夢追い旅 2017年03月

黒幕の意思のずれ

 轟からメールが入って、やくざの兄貴の車が朝早く動き出して、タクシーで追跡中だということだ。
 周平はカオルの寝顔を見ながら国崎の事務所に入った。相談があるからすぐに来てくれということであった。
「轟から繋ぎは?」
「はい。先ほど兄貴の車をタクシーで追いかけているところだと連絡がありました」
「ああ、あのジャーナル誌はやくざ屋さんが運営している。記事を持ってきたのはその兄貴という男だ。加瀬の直筆の原稿用紙を持ち込んでいる」
「加瀬はどこかに監禁されていますね」
「裏帳簿の件は?」
「事実です。でも私の課で調査したことはありません。ある程度労働貴族の中では公然の秘密で、どこの派閥が暴いてもあまり有利なものではありません」
「口座は誰が今管理している?」
「書記長が代々引き継いでいると聞いています。でも今でも田上専務が持っているという噂です」  
「田上は今回社長派に鞍替えしたと聞いているが?」
「今までは労働組合を束ねて、社長選をしてきた経緯がありますが、単独では限界があり、社長からの誘いに乗ったところがあります」
「誘い?」
「現在の社長が院政の会長職を目指して、後任の社長に専務を押したと言われています。特に社長はM銀行出身ということで、人脈も資金のポジションもないのです。そういう意味では裏帳簿は社長の財布代わりになっているところがあります」
 この辺りは加瀬ではなく、周平自身が細目に調査してきたところである。
「鈴木取締役と会長はある意味では同じ釜の飯を食べてきた仲じゃないのか?」
「その辺りは黒崎さんが詳しいと思いますが?」
 逆に今の二人の関係が説明つかない周平である。
「そうだな。今までは黒幕の指導が一致していたわけだが、その中で微妙な違いが生まれてきている。会長は直接黒幕の一人と交渉をし始めた。取締役も誰かの意思で動いている。困ったものだ。取締役は君にそんな話をしたことはないかね?」
「あの人は昔から何もしゃべらないですよ」


















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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

誘拐

 夜に轟と合流した。
 兄貴の組事務所の見えるラブホテルに男が二人双眼鏡を手に苦笑いしている。
「どう?」
「柳沢の姿も兄貴の姿もない。あの車も見当たらない。さっき刑事崩れに店を覗いてもらった。朝から二人して車で出掛けたままということ」
「Kジャーナルの記者からはあの記事を持ち込んだのは加瀬に間違いないと確認した。彼奴も馬鹿なやつだ。専務と交渉しようと出してはいけない札を出した」
「サラリーマン社会も難しいんだな」
「会長も元々労働貴族だ。舅の取締役もそうだ」
「なぜ、専務は社長派に?」
「会長とライバルだった。それに会長に社長争いで負けた」
「なるほどね。恐るべしだな」
「誰か出てきたぞ」
 大きなバックを抱えたブラウンの髪の女だ。
「ケイ君が捕まらなくて、彼女に応援を頼んだんだ。何しろそちらのファンだからな」
 ロシアの少女だ。しばらく会っていない。
 ノックの音がして、慣れた手つきでドアを開けて入ってくる。
「心配したよ」
 手を挙げて入ってくる。
「キスの前に報告だぜ」
 轟が笑っている。
「ママがボスと電話で話したって言ってました。もうすぐ戻って来るようですよ」
「柳沢は知ってる?」
「ママの彼氏ですね。近くのホテルに泊まるって言ってました」
 バックからハンバーグを出してきて、唇が吸い付いてくる。
「おい見ろよ。車が戻ってきた」
 降りてきたのは兄貴一人である。








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裏帳簿

 社内更生委員会の田上専務の裏帳簿を臭わす怪文書がKジャーナルのライバル誌の一面に出た。今日は社長派が社長室に集まっている。周平は相談役に呼ばれて、独自の調査を依頼された。まさか舅の取締役のようには思えない。ただこの裏帳簿の件はすでに周平も確認済みだ。これは田上専務が労働組合の書記長をしていた時からの産物だ。M商事は労働貴族が昔から中枢に多い。彼らはこの金で出世を図ってきた。だが、これは互いの派閥に少なくない損害を及ぼすから手を付けないでいたのだ。
 周平は黒崎に電話を入れて、文書のルートを探ってもらう。
 周平はある感で人事部によって加瀬のファイルを見て彼の自宅を訪ねる。新しく買ったマンションで彼らしく談合先のデベロッパーだ。
「珍しいですね、田辺さん」
 眼鏡をかけた小太りの主婦が声をかけてくる。同じ職場にいたOLだった。背中に女の子をおぶさっている。彼女は旧姓の田辺で呼ぶ。
「加瀬さんは?」
「1時間ほど前に会社から呼ばれたと出ていきましたよ」
「奥さんは逮捕されたことは?」
「聞いています。会社の身代わりだから心配するなと」
「そういうわけには行かないのですよ。個人的な賄賂になります。電話は奥さんがとられた?」
「はい。会社のものですとしか。主人も意外そうに話していました」
 周平は人事に電話を入れた。やはり該当者はいない。自分の課にも入れた。
「連絡が入ったら必ずここに電話をください。周平はメモ用紙に携帯の番号を慌ただしく書いた。
 嫌な予感だ。
「轟さん、柳沢を張ってください」
「記事の件だな」
 それだけで切れた。









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帰るところ

 カオルの好物のシュークリームを土産に持って帰る。カウンターに団長と目玉さんたちがいる。
「お帰り。カオル起こしちゃだめよ。それに今晩もだめ」
「ああ」
 ホワイトドームは帰って来るところになったようだ。なぜか自分は帰る場所ができないと周平は思っていたが。
急な階段を上がると、蒲団に包まっているカオルがいた。そっと蒲団を開けて、目を閉じたままのカオルのおでこにキッスをする。
ぼんやりとカオルの顔を眺めていると、下から団長の声がした。
「取組中やなかったかいな?」
 ジャンバー姿の轟である。もうすっかり常連の一人になっている。団長が備え付けの焼酎の湯割りを作っている。
「信州の進展は?」
「ナビで教えてもらった場所ではこれといった見っけ物はなかった」
「また元の職場に戻ったんだってな」
「相変わらず詳しいな」
「離婚するらしいね?」
 団長の視線と一瞬ぶつかった。
「どうして?」
「昨日取締役と会った。封筒を預かった」
「東京に出てきている?」
「銀座のママに会いに行くということだった。彼も離婚するそうだ」
 会長とも縁を切る気らしい。そろそろ動き出すのだろうか。でも周平の見るところ、3極の中で相談役のカードが一番弱い。それに国崎の協力も得れそうにない。
「その封筒は?」
「国崎さんに渡したさ。飼い犬だからな」
「あのアジトはいつまで?」
「分からんさ」
「最近行った?」
「ああ、彼女どうしたって心配していたぜ」
 ロシアの少女だ。轟はこれからあの兄貴の上部団体に会いに行くようだ。
ホワイトドームの電気を消したのは朝方の4時半だ。団長の蒲団を抱きかかえたがまんじりとしない。







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団長の謎

 また、昔の課長の机に戻ることになった。加瀬の荷物を今度は女性社員が段ボールに入れる。それでも、相談役の部屋の机はそのままに置いたままだ。これは今の周平の状態を表しているようだ。
 ケイ君が珍しく携帯でビルの下にいると入った。
「少し離れた店がいいな」
 気を使ってくれているようだ。新橋まで歩いて細い路地の店に入った。
「赤坂の件?」
「いや、団長の件だよ」
 馴染の店のようで焼きそばを注文している。
「実は昨日団長の代理で出張出前ステージをしてきたんだ」
「ああ、例の」
「カオルの調子が悪くて、病院に付き添うということだった」
「カオルが?」
「知らなかったんだな。カオルは1年に2度くらい倒れるんだ。白血病の一種だということだ」
「それで?」
「あのサングラスの男と飲んだんだ。珍しくよくしゃべっていたからな。彼は京都の大学卒業で団長とは同窓生だったと言っている」
 周平は思わず声を上げそうになった。同じ大学だ。
「サングラスの男の写真があったな?」
「言われると思って、何枚かサングラスを外したところを撮っている」
 ポケットから何枚か出してみせる。
 周平はじっと見つめてみる。まだ霧がかかっている。
「一度京都の大学を訪ねてくれないか?このゼミの名簿を調べてもらえないか?」
 周平はメモ用紙にゼミの名前と田辺周平と書いた。そして財布から10万円を出した。
 















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捨て駒

「解雇ですよね?」
 拘置所に加瀬を迎えに行った第一声はその一言だった。
 ずいぶん短い間に痩せたものだ。顧問弁護士と別れて、近くのレストランに入る。
 加瀬の事件が起こって、急に柳沢は兼務部長を外されて、部長空白の兼務課長に周平が決まったようだ。どうも相談役が進んで受けたようで、柳沢部長は開発部長から総務部付調査役に転籍している。でも本人はまだ休んだままである。開発部はしばらく不動産事業部預かりのようだ。
「今は自宅謹慎と聞いている。まあいまさら言っても遅いが、派閥の中を動き回りすぎた。警察で赤坂のこと聞かれたそうだね?」
「半分以上は赤坂の話でした」
「この紙に聞かれたことを書き出してくれ」
 周平は用意してきた紙とボールペンを出した。
 加瀬は思い出しながらぶつぶつ言いながら書いている。もともと加瀬に情報らしい情報はない。
「子供が3人、家も買ったばかりなんです。専務に電話を何度も入れましたが、出てきてもくれないんです」
「捨てられたんですよ」
「相談役を社長に合わせたのは誰の指示でした?」
「専務に頼まれました」
「そんなルート加瀬君にありました?」
「ええ、前に取締役と横浜に出かけて繋ぎをしていました」
「それは不味いですね。それは取締役を裏切ったことになりますね」
 それで取締役が捨て駒で使った。彼がリベートをポケットに入れていたことは公然の秘密だった。この業界は身内の信頼をなくすと命とりなのである。
「何とかとりなしていただけませんか?」
「それは甘いですね。私すら先行きが見えませんから」
 周平は紙を預かると、彼がこの部署に入ったのは間違いだと心の中でつぶやいた。単なるどこにも落ちているサラリーマンなのだ。











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ベンチャーの旗手

 小林から携帯が入って、銀座のベンチャーの本社に来てほしいという連絡だ。Kジャーナルの記者として社長を紹介するというのだ。おそらく国崎の描いた絵だろう。相談役には赤坂の調査に出ると伝えた。どうも相談役には国崎のことは伏せているようだ。
 銀座のビルに着くと1階の受付で小林の名前を出す。
 地下に案内される。立派なラウンジがあり、個室に案内される。
「いよ、悪いね呼び出して」
 相変わらず軽い調子で話す。でも背広は高級なものに変わっている。
「まず、これはいつもの記事だよ」
と封筒を渡す。
「今度の記事は?」
「相変わらず赤坂だよ。今度は500億を売却だよ。この写真がいかしている」
 封筒から赤坂の写真を出す。ヘルメットを被った工事関係者に混じって柳沢部長の背広姿が写っている。
 反対の扉から小柄な痩せた男が入ってくる。
「いつぞや会いましたね」
 にこやかに握手を求めてくる。
「社長は記憶力がいいのです」 
 小林は赤坂のホテルで会ったことを言っている。
 周平がKジャーナルの名刺を出すと、
「国崎さんとの繋ぎはよろしくね」
と笑って言う。
 周平がこのベンチャーの社長の名刺を手に持った最初の日だった。
「携帯番号は小林さんに教えていただきましたよ。この声も覚えておいてくださいよ。私の番号は彼から教えて貰てください」
 今までの強面の社長とは違うタイプのようだ。
 5分ほどで用を済ませると、また先ほどの扉の中に消えていった。
 ベンチャーの新しい旗手、その言葉が頭に浮かんだ。












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離婚

 久しぶりに我が家に戻ってみると、人の気配のないテーブルに白い封筒が乗っていた。周平は背広も脱がずに、封筒を開く。離婚届に映子の直筆と印鑑が押してあった。手紙らしいものはない。何も感慨がわいてこない。そのままポケットに押し込むと外に出た。
 なぜか当然の結果なような気がした。
 久しぶりに銀座の映子のママに携帯を入れた。
「今なら時間がとれるからおいで」
とそれだけで切れた。
 実に結婚式を挙げた時以来の訪問である。
 銀座のクラブに着くと、専用の応接室に案内された。
「ご無沙汰ねえ」
「すいません」
 どうもこのママは苦手だ。 
「映子はここにはいないわ」
 煙草をゆっくりふかす。
「離婚のことは聞いた。詫びないよ。お互い様だからね。あの子、子供できたのよ。もちろんあなたの子供じゃない」
 今年で50歳になったのかとふと考える。今の会長と別れるときの不思議な涙を思い出した。
「私もこの際鈴木とも別れることにした」
「もう話し合われた?」
「電話でね。鈴木はあの秘書課の女とできているからね。それにあの人のツキはなくなったよ」
「会長の件ですね?」
「私は会長の影の女でいいの」
「一ついいですか?どうして会長と取締役がしっくりいかなくなったのですか?」
「あの人は野望が強すぎる。会長は昔はその野望に魅力を感じてたわ。でも今は危険なのよ」
「次は名声ですか?」
「あなたも考えてみることね」



テーマ : 自作連載小説
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柳沢戻る

 最近叔母の夢を見る。
 思い出したように叔母のお気に入りの写真を取り出す。まだ30過ぎの頃の若い時の写真だ。でも周平の記憶にある叔母はこの若さのままで止まっている。
「奥さん?」
 団長が覗き込む。
 昨夜は団長も抱いた。カオルは3回だ。
「いや」
 起き上がって、用意してくれたスパゲッティに箸をつける。
「周平に似てるね?」
「まさか、そんなのを言われたのは初めてだ。唯一の身内の叔母だ」
「へえ、でも目元なんかそっくりよ」
 外からケイ君の声がする。
「入るぜ」
と言いながらも半分くらい覗いている。
「ケイ君も食べる?」
「何しろ兄弟だからな」
にやにやしている。
「柳沢昨日戻ってきたぜ。ママの兄貴も一緒だ」
「あのチンピラは?」
「行方不明のまま」
「信州に行ってたらしい」
 轟の情報を伝える。
 周平はさっそく轟に携帯を入れる。
「今会長の自宅を張っていたら、柳沢が入っていった」
「段取りがいいな」
「いや、元警察の力だよ。高速のカメラでママの兄貴の車を見つけたんだ。詳しことはまたする」
 それで携帯が切れた。
「ものは相談だが、その兄貴の車を調べられる?」
「かなり汚れているから部下に洗わせるだろうね。2万も握らせれば」
「じゃあナビを見てくれ」











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頭取の封筒

「赤坂はあのベンチャーに移行が始まった?」
「300億からですが、まだ雲行きが見えません。君ところの社長は相変わらず勘違いをしとおるのか」
 社長はM銀行出身である。
「自 加瀬の談合の後始末をしていると、相談役から携帯が入った。赤坂でタクシーで拾って貰って、M銀行の本社にに向かう。
「誰に会うのですか?」
「頭取だよ」
 長い廊下を通されて、広い応接に案内される。
「M銀行は私の親父の代までM商事のメインバンクだったんだよ。それが今の会長が社長になってからS銀行と並行メインになった」
 相談役は昔を懐かしむように話す。
「今の頭取はしばらくM商事に出向できていた時期がある。遠い親戚筋にあたるらしい」
 そこまで話していると、ドアが開いて恰幅の良い年配の紳士が現れた。
 相談役が立ち上がって挨拶をする。周平も同じ姿勢を取る。
「どうだ。本社に戻った感想は?」
「いえ、まだ馴染めませんね。彼に会社の歩き方を教わっているところです」
「彼が鈴木君の弟子ですか」
 ここにも舅が絡んでいる。分が繋ぎと思っていないからたちが悪い」
 周平はじっと質問を我慢している。
「赤坂は確かに魅力がある。こちらも手を出したいところだが、S銀行がすでにがっちり固めている。それに爆弾だ。火傷では済まない。それよりその爆弾を操るほうが得策だ。でも、相談役が返り咲くのは難がありすぎる」
「了解してます。できればもう一つ 繋ぎを挟んでもらって息子に」
「そのあたりが相場だな」
 相談役の息子とは?
「今後は彼に動いてもらいますので」
「うん、分かった」
 そう言うと、内ポケットから封筒を出して相談役に渡す。









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追跡

 轟が久しぶりにホワイトドームで飲んでいたら連絡が入った。30分ほどでホワイトドームに着くからと切れた。どうもここも彼なりに調べているようだ。
 店にはカオルがいるだけで、常連の目玉さんがいるきりである。 
「いや、信州はもう雪だぜ」
「もう運転ができるのか?」
「飯の種だから贅沢は言ってられないさ」
と言いながら、カオルに焼酎の熱燗を頼んでいる。
「まず報告だ。赤坂の地上げ現場は調べた。車はあの残骸に間違いないとのことさ。現場の茶碗にあのチンピラの指紋があった。でもどこかに連れ去られた」
「それで信州に?」
「ああ、国崎さんから会長の別荘があると言われて走ったわけ」
 カオルがチーズを皿に入れてくる。どうも轟の好物を知っているようだ。
「確かに2日前までこの別荘に男が3人いたと管理人が言う。人相の悪い男と言っていたから、間違いないだろう。別荘の鍵は持っていたということだ。それに1人はスーツにコート姿だったらしい」
「それが柳沢部長だ」
「もちろん写真を見せた。顔を覚えていたよ。また会社勤めだってね」
「国崎さんからか?」
「ああ、重要人物だからね。加瀬が逮捕されたようだね?」
「それも?」
「これはそちらの舅さんだろうね。余計なことをすると愚痴を言ってたからな国崎さん」
 どうもやはり舅は相談役とまだ組んでいるようだ。どういう結末を求めているのだろうか。
「これは顧問弁護士から聞いたのだが、警察で加瀬は赤坂のことを聞かれてようだ」
「それはいい情報だ。これもこちらから国崎さんに報告するよ」
 轟は手帳に書き込んでいる。
「これは見返りの情報だ。先日国崎さんが会長と車の中で2人きりで会っていたと言っている。話し中は車から運転手は降ろされて風邪を引いたと嘆いていたよ」
 何か取り決めをしたのだろうか。






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加瀬の逮捕

 出社して3日後、いきなり加瀬課長代理が建設資材の談合で逮捕された。これは周平の絡んでいない談合だ。この課で扱っている中では3流にあたるレベルである。周平は相談役から調査の依頼を受けた。どうも1通の投書があったようだ。かなりの談合の資料を警察に押えられているようだ。
「これは直属の上司の仕事ではないのですか?」
 相談役に尋ねたが、兼務の柳沢部長が長期休暇扱いになっているという。それでお鉢が前課長の周平に回ってきたようだ。さっそく、顧問弁護士のところに出かける。
 この顧問弁護士とは何度もやり取りをしたことがある。
「どこまで確認できていますか?」
「長期休暇は取り下げられたようですね」
白髪の髭を蓄えた弁護士がテーブルに案内してくれる。
「かなり詳しい内部資料を警察は押さえているようですね。でも、このレベルの談合では会社上部まで及ぶことはありませんね。どちらか言うと加瀬さんの個人的な問題のほうが多いです。結構下請けに飲み食いのツケを回していた」
「注意はしていたのですが」
「それより接見の時に赤坂プロジェクトの質問を受けたといっています」
「別件?」
「分かりませんね。彼は赤坂には詳しいのですか?」
「いえ、まったくノンタッチです」
「先生に依頼したのは?」
「相談役です。もともと亡くなられた監査役と同じ大学で、御社の顧問に推薦されまして、今は若い顧問弁護士に仕事が集中しているようですね」
「会長の」
「ということで、赤坂のことは私は全くわかりません。鈴木取締役からもあなたから聞くようにと伺っています」
 どうやらこの逮捕は舅が絡んでいるらしい。
「赤坂の件では会長と社長と相談役が三つ巴になっていますが、まだ詳しいことはよくわからないのです。直接担当しているのは柳沢部長です」
「現在長期休暇中ですね?」








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お化け屋敷

 ケイ君から赤坂で待ち合わせしたいと携帯が入った。
 待ち合わせの場所は、藤尾のアジトのさらに奥にあるビルだ。これは地図では工場になっているが、すでに廃屋になって久しいように思う。これは何時か藤尾に聞いたような気がするが、地上げした建物は税金の関係で更地にはしないそうだ。でも、赤坂にこんなお化け屋敷がある風景がちょっと信じられない。
「こちらだ」
 作業着を着たケイ君が手招きで呼ぶ。工事用のヘルメットを被った年配の男性がいる。
「彼が見つけた。彼のような男を5人入れて地図を塗りつぶしているんだ。この奥だったね?」
 男が頷いて、シャッターの隙間をこじ開けて中に入る。ケイ君はポケットの車の写真を出して見せる。
「ずいぶん前から解体し始めていたようだ。肝心な衝突痕のある部分は剥がされている。もう少し経っていたら跡形もなくなっていただろうな」
 ヘルメットの男が中二階から呼ぶ。周平はカメラに手に動き回る。
「ここに人がいた形跡があるね」
 ケイ君が煙草の吸殻と毛布をさす。吸殻をつまんでビニール袋に入れる。
「何か刑事になった気がするな。今更刑事だなんてなしだよ」
「どこかに移された?」
「か消されたか?」
「残りも調べるか?」
「頼む」
 表に出ると、轟に連絡を取った。すぐに元刑事を調達して調べるとのことである。彼のところに連絡を入れておくと、国崎に自動的に報告になる。轟とは持ちつ持たれつだ。
 ケイ君は日払いの金を渡している。






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会社の歩き方

 出社の命令が出た。病気療養者に出社命令とは変なものだ。久しぶりに髭をそって、スーツに着替える。人事部に出頭ということで、9時前に人事部のドアを開ける。
「鈴木さんでしたね。案内します」
と言って新入社員のように、長い廊下を右に曲がったり左に曲がったり。
「来られました」
 なんと相談役の部屋だ。
「何時ぞやぶりだね」
 部屋にはカーディガン姿のくつろいだ感じの相談役一人きりだ。
「今度はどこに配属されるのですか?」
「正式には辞令は出ないのだが、相談役付課長かな。机と椅子は今日中にここに運んでくる。推薦者は舅の取締役だよ。会長も社長も了解済みだ。まあ、ゆっくり掛けて」
「私は何をするのですか?」
「慌ててするような仕事はないよ。会社の闇には舅の次に詳しいと聞いている」
「そうでもないですよ。今回思い知りましたから。まあ、歩き方位のレベルです」
「その歩き方が分からない。情けないが、親父が会長だった息子がその会社の歩き方が分からなかったんだからね。だから相談役になった」
「この会社はどうなるのでしょうか?」
 周平は正直な気持ちで聞いてみた。相談役には腹の探れないような鉄仮面のところがない。育ちの良さだろう。
「私にもわからない。もともと今回の話を持ってきたのは監査役だよ。その監査役の後ろに取締役がいた」
「ということは、舅が絵を描いたということになりますね?」
「それはどうかな?」
「あなたは?」
「押し出されてしまったその方があっているようだね」
「お願いがあります。今後いろいろ質問しますが答えてもらえますか?それが唯一条件です」
「そちらも同じ条件で」









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後の先

 M商事の会長が経団連に推薦されるという情報が経済誌に載った。不幸なことなのかどうか、この雑誌のシリーズに赤坂プロジェクトの疑惑が連載されている。それと日を同じくして、国崎のKジャーナルの赤坂の融資肩代わりの田辺記者の記事が並んで出た。
 テーブルの前に、先程から雑誌に目を通している国崎がいる。
「私は当分記者ですか?」
 日頃思っていることを口にした。
「会長が足元に火がついたので乗ってきた」
「社長との和解ですか?」
「会長は社長のことなど元から眼中にない。バックにこれ以上突っ張れないと判断したのだ」
 煙草をふかしながら、田辺の記事をさしている。
「300億の肩代わりで50億は利益が出た。これで中抜きしていた不明金を消した」
「転売益ですね?ベンチャーにこれからも?」
「そこは分からない。会長はあれで相当な狸だからね。ただハングリーな人だから、目が離せない」
 今日の国崎は饒舌である。
「ある代議士の秘書をしていた時代があった。その時、会長にあった。まだ君と同じ談合の担当課長の時だ。その時から彼は政治資金の運び屋をしていて、危ない仕事をよく持ってきていた。それからよくもここまで来たという感じだよ。綱渡りの連続だ。もうさすがに続かない。だが土俵際が怖い」
「もうしばらく様子見ですか?」
「こういう時は先手必勝は危険だ。後の先だろうな」
「取締役は?」
「彼も同じ手を取るだろうな。これは見ものだ」








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似た者同士

 ケイ君の仲間に行方不明のチンピラと車の写真を渡して、赤坂の地上げ現場を探してもらうことを依頼した。これは国崎に報告して、100万の資金を出してもらった。周平の勘では、赤坂のチンピラも車も隠されているように思う。それほど地上げ現場は無法地帯である。
 昨夜は薬を使わずにカオルを初めて抱いた。少しずつ愛情がわいてきているのが周平にもわかる。ただ、カオルのセックスは貪欲でありすぎる。不思議なのは団長で、同じ部屋で本を読んでいる。表情が変わらないのである。彼女は本当に男なのか。
「気にならないのか?」
 お膳代わりのちゃぶ台に封筒を広げて、お金を分配している。
「気にならなくもない。欲望を辛抱できるのよ」
 団長の口元が少し笑っている。
「前の話の続きたけど、昔の記憶をすべて失った?」
「手術前のことは大半失っているみたいね。医者の言うのには閉じ込めている状況らしい。夢の中でその景色が時々現れるの。でも追いかけてゆくと消えてゆく」
「あのサングラスの男に聞いた?」
「知らない方がいいと言わない。何となく私もそう思うから、最近は尋ねない」
「なぜ?」
「体が危ないと教えている。狐もそうじゃない?過去のことを話したことがない」
「東京に出てきた自分は過去の自分とは別人だと思っている」
 こんな話をしたのは初めてだ。
「似た者同士なのよ」
 団長は目を覚ましたカオルの頭をポンとたたく。














 

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偶然

 原稿をKジャーナルに届ける。国崎は不在だ。若いのに聞くと、いつもの沖縄詣でらしい。藤尾部長に連絡を入れて時間を空けてもらう。ところが藤尾も住所が変わったという。新橋の国道沿いのビルを教えてきた。こましなビルだ。
「へえ、今度は社長ですか?」
「いや、まだなりたてのほやほやだよ。一応社長室があるから入ってよ」
「昼から一升瓶はやれませんね」
「ほんまや」
「社員は何人?」
「30人ほどかいな。でも経理などはファイナンス会社からの出向や」
 赤坂の地図が壁いっぱいに貼ってある。
「この事業は今度はファイナンスの方が主体でするようになった。あの会社は上場するらしくこの赤坂はまずいようだ。それでこの会社に」
「この会社ってこれですね」
 先程の原稿のコピーを出して見せる。
「さすがに情報が早いなあ。300億にもなるんだな」
 詳しい数字は知らないようだ。
「作業は小林社長のところでしている。こちらは地上げ部隊の現場管理だよ」
「これからまだまだ買い上げてゆく?」
「だろうね」
「M商事は降りたのかな?」 
「分からないが、買いはぴったり止まっている。面白い話がある」
「2日前、柳沢を赤坂の地上げ現場で見たよ。外車で乗り付けて、現場に向かったんだろうな」
「1人?」
「いや人相の悪い男を連れていた」
 柳沢のママの極道の兄貴だ。
「場所は分かる?」
「あの4階建ての事務所の前の道だ」






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赤坂見附

 小林から連絡が入った。
 昼から、赤坂見附の本社に来てほしいとの留守電である。住所を復唱している。また、住所が変わったようだ。
 昨夜は、久しぶりに自宅に戻った。テーブルの上に、映子からの走り書きのメモが貼ってあった。舅の取締役の福岡にしばらく行くという愛想のない伝言だった。
 周平は少し明るめのブレザーを着て、赤坂見附を目指した。住所を調べるまでもなく、赤坂見附に立派なガラス張りのビルがそびえていた。前回のビルとは月とすっぽんだ。下に銀行が入っている。
「小林さんおられますか?」
受付で声をかけると、
「Kジャーナルの田辺様ですね。お待ちです」
と上階に案内してくれる。ここからは赤坂のホテルがよく見える。
「何か狐につままれたようですね」
「今回の役どころはこのファイナンスの社長です」
「まるで俳優のようですね」
 広々としたソファに小林が足を組んで座っている。
「現在100人ほどの社員ですが、近々には300人になります。田辺さんは記者が本業になられたようですね」
 国崎からはちゃんと情報が入っている。
「赤坂開発はすでに当社が300億ほどM商事の融資を引受けしました」
と言いながら、いつかと同じように茶封筒を出す。
「見ても?」
「あなたの書いた記事の原稿ですよ」
 正確に、融資肩替えの謄本のコピーがついている。
「何をしようとしているのですか?」
「私のような下っ端にはわかりませんね」








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風見鶏

 休暇届を出しに、M商事の人事課を覗いてそれから、自分の課を覗いてみた。変な話である。歩いて元気な社員がわざわざ、療養休暇願を出しに来る。加瀬が周平の机を占領している。
「使わせてもらってますよ」
 さすが気が引けるのか、立ち上がって周平の荷物の段ボール箱をさす。
「新任部長は?」
「柳沢開発部長がしばらく兼務されます」
「じゃあ、挨拶して帰りますよ」
「それが、長期休暇をとられています」
 なるほど、あれから出てきていないわけだ。会社に入る前にマキに連絡を入れている。留守電が入っていて、少し離れたカフェを指定してきた。
「悪いね」
「いいのよ」
 マキが制服のまま煙草をふかしている。
「何か狐に包まれたようだ」
「なにちょっとした風向きの変化だけよ。今周平は離れている方が得よ」
「会長と社長が和解した訳?」
「そんなこと、これも駆け引き。社長は鈴木取締役を会長から離した。曲者を残しておくのは危ない。これは、私の意見」
「こちらもその犠牲かい?」
「これは愛情よ。あなたとはいつまでも組みたい」
「でどうなっていくのかい?」
「分からない。でも、早くクラブを貰っておさらばよ」
「それは利口だな」
「相談役が戻ってきたようだね?」
「そう、死んだ監査役の部屋に入った」
「やはり、社長と組んだのかい?」
「そうでもないみたい。ちょうど中間の壁みたいにしているわ。風見鶏のようだわ」

















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探り

 ケイ君が入ってきた。
 いつの間にか、押されるようにカウンターの端に掛けている。常連の顔がカウンターに並んでいる。カオルも降りてきて、周平の前に陣取っている。
「留守電入れててくれたんだね?少し取り込み中だったんでね。ここを出るかい?」
「いや、団長にはばれている」
「そうか、その方がやりやすい」
 小瓶をとると、旨そうに飲む。
「実はチンピラを探してみたが見つからない。ただ最近は羽振りが良く、ダチを連れて飲みまわっていたようさ。それが行方不明になる日に、ママの兄貴の組の人間が探し回っていたようだ」
 ケイ君はメモをしっかりつけている。
 カオルが覗き込むがハエを追うように振り払っている。
「この車も行方不明だ。前と後ろにぶつけた跡があるらしい」
 写真を出すと、
「これがその車だ。事故前の写真だがね」
 しっかりナンバーも写っている。周平は大事に封筒に入れて貰う。下手な探偵よりよく働く。
「柳沢は?」
「探したがどこにもいない。店のものは兄貴の車で出かけたと言っている」
「二人仲がいいのね」
 団長が2本目のビールをカウンターに置く。
「一度三人でやらないか?」
 ケイ君が覗き込むように言う。
「そういう冗談を言うから、悪い噂が流れるのよ」
 周平はトイレに入って轟に携帯を入れる。繋がらないので、メールで要点を書きこんで流す。









 

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団長の話

 会長と社長との駆け引きが闇の中で繰り返されている。
 周平の知らないところで、周平は療養休暇として辞令が出た。加瀬が代行課長となったらしい。会社内のことだが、国崎から連絡があった。加瀬からは何の報告もない。マキに連絡を入れると、もう少し詳しい情報をくれた。鈴木取締役はしばらく、九州の福岡支店長として赴任が決まったとのこと。マキ曰く、会長の譲歩ということらしい。よく分からない。それから、相談役が役員会議に出席することになったらしい。
「何か浮かない顔をしてるね?」
 今日は行くともなく、ホワイトドームに出勤した。ケイ君にはメールを入れたが返事がない。
「この間は団長が飲ませたね?」
「うん、記憶がないわね。それよりあんた達できたの?」
「誰と?」
「ケイ君よ。あの子は女よ」
 いつか誰かからそんなセリフを聞いた覚えがある。
「団長が男だと聞いたことがあるがね」
「そういう噂があるようね。昼からビールにする?」
 返事も待たずに、小瓶をポンと出す。
「狐はM商事の社員だってね?」
「ケイ君が喋った?」
「薬で吐かせたよ」
「ずいぶん怖いことだね」
「昔はこれをよく使った」
 真顔で言う。
「あのサングラスの男、何者?」
「大学の友達だったっていうけど、実は覚えてないのよ。ただ、きちっと借用書があって、彼から大金を借りているの」
「覚えてないの?」
「霧にかかってるわ。でも、借用書の筆跡は間違いなく私で、病院で支払いをしたのも彼。だから、あの商売で返している」
 初めて団長とこんなに長い話をしたように思った。






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腹を割らない

 携帯で轟を呼び出した。自分の彼女の店で飲んでるというので出かけた。
「これはそちらの情報としてお金に変えてくれていい」
 そう言うと、写真をテーブルの上に置く。
「うん、こいつだ運転していたのは。でもあの組にはいなかったはずだがな」
「ママの暴走族の仲間だ。それが行方不明になっている」
 轟がボトルから焼酎をグラスに流し込む。
「ママ、1本同じの頼む。奢りだ。ボトルに田辺と書いてくれ」
と言いながら目は笑っていない。
「よしこちらも入ろうか?」
「頼む。これはかなりやばそうだから」
「消されるな。車も同時に調べた方がよさそうだな」
「そちらは何か新しい情報ないかい?」
「これは直接聞いた話じゃないのでそちらで判断してくれ。国崎さんの運転手の話だ。昨晩、鈴木取締役から電話が入って、馴染の池袋のスナックで飲んだそうだ」
「池袋で飲むことってあるのか?」
「国崎さんの昔の彼女がしている店がある。何度か連れて行ってもらったことがある。どう見ても抱きたくならない女だよ。昔の秘書仲間だそうだ」
「そういえば、有名な代議士の秘書をしていたと聞いたことがる」
「そこで飲むとは込み入った話そうだね。帰りがけ国崎さんが不機嫌だったそうだ」
 舅は、自分が相談役派となったことを告白したのだろか。となると、社長と相談役が会ったというのは大連合ということになるが。舅も、国崎も腹を割らないところはよく似ている。






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おまけが大きい

 ケイ君から呼び出しがあった。
 池袋のねぐらに3時だ。
 マキからは留守電で「伝わった」と一言。加瀬からは田辺という記者の在籍確認が取れたという長い報告。柳沢部長は昨日から公休を取っている。
 ねぐらに着くと、すでにケイ君は廊下に立っていて、ロシアの少女と何か話している。
「まず、外すよね」
 と言って、盗聴器を探して外す。
「そちらはもてるね。彼女が外すって頑張っていたんだよ」
「それで?」
「いや、雇われた身としては、潔癖でないとね」
「ところで話とは?」
 彼は、ポケットからメモを出して、
「柳沢はあのママとは大学時代からの同棲相手だったね。かなりの不良だったようだ。ママは暴走上がりだ。兄貴があの近くで組事務所を持っている。でも末端の組だ」
「でもよくM商事で採用したね?」
「これは、ママの話だが、あんたところの会長に女を紹介していたらしい」
「いやに詳しいな」
「いや、こちらもあのママとは面識がある」
 売春の関係だろう。
「これはおまけ」
 これは、暴走族仲間が言っていたが、と言ってポケットから写真を出す。男が3人と、ママが真ん中に写っている。オートバイに旗がかかっている。 
「この前に膝をついている男が行方不明だそうだ」
 おまけの方が大きい。
「実費は?」
「いや、そんなにかかっていないサービスしとくよ」
「柳沢が休んでいる。どこにいるか調べてくれ」
 そう言うと、新しく1万札を5枚置いた。
「そんなに張りこまなくていいぜ。これから団長の店に行く?」
「いや、急用がある」














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ガセネタ

 Kジャーナルの記者名で怪文書を作り、加瀬を個室に呼んで見せた。
「Kジャーナルといえば鈴木取締役と親しい事件屋でしたね?」
「ああ、まだ原稿段階だが、好意的に見せてもらった」
「見せてもらってもいいですか?」
「ああ、調査を任せようと思っているから」
 加瀬は食い入るように見ている。
「監査役が次回持ち込む予定の原稿だった。それがなぜ同業者に流れたのは分からないが」
「これでは会長が赤坂資金の中抜きをしていたということですね?」
「調査してみないとわからないが。だが、監査役がそう言い切るのであれば、ちゃんとした証拠を握っていたと考えられる」
 目で、鈴木取締役はと聞いている。
「これは会長には見せられないね」
「そうでしょうね」
「ここには監査役の事件にも会長派が絡んでいると警察が内定を始めたとあるがそこまでは」
 加瀬をここで使わせてもらう。彼は相談役を社長に合わせている。きっとこの内容を社長派に伝えるだろう。
 周平は現物をポケットにしまい込むと、惜しそうに見る加瀬に、
「Kジャーナル記者の在籍だけは確認してくれ」
 と部屋を出た。
 とにかく、柳沢をあぶりだすしかない。お手付きをするのは彼しかいない。ただ、舅の取締役も女が絡むとガードが甘くなる。
 屋上に上がると、マキの携帯に連絡を入れた。敢えて留守電に吹き込んだ。
「加瀬から情報が入る。これはこの前のお誘いの気持ちだけの礼です」
と。








 

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魚の小骨

 どうもまた薬を飲まされたようだ。カオルには注意していたが、薬を入れられた素振りは思い出せない。ただ今日は、一人でホワイトドームの2階で眠っていたようだ。
「団長は?」
 部屋に入ってきたケイ君に尋ねる。
「先ほど、カオルと病院に出かけたよ。もうすぐに目が覚めるからって携帯があった」
「また、薬を飲まされたみたいだ」
「今日のは団長だよ。俺は団長に睨まれて、独り寝なんだぜ。オムライスがフライパンに出来てるって」
 そう言いながら、ケイ君が器用に温めてくれる。
「あのサングラスの男について前回の料金の範囲で教えてやるよ」
 二人分を皿に分けると、ポケットからサングラスの男の写真を狭いテーブルに置く。
「貿易のような仕事をしている。事務所はよく変わっている。今は代官山にある。昨日のような客をひと月に一回連れてくる」
「売春が商売?」
「いや、取引先が多いようだ。昨日も、外人が多い。団長とはかなり古い」
「恋人?」
「寝たところは見たことはない。それだけだ」
 ケイ君の食べるのは早い。
「探偵のような仕事もするんだってね?」
「ああ何でもやるよ。サングラスの男を調べる?」 
「いや」
 しばらく考え込んだ。出来るだけ事情の分からない、信用できる男がほしい。
 周平はポケットから柳沢部長の写真を出して見せた。彼の住所もそこに書いた。今分かる範囲の情報も伝えた。どうも、この男が喉に刺さった魚の小骨のように感じている。
「周りの関係者を調べてくれないか?実費は請求してくれればいい」
 1万円札を10枚出した。
「高給だね」
「危ない奴だから気をつけろ」









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饗宴

 タクシーはこの細い路地は入れないので途中で降りる。
 ホワイトドームの中は何時になく騒がしい。ドアに手をやるが開かない。何か騙し討ちに会った雰囲気である。まだ、先程の轟の報告が耳鳴りのようになり続けている。加瀬の裏切りは頷けるが、相談役が社長と会うのはどういう流れになったのか。
「遅かったな」
 隙間が開いて、ケイ君の顔がのぞく。
 カウンターは薄暗いが、ずらりと15人ほどの頭が並んでいる。カウンターの上に若い外国の女が全裸で寝そべっている。目玉さんやでか鼻の馴染の顔はない。カウンターの中にはマント姿の団長がいる。カオルの姿もない。ちらりと団長の視線が周平に向いたように見えた。
「まず、飲んで。値段をつけてもいいんだよ」
 一番端に座らせて、周平に水割りを勧める。
「これは例のお金の謝礼の意味だから」
 サングラスをかけた男が、値踏みをした男を選んで裏のドアに連れて行く。そうすると、カウンターの上にまた新しい女が上がる。
「サングラスの男をよく見て」
 ケイ君が囁く。
 どこかで見た顔だ。
 次に、あのロシアの少女が上がった。彼女も驚いてみている。
 永遠と、0時まで続く。最後は空いた席に、でか鼻らが座っている。大方の客はかたずいたようだ。サングラスの男が札ビラを団長に渡している。
「あの男が、唯一昔の団長を知っている。手術代も立て替えて貰ったと聞いた。思い出せないようだね。ということは団長との縁はなかったということだよ」
「昔あったような」
「ならいい。今日はそのくらいにしておけよ。多少調べているから」
 そろそろ身内の打ち上げになるようである。裏のドアが開いて、目玉さん達が入ってくる。カオルが背中から飛びついてくる。サングラスの男と団長の姿がない。









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仁義

 留守電の主は、ケイ君だった。今晩手が空いたら、ホワイトドームに来いよという伝言だ。
 時計を見ると、9時を回っている。連絡があったのは、8時過ぎだ。家に電話を入れるが、誰も出てくる気配がない。今度の映子の浮気旅行は長いようだ。
 タクシーを走らせて、30分の距離だ。途中で轟から携帯が入る。
「社長派からのお誘いでしたね」
 轟があの場所のどこかにいたようだ。
「国崎さんは読み込み済みだったという訳?」
「まあ、そういうところ」
「この動きは、咎められるのかな?」
「いや、成り行きにってな感じかな」
「あの追突の車見つけたぜ。ラブホテルの送迎者用の車だ。あの賭博場に出入りしているチンピラが使っている。これは俺の手柄じゃない。国崎さんのルートで見つけた。それで、刑事がラブホテルに」
「逮捕した?」
「いや、国崎さん得意の脅しだよ。あまり荒立てるのもよくないようだ」
「今はどこから?」
「2件目のスナック。ここには入れないんで、寒空にベンチでウイスキーをやっている」
「包帯は?」
「無理矢理外した。目立つものなあ。もう一つ報告だ。あんたところの部下の加瀬がとんでもない男を連れて入ったぜ。この報告は例によって、まだ上には上げない。二人だけの秘密だ」
 どうも二人だけの仁義のようだ。
「相談役だ」







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誘い

 マキから今度は反対に呼び出しがあった。
 銀座のクラブの一つだが、少し中心地から離れている。でも顔のささない店としては繁盛しているようである。
「珍しいね。いつものホテルのレストランじゃなくて」
「そんなにセックス好きじゃなくってよ」
 今日はOLらしくない派手な夜の女の格好だ。
「たまには、私のお力にもなってよ」
 半ば強引に間仕切りのある一角に案内する。
 田上専務に、社長の顔が見える。
「鈴木君は彼女の友達なんだってね。めったに話したこともなかったが」
 社長が鷹揚に周平の肩を叩く。
「今度は、君に今の部を任せたいと、おっしゃられている」
 田上専務の顔がいわくありげに歪んでいる。
「マキ君の評価も高い」
「いえ、まだまだひよっこですよ」
「そんなことはないよ。手が早いんだから」
 マキが口をはさむ。
「今度この店を彼女がするそうだ」
 とうとう社長からグラブの資金を引き出したのだろうか。すっかり、ママ気取りだ。
「君の舅は少し現場に出てもらおうと考えている。会長も相談役のポジションがもうすぐ空くからね」
 これはどうやら監査役という駒を失ったことを言っているようである。どうもそんな簡単な成り行きではなさそうだが。どうも、とんでもない危険なところに捨石されたようである。どんな言質も取られないことだ。
 話は終わったようだ。女の子が3人入ってきてソファに座る。マキは当然のように社長のそばに掛ける。この姿は、会長からクラブを買って貰った、映子の実母親のママそっくりである。ポケットの携帯のバイブレターが震える。周平はわざとらしく覗き込んで、
「これから談合に呼ばれました」
と立ち上がった。










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捨石

 Kジャーナルの黒崎は封筒を受け取ると、中身が分かっているかのように、そのまま印刷の方に回した。3日後、記者田辺一郎のペンネームで貧相な月刊誌が発売された。それでも、公称5万部の発刊らしい。
 刷り上がった現物を舅の取締役のテーブルの上で見せられた。
「この情報は?」
 周平が田辺一郎であることを知っているはずだ。それでも用心して、部屋の中を見渡した。取締役の執務室で、秘書は入れていない。
「黒崎さんのところです」
「それは分かっている」
「話し合いはできてないのですか?」
 これは周平の本音である。黒崎のところに送ったのは取締役だ。
「言わんとすることは分かっている。今彼とも微妙なのだ」
「このままでは、私もどちらに歩いて行っていいのか分かりません」
 取締役はテーブルをコツコツと単調に叩く。
「あの日までは、確かに相談役側にいた。だが、監査役が殺され、今回この記事が出た。判断が大きく狂ってきている。それは黒崎さんも同じだ」
「よく分かりませんね」
「会長が動き出す。この記事が脅しだよ」
「警察の動きを会長は独自のルートで止めた。それを黒崎さんが突いた。柳沢は能無しだ。そんな男と比べられるとは落ちぶれたものさ」
「この記事は?」
「M商事の事業をあのベンチャーに移せと言っている。これは、黒崎さんのバックの意志だ」
「バック?」
「詳しくまだ分からない。君は私の大切な捨石なんだ。この捨石が生き残りを決める。ある意味では黒崎さんにとっても大切な捨石だ。きっと君はその野獣の感で生きる場を見つける」














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肩代わり

 ここ3日間、柳沢の住むゲーム賭博場を張るが、轟の言う衝突痕のある車は見つからない。柳沢の後姿も、ママの兄の顔も確認した。
 轟は警察に届け出したが、それ以降の発表はない。轟にママの兄の顔の確認をしたが、別人のようだという。もちろん、柳沢の写真も見せたが首を横に振った。加瀬にも業界誌の編集長を訪ねさせたが、監査役が一人で記者と会って、手渡したのが赤坂開発で多額の不明金が出たというまだ後ろが続くような文面だったという。
 そんな時に、国崎から携帯が入って小林と赤坂のホテルで会うようにという指示であった。
 ホテルのロビーに入ると、小林が頭を下げている姿にぶつかった。
「今のは?」
「あれがうちの親分ですよ」
 思ったより小柄で貧相な体格に見えた。
「今やベンチャーの時の人さ」
 笑いながら、名刺を渡す。
「今度この会社の社長になりました」
 ファイナンス会社とある。
「今度は金融会社ですか?」
「ええ、K開発の役員は?」
「お払い箱です。あれは今度R開発として社名変更して上場をします」
「なんだか慌ただしい会社ですね?」
「私は上場の銘柄ではないですからね」
 気軽に笑う。このベンチャーの社長に会ったのはこの時が始めてある。
「これは原稿です。これをKジャーナルであなたの名前で発表してください」
 ありふれた茶封筒に入っている。
「私のことは金融会社のKとでもしておいてくださいね」
 なんとM商事の赤坂開発をある会社が肩代わりしてゆくとある。
「どういうことですか?」
 少しKジャーナルの記者の気持ちになっている。
「上で決めたことだからわかりません。渡しましたよ」










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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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