それからY新聞の系列の雑誌を買った。やはり同日であの小林と秘書の映像をベンチャー事件としてシリーズ掲載を始めた」
 ここにはまだリストらしきものは載せられていない。
 私設秘書から携帯が入る。
「やられたな。昨夜第1秘書から電話で3か月前付の解雇を言い渡されたよ。そちらとの関係もなかったということにしてもらえということだ」
「そうだろうね。これだけ聞きたいのだが、未公開株はあのリスト通りに配られた?」
「おそらくリストの半分もその通りに配られていないね。あくまでも想像だが」
 これは総理が自分で振り分けたのだろう。
「噂でいいから集めてくれ」
「分かったよ。失業者だからな」
 携帯を切った途端、本社の総務部長からの電話だ。
「銀座には公衆電話がないね。小林と秘書が警察に入った。解雇は済ませている。これからはこちらから電話を入れる。社長もそうだ」
「社長は?」
「ヘリで大阪に。任せたと言っておられた。でも未公開株の身内売買は業界の恒例だったはずだが?」
「でもそれを恒例としてきた人達が恒例でないと決めたらどうなるのでしょか?」
「私には考え付かないな」
 これが黒崎の言う上の人達なのだろう。










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導火線

 団長に連絡を入れて、今日はNビルに泊まり込みをすることになった。旗手社長も8時にはSハウスの社長と出て行った。専務と総務部長は1時間前に会社に戻っている。ミーは黙々と段ボール箱を作って書類を分けて入れ始めている。周平は藤尾に携帯を入れて腹心を連れて運び込みを手伝ってもらうことにした。
「ここまでしないとダメなの?」
「ああ、これはYテレビの社長の仕掛けだ。小林が導火線として利用された」
「彼は意志があるの?」
「ないだろうね。ファイナンスの社長を下されて、融資が否決になったことで完全に黒崎の手先になった。Yテレビの社長からいくらかの金が出ているのだろうな」
「金には敏感な男だからね」
 周平は未公開株の3つのリストを自分の鞄に入れる。一つは試案のリストであの野党の代議士の名前はない。2つ目は野党の代議士名が加わったもの。3つ目は旗手社長の修正が入った最終版。だが総理の手元では全く違うリストになっているはずだ。
「旗手社長はどう動くかしら?」
「最悪まで読み込むだろうね」
 10時には藤尾が3名を連れてきて、まず書類から軽トラックに積み込む。それから30分遅れて4tが到着する。こちらにも3人が乗り込んでいる。4tは赤坂の地上げ現場の一室に運びこまれる。これは周平の指示だ。おそらく大規模な査察がが始まると想定している。旗手社長も同じ考えだ。
「素早い対応だな」
 轟が黒づめの作業服で入ってくる。彼はパソコンからデータを抜き出して、その他は完全に消してしまう。それから携帯や防犯カメラにも取り掛かる。
「しばらくKジャーナルを張り込んでくれ」
「彼奴らが動いているのか?」
「間違いない」
 書類を藤尾と周平が乗り込んで裏会社に運び込む。4tは2時間遅れて赤坂の地上げの一室に運びこまれる。轟は作業を済ませるとKジャーナルに走る。
 周平が藤尾と作業を終えて戻ってきたのは、薄っすら空が明るくなってきている。がらんどうになった部屋の真ん中にミーが胡坐を組んで座っている。そこにワインボトルがある。これはミーが冷蔵庫にいつも入れているボトルだ。
「後ろ姿は男だね」
「待ってたのよ。3人でサヨナラの乾杯しようよ」




















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ツキを失う

 Nビルに戻ると、ミーがビデオを画面に映し出していて、本社の専務と旗手社長が並んでソファに掛けている。総務部長が電話にかじりついて情報を集めている。周平は軽く頭を下げて折りたたみ椅子を広げる。
「この議員は?」
「野党の議員でかなり曲者です」
 専務が答える。旗手社長の視線が周平に向く。
「小林さんが最後に入れてきた未公開株リストに入っていました。もちろんそれを加えた形であの代議士に提出しています」
「これを見ているとこの議員が株を貰えなくてねじ込んだというストーリーで、小林が秘書室長に金を持たせて謝りにそんな感じですよ」
 専務がビデオを見ながら解説を入れる。この専務が一番の生え抜きだと聞いている。
「やはり株が配られなかったということだな」
 旗手社長が足を組んで天井を見上げる。
「いつか言ってたな。総理が約束通り株をばらまいていない可能性を」
 総務部長が電話を置いて、
「昼前に小林さんが来て秘書室長を連れだしたということです。お金を持ち出す了解はとっていないということです。小林さんのところにはこの議員から何度も電話があったとのことです」
 チャイムが鳴ってミーが上気したSハウスの社長を迎え入れる。周平が自分の椅子を運んでくる。
「さすがに単独でこんな絵をこの議員が描いたとは思えない」
「後ろにYテレビの社長がいるのさ」
「こんな簡単にテレビ中継ができるわけがないな」
 ひよっとすると黒崎と舅がこの裏にいるのではないか。
 旗手社長が立ち上がって部屋の中を歩き回る。考えがまとまらない時にする癖だ。こういう時は誰も口を挟めない。わずか半時間の時間だが、恐ろしく長く感じる。
「ツキを失ったか」
 旗手社長の目は閉じられている。
「専務は明日一番役員会議を開いて報告をしてくれ。それからメインバンクを回ってくれ。続いてY新聞以外を押さえてくれ。Sハウスの社長は長老達をまとめてくれないか?総務部長は今から戻って今日付けで小林と秘書室長を解雇するんだ」
「私は?」
「Nビルを閉める。未公開株関係の書類は消すのだ。その他は藤尾のビルに移せ」








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事件の始まり

 昼に轟から携帯が入ってきて、黒崎、舅の任意呼び出しの後、ついに柳沢の指名手配が行われたという。だがもちろん行方不明だ。やくざのママを連れたまま姿を消している。M商事の社長からは会長も警察に任意で呼ばれて、会長の代表権復活についてはYテレビ側からは沙汰なしとなったようだ。それで調査費用の振り込みがあった。
 ラブホテルの取引は代表者の藤尾と裏の会社で使っている信組で午前中にすませた。藤尾は取引慣れていて、終わると昼から開いている居酒屋に誘う。それを予想してミーには直帰を告げてきた。彼女も今日は早く閉めて姉さんママのニューハーフの店に行く。夜に舞台で踊るそうだ。最近今の仕事から替わりたいと言っている。
「赤坂はどうなの?」
「一部グループで持っていた土地を裏の会社に移し始めているさ。これは旗手社長の直接の指示だ」
「こちらにはあまり情報が入らないが?」
「Sハウスが中心に動いている。問題の国営地もスーパーD社に等価交換で済ませている」
 旗手社長の中では赤坂はもう終わっているのだろうか。
 藤尾はロックを焼酎で飲む。周平は小瓶がないので中瓶を頼む。この店は昼なのに至る所で酒盛りが始まっている。写りの悪いテレビがついいている。
「あれ!小林じゃないか?」
 画面に小林と若い本社の秘書室長が写っている。
「なんだ!」
 ミーの携帯を無意識に鳴らしている。
「すぐに10チャンネルのビデオをとるんだ。これから戻る」
「野党の議員事務所だ。鞄から金を出しているところをカメラで撮られている」
 轟の声も聞かずにもう周平は立ち上がっている。
「今からNビルに来るんだ」
 続いて旗手社長からの電話が入る。














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余震

「目に隈ができてるよ」
 ミーは笑いながら言う。そう言うミーも隈ができている。だが気持ちは思い切り軽くなっている。
 今日は私設秘書が初めてNビルにやってくる。
「ラブホテルの話、社長にしてくれた?」
「いいよだって」
「ラブホテル7件だよ。24億になるんだよ」
「裏の事業部だからそのくらい報告もいらんと言っていたわ」
 周平は裏事業の再生に力を入れている。表の躍進についてゆけてなくなっている。もうすぐB勘が枯れてしまうのだ。それでは旗手社長の要望に応えられない。
 チャイムが鳴ってミーがドアを開ける。珍しく私設秘書が派手なジャケットを着て顔を出す。
「久しぶり!ミーさん」
 あえて握手をする。ミーは、
「汗臭い!」
 と大げさに手をこする。
「社長のOK採れた?」
「管理会社の方は?」
「うちの後援会社を使う。契約もそこが入る。1億負けさせたから」
 なかなかの商売人だ。
「半分は調査料としてそちらの調査会社に戻す。OKだね?そうそう総理から未公開株のリストを処分するように直接電話があった」
「何かあるな?」
「最近は議会の情報が入ってこない。ただ」
と言って、Kジャーナルの記事を広げて見せる。またもや田辺の記事だ。舅が書いている。
「今回初めて未公開株の記事を書いた。かなり詳しい内容だよ」
 やはり小林が逆襲に出てきたようだ。今日もあの稟議を否決にした社長に不動産の大阪支社長を連れて陳情に来ているということだ。









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筆おろし

 急いで帰ってきてと言われたが 、ホワイトドームの前に着いた時には9時半を回っていた。店のドアを開けたら目玉さん達が4名並んで飲んでいて、周平の顔を見ると一斉に立ち上がってお金を瓶に投げ入れて出てゆく。
「カオルは眠ったよ」
と揺り籠を指す。それから冷蔵庫からハムの盛り合わせを出して小瓶を2本抜く。どうやらいつの間にか団長も小瓶党になってしまったようだ。それに今日はスカートをはいている。
「気の重い話は先に済ませるよ」
「やはりケイ君の報告だな?」
 黙って瓶を上げて乾杯する。
「狐、いえ周平はもう自分ではすでに気づいていることだけど」
 周平は黙って頷く。
「ショウちゃんから伯母さんとの筆おろしの話を聞いたって。中学卒業の時にお祝いに伯母さんが」
「そうだ」
「ケイ君が動物園の近くの映画館のお釜に会った。1年ほど映画館に顔を見せていて時々一緒に飲んだって。やはりアンちゃんと仲間内に呼ばれていた。伯母さん、周平の大学に入った頃の写真を見せて自慢していたそうよ」
 アンちゃんが赤ちゃんを産んで帰ってきたのだ。
「アンちゃんは自分の子供だっと言ってた」
 周平が何か言おうとすると口を塞ぐ。
「私、母親に抱かれたのって素晴らしいと思うわ。私と周平の間では誇らしいこと。私も狐も裏の社会に生きている者同士なのよ。でもケイ君には口止めしたのよ。もしこの話が漏れたら縁を切るって」
「ありがとう。団長の籍を入れたいのだが?」
「それはいいのよ。でも周平の女にしてね」
「ああ」
「ケイ君は折り返しで大阪に行ってもらっている。最後救急車で運ばれたところまで分かっているの。この調査費は私に出させて。それから今夜は腰が抜けるくらい抱いて」






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歴史

 今日は団長が店を早く閉めるので飲まないで帰ってきてと厳命されている。それなのにファイナンスの新社長に小林の報告書の説明を旗手社長に昼過ぎに直接頼まれて、やっとのこと6時にファイナンスの社長室に行くことになった。ファイナンスも最近は秘書室長の名刺で出入り自由になっている。
 ほん最近まで小林の社長室であったがとドアをノックする。
 すでにコーヒーが二つ並んでいて社長が眼鏡を上げて書類を読んでいる。
「悪いね。忙しいところを」
 と言いながら、ソファに書類を持ったまま移動する。どことなくM商事の社長と同じ銀行員の臭いがする。
「小林さんはあれで強引なんだね?」
 その書類は融資の稟議書である。審査部長の印の上に小林の印があって、斜め横にグループの不動産会社の大阪支社長の印が並んでいる。
「こりゃ脅しだね。これが社長最初の承認印になるのかねえ」
「脅しましたか?」
「ああ、笑いながら本人が稟議を持ってきた。すべて審査は済んでいますからと言ったね」
「それで承認されるのですか?」
「取りあえず三等社長だからオーナーに尋ねたよ。そしたら秘書室長を向かわせるから話を聞いて判断を任せるからというわけだ。いつもあんな調子かい?」
「直接命令するタイプではないですね。とくに腹心には。常に自分の中で判断は持たれているようです」
「それなら尚更困ったものだ。試されたわけだね」
 周平は壁にかかっている時計を睨む。
「グループ会社から来た稟議は素通りだね。ここから直さないとダメだ」
 どうもこれは独り言のようだ。
「あの報告は?」
「すべて事実です」
「オーナーはなぜ自分で言わない?」
「いろいろここまで来るのに歴史があるようです。歴史は自らの手で崩せない。だから私達がいるようです」
「歴史か」
 そう言うと、眼鏡を上に上げて稟議に判を着く。否決欄だ。
「いいんですか?」
「だから頭取コースを外れてここに来た。これからも相談相手を頼むよ」








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盗聴

「お早う!」
 小さいカオルに声をかける。最近は団長はカオルの代役を務めてくれた少女を子守に雇っているようだ。
「団長は?」
「朝一番に横浜に劇団の打ち合わせに。朝御飯はオムライスがあるということです」
 少女は慣れた手つきで抱きかかえると、カオルを1階の階段の上り口に揺り籠を据え付ける。周平は昨夜は12時過ぎに戻ってきて、先に眠ってる団長に声をかけずそのまま寝てしまっている。ホワイトドームの壁掛け時計はすでに10時を回っている。久しぶりの休日だ。
「名前は?」
「ユキ」
「近く?」
「裏口から路地を10メートル」
 カウンターに素早く温めたオムライスにビールの小瓶を置いてくれる。
「ビールまで出してくれるのか?」
「はい。団長がそうするようにって」
「ユキはカオルを知っている?」
「お母さんの方?よく知ってる。ここで舞踏会があるときは裏口からよく見に来ていました。それでずっと劇団に入れてほしいと。最初に認めてくれたのはカオルさんでした」
 カオルが目を覚まして泣き出した。ユキが飛ぶように駆け寄って抱きかかえる。
「おお、起きてたか!」
 アロハシャツにサングラス、いかにもチンピラ臭い轟だ。
「遂にKジャーナルを首だ」
 カウンターにテープを出して、自分で冷蔵庫から氷を出してきて焼酎のロックを作る。
「仕事は回すから心配するなよ。それより小林と許は?」
「たっぷり3時間テープが入ってるぜ。ただ肝心な話は最初の10分と最後の3分だけだ。二人ともめっちゃな女好きだ」
「ポイントは?」
「京都駅裏の土地だが、B勘を3億もかましているそうだ。そこから小林が1億貰う条件だ。ばっちりテープに入っている」
 周平は持って降りてきた鞄から100万束を出す。轟は折りたたんだ領収書拡げて並べる。領収書は表の経理に載せて100万はB勘処理でミーに口頭で伝える。ミーはそんなこともいらないというが生真面目に今でも続けている。











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臭いものに蓋をする

 慌ただしい日が続く。轟が小林と許のクラブでの盗聴に成功したと報告があった。京都駅裏の更なる買い増しの融資の依頼で、小林がバックを1億を要求している。小林も代表権を外されたのでこの辺りで大きく稼いでと考えているようだ。
 ケイ君の携帯に入れると、まだ大阪にいるようだったので、もう一度京都によって帰ってもらうことにした。もう一度地元の新聞記者に会って、次の購入地と状況を調べてもらう。その後すぐにファイナンスの人事部長に大阪支店の稟議状況を調べてもらう依頼をした。
 周平は今日は直行で私設秘書の事務所を訪ねている。『噂の真相』の次号にこの京都駅裏地上げのシリーズの原稿を持ち込んでいる。
「いや何とか雑誌社のような感じになってきましたね」 
 最近リホームを入れて打ち合わせテーブルに本棚が並んでいる。それに若い女性事務員を入れている。
「雑誌が案外いい商売になるんだよ。それに法人会員が思ったより増えている」
「それは総理の秘書の名刺が効いているんですよ」
「今のうちに老後の準備をしとかなきゃな」
 彼は彼なりに今の総理が長くないことを感じているようだ。
「報告は読ませてもらいましたが、未公開株の現場での感触はどうなんですか?」
 出してもらったコーヒーを口に運びながら尋ねる。
「いやな燻りがあるな。これは総理にも内緒にしているのだが、リスト通りに未公開株が配られていない気がするんだ」
「それは?」
「今回は総理自身が第1秘書を使ってやったのでつんぼ桟敷なんだ。敢えて私を外したという気がしている」
「そっれはまたどうして?二人三脚でここまで来られたんでしょう?」
「だから臭いものに蓋をする。私設秘書の宿命かな。だからあんたとのこの仕事を大切にしている」
 未公開株がリスト通り配られていないとメモ書きする。
「この原稿を次にシリーズとして乗せてください。今回からペンネームを薫に変えてください」









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ツキ

 夜に轟から携帯が入る。ちょうどNビルから出る時だ。
「小林を着けて来たら、銀座のクラブで例の許と会っている。資金は頼みますよ」
「領収書もな」
 笑いながら携帯を切ったところに旗手社長が立っている。後ろに普段着に着替えたミーが遅れて出てくる。
「たまに3人で飲まないかね?」
「邪魔じゃないですか?」
「そう疑うなよ」
と笑いながら言われて、ミーの馴染のスナックにぶらぶら歩いていく。
「君はビールの小瓶らしいな」
 どうもいろいろとミーから聞いているようだ。それにこの店にも時々二人で来ているようで、マスターは黙ってミーと同じブランディを注いでいる。
「小林は動き出したか?」
「はい。今許と会っています」
「君はミーのことで気を使っていると誤解しているようだが、ミーだけでここまで我慢しないさ」
 ミーがふくれっ面になっている。
「実はな、この会社がここまで伸びたきっかけは本業の人材派遣の許可申請からだ。今の代議士と知り合う前にな、別の代議士のつなぎ役が小林だった。詳しいことは聞いていないが、かなり危ない橋を小林は渡っている。それで彼にこの会社が大きくなったらかなりのポジションを任せると約束した」
 ミーが初めて聞いたという顔をしている。
「小林は欲の塊だ。どうも黒崎にうまく利用されたようだな。でももう限界だ」
「でもここまで踏み込まれたら」
「そうだ。打てる手は打つが後はツキだけだ」
「Yテレビの社長は手ごわいですよ」
「彼らも自分らの権益を新参者に取られたくない。ここは想定内の大きな山だ。でもこの山を越えなけりゃ新しい時代は来ない。今までのベンチャーはすべてここで食われてしまった」







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過去の男

 ケイ君に連絡を入れるが応答がない。
 ミーから携帯に翌朝小林が代表取締役から平の副社長の辞令が出ると昨夜あった。どうも旗手社長とホテルにいる気配があった。きっと同じベットに旗手社長がいる声がする。妙に嫉妬している自分が不思議だ。ケイ君が使えないので轟に小林を張ってもらうように頼んだ。辞令の時は本社に呼ぶようだから人事部長にビルを出る時に連絡を入れてもらうのを頼んだ。
 周平は朝一番に黒崎の事務所の近くの喫茶店で舅と会う。これは舅から会談の申し入れがあったのだ。
「してやられたなあ」
 周平の顔を見るなりの一言だ。すでに前に来ていたのか、灰皿に煙草の吸殻が山となっている。
「『噂の真相』はそちらの記事だな。今日から黒崎が警察に呼ばれている。それに轟まで抱き込んで、ねぐらの偽装をさせた」
「ねぐらにも絡んでいたのですか?」
「ああ。あの頃は黒崎と組んでいたからな。でもそちらがここまで育つとは思っても見なかったよ。俺と手を結ばないか?一時は義理の親子だったしな」
「何をしようとしているんですか?」
「もう一度M商事の役員に返り咲く。黒崎は信用してない」
「今度はYテレビの社長ですか?」
「そこまでばれているか。それなら説明はいらんな。答えは?」
 周平は煙草の煙をしばらく見つめている。
「マドンナの強姦写真が雑誌に載りましたよ。ご存知ですか?」
 その言葉に舅は驚きの表情が隠せない。でも精一杯、
「過去の女だ」
 と言い切った。
「私にとってもあなたは過去の男です」
「お前なんてすぐに首にできるルートがある」
 どうも小林のことを言っているようだが、副社長の件は知らないようだ。

















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権力の座

 ケイ君から連絡があった。ショウちゃんから情報を貰って例の動物公園の映画館に出入りしているお釜と会ったというのである。その話の行きがかり上別の施設に出かけているというのだ。詳しいことは戻ってからゆっくり話すということだ。だがゆっくり話すのはまずは団長のような気がする。
 今日は久しぶりにM商事の社長に呼ばれている。
「どうですか座り心地は?」
 社長室に入って周平は笑いかける。
「引退すべきだったかな。今は反省してるよ。それに君を手放したことが不味かったね」
 しばらくの間に神経質な顔になっている。あの極楽とんぼはどこへ行ったのだろう。
「前回のご入金はありがとうございました」
 気前よく100万を振り込んできていた。
「引き続いてお願いしたいんだよ。調査部をなくしたのも失敗だったな」
「今回は?」
「会長の件だ。いつの間にかYテレビが相当の株数を買い占めたようだ」
「何を要求してきました?」
「代表権だよ。それとYテレビからの取締役の受け入れだ」
「M銀行の頭取とは話を?」
「相手が悪いと言って引いてしまったよ。それに相談役は会長職を望むばかりで力にならんしなあ」
 愚痴が際限なく出てくる。
「どうしたいのですか?」
「Yテレビは仕方ないとして、会長の代表権は無理だ。ようやく赤坂の整理が済んだところでまた会長派の復活では元も子もない。ようやく派閥争いがなくなったところだ」
「Yテレビと会長はつるんでいますね。そこに黒崎と鈴木が挟まっています。会長の弱点は柳沢です。そこを突くしかないですね」
 権力の座に着くと人間は変わるのだと顧問いや社長を見つめる。

















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新しいライバル

 翌朝一番に旗手社長の本社に呼ばれた。社長の応接室に通された。また新しく作り変えられたようで、待合室に受付嬢が座っていて、3つある部屋に呼ばれるようになっている。それぞれが完全防音でどの部屋のも反対側にドアがある。そこから旗手社長が入ってくるようだ。その裏に社長室があるようだ。
 すでに3人の男が座っている。こういう時は迂闊に名刺交換できない。旗手社長が周平をどんな立場で紹介するかによるのだ。到着が知らされたのか、旗手社長がワイシャツ姿で入ってくる。
「この顔を覚えておいてくれ。Nビルの秘書室長だ。こちらは本社の専務で、こちらは総務部長。時間がないから単刀直入にする。例の未公開株の調査書は彼が書いている」
「昨日Y新聞の記者が訪ねてきたのです。未公開株のリストが手にはいいたと一部見せたのです」
 40過ぎの総務部長が名刺を見せる。正式なY新聞の名刺だそうだ。
「コピーを取らせてもらって調べないと、担当部署が違うので判断がつきませんと言いましたが、なかなか手ごわい記者で責任者に出てもらわないとコピーは渡せませんなと言い張るのです」
 田辺一郎という文字を見てひらめいた。
「杖をしてました?」
「はい。交通事故に合ったと言ってましたね」
 舅がYテレビの社長の了解を取り付けて名刺を作ってもらってきている。
「それで僕が出た。これをすでに一部だけコピーを作ってきたようだ」
 これも若い専務が答える。この部分は最初に代議士に渡す前のリストだ。旗手社長の目が周平を捕らえている。
「ファイナンスの小林社長から渡ったものです。今黒崎さんのところの記者をその記者鈴木がしています。小林社長は元々Kジャーナルにしばらくいたのです。M商事の会長もまた彼らとYテレビの社長に繋がっています」
「やはりな」
 それだけ言うと旗手社長はもう立ち上がる。どうも彼らに聞かせる必要もあったようだ。
「予定を早めますか?」
 専務が言う。
「例の銀行の支店長をファイナンスに相談役で入社させるのだ。ただ、小林も今回は牙をむくか分からん。彼にもいろいろさせて来たからな」
 最後は独り言のようだ。ミーの知らない出来事があったようだ。
「今後動きがあったら秘書室長と話してくれ。これからはYテレビの社長がライバルになるようだな」















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仕掛け

 藤尾は紙コップに酒を手酌で入れて飲み始める。周平はここではミーの目もないので、藤尾の買ってくれた単身赴任用の冷蔵庫から缶ビールを出して紙コップに入れる。
「小林社長はどうなんだ?」
「今、京都に出張だが社員からの評判は悪いな。ほとんど昼ごろに来て夕方に帰る。金になる怪しい融資ばかりやる。女子社員に手を出す。なんでもありだね。社長は動かないのかい?」
「今検討中だが厄介なことがある。言えないけどね」
 ミーのことを頭に思い浮かべる。今日ミーがその話を旗手社長に伝えてくれることになっている。
「それと三流大衆紙にマドンナの強姦写真が出たぜ。マドンナからも相談があって発行元にねじ込んだ。どうも記事を持ってきたのは柳沢らしい。俺の横顔も写っている写真もあった」
「マドンナを脅していたネタだな」
「でもマドンナは裸を写されても堪えないほど立派なホステスになっている」
「まさか最近通い詰めているというようなことは?」
「・・・」
 どうも図星だ。奥さんとは長い別居状態で寂しいのだろう。それに仕組まれたマドンナ強姦の芝居ではあったが、藤尾の心の中にほのかなマドンナへの憧れがあったように周平は思っている。
 コップのビールを口に含んだ時に携帯が鳴った。轟だ。
「今いいかい?警察が先ほどねぐらに踏み込んだ。今終わってその足で黒崎の事務所に向かった」
「尾行しているわけか?」
「現場中継ってやつさ。元刑事に柳沢を張らしていたのだが、例のやくざのママと昨夜から行方不明になっている。注意した方がいいぜ。これでKジャーナルの田辺一郎記者は鈴木部長になる。彼の指紋と最近の号の原稿のコピーを置いておいた。それに柳沢は侵入した映像を残している。それにこれから警察が吃驚する訳の分からない証拠が出始めるさ」
「手の込んだことだなあ」
「いやこれが元からの黒崎の指示だったのさ」



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先制攻撃

 轟から田辺記者のねぐらの偽装が完了したという報告を受け、さっそく『噂の真相』に2番目の記事を書いた。Kジャーナルが警察から聴取を受けて引き延ばしている田辺記者のねぐらを暴露したのだ。黒崎と舅に先に都合のいい形に変えられるのに先制攻撃をしたのだ。『噂の真相』は彼らにはまだほとんど情報がない。
 轟からは今日中にねぐらに査察が入ると情報が入った。今のところ周平は彼らにとってすでに過去の人になっている。轟には旗手社長の裏会社から報酬料を出すようにしている。それで気になっていた柳沢の動きを次に調べてもらうように頼んだ。
 『噂の真相』の編集長にはギブアンドテイクで永田町での未公開株の噂を調べてもらうことにした。それで周平は子会社の事務所に珍しく出向いて、Sハウスの社長の周辺の経済界の噂の調査を始めた。ミーにはもう一度本社に出ている旗手社長に最新の周平の報告書を説明に行ってもらっている。嫌な予感がするのだ。
「今いい?」
 京都に出かけているケイ君からだ。
「殺されたのは許の子会社の社長だぜ。警察が暴力団のチンピラを上げたようだが、更に隣地を同じダミーを使って融資するという話がある。ちょうど現場に例のファイナンスの社長の小林が来ていた」
 どうも小林と許はバックマージンという太いパイプで繋がったようだ。小林の件を早く手を打たないと取り返しのつかないところまでいくような気がする。
「許には関東の暴力団がついているという噂だ。こちらは関西の暴力団が後ろ盾だ。現地の噂じゃ後ろにベンチャーの社長ありと言われているぜ」
「まずいな」
 つい独り言が出る。
「今晩9時に飛田の店でショウちゃんと会う予定だよ。これからは京都の地場新聞の記者に会う。この京都駅裏の地上げの連載記事を書いている記者だ」
「また妙なルートがあったんだな?」
「藤尾さんの紹介だ。彼はM商事では京都支社にいたんだそうだよ」
 その電話の前に、一升瓶を持った藤尾が笑って立っている。彼には酒を付き合いながら小林の最近の動きを聞こうと呼び出したのだ。
















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新興勢力

 ホワイトドームの階段の上り口にフランケンが団長に頼まれて臨時のゆりかごを取り付けた。団長がカウンターに入っていてもいつでも目が届くようにである。小さなカオルはやはり普通の赤ちゃんよりずいぶん軽い。それに
カオルと違っておとなしい。周平が鼻をつつくとにこにこ笑う。でもぱっちりと開いている目がカオルとそっくりだ。
 今日はSハウスの社長室に呼ばれている。社長は人払いして二人だけで部屋にこもる。
「この話は君ところの社長にも直に言ったが、忙しくて上の空だ」
「何の件ですか?」
「いやな噂が出ている。Yテレビの社長が中心に未公開株の件の批判的な話題だ」
「YテレビについてはKジャーナルの黒崎が今へばり付いていて妙な動きをしています。もちろんこちらも調査をして社長に報告していますが」
 旗手社長の反応が今ひとつなのだ。
「Yテレビの社長には株は行ってないんだろ?」
「ええ外しています」
「どうして未公開株の情報が漏れる?」
「これはファイナンスの小林社長からです。彼から黒崎にかなり詳しい情報が洩れています」
「社長は?」
「ご存知です。よく分からないのですが、どうしてYテレビの社長がそこまで嫌うのですか?」
「それはなあ、彼らの地盤に急にベンチャー達が現れたからだよ。それに急成長を続けている。銀行筋は面白がってはしゃぎたてているが、競合企業は笑ってはいられないさ。だがこの流れはこれからますます止めれなくなる。私だっていつ後ろから来たベンチャーに食われるか分からんから」
「そんなものですか?」
「ベンチャーはルール無用で仁義もない。これはYテレビの社長の受け売りだけどね。それに与党の中には今の総理を嫌う人達も多い。今彼を失うと、日本は10年いや20年は世界から遅れをとることになる」








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人身御供

 『噂の真相』で赤坂事件を別の目で記事を書いた。これは総理の私設秘書のブラックジャーナルの創刊号である。もちろん周平が記事を書いた。もともとこの情報を持ちまわったのは某ジャーナル誌の編集長であり、情報源はM商事にいた元部長。またそこにかつていた某氏が田辺記者であるとの噂もある。そこまで書いてKジャーナルと舅と小林を牽制した。合わせて旗手社長にミーから小林に関する報告書を提出した。
 それからケイ君に再び京都に出張をお願いした。ダミーで融資した底地の上で許の子会社の社長が殺されたのだ。これは旗手社長からの直接の依頼だ。周平は自ら動こうとしたがミーから止められた。何か不穏な動きが続きそうな予感があったのだ。ケイ君にはショウちゃんの店に帰り覗いてもらうことも頼んだ。伯母の情報が入ったと連絡があったのだ。おそらくケイ君から団長に気の重い秘密が漏れるだろうと思った。
 珍しく轟がNビルを訪ねてきた。ミーも承知の間柄である。ミーが二人分のコーヒーを入れてくれる。
「今朝黒崎さんところに呼び出された」
「ばれたか?」
「ああ、それでお前はどちらだと言われた。でもそれは今更いい。いよいよ警察が黒崎のところに来たのや」
「警察なら黒崎にルートがあるだろう?」
「別のルートで押さえが利かないらしい。田辺記者を出せと言っている」
「遂に人身御供にされるか」
「そうもいかん。あんたはもう彼らでは切り捨てられない。知りすぎている」
「かもね。でもどうする気だ?」
「黒崎さんが弁護士を入れて話をしたいと言い出した。警察も下がらざる得ない。これは後で社員から聞いた話だが、鈴木さんが小林の情報で初代から引き継いで記事を書いている落ちにするようだ。それに今回の記事のタイミングだ。彼らも予想もしていなかったろうな」
「轟さん、乗ってくれるか?」
「毒を食らわば皿までやなあ」
「あのねぐらに舅と小林の痕跡が残せるか?」
「そんなの訳ないさ」
 もともとあのねぐらは周平が人身御供にされるストーリーだったのだ。
















テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

いわく

 どうも腑に落ちないことがある。あの合理的な発想の旗手社長が小林には歯切れが悪い。ケイ君の調査書もSハウスの報告も入れている。それなのに今回も何の明確な処分がない。
 わざわざ総理の私設秘書に周平が届ける記事をミーに頼んで、帰りにお返しで彼女の常連のスナックに誘った。ミーもカオルのことがあったので飲みたい気持ちを抑えていたのだ。
「飲みだけだよ」
「分かってる。でも団長とはこれからどうするの?」
「伯母になるな」
「複雑」
 マスターがミーにブラデイのロック、周平にはビールの小瓶を抜く。マスターはこちらが話しかけない時は空気になりきる。
「前から気になっていたんだが、旗手社長と小林にはどういう関係があるんだ?」
「聞いてる通りじゃない?」
 軽く流す。
「そうは思わない」
「仕方がないな。でも社長に知られたら周平首になるかもね」
 ミーはブランデイを飲み干して話し出す。
「もともと私が男だったときから小林はある店の常連だったの。この店は今のママもいた店だったけど、まだ男の子が手術代を稼ぐ店で有名なの。初めてそこで女になった時の最初の客が小林だった。足らない金は小林に援助してもらった。小林の女だったの。幻滅した?」
「いや」
 それぞれが重い歴史を背負っている。伯母のことが頭をかすめた。いずれミーのように団長に告白しなければならない時が来る。
「その小林が紹介してくれた銀座の店に社長を連れてきて来たの。そしたら社長が私に熱を上げてしまって、結果小林が私を譲ったことになっているの。社長は初めて女を知ったと大興奮だったの」
 男と女、窺い知れない世界があるものなのだ。











テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

獅子身中の虫

 今日は子供を病院から引き取る日だ。団長と一緒に病院に出かけ、買っておいた服を着せて団長が小さなカオルを抱きかかえる。並ぶ姿は幸せな子供を授かった夫婦に見えるだろう。小さなカオルはカオルと周平の子供として入籍されている。団長には籍がないのだ。
 ミーには事情を伝えてある。4時には川崎のスナックに集合と伝えられている。
「遅くなる?」
「ああ。旗手社長に呼ばれているからな」
 そう言って大通りからタクシーを捕まえて乗る。
 1時間半ほどでスナックに着く。ちょうどSハウスの社長の社用車も着いたところだ。
「京都で話を聞いてくれたんだな?」
「すでに社長には伝えてあります」
「今日は?」
「まだ聞いていない」
 どうも旗手社長が招集をかけたようである。
 すでに別室の円形テーブルには大皿と飲み物が並んでいて旗手社長が珍しく椅子に掛けている。今日は7名だけの集まりのようである。
「例の赤坂の国営地の件で野党から委員会で質問が出たという知らせだ」
「彼奴か?」
 Sハウスの社長が確認する。
「なぜ漏れる?」
「黒崎さんのところです」
 周平が答える。
「黒崎は外している」
 周平ではないかと言う視線が集まる。だが周平も身内の問題をここで話しにくい。
「小林か?」
「はい、こちらの調査では赤坂の問題が黒崎さんに漏れるのは小林さんのルートしかないと。これはまだ確認できていないのですが、この野党の代議士をリストに加えたのは小林さんです」
「取りあえず等価交換にはグループは外す。スーパーのD社に入ってもらうように頼んでおいた」













テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

綻び

「ごめんね」
 ミーが低い声で言う。カオルの火葬を終えてまだお骨は部屋にある。
 今日は用心して総理の私設秘書の事務所に出かける。車の中でKジャーナルの最新の記事に目を通す。やはり田辺の名前で書いているが舅と黒崎の合作だ。どうも赤坂の国営地の等価交換を見つけたようだ。この情報は轟にも教えていない。
「まだ詳しい情報までは入っていないから、軽く突いてみた感じだな」
 事務所に着くと、周辺を見渡してからエレベーターを上がる。この記事の指摘は総理の第1秘書からファックスがあったようだ。
「悪いな。第1秘書は鬼の首を取ったように・・・。でもあいつらは何も詳しいことは知らん。総理も知らん顔をしている。ただ関係者がびくついている」
「お金を受け取った人たちですね?」
「でも本人たちがしゃべらない限りまだ登記もさわっていないし、建設もまだまだ先の話ですよ。証拠が出ない」
「こちらでも調べてみたんだけど、どうも小林らしいのよ」
 ミーが口を挟む。
「なぜ?」
「どうも小林が未公開株の1部のリストを流したのではないかと思うの」
「あれは予定のリストがあり、次に総理の要望チャックが入ったリストと、最後の旗手社長自身がチェックを入れた最終版リストがあったはずだ」
「小林は予定リストを持っていてそれに追加してきたでしょ?」
 それを黒崎に流した。
「でも総理関係は記入していなかったはずですね?」
「それはこちらで確認したさ」
「それはそうと、ブラックジャーナルを出す準備はできていますか?」
「ああ準備OKだよ」
「その記事を書いて対抗しましょう」







テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

小さなカオル

 こんなにホワイトドームに常連がいたかと思うほど、昼過ぎには2階も1階も座る場所もないほどになった。昼過ぎに轟が珍しく喪服でやってきた。それから藤尾も喪服だ。団長が店中にある花瓶を並べてみんなが持ってきた花を挿している。周平は自分の周りを空けてもらって、轟と藤尾とケイ君の場所を作る。
「子供を産むことを選んだからさ。それは仕方がないさ」
 しきりにケイ君が慰めの言葉をかける。それは自分にかける言葉でもあるようだ。彼は時々飲んだ時にカオルの子は自分の子だと言う。それはホワイトドームの仲間はみんな知っていることだ。それにここにいる男性の大半がカオルを抱いている。カオルは小さい頃からセックスで生活の糧を得ていたし、セックスで自分の生きていることを確認していた。周平が抱いてやった数などしれている。でもカオルの温もりが今でも残っている。
「ミーさんよ」
 下から団長の声がした。
 ミーも喪服で上がってきて旗手社長の名前の入った香典を置く。周りの人間が驚いたように席を空ける。
「社長から」
「ありがとう」
 ミーにはカオルの話を時々していた。セックスを愛す仲間同士としてカオルに会いたいと言っていた。
 団長がブランディーを1本持って上がってくる。
「可愛い人ね」
 カオルの顔を見てミーが涙を流しながら言う。団長はカオルの薄くなった髪をそっと束ねてやっている。冗談で鬘を買わないと言っていたことがある。
「少し席を外すので店中の酒を開けてね」
 団長はそう言うと周平を外に連れ出した。それから黙々と病院に向かう細い道を歩く。
 いつの間にか目玉さんが廊下で周平達を迎えてくれる。ガラスの向こうに赤ん坊が寝ている。
「小さなカオルお帰り」
 周平にしか聞こえない声で団長が囁いた。
「今度こそ一緒に空を飛ぼう」
 団長が思いきり手を握ってきた。













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ジャンル : 小説・文学

カオルを抱いて空を飛べなかった

 朝まだ暗いうちに、ショウちゃんの部屋を出てタクシーに乗った。そこで初めてミーからの留守電を聞いた。夜明け前の4時過ぎに入っている。
「団長さんから携帯に繋がらないのでと・・・。カオルさんが亡くなったって!急いで戻って!」
 カオルが亡くなった!それだけが頭の中を駆け回っている。
 新幹線の中から団長に何度もかけてみるが、呼び出しているだけで出てこない。東京駅からタクシーに飛び乗る。団長には繋がらないが、ケイ君にようやく繋がった。
「どこに行ってたんだよ」
「大阪だ」
「今朝カオルが亡くなった。これから店に運ぶ。店に来い」
 ケイ君も周平も気が動転している。心の中では予想はしていたことだが。
 タクシーを降りてホワイトドームに走り込む。カウンターに目玉さん達が所狭しと並んでいる。ケイ君の声がして階段を駆け上る。カオルと子供にのために作った部屋に蒲団が敷かれていてカオルが寝ている。団長が
「やっと帰ってきたよ。だめな人よね。でも叱らないと約束したし」
とカオルの小さな手を握って話しかけている。
「すまん」
「カオル狐まだかって待ってたよ。生まれた子にカオルって呼びかけて」
 周平は初めて団長の涙を見た。周平にも長らく、おそらく子供の頃に泣いたきり忘れてしまっていた涙が頬を伝う。狐はカオルを抱いて空を飛べなかった。
 周平は思い切りカオルを抱きしめた。なんという軽さだろう。こんなに軽くなってもカオルは子供を産むまで頑張った。そして最後の命を残して行ってくれた。
「幸せだったよそれが最後の言葉」
 そう言うと立ち上がって、
「これからカオルのために宴会してやって、あの子は寂しがり屋だったからどんと賑やかにね」

















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伯母の真実

 ショウちゃんの連れてきてくれたのは、飛田の中にある和風スナックである。この店に来た記憶は周平にはない。
「この窓の片隅に通天閣の帽子が見える」
 言われて見あげると、こんな場所からも通天閣が見えるのに驚いた。
「彼女はよくこの席にかけて朝まで飲んでいたわよ」
 伯母と同年代らしい女将が声をかけてくる。電話でショウちゃんがこの場所を押さえてくれたようだ。
「みんなよく知っているけど、一時彼女と同じ場所で立ちんぼしていた時期があるの。それから飛田に移って40歳の時に今の旦那と会ってこの店を持った。仲間では彼女が一番持てたのに、彼女はいい男に縁がなかったわ」
「では伯母は今?」
 ショウちゃんの焼酎のボトルを出してきて、水割りを作ってくれる。
「3年前にこの店にひょいっと現れて以来姿を見せないね。動物公園の近くの映画館で客を探しているとは言ってたよ」
 この情報はケイ君と同じだ。
「そうだおばちゃん」
とカウンターの洗い場に声をかける。80歳くらいに見える白髪の年寄りが顔を上げる。
「アンちゃんのこと覚えている?」
 伯母はアンちゃんと呼ばれていたようだ。
「アンちゃんはそうさなあ。昔ガードの近くの寿司屋に勤めていたんや。わしはその頃は立ちんぼしてて、よくお客とその寿司屋に寄っていた。そこの渡り職人と駆け落ちしよったんや」
 それは叔母から周平の母の話と聞かされてきたものだ。
「それは妹の話ではないですか?」
「いんやアンちゃんはアンちゃんだ。1年ほどしたら赤ん坊を抱えて戻ってきたさあ。しばらく地下の演芸場で歌っていたこともある」
 周平は伯母の写真を出して見せた。
「アンちゃんだ」
 














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ジャンル : 小説・文学

邂逅

 団長からは連絡は入らない。通天閣からじゃんじゃん横丁を抜けて古いガードを抜ける。ギターが懐メロを奏でていて、古着が安物の暖簾のように風に揺れている。足はしっかりとこの道を覚えている。スーツ姿が珍しいのか時々じろじろと見つめてくる。周平は昔この道を日が変わるまでうろうろと歩き回ったり座り込んだりしていた。伯母の部屋は夜中まで客がいる。伯母が狭い路地の窓に手拭いをかけると周平は家に戻れるのだった。
 いつの間にか足は商店街からそれて空地の前に立つ。ケイ君の言った通りもうあのアパートはない。路地からいつの間に現れたのか、男娼が背中に立っている。
「このアパート?」
「尋ね人?娼婦が多かったからね。聞きたかったらその前の飲み屋覗いてみたら」
 視線の先にぼろぼろの提灯がかかっている。記憶に鮮明に残る店だ。
 暖簾を潜ると、労働者がカウンターに肘をかけて飲んでいる。年配の女が珍しいものを見るように周平を見る。周平は隣の男のビールを指さす。
「なんや、シューちゃんやないんか?」
 カウンターの奥から鍋を持った男が声をかけてくる。
「ショウちゃんか?」
 子供の頃からの遊び仲間だ。
「どこにいっとった?」
「東京や」
「そうか。お前は頭よかったものな」
「前のアパート?」
「相続でなあ、手放したんや。それよか伯母さんに会ったか?」
「いや始めて戻ってきた」
「そうか9時過ぎたらええとこに連れてったる。夜は俺とこに泊まれや。バツイチの一人暮らしや」
 








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ジャンル : 小説・文学

癒着

「おやっさん元気ですか?」
 ミナミの歌舞伎座の裏にあるいかがわしいスナックで落ち合った。彼が藤尾の会社の大阪支店長である。とは言っても昨年に事務所を出して社員は2名ということだ。お釜バーということだが、ミーとは別世界のようだ。
「赤坂をやってたらしいね?」
「そうですわ。もともと大阪のグループの不動産会社にいたんですが、天皇と喧嘩をしてしまって藤尾さんに拾ってもらったんです」
 30歳前くらいで目は荒んでいない。
「小林さんと大阪支社長とは?」
「まだ浅いですね」
「では大阪支社長と兵庫の代議士は?」
「そりゃあ太いパイプです。でも実際はダミーの社長がほとんど中継してますわ。毎日ダミーの社長が自分の会社のように支社長室の応接に座り込んでいますよ。若い奴らを飲みに連れていきますわ。金はふんだんに持っていますよ」
「支社長は?」
「飲むときは会社であとは一人で出掛けます。用地の取得は彼の判がないとできない。ほとんど最近は支社長の肝入りばかりです。こちらもグループなのになかなか決裁しないんですわ。どうも藤尾さんがバックを拒んだのが原因ですね」
 体質は小林とそっくりだ。
「京都の今回の案件はご存知ですか?」
「底地ですね。さすがに批判が多く、ファイナンスの大阪支店では本店で否決になったと聞いています。それが小林社長が支社長と会って金が出たようです」
 周平はもう1軒という誘いを断って、すっかり真っ暗になった道をふらふら通天閣の灯りに向かって歩いている自分に驚いている。昔この道をダンボールいっぱい詰めてリヤカーを何度も走らせた。








テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

有名物件

 M商事の新社長に10ページほどの調査書を郵送した。赤坂の記事は黒崎の運営するKジャーナルで田辺記者の名前で書かれているが、書いているのはM商事の元鈴木部長であるという事実。もともと黒崎が当時のM商事会長らと赤坂の地上げを始めたが、彼は別ルートにもこの情報を流し今回の事件を起こした。鈴木部長もまた会長から離れて相談役を引っ張り出した。だが二人の野望は見事に外れてどうも今はYテレビの会長と連携している。さっとこのような内容に証拠をセットした感じである。
 珍しく旗手社長から直接携帯で京都に行くように指示を受けた。
 団長には子供が産まれたらすぐに連絡を頼んで新幹線に乗り込んだ。昼過ぎに八条口から降りて迎えに来ていた車に乗る。
「わざわざすいませんね」
 Sハウスの京都支社長の名刺を出す。周平は秘書室長の名刺を出す。
「どういうことなのですか?」
「お宅の不動産会社が京都の駅裏に土地を買い始めたのですよ。京都では有名案件になりつつあるのです。昨年も1人死者が出ています」
「なぜこちらの会社だと?」
「大阪支社長の有名なダミー会社にファイナンスが融資していますからね」
 資料を出してきてテーブルに置く。調査会社の資料によると、ダミー会社は兵庫の代議士の従兄弟が社長をしている。ここ3年で15物件を仕込んで地上げしている。最近はその半分をグループのファイナンスが融資をしている。融資額は20億になっている。銀行借り入れはない。
「それで?」
「当社も実はこの物件に2年前から手を突っ込んでいます。だが購入予定地に暴力団絡みの会社が入ってきて先月底地を購入したのです。その仲介をしたのが許と言う男で、どうもあのダミー会社にファイナンスというセットで、調べてみると迂回融資らしいのですよ」
 帰りがけに車で京都駅裏を案内してもらった。まるで廃墟のようなところだ。線引き見直しの話が湧いてきて、一斉に注目の土地になったようだ。
 藤尾に連絡を入れると、夜に大阪の地上げをしている部下を紹介してくれるという。















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ジャンル : 小説・文学

落とし穴

「いつも片隅で何を書いているの?」
 いよいよフランケン達が帰っていく。その頃はすでに団長は段取りよく洗い物を済ませている。
「団長は覚えてないだろうけど、これでも学生時代は小説家を目指していた。ずいぶん前に大阪に出張した時に、大学の友達に会ってこのノートを送って小説にしてもらうと約束した」
「あの恋敵ね?」
「そうだ。こちらは調査書は得意分野だけど、文才は彼の方がはるかに上だ。それでM商事の赤坂の話でお仕舞にする予定だったが、どんどん思いがけないところに繋がってゆく。1冊で済まなくてもう4冊目に入った。前の3冊はすでに彼に送っている」
「じゃあ、そこには松七五三聖子が出てきてるわけだ」
 まるで他人事のように言う。
 団長は手を上げてフランケン達を送っている。
「松七五三聖子との奇遇な再会で幕を閉じるつもりだったが、どうもそうもいかないんだなあ」
「産まれってくる子供のことも書いてやらないとね。名前は決めた?」
「それがなあ。笑わないでくれよ。『薫』しかないと思っている」
「母と娘が同じカオルか。でもいいかもしれないよ」
 最後のビールの小瓶を抜いて2本カウンターに置く。そろそろ寝るよという合図だ。
「でも周平はなんだか落とし穴にはまった感じしてない?」
「落とし穴か」
「つまりね、学生時代と今の間にある空間、落とし穴よね。私は学生時代の記憶もなく、傭兵だったころの記憶もなくただ私の恋人だったかもしれない男の記憶にぶら下がって今がある」
「こちらはある日落とし穴に落ちたら忘れていた自分に出会った」
「なんだかまだまだ終わりそうな感じしないよ」







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ジャンル : 小説・文学

新しい動き

 さっそく不動産会社の人事部長が手配をしてくれた。
 大阪支社の古参の次長が会議の帰りにNビルに寄ってくれることになっている。自由に話をしてもらいたいからと、人事部長は同席しないことになった。
「わざわざすいませんね」
 周平は秘書室長の名刺を出した。Nビルの存在は有名なようだ。ミーが気を使ってコーヒーを入れてくれる。彼は感心したようにミーのすらっとした足を見ている。
「もともと住宅情報誌では私が上司でした。彼はもともとアルバイトで入ってきていましたが、成績はいつもトップクラスでした。結構強いコネがあるらしく一匹狼的な動きをしてました」
「社員採用は?」
「そうですね。兵庫県出身の代理士が直接社長に話をされたと聞いています。1年のアルバイトを経て、用地取得の課長になりました」
 兵庫出身と聞いてあの癖の強い代議士を思い出した。
「そういうことはよくあるのですか?」
「異例ですね。社員の中には不満を持った人たちもいましたが、どちらか成績を上げる人になびくのはこの会社の伝統ですね。政治家絡みの不動産をさわっていました。だから金額が張るのです。それで親分肌なので若手が集まっていましたよ」
「最近目立つことはありますか?」
 Sハウスの社長の耳に入る情報があるはずだ。
「そうでね。ここ2か月前にファイナンスの小林社長が大阪に来て、支社長とグラブで飲んだのが有名です。彼はクラブで許と言う外人を引き合わせました」
 許まで登場したか。
「先週許の関係するファイナンスに融資をしたようです」
 彼はメモ用紙にファイナンスの会社名と住所と京都の新聞の切り抜きを挟んでいった。








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ジャンル : 小説・文学

裏の会合

 名前を決めないとと団長に言われて机に座って無意識に封筒の隅に『薫』と書いている。親子二人がカオルではまずいだろうとゴミ箱に丸めて捨てる。
「休んでもいいよ」
 机にうつ伏せになっているミーに声をかける。
「朝からゴルフ。夕方からは晩餐。夜はセックスしまくり。これじゃ持たないね。穴が広がって閉まらないよ」
 まことにグロテスクな表現を挨拶のように言う。
「メンバーは?」
「内緒にしろって。とは言っても周平にはそっと教えるよ」
 口止めされているようだ。
「30名ほどが彼女同伴で参加してたわ。知らない顔もあったけど」
 天井を見あげて、
「銀行の頭取クラスの人が4人、経済界から11名、そうM商事の会長もいたわ」
 まだ復帰を諦めていない。
「Yテレビの会長は?」
「いたよ。大御所という感じね。M商事の会長がずっと腰巾着してた。旗手会長のお友達ではSハウスの社長や3人ほどいたね」
「最終日にメールを入れたが見てくれた?」
「総理の秘書の会社の話だったね?それは面白いって言ってた。それと忘れてしまうところだった。上場した不動産会社の大阪支社長を調べろって?どうもSハウスの社長の情報らしいわ」
 眠い目でファックスを取り寄せていたのがこれだ。
 創業期に大阪支社に高卒で採用された。不動産会社では大半が住宅情報誌から転籍している。彼もその一人だが、不動産に入ってから用地取得で力を発揮して、今は大阪の天皇というあだ名もある叩き上げ社員だ。
「もう少し詳しい情報をあの人事部長に頼んでくれないか?」
 何かありそうだ。









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