夢追い旅 2017年06月

入社祝い

 未公開株の振り分けも始まったようである。これは融資も絡むので小林のところが担当する。周平は国有地払下げで事前に関係者と会い現金の引渡しも済ませている。ミーは小林からの裏会社の名義変更を担当している。小林はこれからは表の人間になると思い込んでいるようで機嫌がいいということだった。
 周平は今日初めて裏会社の新橋にある事務所に行く。ミーから渡された鍵を差し込む。
「開いているさ」
 中から聞きなれた声がする。
「なんだ藤尾さん」
 ソファーにもたれて弁当を手にビールを飲んでいる。
「ここは赤坂で上げた抱き合わせのビルなんだ。1階がこちらの会社の本社事務所で、上はそれぞれダミー会社の登記事務所さ。ところで裏会社の社長をやるらしいな」
「話が早いな?」
「ミーから聞いたよ。社長の名義が変わるって見せられた。それと小林の調査が無駄になったようだな」
「それもミーから?」
「いやそれはケイ君からだ。今彼に立退きの交渉を任せている。下手な地上げ屋よりうまいから」
 そう言って腕時計を覗きこむ。
「もう来る」
 と言った途端にケイ君の顔が覗く。手にビニール袋を抱えている。
「軽く入社祝いと思ってな」
「朝藤尾さんから呼ばれたんだ」
 さっそくテーブルの新聞紙を払いのけて缶ビールとワンカップが並ぶ。なんだかこんな会社は楽しそうだ。
「ところで狐はミーさんを抱いた?」
 真顔でケイ君が聞く。
「ケイ君ミーがタイプらしいや」
「やっぱり男?」
「ああ、胸はあるがポールは残っている」
「もうすぐそのポールさんも来るよ」








スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

一つの終わり

「会長がお話をしたいとのことですよ」
 4者会談を終えて戻ってきた顧問に声をかけられた。
 周平は会長室と向かう。会長と二人で話するのは今回が入社以来初めてだ。ほとんどが舅が同席していた。雲の上の人というイメージが強い。
「入ります」
「鈴木課長か?」
 会長はまだ離婚した鈴木姓で呼ぶ。面倒だから社内では相変わらず鈴木で通している。
 めっきり白髪が目立っていて別人のようだ。
「鈴木部長とは今も?」
「ほとんどやり取りはないです」
「そうか。赤坂は?」
「すべて完了しています」
「銀座のママがここに来たらしいが?」
「私が対応しました」
「何か言ってたかね?」
「私には出来かねる相談でした」
「彼奴は状況が分かっておらん!」
 そういう会長も同様のように周平には思える。
「君は黒崎君と懇意らしいが」
「いえ、これも鈴木部長の繋がりからで時々連絡入る程度の付き合いです」
「娘は子供ができたらしいが?」
 別れた妻は会長の実の娘だ。
「話は聞きましたがもう終わったことです。私も顧問に辞表を提出しています」
「そうかね。すべて終わったことかあ」
 会長はそれだけ言うと大きなため息をついて俯いたままである。周平は軽く頭を下げて部屋を出た。








テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

嫌な予感

 出勤前に団長とカオルの顔を覗いた。昨日お腹の中の赤ちゃんの診察があって、女の子であることを告げられた。
「いよいよ名前を決めないとね」
 団長がカオルを励ますように言う。周平はなぜか胸が一杯になって外に出た。今日は取引先へ直行ということで、ミーと議員会館で待ち合わせをしている。未公開株の配分前に渡す現金のリストと現金の引き渡しだ。これについても代議士の不透明な配分と小林の追加配分の問題を残したままの実行である。
 待ち合わせの駐車場にすでにミーの車が入っている。周平の顔を見ると二つの黒鞄を持ち上げて歩いてくる。
「やはりだめっだたのね」
 リストの変更が受け入れられなかったことを言っている。片方を周平が持つ。二人で2億はある。これに追加の未公開株が加わる。それだけお金をかけても採算が合うと旗手社長は判断している。
 代議士の部屋に通されると、珍しく代議士本人と秘書が先に座っている。
 儀式のように黒鞄が交換される。このお金を配分される人数は未公開株の3倍ある。主要な人物だけに未公開株が渡される。というのは現株の購入資金を融資する必要があるからだ。
「例の赤坂の土地だが等価交換の話が近々に来る。その打ち合わせは君に入ってもらいたい。それに」
と言ってポケットからメモ書きを出す。
「このお金を明細通り現金で用意して、同席する彼に渡してくれ」
 周平とミーがメモを覗きこむ。3名の名前と金額がある。見たのを確認すると代議士は細かく破り捨てる。
 これで今日はお仕舞だ。
 車に乗り込むと、ミーがため息をつく。
「嫌な予感がするわ」
「ああ」
 周平も同感だ。車は暗黙の内にミーのマンションに向かう。
 








 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

裏社会

 珍しく旗手社長から直接呼出しを受けた。手短に銀座のレジャービルの名前を告げられて、その最上階に来るようにということである。タクシーを降りて、この辺りはマキのクラブのある近くだとようやく分かった。銀座のはずれになる。
 がたがたと音を立てながらエレベータが上がる。どの階もクラブかスナックである。だが、まだ陽が高いので誰も乗ってこない。このビルは旗手社長の趣味ではない。階上に着くとまた相応しくない中国の貿易商社の名前がすりガラスに印刷してある。
「あの」
 ドアから顔を出す。
「もう1階上がって!」
 おばちゃんの怒鳴り声がする。これはビルを間違えたか。だが、暗がりの奥に階段がある。
「階段は歩くものだ」
 旗手社長の声が頭の上でする。
 確かに部屋があるがこれは不法建築のようだ。でも、思ったより立派な古めかしい家具が並んでいる。テーブルの向こうに70歳には見える優男が座っている。その前に旗手社長が息子のように座っている。その横に餅を叩きつけたような小太りの男が窮屈そうに椅子に掛けている。周平が名刺を出そうとすると、旗手社長が目でやめとけと合図する。
「今後は彼がこちらに来ますよ」
「そうか。次はそのまま上がってきなさい」
 周平を一瞥して、
「あの代議士は食わせもんじゃ。よっぽど気を付けることだ」
 どうやら周平がお金を届けているあの代議士のことを言っているようだ。
「そうそう黒崎は悪さはしてないかな?」
 どうも黒崎を呼び捨てにしているようだ。
「よく動いてくれています」
「そうか。だが奴は八方美人だからくれぐれともな」







テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

裏のメンバー

 ケイ君の小林の調査報告が届いた。前回の彼の調査を具体的に裏付ける証拠も揃ったことになる。ミーに簡単に調査の内容を伝えて、旗手社長の時間を取ってもらうことにした。
 ミーから連絡が来たのは昼過ぎでこれから証券会社に来てほしいということだった。不動産会社の幹事証券ということだが、あの証券マンの会社ではないようだ。
「どうぞお待ちです」
 伝えられていたのか応接室にすぐに通された。中に入ると、あの証券マンと二人で打ち合わせしていたようだ。彼は周平の顔を見ると軽く会釈をして外に出てゆく。
「小林の悪さがいろいろ出てきたんだろう?」
 調査票を受け取るなりの一言だ。社長もよく分かっているのだ。それでもじっくり書類に目を通す。
「いよいよ会長が降りるという話だが?」
「条件のすり合わせで時間を食っています」
「さすがにこれでお仕舞だろう。裏のメンバーからも嫌われているからね」
「裏のメンバー?」
「この国は一部の人達に動かされている。会長もそこに入れたのだが敵を作りすぎた。かと言って私もまだ新参者だから同じ運命になるかもね」
 舅もその裏のメンバーと通じて道を踏み外した。
「小林もあと少しのところに来ると、悪い癖が出てくる。でも今更未公開株のリストの変更は無理だ。すべての欲が絡んでいる。よじれた糸を戻す方が難しい。取りあえず小林の裏の会社の社長を交代しくれ」
「私でいいのですか?」
「ミーとも相性がいい」
 旗手社長は調査票を内ポケットにしまうともう時計を見ている。リストの変更はなしだ。
「それと代議士の件もそのまま進める。もう時間がない」






テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

時の流れに

 M商事に銀座のママが押しかけてきた。周平が携帯に出ないからだ。現在は舅と別れて会長の愛人に戻っている。非常に我儘な人だ。
 会長室の応接に人事部の人間が気を使って通したようだ。
「ずいぶん避けられたものね!」
 相変わらずの口調だ。もうテーブルには煙草の吸殻が3本も溜まっている。
「そういうのではありませんが」
「まあいいわ。相談役にうまく取り込んだようね?」
 そういう風に伝わっているのか。
「今までM商事からは少なくとも15組は入れ代わり立ち代わり店に来てくれていたのに先月などは誰も来ない。調査部も1度も使っていないどういうわけ?」
「経費節減です」
「そんなの通じないよ!はっきり言ってよ」
「会長からは?」
「あの人も来ないわ」
「彼女はどうしています?」
「子供を抱えて私の店に出てるわ」
 煙草の煙に舅を思い出した。
「会長はおそらく近々退任されると思います。現在その調整にかかっているところです」
「次のポジションは?」
「今のところ白紙です」
「何が悪かったの?」
「何とは言えませんが、右腕を変えられたのが躓きと言えば躓きです。柳沢さんをご存知ですね?」
「よく来てくれていた部長ね」
「彼が今は右腕です。でも危険な男です」
「じゃあ鈴木とよりを戻したら?」
「鈴木さんにも私にもどうすることもできません。後は時の流れに任せるしか」







テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

 顧問に調査部の進行中案件の報告書を提出した。赤坂案件と柳沢問題が大きな柱になっている。顧問は受け取ると座るように促して、ゆっくりページをめくる。
「確かに鈴木部長は最初会長の右腕だったと思いますが?」
 顧問は顧問なりに会社のイメージを作り始めています。
「前回の相談役と社長戦を戦った時は確かにそうでしたが、それから柳沢さんが藤尾課長退職の件から右腕となりました。それで鈴木部長は相談役に近づいて復権に力を貸しました。銀座のママをご存知ですか?」
「会長のとは聞きました。鈴木部長の奥さんだったようですね?」
 相談役や人事部の報告が入っているようである。
「娘さんと離婚した?」
「はい」
「君は何派になるのですか?」
「ただの風ですよ」
「でも何でも知っている?」
「もうそういう情報も必要なくなると思います」
「そうなればと思います」
 顧問は笑っています。周平は数週間前に書き上げていた自己退職願をポケットから出した。
「どうして?」
「すべきことはなくなりました」
「私はそうは思いませんね。これからが本当の仕事場じゃないかと思うのですが。とくに現場を動かしてゆくには私や相談役のようなきれいごと人間では無理ですよ」
と言いながら、
「取りあえず預かります」
とポケットにしまい込む。
「めどは?」
「あと一押しです。だがこれが結構重たい」







テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

裏切り合い

 Kジャーナルから加瀬の他殺疑惑が出されるとさすがに警察が動き出した。この記事にはM商事監査役の事故死をも疑問を投げかけてるだけではなく、柳沢のイニシャルY部長の不思議な動きが載せられている。熱海のホテルに柳沢が女と泊まった日に加瀬はほん近くの熱海の山で自殺している。監査役の車に車をぶつけたチンピラは柳沢に依頼を受けていたとそこまで書かれている。だがこれは黒崎の巧みな修正が入っている。
 今日は轟からランチの誘いがあった。
「警察が動き出したようだな」
「ああ、そちらの記事をさわってたろうが。印刷の前に急に変更を言い出したようで印刷の苦情が出たらしいぜ」
「どうなんだ?」
 ビールを飲んでいる轟に尋ねる。
「会長と会ったらしいがかなり文句を言われたようだ。今度は自宅のごみ箱のボヤ騒ぎがあったということだ。柳沢も追い詰められてるんだろうがね」
「マドンナの話はした?」
「いやあれはお宝だからな。もう少し値を釣り上げてな。そうそう赤坂は今どうなっていると聞いていたぜ?」
 黒崎は国営の土地の払い下げの情報は全くないようだ。轟も知らない。旗手社長はどうも黒崎から離れるような気がしてならない。未公開株の譲渡についても彼の名前は出てきていない。
「赤坂はあのベンチャー企業がものにする。黒崎さんも会長に足を引っ張られたな。うまく立ち回ろうとしてそれがあだになった」
「どうするかな。もともと黒崎は代議士の秘書時代から会長とは面識があったんだ。どちらかと言うと会長という木とともに大きくなったのさ。それで鈴木さんを送り込んだ。だがその彼は相談役に走った。裏切り合いながら平静を装う不思議な世界なのさ」
 轟も敏感に黒崎の斜陽を肌で感じている。
「ついてくるかい?」
「そのためには貸しを作らないとな」
「あのねぐらだな」






テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

終末の噂

 ミーに予算を出してもらって、小林の調査をケー君にお願いした。轟に任せたいところだったが、彼とはお金のつながりが強く黒崎に旗手社長の情報が漏れるのを恐れた。ただ旗手社長の性格を考えると、余程の確たる証拠がないと方針が変えられないということは理解している。
「少しいいですか?」
 調査部の一番年配の女性が顧問室の中の周平に声をかけた。顧問は朝から相談役の部屋に籠っている。会長はS銀行に出かけている。どうもS銀行は頼りにならないようだ。
「どうぞ」
「部の仲間を代表しての質問ですが、最近の噂を耳にされましたか?」
「噂?」
 そう言えば会社の人間と話すことがほとんどなくなっていた。とくに加瀬が亡くなってからはそれは酷い。
「調査部がなくなると」
「そんな噂があるの?」
「ええ、人事部が出どころのようですが、調査部の全員の社員シートの提出をしたとか」
 おそらく顧問の依頼なのだろう。
「直接話は出ていないが?だがこの部の存在価値は薄れてきているな」
「若い人はいいけれど、40歳過ぎの私なんかは退職勧告を受けるような」
 そう言えば、周平がこの部に入った時にはすでに加瀬と彼女が座っていた。
「何が悪かったのですか?やはり加瀬さんが?」
「彼の問題でもない。会長の経営の終末なんだろうね」
「鈴木取締役が会長についていたからですね?」
 いや、彼は相談役について逆に時代を先取りしていたと言いかけて言葉を飲んだ。そんなことは彼らには関係がない。加瀬すら出会いがしらの事故に過ぎない。調査部にいて赤坂の地上げから今に至る経過を理解していない。
 ポケットの中の携帯が振動した。今日3度目の赤坂の元姑のママからの着信だ。











 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

胸騒ぎ

 ミーから珍しく夜にメールが入った。周平は顧問に3時間に及ぶ調査部の仕事の内容を説明を終えた時だ。顧問はあまり好んで残業をしたがらないが、今日は特別に8時まで説明が続いた。彼はこの部の存在自身に懐疑的だが、だが業績に大きくかかわっていることも認めている。
「独り身だったな?」
 帰ろうとする周平の背中に声をかける。
「いえ、婚活中ですよ」
 周平は笑いながら外に出た。最近はどこに行く時も後ろを振り返る癖がついた。ぶらぶら赤坂の方に向かって歩く。赤坂見付のところにミーの常連のスナックがある。ママはどうも男性のようである。
「上司が来たわ」
 ミーの声が部屋のカウンターからする。
「どちらが上司だか」
「ちょっと気になることがあったの」
 座るなりバックからリストを出す。
「社長からリストの最終版が戻ってきたんだけど、10名ほどが追加されているのよ」
 周平が覗き込む。
「これは小林が持ってきたリストに入っていた政治家だな」
「私もそう思う」
「あの人昔から胡散臭いけど、今回は大胆なの」
「旗手社長は?」
「彼奴も社長になったからと笑っていたけど気になる。それに癖のある野党の議員ばかり」
「ここだけの話だけど、小林を少し調べてみたいと思うんだ」
 周平は出してもらったビールの小瓶をあおりながら胸騒ぎを感じている。
「賛成よ」





テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

バック

 M商事の決算報告が出て更に株価が落ち込んだ。思い切って赤坂の負債を処理したようだ。これは顧問の方針だったようである。最近は会長派も社長派もめっきりおとなしくなった。それに代わって相談役の息子の周りに吹き溜まりのように人が集まってきている。顧問はそういう付き合いを極端に避けているようだ。それで周平自身が顧問派の入り口のように思われている。
 ケイ君から新橋の喫茶店にいると携帯があった。店を覗くといつものように焼きそばを食べている。
「まるで飯を食っていない子のようだぜ」
「昨日は藤尾さんと終電まで飲んだよ」
 確かに酒臭い。
「小林さんはかなりやばそうだな。藤尾さんの地上げの会社にかなり融資しているな」
「赤坂の件かい?」
「もあるが、赤坂以外の資金需要にも出しているようだ。それでどうも藤尾さん曰くはバックを取っているということだ」
「具体的に?」
「最近投資マンションに会社の女子社員を住まわせたそうだ。登記を上げてみるさ」
 ケイ君はくしゃくしゃになった便せんのメモを広げる。何件か裏会社の名前が挙がっている。
「この許と言うのは?」
「それは最近の貸付先でね。評価のない物件で3億も出したらしい」
「それを調べれるか?」
「ああ、物件も教えてもらっているさ」
「ついでにその許も調べてくれ」
「会社も控えてきてるさ」
 これはケイ君と仕事をするのは悪くないなと思った。






テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

脅迫

 苛立った口調で国崎から呼び出しの電話があった。今日は顧問は朝から古巣のM銀行に出かけている。
 国崎の事務所に着くと、すでに呼び出されていた轟がソファに居心地悪そうにかけている。
「昨日会長の車のブレーキが触られていたようだ」
「運転手が?」
「車のドアが開いていたので調べて分かったそうだ」
「柳沢の脅迫ですね」
「それで催促されている。いつまでかかっていると」
 黒崎は会長から金を貰っているのだ。
「警察はやくざの兄貴のところで止まっていますよ。チンピラを殺す理由がないというわけですわ」
 轟が補足する。
「でもチンピラは監査役の車にぶつけたのは分かっているわけだろ?」
「この管轄は別でまだ事故と言う線が強いのです。ぶつけて自殺したという見方もありますよ」
 轟も黒崎の焦りにてこずっている感じだ。彼は確かにラインから外されてきている。
「いよいよ加瀬の記事を書くときですかね。このラインなら柳沢は引きずり出せる」
 周平が提案する。
「情報はあるのか?」
「轟さんところで調べてもらいたいことがあります。それで記事にします」
 これは轟にお金を落とす手だ。熱海の件を臭わす。こらはまだ黒崎には報告していない。轟の目が笑っている。
「ところで会長はどうなるんだ?」
 黒崎にはそんな情報も入らなくなっているのか。
「おそらく引退の条件でもつれているのでしょう」
「となるといよいよ旗手社長の出番だな」
 でもそのラインも弱くなっていることに気づいていない。







テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

消息

 ケイ君が夜の新幹線で戻ってくるというのを団長の携帯で聞いた。ほぼ1週間大阪にいたことになる。周平は今日は顧問に言われて現在の調査部の仕事の内容を仕上げないと帰れない。
 顧問の入った4者会談は連日続いているようだが、なかなかまとまらないようである。でも顧問はあまり焦っている風でもなく、周平にいろいろと課題宿題を投げかけてくる。
 周平がホワイトドームにたどり着いたのは夜の10時半を回っていた。
 相変わらず止まり木にはフランケン達が並んでいる。
「ご苦労さん!」
 席でビールの小瓶を飲んでいるケイ君に声をかける。
「もう団長に話した?」
「いやお戻りを待ちなさいとね」
 団長が笑いながら周平に小瓶とチーズを運んでくる。
「まず謝っておくよ。経費をいただいたのにはかばかしい情報は得られなかったよ。周平が住んでいたアパートのオーナーは見つけたんだが、どうも亡くなられてあのアパートが相続になったということだった」
「そうだな。お婆さんはあの頃で80歳くらいに見えたからな」
 よく玄関で乳母車を置いて座り込んでいたのを覚えている。
「それで相続をした娘さんを探して訪ねたが、ほとんどアパートとは交流がなく1年ほど業者に任せて立退きをさせたみたいだ。業者にも訪ねた。伯母さんと50万で話がまとまったようで」
「その時何か聞いていない?」
 団長が口をはさむ。
「近くの遊郭にお世話になると、もちろん遊郭にあたってみたよ」
 周平は昔よく走り回った遊郭の建物を思い出していた。
「やはり伯母さんが訪ねてきて交渉したらしいが最近は若い子しか置かなくなっていると言うので断ったそうだ。でも帰りに居酒屋で飲んでいると、年配の娼婦は最近映画館で仕事をすると聞いて覗いてみた。そしたら確かに半年前まで年配だが綺麗な人がいたという情報があった。写真を見せたが歳を取ったらそうな感じだと言っていた。もちろん携帯番号を教えておいたよ」











テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

狐に抓まれる

 藤尾が珍しいところに呼び出した。彼も有頂天の仲間になったかと少し周平は憂鬱になった。マキのクラブだ。いくら安いといっても、痩せても枯れても銀座だ。
「機嫌が悪そうだな?当ててみようか?」
 藤尾が笑いながら言う。
「俺らしくないと言いたいのだろ?」
「まあな」
「だが俺も接待すんだよ。そしたらマドンナに会ってな」
「そうか会ったか」
 マキが周平を見つけてビールの小瓶を抱えてやってくる。
「マドンナまだ勤めているのか?」
「ナンバーワンよ。ところでその包帯は?」
「柳沢にやられたよ。狂犬みたいな奴だ」
 もういつの間にかマキは玄関に走り出している。さすがにママだ。
「赤坂は大方片付いた?」
「今はSハウスの整理の応援さ。書類が足らないのが多い。下手すると半年かかるな」
「今は?」
「Sハウスの事務所に曲がりだ。柳沢も分からんだろうな」
「マドンナ謝ったか?」
「ああ、濃厚なキッスをされたよ」
「それは危険だな」
 話しているうちに、赤いドレスを着たマドンナが藤尾の隣に座っている。
「元気になったみたいだな?」
「狐に抓まれたよう!」


















テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

綻び

 新聞を広げていると、旗手会長の写真が目に入る。アメリカでとてつもないパソコンを買い付けたとある。これがあの代議士の言っていた紹介の買い物のようだ。どうも代議士の懐にアメリカ企業から幾ばくかの金が入るらしい。
 今日は顧問は古巣のM銀行の頭取に会いに出かけている。周平は気兼ねなく外に出れる。珍しく小林から携帯が入って赤坂見附のファイナンスの本社に出かける。ここはKジャーナル田辺の名刺で行く。すぐに社長室に通される。応接室に先客がいるようだ。許の顔が驚いているのが見える。
「ジャストタイミングだね」
 小林は機嫌がいい。許が頭を下げて出てゆく。
「知ってるの彼?」
「ああ、S銀行の紹介だよ。うちで出せないから頼むとさ」
「幾ら?」
「10億ばかしね」
 これは危ない。それが実感だ。
「今日は?」
「政界ルートの追加だよ」
「あれはこちらで絞り込んでいる」
「ミーも同じことを言ってたよ。ちょっと断れなくてね」
 テーブルに5人ほどの名前と株数が載っている。
「直接話してくれ」
「ミーとやったかい?」
 どうも表の世界に慣れ切ってしまったようだ。
「社員は何人になった?」
「もうすぐ2000人を超える。融資量も1兆円を超えた。それよかこれから銀座に繰り出さないか?」
 周平は黙って立ち上がった。
 表に出ると無意識に藤尾の携帯をかけていた。









テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

時代錯誤

「その肩はどうしたのかね?」
 今日から3者会談に顧問も入るようになったらしく資料を手にしている。
「いえ、自転車にぶつけられたんですよ」
「今や自転車も凶器ですね。ところで昨日田上専務が辞表を出しましたよ」
 それだけ言うと顧問は部屋を出てゆく。入れ替えに義足をはめた舅が顔を出す。
「もういいんですか?」
「座る場所がほしい」
 というなり足を投げ出してソファにかける。
「誰も名誉の戦士に座るところもくれないのさ」
「いやに弱気ですね?」
 隣の部屋に声をかけてコーヒーを2つ頼む。
「復帰を伝えてきたのだが相談役はもう少し休みたまえだとさ」
「そうでしょうね。時代は変わったのですよ」
 舅はいらいらしながら灰皿を探している。
「ここは禁煙になりましたよ」
「まったく!」
「今のM商事には柳沢も鈴木さんもいらないのです。もちろん私もその一人になると思います。ところで今日は何か用があるようですね?」
「ああ、昔の女房がいや銀座のママが会長の助け舟を出せと言ってきている」
「それは時代錯誤だな」
「もう可能性はないかな?」
「ないですね。今は条件調整に来ています」
「娘が男と別れてシングルマザーになったよ」
「それは初耳です」











テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

傭兵

「ケイ君を大阪に行かせたね?」
「ああ」
「私からも小遣い出しておいたよ。調べてほしいことがあるから」
 団長からそう言われてホワイトドームを一緒に出た。今日も少し遅刻をしてカオルの顔を覗きに行く。カオルについては再三再四出産を止めるように医者から言われているがカオルはがんと聞かない。で団長も周平もある種の怯えを抱きながらも引きずられている。
 朝の病院に続く道はひっそりしている。面会時間が始まると人出が増えて、昼から夜は娼婦の立ちんぼう天国である。カオルもその中に混じっていた時期がある。
「M商事辞めるの?」
「彼奴は口が軽いな」
「吐かすのは簡単。でもいいかもね」
「どうして?」
「面白くなさそうだもの」
 至極あっさりしている。確かに面白くない。ここまで来たら敗戦処理だ。その時後ろを何人かが走ってくる音がして振り向いた。ほとんど同時に先頭の一人にバットで思い切り振りかえりざまの肩を殴られた。
「やっちまえ!」
 掛け声とともに、後ろの2人がバットを持って飛び掛かってくる。その瞬間団長の今まで聞いたことのない雄たけびを聞いた。だが周平はうずくまってしまっている。団長に抱き起された時は、すでに2人はのびていて1人は駆けだしたいる。電柱のところに確かに柳沢の横顔が見えた。
「病院まで歩ける?警察は呼ばないからね」
「ああ。でも凄いね」
「傭兵だったらしいから」










テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

けじめ

 カオルの入院以来初めて団長を抱いた。半ば強姦のように押し倒して体の中に入った。無意識の強烈なパンチを食らって、周平は失神してしまったがそれが幸いにして団長が迎え入れた。カオルにはすまないが、何か頭の中のもやもやがとれたような気分だ。
 周平は生まれて来た子供を入れて、4人で暮らそうと考えている。それでまずM商事を退職しようと考えている。もうここですることはなくなったと思うのだ。
 夕方久しぶりにケイ君を出会った頃飲んだ終電の駅の赤提灯に誘った。
「懐かしいね」
 ケイ君は1時間も前に来てもう飲んでいる。
「ここから始まったんだよ」
「そうだな。でもホワイトドームでは話せないことだな?」
「まあね。M商事を辞めようと思っている」
「それはもったいない話だ」
「で、ホワイトドームのマスターかい?」
「そこまでは腹をくくれていない。今ある会社の仕事をしている」
「黒崎という?」
「そこじゃない。ベンチャーの会社だ」
「そこは面白いか?」
「ああ。でもどちらを選ぶにしろケイ君には手伝ってほしい」
「願ったりかなったりだ」
「それでどうしてももう1度大阪に行ってほしいんだ」
「伯母さんだね?」
「最近気になって仕方がない」
「団長も同じことを言ってたよ。周平は伯母さんに会うべきだとね。女の勘だね」
「・・・」
 周平は用意してきた20万の入った封筒を渡した。







テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

時の運

 思い出しながら銀座のはずれのビルに入った。最上階までエレベーターで上がり後は階段を上る。
 ドアを開けると、歯医者の待合室のような長椅子がある。幸いの待ち人はいない。呼び鈴を鳴らすと、あの餅をぶつけたような中国人が出てくる。
「予約は?」
「いえ」
「じゃ帰って!」
木を鼻で括ったような返事だ。でもそれから不躾に顔を覗きこんで、
「あの時の?」
「はあ」
「先生はもうすぐ戻ってくる。待てば」
「お宅は?」
「居候の許です」
「田辺です」
 一言二言交わしているうちに先生が戻ってきた。
「一緒にお茶を飲もう。社長は元気かね?」
「はい。それで少し相談に上がりました」
 ウーロン茶が出てくる。先生は美味そうに飲む。
「例の代議士なのですが、政界での力はどんなものですか?」
「ずばりというね。昔の貫録のある代議士とはいえんが、リーダーの一人ではある」
 周平が言いかねていると、
「工作金を渡すらしいが、だめとは言わないが博打になるさ」
「博打?」
「政治家は金を貰って何もしないことも当たり前のことだよ。成果が出れば自分だというし、でなくても文句が言えない」
「そんなものなのですね」
「期待しないことだ。後は時の運だね。ただあの社長とは相性がいいかもしれない。税金と思うことだね。さっぱりと諦める」
と言って楽しそうに笑う。








テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

リスト

 轟から柳沢の報告が来たが、どうもやくざの兄貴を妹ががっちり押さえているようで、簡単には柳沢に繋がらないようである。これでは会長まで行くことは今のところない。どうも黒崎は今回は会長からいくばくかの金を懐にしている雰囲気である。今は周平は黒崎とは付かず離れずと認識している。
 先ほどミーと二人で議員会館から出てきて、Nビルに戻って代議士から渡されたリストを広げて睨んでいる。
「感想は?」
 ミーが応接室の鍵を閉めて、ブランディとビールの小瓶を抜いてテーブルの端に置く。彼女は明日の朝一番にニューヨークに行く。旗手社長と現地法人で合流するらしい。その時にこのリストを渡すようだ。
「納得行かない部分がある。株の配分が代議士の派閥配分が多すぎる。それに他の派閥や野党とのパイプが見えない」
「そう。全体を握るには主要な人が掛けているし配分が小さいわ」
 ミーの頭の中にはしっかり派閥人脈が入っている。
「あの曲者代議士の指摘は正しいわ。これじゃあ首相指名選挙資金のようよ」
「そう思う。だが、旗手社長は方針を曲げないだろうね」
 意見は参考にするが、自分の考え方は変えない。ワンマンのワンマンの由縁だ。とくに政界ルートには正解というものはない。
「ミーは銀座のはずれにあるビルに行ったことがある?」
「ないわ」
 やはり白髪の老紳士は別ルートだ。
「黒崎のようなルートは何本くらいあるのかな?」
「そうね、私の知っているのはもう一人テレビによく出ている経済評論家だけかしら。でもこういう時には力にはならないね」
「一度あの老紳士に漠然と聞いてみるか」
 珍しく旗手社長に関しては身内として心配している二人である。






テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

「帰りに覗くからさ」
 轟の連絡が入った。今日は顧問から早めに釈放されて、8時にはホワイトドームに着いた。でも珍しく病院関係者が5人もまとまって止まり木にとまっている。目玉さん達が端の方に窮屈にとまっている。どうも一人が退職するようである。もう70歳くらいに見える常連のレントゲン技師だ。団長が珍しくカウンターの中で相手している。周平はちびりちびりと小瓶のビールを飲んでいる。
「待たせたか!」
 轟が春らしいセーターで入ってきた。10時を少し回っている。
 無言で封筒を差し出す。この厚さでは20万か。ということはあの情報は黒崎のところで100万したようだ。
「黒崎さんのところか?」
「ああ。これから記事のネタを届けるって言って出たよ。ネタ元はこちらなのにさ。でもな、周平を張れと言ってたぞ」
「別ルートだろ?」
「ああ、分かっていりゃいい」
 どうも旗手社長の別ルートは知らないらしい。この世界も複雑だ。周平は上着のポケットから原稿用紙の入った封筒を出して渡す。時間中に書いたものだ。加瀬は自殺じゃないということの記事でほのめかした。
「柳沢はどうしてる?」
「会長宅を2度ほど訪ねているが居留守を使われている」
「会いたくないだろうな」
 会長にとって柳沢の役割は終わっている。厄介払いでしかない。この辺りの頭が回らないようだ。だが、柳沢には新しいM商事でははめるところがない。このところがまた事件を起こす導火線にならなければと思う。
「周平はいつまでこんな中途半端な仕事をしているのかい?」
 轟はいつの間にか団長の入れてくれた湯割りに口をつけて聞く。二人はそういう話をする間柄になっている。
「それこそそちらは?」
「俺は捨てられるまで狗さ」
「産まれる子供のためにもそうもいかんな」
とは言ったもののまだ漠然としている。M商事のけじめをつけるところからだ。








テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

裏工作

 今朝はカオルがフランケンに負ぶさって里帰りをした。ずいぶんお腹が大きくなっていて、その分顔が小さく見える。周平は嘘の直行の連絡を入れて朝食を3人で食べた。メニューはカオルの希望で団長のお気に入りの一つのオムライスである。でも11時には国崎の事務所に呼ばれている。
 5分前に国崎の事務所に着くと、ソファに珍しく舅が義足をつけて座っていた。
「歩けるのですか?」
「無理をして出てきた」
 機嫌の悪そうな響きだ。国崎は机に座ったままだ。呼ばざる客だったようである。
「M銀行から副頭取が来たみたいだね?」
 国崎の口調では知らされていなかったように聞こえた。
「ええ、顧問で私の部屋にいますよ」
「相談役が?」
 舅が口をはさむ。もともと舅が相談役の右腕だった。
「M銀行の頭取の独断のように思いますが」
「どうやら次は仲間外れにされるようだな」
 国崎の口がへの字に曲がっている。
「だが、そうは簡単に話はまとまるまい。会長から苦情の連絡が入ったよ。社長の譲歩もなく、相談役もフラフラだ。社長は一方的に会長の退任を求めている。周平何か手はないかね?」
「轟が情報をつかんでいるので持ってこさせます」
 マキのグラブ購入費をあの口座から出している。これを記事にすればいいだろう。これは轟の稼ぎにしてやるのが周平にとっても安心牌だ。すべての情報を握っていると思われては猜疑心が湧く。
「次に柳沢だ。警察も参考人として釈放している」
「彼奴は危険だ!」
 舅が叫ぶ。
「そうです危険人物です。だがこれ以上材料はそろっていません。監査役の自殺もようやくチンピラが車をぶつけてというところが現状ですね。監査役を殺す動機がない」
「そうだが」
「加瀬の自殺を轟に探らせています」









テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

会談

 ここ連日会長室で会長、社長、相談役の三者会談が続いている。その間、顧問はその会議には全く参加せず、部屋の中で書類三昧である。今日は組織図の説明を朝からさせられている。周平は呼びかけられるたびに、指名された人物の派閥の説明とコメントを要求される。それで人事部長を呼びましょうかというと、君の目で見たコメントがほしいという。
「君はこの会社で出世したいと思う?」
 コーヒーが運ばれてくると、急にこういう質問が始まる。舅のように煙草を吸わないので助かるが。
「確かに初めの頃は出世したいと思ってましたが」
「が、今は?」
「足の引張合いでは何か虚しいように」
「なるほど、思ったより大人ですね。幾つですか?」
 どうも大学の教授に質問されているような気がする。
「35歳になります。バツイチですがね」
「子供は作りなさい」
「そうですね」
 カオルの顔が過った。
「私も59歳までは頭取争いをしてましたね。それが副頭取になった途端憑き物が落ちたようにどうでもよくなりましたよ」
「何だかよく似た気持ちです」
 最近とくに出世したいという気持ちがなくなった。
「少し私に力を貸してください」
 顧問が真すぐに周平を見つめて言った。







テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

B勘

 さすがに定年間際まで銀行員だっただけはある。顧問は一日中書類を見ていても飽きないらしい。時々思い出したように質問をしてくる。非常に常識人の質問なのだけども、M商事を理解するにはあまりにも常識人過ぎる。1引く1はゼロにならない。
 ただ周平には声をかける人が1名増えたことで動きずらい。談合と言っても、それは何の?という具合ですぐに外に出てゆけないのである。
「遅いわ」
 呼び出したミーがへそを曲げている。
「旗手社長は?」
「言うだけ言ったら飛び出していった」
 その姿が見えるようだ。ミーも言いながらくすっと笑っている。
「周平は代議士に運ぶお金がどこから出ていると思っている?」
 ミーがパソコンを開きながら尋ねる。
「B勘だからね。本社の経理部長辺りが汗を流してるんだろうね?」
「この会社は社長が仕組みをこしらえているの。実は私はそれの担当」
「まさか」
「そのまさかよ」
 パソコンの画面に会社が並んでいる。
「今は7社だけども、これからどんどん増えるわ」
「この会社の社長はあの小林?」
「そう。裏方の人間が社長の名前を貸している。ここでB勘を作り出しているの。この会社は風俗の仕事をしている」
「ミーが社長だね?」
「お釜クラブ。私のねいさんがママをしているわ」
 なるほど。本体の事業ではないところからB勘を生み出しているわけだ。
「もう私では支えきれないの。周平に見てもらえと言ってたわ」
「これはラブホテルか」
「もう25軒になるよ」
「なるほどなあ。M商事は経理部長が担当しているので、挙げられてばかりだ。税理士は?」
「腐れ税理士がいるわ。持ち出しは禁止、ここで見るの」










テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

銀行管理

 新聞を見て、自分の会社の人事を見るとは周平は呆れた。M銀行から副頭取が顧問の肩書でM商事に来るようだ。さっそく朝一番に内線で相談役から部屋に呼ばれた。
「どうぞ」
という声で相談役のドアを押す。
 相談役の前のソファに白髪の紳士が掛けている。周平が名刺を出すと、
「まだ名無しだからね」
と笑う。
「新聞を見た通りだよ。しばらく君の部屋を開けてもらいたい」
「顧問室ですか?」
「それと会社の歩き方を教えてあげてほしいんだよ」
 相談役が冗談のように言う。
「定年でのんびりと考えていたんだが、もう少し頑張れということで。だが銀行員人生だからね。会社の常識というのがない」
「どこまで?」
 これは相談役に向けた質問である。
「詳しくは言えないのだけど、銀行管理になったと思えばいい」
「そんなことは」
 顧問が笑いながら否定する。どうやらいずれ顧問が社長か会長になって運営をするような感じだ。どこまでを伝えるかこの辺りが難しい。この人事は黒崎にも情報はなかったようだ。これはM銀行の頭取の意志だろう。
「赤坂は片付いたらしいね?」
「借り入れは終わりましたが、問題は片付いていません」
「そうか」
 顧問は予想通りというように頷く。
「これから会長室と社長室に行く。まあ…」
「ご苦労様です」
 周平のその声を聴いて、顧問はにっこりと笑う。組み易い上司なのかもしれない。











テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

過去の扉

 ホワイトドームで二人きりになったのは11時半を回っていた。団長が下で余ったおでんを2階の部屋で鍋でもう一度温めてくれる。周平はビールとウイスキーを持ってあがる。
「何を持って帰った?」
「日記よ。大学ノートに書いていたのが3冊見つかった。大学に入った頃から事件の2か月前まで」
「見せてほしいな?」
「見せない。恥ずかしいの。もう一人の私の裸を見られるような」
 二人で黙って乾杯をする。
「どちらを愛していたんだ?少し気になるな」
「ずっと悩んでいたようだわ。でも最後のノートがないので分からない」
「記憶は戻らないか」
「そのほうがいいのじゃないかと今は思っている」
「そうだなあ」
 なんだか団長の意志に従いたいと思った。これは新しい出会いで恋なのだと思う。
「でも京都の下宿にしては長かったな」
「実は怒らない?」
「ああ」
「通天閣のある街に」
「まさか?」
「伯母さんに会いに行ったの。でもね、周平の書いていたアパートはなくなっていたの」
「古いから立ち退きなったんだな」
「私伯母さんに会いたいの」








テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

再会

 赤坂の契約が正式に行われることになった。M商事からは息子の部長と周平が参加する。Sハウスからは副社長と藤尾が顔を出した。S銀行がSハウスの資金を出すので銀行取引としては身内取引のようなものだ。M銀行からは運転資金として200憶が出たので、400憶で抹消の許可が出たわけだ。それでも取引は1時に始まって、6時までかかる。周平は先ほどから腕時計を何度も見ている。6時の新幹線で団長とケイ君が戻ってくるのである。それで近くの寿司屋を予約している。
「課長一杯どうですか?」
銀行を出た時に部長に声をかけられたがそのままタクシーに乗った。
「遅刻だよ」
 ケイ君の声が店の中からする。
「食べていてくれたらよかったのに」
「と言ったけどね、団長に待ちなさいと睨まれたわけ」
 団長の目が松七五三聖子の目をしている。
「ずいぶん長かったね?」
「ええ、記憶は戻らなかったけど、久しぶりに松七五三聖子に出会ったわ」
「どこに行った?」
「下宿に連れて行ってもらった」
「団長、2時間も屋根から外を見ていたぜ」
 二人で屋根に寝そべって、飽きずに話をしていた。
「何か見えた?」
「夢の中の風景と同じだったわ」
「そうか、思い出すよ。3人で朝までそこで飲んでいたこともあった」
「らしいね。次の日に納屋を見せてもらったの。警察に押収されなかった私物を大家さんが残しておいて山積みになっていたの。そのうちの何点かを貰ってきた」
「団長、ホテルの部屋に籠って締め出しを食らってたんだぜ」
 今夜は二人でホワイトドームで昔のように朝まで話そう。










テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

発覚

 どうも旗手社長には黒崎のようなルートが何本もあるようだ。ミーはそのルートの個人秘書をしているようだ。周平にその仕事の束ね役をしろということのようである。
 団長とケイ君はもう1週間もホワイトドームを開けている。定時にはケイ君から簡単なメールが入るが心配だ。カオルの見舞いは毎日目玉さんにお願いしている。彼は病院の仲間の生き字引なのである。 
 柳沢が予定通り参考人で引っ張られた。だがそれと同時に田上専務の持っていたと思われてた組合の裏口座のコピーが例のブラックジャーナルに掲載された。周平もこれはしばらく触れないでおこうとしていたものである。黒崎と会長の話が崩れる恐れがあるし、赤坂と絡んでもつれる恐れがある。
 それで今日は田上専務を相談役の個室に呼んで事情を聴く羽目になった。
「これはいわゆる裏口座のコピーですか?」
 専務は相談役に向かってこくりと頷く。
「現物は専務がお持ちですか?」
「社長が今はお持ちです」
「社長がブラックジャーナルに出すようなことはないだろ?」
 相談役が口をはさむ。
「一時会長が管理していた時期があるんですが、おそらくコピーを取っていたのでは」
 それはありうる話である。それを何かの理由で柳沢が預かっていたのだろう。
「この通帳の件はあまり表ざたにしたくない」
 相談役の本音だ。あまりにもかかわっている人物が多い。過去に派閥争いにこの資金を握ったものが勝利してきた。逆に相談役はこの資金を手にできなかったから社長の椅子を手にすることができなかった。
「そういうことだから、専務から社長に通帳を渡すように伝えてください。さもないと、M銀行の頭取からとなると進退伺になります」
「伝えてみます」








テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

早春

 泣きつかれて担当医に頼んで半日だけカオルをホワイトドームにフランケンに担いで帰ってもらう。すっかり物干し台が小さな小部屋に改装されている。そこに蒲団を敷いてカオルを寝かせる。その時カオルを持ち上げて周平はあまりに軽くなった命の重さをひしひし感じた。
「いい部屋だなあ」
 久しぶりに元気で、ポンポンと壁を叩いている。
「子供ができたら戻ってきて、団長も入れて4人で暮らすんだ」
「楽しみ!団長と交互に寝ていいからね」
 カオルにとってセックスは生命の証のようだ。
 下からフランケン達の笑い声が聞こえる。
「子供の名前決めたかい?」
「そんなの言ったってまだ男か女もわからないし、狐が決めてよ」
「そうだな」
「狐も子供ができたら詐欺師から足を洗って、ホワイトドームでマスターしたらいいのに」
 カオルの中では周平はいつまでも狐の詐欺師なのである。そしてカオルは子供のままだ。
「それなら店を少し広げないとな」
「でもあのカウンターはそのままにしておいてね。みんなとまるところがなくなるもん」
「冷蔵庫は少し大きいのにしないとビールが入らないしな」
「カオルお風呂がほしい!だって銭湯に行くと子供に間違えられるし、狐とお風呂の中でセックスがしたい」
 フランケンの声が下からする。
 急にカオルは駄々をこね始める。そろそろ帰る時間だ。
 フランケンに抱えられると短い病院に続く路地を歩く。もうすぐ春は近い。そんなに短い路地の道のりでカオルはもう眠ってしまっている。







テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR