夢追い旅 2017年05月

ピーナッツ

 この事件が片付いたらM商事を辞めようかという気になっている。もうここですることはない。かといって、旗手社長のところに行くか、ホワイトドームのマスターになるかは全く見えないでいる。一時あった熱病のような出世欲も嘘のようになくなってしまっている。ただ最近は若い時の伯母の顔ばかりが浮かぶ。時々そんな気持ちを飲みながら団長に話したことがあった。
 旗手社長はやはりあの代議士に任せることを決めたようだ。それで今日は赤坂の料亭で二人が会うことになっている。だが形式は周平とあの秘書の予約を入れた料亭の個室で行われる。周平は相談役に黒崎に呼ばれたと会社を早めに出た。
 女将の酌で黒子の二人が飲んでいると、双方に同時に携帯が入る。その合図で女将が席を外す。襖が両側から開いて代議士と旗手社長が同時に入ってくる。握手をすると何か話してわずか5分の会談だ。ミーが後ろからいつもより大きな黒革の鞄を抱えて畳の上に置くと、そのまま出て行ってしまう。周平が清算に連絡を入れている前に代議士は秘書と持ってきていた黒革の鞄とすり替え出てゆく。それを待っていたようにミーが入ってきて空の黒革の鞄を持ち上げる。
「社長は?」
「大阪に出かけたわよ」
「いくら入っていた?」
 最近はそんなことを聞ける仲になっていた。
「ピーナッツが10個よ」
「これは?」
「認可のお礼よ」
「そんなに凄い認可か?」
「おそらくしばらく独占で仕事ができると言ってたわ」
 どうも表の仕事のようだ。でも黒崎は絡んでいないようだ。
「これから富士山に走らない?」
 ノーは許さないという響きがある。
「車に社長から私達にピーナッツ2個貰っているの」





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後始末

 舅は片足を切断することに決まった。
 それで臨時の人事移動があった。相談役の息子が部長となって、周平が不動産事業部課長を兼務することになった。相談役からは実際の作業の推進をするように直接依頼があった。
「これからどうすれば?」
 部長室で息子から声をかけられた。
「まず、これからSハウスに向かいます。200億で赤坂の買い付けを貰うことになっています。その足でS銀行に向かい、融資の担保抹消の依頼をするのです」
「でも外してくれないのでは?」
「200憶では無理です。でも前もって話を入れてあるので、条件が出ると思います」
 ここまでは舅が根回しを終えている。
「それからM銀行の頭取に予約を入れていますので会います」
「M銀行の条件が出るわけだな?」
「条件はすでに相談役と聞いています。その準備に入るわけです。でも、ここは我々では役不足なので頭取に任せます。不動産事業部としては取引書類をまとめる作業を今日から始めます。問題は赤坂の不明資金の解明です。ここまでは不動産事業部長の仕事ですね」
「とは言っても?」
「不明金の始末をしないと、M銀行もハイとは言いませんよ。そのためにすでに裏口座を引き上げる用意はしています」
 これは藤尾が作業を約束してくれている。
「なんでも調べているんだな」
「これが本来の調査部の仕事なんです。会長はこの調査部を利用して社長になり会長になりました。社長になる人はここをしっかり押さえていないとダメです」
 あなたは次の次社長なのですよと心の中でつぶやく。


















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裏取引

 団長がケイ君を連れて京都に出かけた。
「夢の中でぼんやりと風景が見えるの」
 出掛けにそんな言葉が耳について離れない。
 周平はカオルに顔を見せて、遅刻をして黒崎の事務所にでた。ソファに轟が座っている。
「昨日車の中で会長と会った」
 黒崎がぼそぼそ言い出す。この人の動きはいつも謎である。
「会長が取引を言い出した」
「引退しますか?」
「そうだ。M銀行の頭取とも話をしたようだ。だが条件が難しい」
 腕を組んで天井を見ている。
「まず、柳沢を逮捕させる」
「脅されているんですね?」
「のようだ。それで轟に例のチンピラの毒殺に柳沢が絡んでいる情報をタレこみさせる」
「例の車の衝突痕を出すんですね。監査役の事故と繋げる?」
「今なら引っ張りますわ」
 と轟が口を挟む。
「加瀬まで?」
「いや少し時間を稼ぐ。その間に会長引退の道を作る」
「でも、赤坂の不明金の問題も出てきますが?」
「まず、柳沢だ」
 崩れる時は何もかもが同時におこる。それが予想できない。






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落とし穴

 旗手社長から直接携帯が入った。
「今どこか?」
「M商事にいますが?」
「出れるか?」
「いいですよ」
「会社の前に15分でミーの車を着ける乗ってくれ。詳しくはミーから聞いてくれ」
 周平は慌てて上着を着ると外に出る。幸せなことに、最近は直接指示を受ける上司がいない。玄関に出ると、もうミーの車が入ってくる。
「どうしたんだ?」
「早く乗って走りながら話す」
「これから会うのはね、旗手社長の友達の代議士なの。なかなかの曲者なんだけど今回の政界ルートに異議ありと言っているのよ。話を聞いてほしいとのこと」
 そう言うなり、東京駅の丸内側を細い路地を入ってゆく。
「ミーか。時間がないから手短に言うからな」
 周平の名刺もテーブルに置いたままでしゃべり始める。
「社長に政界ルートの話を聞いたが不味いぜ。未公開株の件はもう有名になっとるぞ。彼奴がすべて配分を決めると自分の金のことのようにやっておるわ」
「それは不味いですね。でもどうすれば?」
「ルートのボスを教えるからそこを通じて渡すんだ。でないと本当に渡っているかどうかも分からん。それだけならいいが、そこからややこしいことが起こるかもしれん」
 そこまで言うともう立ち上がっている。
 テーブルに請求書だけ残っている。
「突風のような人だな」
「でも一理あるわ。これは周平の言葉で伝えるのよ」




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小さく見えた

 嫌な予感がして、轟に柳沢の張り込みを頼んで、ケイ君には記者のねぐらとなっているアパートに再び隠しカメラを取り付けてもらった。あのねぐらについては轟はどんな作業をしているかは明かさない。どうもこれは黒崎との契約なのだろう。
 休みの今日は2階の古い物干しを潰して部屋を増築する工事に入っている。どうもこのあたりは増改築未登記は当たり前のことのようだ。フランケンの友達が3人来て朝から鋸を引いている。せめて、カオル母子の部屋を作ろうと周平が提案した。団長とでか鼻さん達はキャバレー公演で朝から出ている。カオルの代役で17歳の家出少女が参加している。
 カウンターには早くも常連が3人勝手に入って飲んでいる。
「引っかかったぜ!」
 ケイ君がカメラを持って入ってきた。
 カメラを再生して見せてくれる。
「時間は22時05分、ドアをこじ開けて侵入。ほら柳沢の顔だろ?」
 間違いない。
「部屋を特定するためにアイドルのブロマイドを張っておいた。もちろんセットした時に撮影もロシアの少女に頼んだ。会いたがっていたぜ」
 ということは轟はどこかでまかれたのだろう。
 周平と記者が同一人物とはまだ気づいていない。
 ケイ君は冷蔵庫からビールの小瓶を二本出してきてあける。
「ケイ君も何かまともな仕事についてはどうかな?」
「それや無理だぜ!」
「産まれてくる子供のおじさんだからな」
「おじさんにしてくれるわけ?いつまでもそうやなあ」
 周平はポケットから1万札を2枚出す。
「でも心配なんだな。昨日もカオル覗いたがなんだか半分くらいに小さくなって見えたさ」
「ああ心配だよ」
 ケイ君には本音で話せる。









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導火線

 舅が朝、五反田の駅で何者かに突き飛ばされ重体の連絡を相談役から受けた。そのままタクシーを拾って病院に向かう。
 病院に着いた頃は応急手術は済んでいて、警察の聴衆も終わった後でベットに横たわっていて意識もあるようだった。
「どうしたんですか?」
「いや、押されたんだ」
「相手は?」
「分からん」
「足が入ってきた電車に跳ねられたようで当分歩けない。だが、おそらく柳沢だと思う」
「警察に?」
「いや。確認したわけでもないので言ってはいない」
「あの日二人でずいぶん話されてたようですが?」
「奴は狂っている。マドンナを隠したのも、自分を追い詰めているのも僕だと思い込んでいる」
 舅の目も周平から見ると異常だ。
「君も気を付けた方がいい。奴は僕が指揮をして君を動かしていると思っている。それとKジャーナルの記者を調べている。すごく怯えている」
「どんな話をしたんですか?」
「話じゃない。マドンナから手を引けとか赤坂から手を引けとか正常じゃない。あの調子なら会長も逃げ腰になっていると思う。いや、脅しているかもな。根っからのチンピラだ」
「監査役の事故死の件、チンピラの毒殺、加瀬の自殺偽装すべて彼が絡んでいます。そもそもお二人が絡んだ藤尾さんの強姦偽装から事件は始まっているのですよ。もともと藤尾さんをはめる絵を描いたのは部長です。柳沢はすでに強姦していたマドンナの写真を餌にひきこんだ。知っていたんですね?」
 舅はしばらく黙ったままで、
「誰に聞いた?」
「マドンナです」












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指示

 ミーから携帯が入りNビルの旗手社長の部屋に呼ばれた。
「赤坂の方は?」
 書類を目を通している社長が顔を上げて聞く。ミーは二人分のコーヒーを入れてテーブルに乗せる。
「Sハウスに正式に指値の依頼書を出すことを役員会で決めました。Sハウスには伝わっているかと思いますが?」
「社長からどうすると言ってきたのさ」
 Sハウスには周平が代理で依頼書を届けている。
「金額はどうする?」
「100億から社内の根回しをしていますが、200憶が妥当かと」
「よし、段取りにかかるようにSハウスには伝えよう。だがS銀行が200憶では抹消には応じないだろう?」
 旗手社長は別の書類に印鑑を押しながら俯いて話を続ける。ミーは新しいスーツを出してきて、着せ替える準備をしている。
「M銀行頭取は条件付きで運転資金を出すと言っています」
「会長の退任か」
 スーツのズボンの履き替えをミーが手伝う。
「未公開株の政界ルートだがな、与党と野党を別建てにしてと思うんだが?」
「小林さんから」
とミーがレターを渡す。
「小林君がな、ルートの一部を任せてほしいというのだが、黒崎さんは反対している。お金の件は信用がない」
「私もそう思います」
 ミーが同意する。
「とにかく一度あの代議士に会って彼の意見も聞こう。二人で行っておいてくれ」
と言いながらもうコートを手に立ち上がる。
「その時あの国の土地の件も聞きておくんだ」










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家族

 薄暗くて長い廊下を抜けてカオルの病室に入る。まだ、朝食の最中の患者もいる女性専用の大部屋だ。
「来てくれた!」
 べそをかいたようなカオルの顔がある。
「どう?」
 団長が心配そうに言う。
「狐が来たからもう元気!」
「先生からも言われたけど、しばらくここにいた方がいいわよ」
 首を激しく振る。
「今日はいい話を持ってきたの。駄々をこねないで」
 団長は周平がサインと判を押した婚姻届を広げて預かっている小さな印鑑を出す。
「結婚してくれるんだ!へえ、狐の名前田辺周平というのね?」
「カオルは吉川薫か」
「この印鑑と戸籍謄本が服に縫い付けてあったそうよ」
 団長がカオルを起こしてボールペンを持たせる。
「これで生まれて来た子もちゃんと籍に入れるわ。名前も考えないとね」
「タナベカオルか」
 カオルが何度も繰り返しながら絵文字のような字を書く。
 ひとしきりはしゃいでいたかと思うと、いつの間にかうとうとしている。周平と団長は娘を見舞いに来た夫婦のように先生に挨拶をして区役所に続く路地を歩き続ける。
「あの押入れの金を使ってくれ」
「あの黒革の鞄ね」
「1000万ある。やましい金じゃない」
「いいの?」
「これからはすべて3人、いや4人のものさ」
「結婚するからどこか二人は部屋を借りないとね」
「だめだ。4人で暮らす」
 なんだかこれだけは崩せないと周平は思った。














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小さな幸

 藤尾の地上げ事務所から帰りがけにマキの携帯に留守電を入れた。周平がホワイトドームの前に来た時にさわめきの中からマキの声がした。
「マドンナは?」
「私のマンションの近くに両親といるわよ」
「それならいい。柳沢に気を付けろと言っといてくれ」
 それだけで切った。時計を見ると9時を回っている。ドアを開けると、でか鼻さん達が一列に並んで飲んでいる。団長が黙ってビールの小瓶を出す。
「何か作ろうか?」
「特製の焼そばで、カオルは?」
「今日フランケンに病院に担いで行ってもらったのよ」
 そう言えばいつぞや棺桶を運ぶ大きな男がカウンターで飲んでいる。
「どうした?」
「急にもどしたのよ。お腹の子が心配なので病院に運んだの」
「それで?」
「つわりにしては早すぎるし取りあえず今日泊まって明日精密検査をしてもらう。このまま出産まで預かってもらおうかなと思ってるの周平は?」
「そのほうがいい」
「まだ子供は降ろしたほうがいいと言われているの」
 団長もビールの小瓶を開けて飲む。
「それと入籍もしないと子供の行き所がないわよ」
と言いながら婚姻届を引き出しから出してくる。
「明日遅刻できるかな?周平がカオルにサインさせてね。喜ぶから」
「分かった」

 









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手負いの野獣

 役員会議の中で会長派と社長派が紛糾した。舅が赤坂の裏口座の提出を求めたのである。これに社長が合意をしたが、会長はそんな口座は見たことがないとうそぶいた。柳沢も藤尾から引き渡しを受けたことがないと回答。これについて相談役が調査を進めてS銀行に依頼すると約束した。柳沢は逆に田上専務に組合の裏口座の提出を求め、これについても存在しないと逃げに出た。これについても相談役が調査を約束した。  その二つの難問がそのまま周平の肩にかかってきている。何とも頼りない経営陣だ。だがどちらも周平にはある程度の目途を持っている。  舅の目が虚ろだ。  逆に柳沢の目が燃えている。追い詰められた野獣の目だ。  二人が応接に入って出てこない。ともに仕掛けあったと信じているようだ。その間に藤尾を呼び出して赤坂の地上げ事務所で会うことにした。 「見ましたよ。大胆な記事書きましたな」 相変わらずコップ酒を飲んでいる。 「あの裏口座で確認したいことが?会社名が消えていたのだけど?」 「ああ、あれは使っている地上げ屋ですわ。今はこちらの仕事をしてもろてますがな」 「名義変更は?」 「おそらくそのままやろうな。通帳とカードは渡したが、印鑑はもともとその会社のもやから。でもこれも社員の名前で作った裏口座やさかい」 「記帳内容の依頼を銀行にかけたいのでお願いできますか?」 「いいですよ。銀行は私がついていきますわ。作成の時もそうでしたからな」 「柳沢に注意してください」  ここまで追い詰められたら何をするか分からない。

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燻りだす

 匿名で藤尾の記事をKジャーナルが載せた。その後の赤坂について不良債権としてM商事が1000憶の負債を抱えてるという内容だ。これはすでに前に周平が書き上げていたのを活字にしたのだ。今回は使途不明金がこの不良債権に潜り込んでいるという藤尾の匿名の告発の形になっている。大胆に裏口座の銀行支店名まで公表されている。これを受けた形で舅が役員会議に赤坂の売却稟議を上げた。柳沢も参考人で呼ばれている。
 同日、やくざの兄貴の参考人として妹が警察に呼ばれている。
 周平は轟を呼び出して新橋の喫茶店で最近の進捗を聞いている。
「朝から焼きそばとビールかい?」
「熱海から五反田まで戻って飲んでる暇もなかったんでね。それに警察の方には元デカを張り付けた」
「熱海の毒殺のチンピラの調べがだいぶ進んでいるようや。妹も共犯とにらんでいるね。ただどうして殺されたのがはっきりしていない。柳沢の名前は出ていないようや」
「マドンナは?」
「おそらく半月前から準備していたようや。管理人の話ならかなり大胆に大ごみを出していたそうや。本人は模様替えをするといってたらしい」
「覚悟の上の引っ越しだな。最後の荷物は引っ越し業者ではなく身内が昨夜に運び出したようだ。行先はつかんでるようだな?」
 軽く頷いた。
「マドンナの実家も調べたが、こちらは2か月の前に引っ越ししてしまっている」
「舅が慌てていたよ」
「分かるな。女を好きになるとこうなるんや。俺も今の彼女も金の切れ目が縁の切れ目や分かっているさ」
 ぶつぶつ言いながらもう1本ビールを頼んでいる。
「しばらく柳沢を張ってくれないか?次には柳沢をひっぱり出す。これは黒崎さんところから金が出るように手配するからさ」


















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ラインを外れる

 マドンナの退職届で社内は持ちきりだ。
 轟から昨夜マドンナのいう熱海のホテルの状況の確認が取れたという報告と、今朝はマドンナがマンションを引っ越しを終えたとの連絡が入った。彼女の引越先はマキに聞けば心配ない。
 突然慌てた声で舅から内線が入り、不動産事業部の個室に呼ばれる。
「どうしたのです?」
 舅らしくない取り乱し方である。
「マドンナが・・・」
「本人から話はなかったのですか?」
「留守電が入っていた。それで朝一番マンションを覗いてみた。もぬけの殻だ」
「柳沢は?」
「先ほど会社に電話を入れた。向こうも慌てていた」
 周平は少し意地悪く、
「どんな話し合いになっていたのです?」
ととぼけて聞いた。
 舅は吸いさしの煙草を荒々しく揉み消す。
「入籍の準備もしていた。マンションも買った。後は柳沢を葬るだけだった」
「柳沢のところに行ったのでは?」
「それはない」
「親子ほど年が違うんですよ?余程彼女自身が愛していないと難しいように思いますが」
 昔の舅にこんな口をきくことはできなかった。彼も許さないだろう。
「今は周平の方が情報力は上だ。調べてくれないか?」
「心当たりを調べてみますよ。それより相談役と次の戦略を話されているんですか?」
「いや、妙に慎重になっている」
 やはり相談役は舅と距離を置きだしている。
「赤坂の100億円での処分をそちらから取締役会に上げてもらいませんか?」
「どうして?」
「Sハウスに意思表明しないと話は消えますよ」
「分かった」
 舅は浮足立ってしまっている。

















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根回し

 周平がSハウスの社長と会って赤坂の指値の話を持って帰ったことになった。黒崎と相談で100億という数字を出した。今日はそれで不動産事業部で会議が行われている。結論が出せることはないが、舅は評価はこれでも十分だという説を続けている。そこになぜ1000億の投資が100億になったのかについて調査をしている。それは全体の中で不透明な会計が行われているという指摘だ。
 久しぶりに相談役の部屋に呼ばれた。
「今朝M銀行の頭取から電話が入った。それで君が聞いてきた100億の話もしたよ」
 どうも黒崎も手早く動いたようだ。
「評価としてはそんなものだろうということだよ。買い手としては今のところSハウスしか考えられないから慎重に扱うようにと言われている。君は感触としては?」
 相談役は人はいいが自分の信念というのに欠ける。
「でもS銀行はそんな値段で担保は外しませんよ」
「頭取も同じことを言われた。この際会長を引退させる。社長も抱き合わせする。この辺をまとめたらM銀行もメインとして資金応援も可能になると」
「その話は課長の私では荷が重すぎますよ。鈴木取締役は?」
「いや、頭取が今回は伏せておくようにとのことだ」
 会長の処分と絡むと判断しているのだろう。舅は会長の懐刀だった男である。それにこの動きには黒崎の影が見え隠れする。旗手社長が柱だが黒崎が得意の根回しをしている。舅は確かに一歩先を歩いてここにたどり着いたが、でも手持ちの駒が少なすぎる。マドンナに捨てられる舅は見たくないと思う。男の目でしか女を見れていないのだ。
「もう一度Sハウスの社長に会えるか?」
「材料が用意できますか?」
「本社の建替えを任せるというのはどうかな?」
 この話はここ数年上がっているが、銀行の融資が決まらないでいたのだ。どうもこれもM銀行の案のようだ。
「しばらく内緒にしておいてください」











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密室

 カオルのお腹が目立つようになってきた。今日は団長が病院に付き添っている。ホワイトドームは誰がいなくてもお客が番をする。周平はカオルの写真を撮りだしている。生まれてくる子供に見せる母親の写真と周平の写真だ。どういうわけか団長は反対もせずにシャッターを押してくれたりする。
 サングラスの太田黒は日本から姿を消したようだ。
 周平は朝からSハウスに赤坂の売買の交渉に出かけていることになっている。どちらに転んでもこの件は旗手社長が時期を握っている。
 周平は昼過ぎにネクタイを締めてNビルに行く。旗手社長が盛岡から戻ってくるのである。黒崎も小林も呼ばれている。
 ミーはよそよそしく周平の紅茶を入れて部屋をさがる。
「専務から連絡が入ったが、不動産子会社の上場はほぼ決まったようだ。いよいよ赤坂の処理を始めなければならなくなったよ」
 機嫌がよい。
 だが華々しい舞台にはここにいるものは上がれない。すべて黒子だ。
「赤坂がらみはこの際すべて小林君のところに移してくれ。金がいる。赤坂か未公開株かどちらかで資金を作る」
「M商事も腹をくくったと思います」
 率直な意見を述べる。
「だったら1度Sハウスに指値をさせれば?」
「いくらで?」
「10分の2の200億でどうだろ?」
「それでは」
「計算ではどうなる?今までの儲けと差し引いて会長が食ってしまった200憶だけが食い込むじゃないか」
 旗手社長は計算をしているのだ。黒崎さんそれでM銀行と話をして下さい」
「S銀行のほうは?」
「Sハウスの新規貸し付けの方がメリットは大きい。それにS銀行の頭取はこのからくりはお見通しだから」





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告白

「もともと不動産事業部に入った歓迎会の日に柳沢に薬を飲ませれて写真を撮られたのです。それで何度もホテルに付き合うようになりました。彼はいつも写真をばらまくと」
 柳沢なら考えられることである。
「藤尾さんの時はすまないと思っています。でもあの時はそれしか思いつかなかった」
「鈴木取締役が絡んでいたと?」
「あの頃は柳沢の上司が鈴木部長だったのです。その時に秘書課に転籍を条件に付けたのは私です」
「君は部長を愛している?」
 これは是非聞いてみたいことだった。俯いていたが、
「どちらも愛していません。ただ守ってくれるのは鈴木部長だと。でもいつまでも関係を続けていられないと、マキさんに打ち明けたのです。そのためには自分の働きの場を変えようと。ただ今は写真をまかれるだけでは済まない殺人の容疑がかかっているとマキさんに言われているのです」
「熱海の温泉を尾行したことは?」
「柳沢は知りませんが、私はバックミラーで周平さんの顔を見ています」
「あの貸し風呂で柳沢は抜け出して現場に行った?」
「はい。実は気分が悪いとホテルの人を呼んでしばらく・・・」
「証言がとれるように考えたのですね?」
「はい」
「柳沢は迎えに来ていた車で現場を往復しています」
「あのワゴン?」
「はい」
「この話はしばらく伏せておいてください」
 この使い道はまだ考えがつかないが、轟に裏だけ取らそうと思った。








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真相の足掛かり

「今晩店に来ない?」
 珍しい誘いがマキから入った。今日は朝からミーは盛岡に出かけている。
 周平は溜まっていた談合の書類を夜までに整理して、銀座の少し街はずれにあるマキのクラブに到着した。
「おめでとう。遅くなったがね」
「いいのよ」
 マキがソファーに案内してくれる。
「店は?」
「ぼちぼちね。社長もあまり顔を見せなくなったし、毎日のように来ていた田上専務はなしのつぶて。でも独り立ちするにはいい機会」
 店の女の子が二人両側に座る。マキは忙しそうに客を迎えに立ち上がる。
「ごめんね、面白い人に会わせてあげるわ」
 マキが女の子を連れて席に戻ってくる。
「マドンナ!」
「そんなに固くならなくていいのよ。彼女、時々アルバイトで入ってもらっている。もともと同じ秘書課だったので親しいのよ」
 確かに同じ秘書課にいた。
「周平に会いたいというのは彼女のリクエストよ。しばらく席を外すね」
 何から話してよいのか戸惑う。
「柳沢のことも鈴木のこともよくご存じだと思います。柳沢のママに平手打ちをされたときもいましたね。何も弁解しません。でも加瀬さんの件は私はまさかあんなことになるとは思ってもいなかった」
「でも鞄もロープも揃えましたね?」
「はい。これは別れるという柳沢の頼みを聞いただけです」
「柳沢と別れる?彼と組んで藤尾さんを罠に掛けましたね?」
「脅されていたのです。でも信じてもらえませんね」
 まるで別人のようなマドンナである。


























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政界ルート

 あの日から団長はもう太田黒の話はしなくなった。
 やくざの兄貴は拘留期間が延ばされた。その間に事務所にもがさ入れが入った。こういう報告は轟が詳細に入れてくる。
 周平は最近はミーと行動することが多くなった。M商事が終わってNビルの秘書室に出かけて二人で政治家のリストの整理をする。まず顔とプロフィールを覚える。それからランク付をしてゆく。ピーナツのマークを付けてゆくのだ。それをミーが旗手社長に届けて修正が入ってくる。
 9時を過ぎるとミーはブランディを飲み始める。周平にはビールの小瓶を買ってくれている。旗手社長は連日盛岡に出かけている。
「盛岡に彼女でもいるのかい?」
 冗談で聞いてみる。休みにはミーも泊りに出かけている。
「山を買い込んでいるのよ。牧場とスキー場を作るらしいよ。高層ビルの温泉ホテルもできるわ」
「事業かな?」
「趣味が半分ね」
「で周平どうするの?」
「そうもいかないさ」
 転職のことを言っているのだ。
「その会社で偉くなりたい?」
「いや、行きがかり上今は抜けられない」
「男の人って不思議ね?」
「君もその仲間だぜ」
「私は女、それ以外ではないよ。だから抱いてほしいよ。今夜泊まらない?」
 その言葉を聞きながら団長とカオルの顔を浮かべている。もし二人と会っていなかったらミーともっと深い間になっていたと思う。どこかに気の許せる同性というのがあるようだ。だが今の仕事は嫌いではない。
「明日はこの人と会ってほしいと言われている」
 ミーが写真を抓む。









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邂逅

 今日は団長と代官山に出かける。デートではない。団長の交渉で太田黒が会うと伝えてきたからだ。カオルは二人がホテルに行くと勘違いして朝から機嫌が悪い。それで別々にホワイトドームを出て代官山の路地の奥のレストランで会うことにした。
 すでに二人はテーブルに掛けていた。メニューは適当に頼んでもらった。
「久しぶりだな」
 サングラスの太田黒が周平を見て言った。
「しばらく日本を離れるので伝えることは伝える。あのリンチ事件は予定外のことだった。出国の打ち合わせで集まったのだ。それが警察に密告したものがメンバーにいた。今更名前を上げても仕方がない。彼女から田辺ともう一人はだめだという返事は貰っていた」
 確かに周平は松七五三聖子に誘われていてぐらついていた。それで故意に会わないようにしていた。団長には記憶はないようだ。
「リンチ事件が起こったのでばらばらに出国することになった。だから配置場所がみんな別々になった。5年がたってようやく彼女の部署が分かった」
 太田黒が1枚の新聞写真を広げた。
「ここに写っている兵士の一人が彼女だった。私はその頃領事館の使い走りをしていた。その頃は戦闘が激化していて会いに行けたものではなかった」
 団長が赤ワインのボトルを頼んだ。
「ある日爆撃にあった記事を見て会いに出かけた。すでに顔は原形をとどめていなかった。それに松七五三聖子でもなくなっていた」
「それで日本に連れ帰ってくれて整形手術をしてくれたわけね」
「彼女を愛してた?」
 あえて周平は尋ねた。
「ああ、だが受け止めてもらえなかったさ」
 2度乾杯を繰り返して太田黒は細い路地に消えて行った。









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仲間

 鞄の中身は1000万の札束だった。周平は無造作にホワイトドームの2階の戸棚に置いた。お金には無頓着だが、旗手社長の気持ちは伝わった。
 ミーに呼ばれて翌日旗手社長の代理で代議士のパーティに出ることになった。ホテルのパーティルームに行くことになった。旗手社長の招待名の葉書を受け付けで出すと、顔馴染になった秘書が丸テーブルに案内してくれる。舞台の中央のテーブルでテレビでよく見る代議士の顔やSハウスの社長の顔もある。
「秘書がこれから紹介する政治家は顔を覚えておいてね」
 ミーが注意する。
「メモなんか取ったらだめよ。後で写真を見せるから焼き付けるの」
 さっそく秘書が来て案内を始める。ミーはもう顔のようだ。冗談を言い合っている。周平は胸のカードを見比べて名刺を出すのが精一杯だ。与党だけではなく野党もいる。50枚の名刺がなくなる頃には汗だくになっている。当の代議士は少し遅れてやってきて、挨拶を済ませると周平の顔を見ると、
「今後協力関係でお願いするよ」
と馴れ馴れしく肩を叩いて出てゆく。
「演技だから」
 ミーが笑っている。どうもミーには子ども扱いだ。パーティの途中でミーが周平の袖を引っ張って立ち上がる。
まだ紹介する相手がいるようだ。パーティルームを出るとエレベーターに乗る。ポケットから部屋の鍵を取り出す。慣れた手つきで周平のズボンをずらす。
「旗手社長もここに来るとこうするの。これで仲間よ」





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ジャンル : 小説・文学

未公開株

 久しぶりに黒崎の事務所に呼ばれた。昨日のマドンナの騒動は手短に轟に伝えた。まさかすぐには黒崎に伝えることはないだろう。値打ちがつくまでじっくり温めるはずだ。
 ソファにすでに小林が掛けている。その横に一度見たことがる証券マンが黒崎と話している。
「今日は?」
「ちょっと応援してほしい」
「赤坂の?」
「いやあれはしばらく塩漬けだ。小林さん説明してくれよ」
 小林は子会社のファイナンスの社長をしてから気位が高くなっている。藤尾の話だ。
「今度グループの不動産の会社が上場する」
 藤尾が以前に部長をしていた会社だ。
「未公開株を配ることになった」
「これは慣例みたいなものさ」
 証券マンが説明する。黒崎は黙って煙草を吹かせている。
「財界ルートは旗手社長のとこでとなったが、政界ルートは私が面倒見ることになった。だが私が直接動くのは不味い。それで二人には手足で動いてもらいたい。まだ方法は決まっていないが旗手社長は政界ルートの元締めはあの代議士と言っている」
 赤坂の関係もあるし、次期総理の声も高い。
「二人はすぐに株の段取りに入ってくれ。彼とはもう少し話がある」
 二人が出て行ったのを確かめて、
「えらい信用されたもんだな」
と笑う。
「正式に社員で来ないかと言っている」
「旗手社長が?」
「これは気持ちだってさ」
 黒崎が黒革の鞄をテーブルに置く。










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ジャンル : 小説・文学

雌猫

 マドンナは急ぐ風もなく、タクシーを拾って赤坂のホテルに着ける。周平は前のタクシーを追いながら携帯を覗く。ケイ君からはまだ報告はない。尾行は肌に合わないようだ。彼女は一人でレストランに入ってコーヒーを頼む。待ち合わせしているのか。周平も背中になる位置に座って週刊誌を開く。
 あと10分で8時になる。柳沢とは別行動なのか。となるとここに現れるのは舅だ。どうもマドンナと舅と柳沢の関係が呑み込めない。
 入ってきたのは柳沢だ。
 その時にケイ君からメールだ。
「後ろの席にいる。柳沢をつけてきた」
 携帯の画面に文章が入る。だが彼の姿は見えない。
「少しやばいことになる。狐は精算してロビーに出た方がいい」
「どうして?」
 回答はない。そっとレシートを持って立ち上がる。その横を物凄い勢いで駆け込んできた女がいる。もう少しで飛ばされそうになる。レッジのそばの席にケイ君の顔が見える。ほんの瞬間の出来事だ。駆け込んできた女がいきなりマドンナにピンタを食らわす。柳沢が間に入る。店員も飛んでくる。
「この雌猫が!」
 マドンナはハンドバックで応酬しながら席を離れる。
 柳沢が女を取り押さえている。周平はロビーに出てくるマドンナの背中を追いかける。思い切って同じエレベータに乗り込む。さすがに動転しているのか、マドンナはランプばかり見ている。客室階で飛び出すように降りる。周平も後に続く。
 部屋のドアをノックする。そこから顔が半分覗く。ガウンに着替えている舅だ。
「さすがに暴走族のヘッドだけある」
 ケイ君のメールが入ってくる。









 

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跡継ぎ

 珍しく柳沢がM商事の廊下に現れた。
 人事部で調べてみたが、分譲マンション専門の不動産子会社の企画部長で都内にいるようだ。今日は周平の書いた記事で会長室に来たようである。この二人の関係はどこまで絡んでいるのかよく分からない。会長室に出入りする幹部はほとんど限られてきている。
 周平は携帯を入れてケイ君に柳沢の尾行を頼むことにした。周平はマドンナをマークしようと思う。
「手空いていますか?」
 最近時々相談役の息子が部屋を覗く。
 舅が使っていた部屋を応接代わりに使っている。課内の女性が気を使ってコーヒーを運んでくる。どちらかというとビールの小瓶を抜いて持ってきてもらう方が肌に合う。
「赤坂について解決の方法を探れと相談役に言われていますが課長はどう思います?」
「そちらの部長の見解は?」
 他人ごとに聞こえるがいずれあなたがこの会社を背負うのだ思うと力が抜ける。かといって舅のように次に掛ける気持ちも今はない。
「Sハウスの方は?」
「声をかけたが、火中の栗を拾うところまではいきませんね」
 息子は会社の歩き方からやり直しだ。
 内線が鳴る。どうやら柳沢が会長室から出てきたようだ。ケイ君にメールを入れる。
「部長は開発部の裏口座を持っているんですか?」
「そんなのあるのですか?」
「部長に聞いてください。この口座は初代の課長が赤坂案件の領収書の出せない売買の資金に使っていたのですよ。それが柳沢開発部長に引き継がれた。ここまでは調べられていますが、柳沢部長から会長に渡ったのかどうかは分かりません」
 おそらく舅はその口座の存在は知っているが彼の手元にはないはずだ。息子に伝えるということは暗に相談役に伝えることにもなる。舅であれば闇に葬りかねない。
 ケイ君からメールが入る。尾行を始めたとある。次はマドンナだ。柳沢に遅れること1時間後マドンナが定時に退社をした。周平は内線を受ける会社を飛び出した。











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罠をかける

 やくざの兄貴が任意同行で引っ張られた。この情報は轟から入った。
「どこからだ?」
 周平は相談役に赤坂の報告をして部屋を出たところだ。空いている応接室に移動しながら話しかける。
「黒崎さんにやくざの兄貴の件について説明した。これは金ずるだからな」
 それは轟との約束だ。彼は情報によってお金の多寡が決まっている。周平はもう少し曖昧な関係だ。最初は舅の部下として動いていたが、そのうちに黒崎の関係だけになった。今は旗手社長の意志を強く感じている。
「それで?」
「少し仕掛けてみようということになった」
「仕掛ける?」
「赤坂の地上げと繋げてくれということだ。この記事はそちらの仕事だぜ」
「材料は?」
「国崎さんに監査役の車にぶつけたチンピラの車の写真と、監査役の車の衝突痕の写真だ」
「それで証明できるのか?」
「証明などいらないさ。疑惑で十分ということだ」
 揺さぶりをかけようということである。それとここからは警察の仕事だというのだ。
「今日はいつ終わる?」
「早くて8時かな?」
「じゃあ、ホワイトドームで飲んでるさ」
「お気に入りだな」
「あの店はいい」
 確かに暇なときは周平などお構いなしにカウンターにとまっている。団長も妙に話が合うようだ。








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青春

「最近ケイ君見ないが?」
 10時過ぎにホワイトドームに戻る。赤坂の調査票をここ3日かけて作成していたのである。取りあえずM銀行に提出する体裁だけはできた。投下額合計に未購入部分だけは明白になった。ただ不可解なことが多すぎる。まず投下額と売買購入金額が全く合わない。
「今晩には戻るって電話があった」
 周平はカウンターの端に掛ける。まだ7人ほどがワイワイとしゃべって飲んでいる。
「どこに?」
「京都」
「まさか?」
「そのまさかよ。太田黒が電話を入れてきて、狐を思い出したって」
「怒ってない?」
「いいえ、なんだかどこかで会っていたような気になってたのよ」
 ビールの小瓶を抜いて渡す。
「私の横で写っていたのが狐だとはねえ。でもそれ以上は思い出せないのね」
 ちょうどドアが開いてばつの悪そうなケイ君の顔が覗く。
「裏切ったわけやないで!」
 周平は黙って椅子を譲る。
「ここが松七五三聖子の下宿だ」
 写真をカウンターに置く。団長は取り上げて見つめているが、記憶にはないようだ。彼女の下宿は2階にあって大きな瓦屋根に夏場は蒲団を出して月を見ながら寝たことがあった。周平もその友達もよく泊まったことがあった。できたのはその友達が先で、周平が割り込んだ形になった。いや二人彼氏のような関係だった。そこに太田黒が絡んできたという感じだった。
「私って誰とも寝る女だったのね?」
「いや俺たち二人だけだったと思う」
 それほど3人がいる時間は長かったように思う。
「私にも青春があったのね。でもこの話はカオルには内緒よ」









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見えないもの

 M商事の会長に変わってベンチャーの旗手社長の名前が経団連の副会長に上がった。
 相談役に頼まれて周平は朝から赤坂のM商事の未販売地と登記を現地で確認している。周平の課と不動産事業部で合同で10人体制で始めたが、日が暮れるころになっても、半分も進まない。これはM銀行に提出を求められている。
「少しいいかい?」
 周平の背中にジャンバー姿の轟が立っている。路地の細い道を抜けて赤坂見付の古い喫茶店に入る。
周平がコーヒーを頼むが、轟はビールの小瓶を頼んでいる。
「チンピラの死体は正式に毒殺と判定されたよ。近くにマドンナの黒革の鞄があった。警察は取りあえず押収して帰ったがそれほど重要なものとは見ていない」
「そうだろうな」
「そこまでは警察にはまだしゃべっていない。証拠がないからね」
 携帯が鳴ってここで解散するがいいかと尋ねてきた。取りあえず委員会の委員だから。それで周平もビールの小瓶を頼む。
「それが一つ黒革の鞄の中を刑事に見せてもらって、あの加瀬の首つりのロープの切れ端を見つけた。写真を撮って少し拝借した。それと加瀬のロープと比べた。同じものだ」
「やはり柳沢は絡んでいたんだな」
「そうだ。あの尾行は無駄ではなかった。ロープを買った店も見つけた。とても若い可愛い女の人が買ったので店員が覚えていた。店の防犯ビデオを元刑事に調べてもらうさ」
「マドンナは共犯だな」
「分からんね。なんでも決めつけないことにしている」
と言いながらポケットから小さく折りたたんだ謄本を出してくる。
「マドンナのマンションは分譲マンションだ。持ち主は鈴木取締役だぜ」
「まさか!」
「女は分からんぜ。女で身を持ち崩した俺が言うんだからな」
 轟は妙に自慢していう。











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吹き溜まり

 今日は休日だが団長とケイ君ら役者の面々は前衛劇場に朝から詰めている。周平は用意されていた朝ごはんをカオルに作って食べさせた。ちょっとした間隙を抜いてカオルが体を求めてくる。夏蝉のように少しの時間でも惜しむようなセックスである。
「もう寝た方がいいよ」
「一緒に寝て!」
 だがいつの間にか寝息がする。体力がなくなってきているようだ。蒲団を被せて店に降りる。
 目玉さんが座っていてビールを飲んでいる。
「みんなといかなかったんですか?」
「いや、今日の芝居には出番がないわ。それよりカオルは?」
「今寝ましたよ」
「狐はこれからどうするんや?」
 カオル達には周平はいつまでも詐欺師の狐なのだ。
「もちろん生まれてくる子の」
「気張らんとええで。カオルの子はみんなが面倒見る。ここにおる男達はみんなカオルの父親や。めくらのワシでも何度も抱いてもらった。狐の子でよかったいうもんや」
 周平も隣にかけてビールを開ける。
「カオルはいつから病院に?」
「そうやな。団長が来るもう少し前やったかな。母親が未熟なカオルを連れて病院に来とった。齢は二十歳くらいの時やったかな。時々売春でお金を稼いでたみたいやな。この辺りはそういう女の子が多かったわな。それがいつの間にか母の姿を見んようになったな」
 カウンターにカオルの写真を出してみせる。全裸の写真だ。
「ここの男はみんなこれを持っている。カオルが1000円で売っとった。みんなの恋人やったわ。それが団長と一緒に生活するようになった。ホワイトドームはどぶ川の吹き溜まりのようなとこやが、俺たちには最高の安息場所や」
 ひょっとしたら伯母にとっても新世界という町がそうだったのかと周平は思う。
 いつの間にかカウンターに電線の雀のように常連たちが並んでいる。みんな思い思いに飲み物を出してきて、あてに鋏を回してあけている。であるだけのお金をせんべいの空き瓶に入れてゆく。







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 旗手社長の携帯に電話を入れる。舅の話をそのまま伝えた。
「今2か所からSハウスに赤坂の土地の売りの話が来ている。その一つがM商事できっと不動産事業部のラインだろう。もう一つがS銀行からだそうだ。しばらく様子を見よう」
「パーティ券の話は?」
「ミーから聞いた。手配しておいた。ミーを抱いたかね?」
「まさか」
「彼奴の体はいいよ。一度抱いておくんだ。好みだって言ってたよ。今赤坂ため池のビルにいるんだが、ちょいと付き合わないか?」
 周平は腕時計を見る。6時を過ぎている。
「15分ほどで行けます」
「着いたら声をかける」
 周平は相談役の部屋を覗いて、談合があるので出ると伝えて外に出る。どうも最近は相談役の側近と見られているようだ。
 どうやらファイナンスの会社に来ているようだ。ため池の角地に来るとガラス張りのビルを見上げる。
「ここだ」
 屋台の中に引っ張られる。
「同じのを入れてやってよ」
 コップ酒に熱燗を入れてもらう。
「あまり似合わないですね」
「だろ?誰も見つけられないさ。創業の頃ここに連れってきてくれた社長がいるのさ。暇ができたらここで飲むようだ。初心忘れべからずだそうだ。このコップを手にすると身が引き締まる」
 周平は逆に通天閣の街が懐かしくなる。街がおぼろげながら映る。そして伯母の顔がいつまでも若いままで浮かんでくる。もう会わないと言われて頑なに守っている自分がそこに入る。
「君はいつまでM商事にいるんだね?」
「よく分からなくなってます」
「人生は短いよ。すべきことが山のようにある」
 何か自分に話しかけているような響きがある。
「日本を動かす。世界を動かす。それが夢だ」











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男と女

 会長の経団連副会長の推薦が取りやめになったという記事が一般紙に出た。それに合わせて社長が相談役を会長に提案しているかのような噂が流れている。田上専務が退院してきてその会議に出席している。彼も今のポジションを守るのに必死である。今は加瀬の自殺説が主流のようだが、まだブラックジャーナルの情報が信じられている。
「今手が空いているか?」
 舅からの内線である。
 不動産事業部に入ると、応接に通されてコーヒーが出る。
「待遇がいいですね?」
「君はもう部下ではないしね、それに強いラインを握っている」
「もうフラフラですよ。でも旗手社長はご存知でしょう?」
「ああ、だが信頼されなかった。彼の信頼がなければあのメンバーにいてもだめだ」
 そういうところが旗手社長と合わないのだろう。
「ところで相談だが、Sハウスと繋いでくれないか?」
「急にSハウスという名前が?」
「君の談合先で、旗手社長のメンバーでもあり、赤坂の隣接地を押さえている」
 どうやらかなり調べだしたようだ。
「あそこなら幹線道路に繋がるから欲しがる思うがね?」
「確かにそうですが、M商事の赤坂の土地はいわくつきですし、実際にまとまっていません」
「条件を付けてくれてもいいし、単価を叩かれてもやもえん」
 この土地の処分が大きな山になってきている。頭の中で旗手社長の顔が浮かぶ。その横の国の土地の話が漏れる前にたたきたいところだろう。
「談合先の部長でどこまで話になるか分かりませんが。ところでマドンナとは?」
「柳沢と私とどっちを取るか見ていたまえ」
 舅は柳沢がマドンナのマンションに出入りしていることも知っているようだ。そこまで賭ける必要があるのだろうか男と女のことは分からない。










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ミー

 やくざの兄貴が賭博の件で警察に上げられた。轟の情報では別件捜査のようである。
 旗手社長から携帯が入ってミーと一緒に前回の議員にもう一度革鞄を届けてくれということである。旗手社長は今岩手にいるようである。
 議員会館の前に車が止まっていて、ミーがスーツ姿にサングラスをして降りてくる。革鞄を受け取ろうとするが、がっしり抱えて話さない。目で先に入るように促す。
 やはり前の秘書が出てくる。前と違って目が笑っているようだ。また二人して革鞄を置いてトイレに立つ。
「そちらあっちだよ」
 周平が女トイレを指す。でも聞こえないように男子トイレに入る。そして急所をつかんでにたと笑う。
「あんたもつかんでみる?」
「まさか」
「そのまさかよ」
 応接に戻ると、議員本人が座っている。
 ミーが秘書の名刺を出す。
「こんな秘書さんならどこにでも連れて行きたくなるな」
 打ち解けている。どうやら話はまとまったようだ。
「来月にパーティがあるんだけどもね、秘書と話しておいてくれるかな?」
 そういうともう次の客のところに出かけてしまう。
 議員会館を出ると、ミーが車を走らせて六本木のマンションの地下に入る。
「セックスは求めないからお酒は付き合ってよ」
 部屋には大きな動物のぬいぐるみが並んでいる。
「私も社長と同じで信頼できないと組まない。互いに信頼するためには本当の姿も見せないとね。あなたにはなんというのかからっとした陰りがあるのよ。社長にも私にもある」
「幾つ?」
「25歳になったわ」








 

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落としどころ

「どうぞ」
 M銀行の頭取室に入る。
 ソファの両端に監査役と舅、反対側に黒崎が座って真ん中に頭取が掛けている。この体制なら周平は黒崎側に座ることになるだろう。
「そろそろ結論を出しませんか?」
 頭取が口を開く。
「もともと同じ穴の貉だったんですから、確かにいろいろ動きましたからねそれぞれが」
「そもそもS銀行の頭取とは話がついたのですか?」
 黒崎が口を開く。
「そうですね。S銀行さんも営業本部長を系列の不動産会社に送ります。赤坂はもともとこちらが始めだしたものですからね。ただ銀行が直接できないもので何社かに相談しました」
 淡々と話す。
「M商事もここまで来たら整理しないとと思いますが、会長も力をつけられて容易には降ろせないとこに来ています。それに当銀行の出向社長が役割を忘れて」
 ははあと力なく笑う。
「彼にも別の仕事で帰ってもらいます。とは言え」
「刑事事件まで起こしています」
 黒崎が監査役を始めとした事件について言っているようだ。
「そうです。それなりの落としどころが必要ですね。ただまだ公にできないことも多くあります。それにそんなにうまく解決できるかもわかりません。思いがけない時代の力が動いています。新しい人たちの力もついてきていますしね」
「思わない力とは?」
 相談役が初めて口をはさむ。
「一つはバブルですよ。日本は力以上に伸びすぎました。それに合わせて自由化の流れが止められません。まずこのメンバーでは停戦としましょう」
「止めれない流れも?」 
 黒崎が旗手社長たちの流れを指して言っている。
「それは仕方がないですよ。それが時代が求めているのなら」














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