夢追い旅 2017年08月

仮釈放

 ブザーを押すとミーの声がした。おそらく私の顔が写っているのだろう。すぐにドアが開く。見慣れた玄関の奥にバアのカウンターがあり同じ部屋にダブルベットがある。さすがに綺麗にシーツが掛けられていて乱れは一つもない。
 旗手社長がカッター姿で『噂の真相』を数冊積み上げて読んでいる。
「直接こちらに?」
「ああ、またすぐに戻される。本社とは昼から会長と社長と会う。今の体制が続けば一安心だが、思わぬことも起こり得る」
 それは周平も考えているが、思わぬことが想像できない。
「政界も経済界も下剋上になっている。この事件が転べば体制が変わる。もう私の復権はないだろう。だが会社は潰さない。それは意地だ。下剋上も起こさせない」
 ミーが二人分のアイスコーヒーを入れてくれる。まるで新妻のようだ。
「最後のリストは完全に葬り去ってくれ。もし洩れたらそれは君しかいない。その時はミーに殺される覚悟をするのだな」
「そんなこと言わないでよ」
 ミーが話をそらそうとする。それで旗手社長は笑っている。
「この赤坂事件のシリーズはいい。今回の事件の関係者が絡んでいる。彼らは派手な行動は起こせない。その脅しも含めて書き続けるのがいい。時として核心のそばまで突いてみるのもいい。Yテレビの社長も自分の命は惜しい。銀行は日和見だしな。柳沢があんな行動に出るとは、まだこちらにツキは残されているようだ」
 今日の旗手社長は異常に雄弁だ。
「ミーは店をやるようだが、君も雑誌社でもするかね?」
「いえ、もう少し成り行きを見守ります」
「ありがとう。私が死んだら真実を公表してもいい」
 死ぬまで口をつぐめということだ。その時は誰も周平の言うことなど信じないだろう。








 
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

迷路を演出する

 ケイ君を連れて箱崎の倉庫に3日間通う。ここの管理人は隣接するM商事の研修施設の管理人でもある。会長時代左遷された係長が一度の転勤も昇進もなく間もなく定年を迎える。前の部署で何度か調査でこの倉庫に調べに来たから顔は覚えられている。このような墓場が全国に幾つもある。
「今日で終わるのかな?」
 ケイ君が積み上げられたダンボールを入り口に移動させながらあまりの量に閉口している。
「とは言っても6時にはトラックがやってきて本社に運び込む」
 とくに興味のある資料は持ち込んだ鞄に入れている。とくに興味が引くのは藤尾ノートだ。彼もすでに記憶から消えてしまっているが、赤坂の地上げの裏資金の管理手帳だ。通帳の覚書のようで出入りにコメントをつけている。会長の引き出しが大半だ。これを柳沢も忠実に引き継いでいる。とくに柳沢時代は会長の引き出しが大胆になっている。5億にはなるだろう。無印は柳沢自身の引き出しだろう。1億は下らない。
 昼過ぎに管理人から弁当の差し入れがある。それと暇つぶしにと雑誌と新聞を置いて行ってくれる。
「今朝旗手社長が保釈金を積んで出てくるらしい」
 ケイ君が新聞の一面を見せる。すでに出てきている。本社に行ったか。無意識にミーの携帯を呼び出す。留守電になっている。
「週刊誌では未公開株のもう一つのリストがあると出ているが、そんなもの本当にあるのか?」
「ある。だが外に出せない。でもそれがあるからこそ、この事件をこれ以上大きくしたくないと思っている人達がいる。Yテレビの社長のように暴き出してその人達を引きずりおろしたいと思っているグループの存在する。でも彼らも誰が該当してるかは知り得ていない」
「でどうする?」
「ぎりぎりの事実を出すことによって本丸を隠そうとしている。それには柳沢は格好の題材なのだ。彼は欲にくらんで核心を見落としていた。だから彼を追うことで迷路に迷い込む」
 6時きっかりにトラックが倉庫に乗りつける。本社の総務部がどこから湧いてきたのかあっという間に3日間かかった段ボールを運び出してしまう。
「明日私のマンションに8時に」
 ミーからの久しぶりの連絡だ。












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歴史を組み立てる

 今日はユキが店番で団長とカオルを連れて墓参りに行く。小さな墓石だがカオルの名前と母の名前が刻んである。これはM商事から貰った退職金を当てた。さすがに旗手社長の裏金は使えない。団長は毎月花を挿してくれているようだ。
「カオル、お母さんとおばあちゃんよ」
と団長が言う。カオルにとって初めての外食だ。
「遅くなる?」
「いや、男3人の食事会だからな」
 M商事の社長と監査役だ。赤坂の個室を借りている。
「どうでした?」
「少しだけと言いながら8時間も缶詰だよ」
「どこまで調べていたのですか?」
「なぜ社長選で会長に敗れたかから聞いてきたよ。それで鈴木部長の工作に敗れてと言ったよ。次に『噂の真相』を出してきて藤尾課長の事件を尋ねてきた。横浜にいたから知らないと答えた」
 警察も『噂の真相』を見ていてくれているのだと思った。
「Kジャーナルの鈴木記者だねその鈴木部長はと確認してきたので頷いた。なぜ鈴木と組んだと。そこから監査役のことになった。殺したのは柳沢の彼女の兄貴のチンピラだそうだ」
「柳沢手帳に書いてあったのだと思いますよ。でも警察はこれから証拠固めが大変ですよ。みんな死んでしまってますから。ところで重体の女性は?」
「死んだらしい」
 無理心中だろうか。
「会社には?」
「赤坂事件の資料を出せと言っている」
 同席の社長が答える。
「頼みなんだが、赤坂事件の資料を抜粋してくれないか?今そっくり箱崎の倉庫に入れている」
「蔵入りですね。適当な依頼書を作ってください。3日ほどもぐりますよ」
 M商事の臭いものはすべてここで眠っている。
 『噂の真相』の事実を固めるものだけ資料として提出すればいい。




















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謎解き

 今日からミーの姿がない。置手紙があり池袋でファーストレディ2のオープンの準備にかかるとある。ドアは施錠したままにしている。電話もかかってこない。
 今まで書き留めてきたM商事の赤坂事件をもう一度整理してみる。それを柳沢を主人公にして改めて書き直してみる。柳沢が赤坂担当の一不動産担当から会長と組んで部長になるための藤尾の婦女暴行事件をまとめ上げ原稿を書き上げる。これをケイ君に『噂の真相』まで運んでもらう。
 夕方に轟が姿を現す。新聞記者に変装している。
「寂しいね。ミーさんに会いたかったのだがな」
と冷蔵庫に直行して小瓶を2本抜いてテーブルに置く。
「会長の殺人事件の本部が熱海から警視庁に変わったぞ。朝一番M商事にがさ入れに入った。相談役が任意同行だ。昼からはKジャーナルの鈴木も呼ばれた」
「柳沢手帳だな?」
「中身は少し分かった。警視庁の方がパイプがあるもんでな。あの手帳は柳沢の覚書のようなものだ。だがすべて人名はイニシャルだそうだ。会長から将来専務を約束されていたようだ」
「会長ならあり得るだろうな。これで警察で中途で止まっていた監査役とチンピラと加瀬の殺人事件がつながる。その代り赤坂事件がまた浮上してくる。それがいずれベンチャー事件につながるとはだれも思ってもいないだろうね」
「周平はどうする?」
「旗手社長にはお返しができたが、柳沢の執念には敬意を払わないといけないのかと思う」
「謎解きを手伝うのか?」
「いや謎解きを利用させてもらう」
 Yテレビに社長と総理の顔が浮かんだ。無傷では終わらせない。






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蜜柑の皮

 森の中は靄が立ち込めている。熱海の駅まで轟が車で迎えに来てくれた。あまりにも予想外、いや忘れ去られていた事件だった。現場から少し離れた空き地に車を止めて山道を歩く。15分ほど登ると、テープが張り巡らされている現場に出る。
「M商事の監査役もあのチンピラもこの谷に飛び込んで死んでいる。まさか柳沢がとは思ったが、この森を見ていると決められた森だったような気がしたよ」
 煙草をくわえた轟がふーとため息を漏らす。
「9時半頃、別荘に向かった会長の車の後から柳沢の車が付けていたようだ。いきなり後ろの車がスピードを上げて突っ込んだ。ブレーキ痕はなかったということだ。会長と運転手は即死、柳沢は救急車の中で死亡、やくざの妹は重体でまだ生きているようだ」
 崖から柳沢の車体が見える。
 携帯が鳴って轟が頷きながらしゃべっている。
「ダチの元刑事だ。殺人事件として本部が置かれた。柳沢の手帳が発見されたようだ。そこに殺すとあった」
「そこまで恨みがあったのか」
「その手帳に書かれているのだろう」
 さすがに警察も今回は事故としては扱えない。
「手帳の内容は見れないだろうな?」
「試しに調べさせている。これも報酬料の範囲にしてくれ」
「ああ、どこまで書いているか。こちらも呼ばれることになるかもな」
「柳沢が周平がどこまでかかわっていたかを知っているかだな。彼奴の頭の中までは分からん」
 警官が崖から上がってきた。立ち去れという身振りをする。とっさに記者の腕章を見せる。それから携帯を無意識にかける。
「『噂の真相』に柳沢の記事を載せる」
「今日テレビで見たよ。準備しておく」
 この事件は赤坂に繋がりベンチャー事件に繋がっている。闇の中でこそ歴史の事実が組み立てられている。表の報道は蜜柑の皮のようなものだ。














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まだ幕は閉まらない

 今日はミーと仕事が終わったらこの事務所で飲むことにしている。それはどちらからともなく決まったことだ。ここまでが旗手社長から託された仕事だった。ミーは夕方近くにある商店街に買い出しに出かけた。D社の会長が就任することで、銀行は迂闊に手を出せなくなる。Yテレビの社長も自社で大スクープを出してから反撃はできない。
「さあもう店じまいよ」
 いつの間にか戻ってきたミーが大皿にハムや刺身を並べる。自分はブランディのラッパ飲み。周平にビールの小瓶を抜く。
「短かったような長かったような」
「ラッキーセブンよ」
 目の前に7という数字を書く。
「周平とやった数」
「でどうする?」
「うん。六本木にファーストレディの姉妹店を出そうかと。予算は旗手社長にOK貰っている」
「それもいいかな。ではここを閉めるか?」
「閉められないわよ。裏の会社があるもん。藤尾さんにでも任せる?」
「赤坂もSハウスに移すからなあ」
「でも私はここに時々来るよ。ここの子会社の社長としてやるのよ。周平ももっと好き放題に裏の会社をやれば?」
 急にミーが縺れてくる。その時に携帯が鳴った。
「明日朝一番熱海に来れるか?」
 轟の急き込んだ声だ。
「どうした?」
「動いた!柳沢がM商事の会長の車に突っ込んだ」
 まだ幕は閉まらない。






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幕を下ろす

 夜は眠れなかった。旗手社長ではなく自分が主人公になったような気持ちだ。
 カオルは夜泣きしない子だ。もうはいはいができるようになって、蒲団から周平の膝元までやってきてすやすや寝ている。
「寝不足じゃない?」
 団長が送り出してくれる。こんな平凡な男が一つの時代の大博打を打っていることを誰も知らない。
 銀座のベンチャー本社の玄関で受付を済ませる。今日は『噂の真相』の記者で招かれている。会場にはマスコミ関係が50社ほど集まっている。すでに朝刊にはY新聞のスクープが流れている。Y新聞の東京本社の腕章を巻いた男がつまらなそうな顔で自社の大阪支社の新聞を手にしている。どこから腕章を手に入れたのか轟がカメラを首にかけて周平に笑いかけている。
「お待たせしました」
 総務部長が脇のマイクから挨拶をする。
「まさに電撃だね。社長の他は大した人物はいないと聞いていたが?」
 横の雑誌社の記者が話しかけてくる。すぐにフラッシュがたかれる。D社の社長が壇上に上がってくる。
「社長とはそれほど馴染ではなかったのだが、この会社は新しい時代を背負っていると思っていました。・・・新社長の再三の訪問に根負けしましたよ」
 段取り通りの立派なうそをついている。
「D社は?」
「いずれ息子に社長職を譲ります」
 と言いながら新社長を呼んで肩を組む。D社の社長の目がしっかり周平を捕らえている。
「正式には?」
「代表取締役会長ですが、この業界のことは分からんから新社長を支えることになるね」
 周平はメモを取らない。筋書きを描いたのは周平なのだから。ゆっくり下がりながら幕の外に消えてゆく。ああ、終わったのだ。そう思うと妙に涙が流れてくる。周平の前に白いハンカチが差し出される。
「泣かないのよ。男の子でしょ」
 そばにリクルートスーツに身を固めたミーが受付嬢として立っている。


















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世紀のスクープ

 許の行方不明の情報が日本海で沈められたという信じがたい内容で伝わってきた。例の銀座の黒幕を訪ねたが、東京の組に軟禁されているとのことだ。黒幕が大阪と東京の調整を取っているとのことだ。
「もう限界だ」
 新社長は額の汗を拭きながら砂漠を迷っているような目で周平を見る。旗手社長の危惧がすでに出始めている。この人はナンバー2の人なのだ。
「あのリストに基づいて15人ほど経団連関係の社長に会ってきた。当社の代表会長を受けてくれる人はいない。銀行も9行回ったが取締役の派遣の話ばかりだ。さすがにあの債務を見て潰そうなんていうところはないが」
 周平は『噂の真相』の記事を見せる。
「ああ、これで新聞社からひっきりなしの電話だ」
 その時、私設秘書から電話が入った。
「明日の朝刊だ。D社長も談話に入ってくれた」
 そう伝えると切れた。
「明日のY新聞の大阪版の朝刊にD社長のベンチャー会長就任のスクープが出ますよ。社長は昼前にはD社長と正式な発表を本社でしてください。総務部長にこのリストに電話を掛けさせてください」
 ほとんど同時に、Sハウスの社長が入ってくる。
「段取りはできたか」
「ええ、しばらく飲んでから二人で出てください。記者が何人か張り付いています」
 外には轟が見張っている。周平はケイ君と部屋に戻ってしばらく飲み直しだ。
 周平も妙に体がワクワクしている。Yテレビの社長は自ら仕掛けてきたが、自分の子会社の新聞に強烈なパンチを食らうことになるのだ。
「どうなるんでしょうかねえ?」
「ここまでは旗手社長との約束だ。その後はゆっくり考える」








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中間省略

 朝テープの要約書とコピーのテープをミーに本社の社長室まで運んでもらう。それからの判断は旗手社長に任せるしかない。
 昨夜は横浜に出かけていた団長が9時過ぎに戻ってきて、凄く機嫌悪そうで周平は早めに店を上がって蒲団に入った。その表情を思い出しながらケイ君からの連絡を待っている。昨日には東京に戻ってきているはずなのに携帯に出てこない。そんな時にようやく携帯が鳴った。
「遅い」
「すまん。小林の件報告するよ」
「こちらに来たら?」
「いやこれから・・・」
 語尾が聞こえない。
「例の殺人事件のあった古家の一帯を許の別会社名で買うという話が出ている。だが買い付け証明はそちらの不動産会社の大阪支社長名で出ている。その記者の話では中間省略をするという」
「その中間省略というのは?」
「真の所有者は許だということらしい」
「さすがにそんな融資は無理だろう」
 人事部長が送ってきた稟議受付簿を広げる。確かに大阪支社長のラインの会社が稟議を出している。赤線を引いて?マークが入っている。そう言えば藤尾の会社が赤坂の地上げでよく融資を受けるパターンだ。
「いやそうかもしれん」
「もしここが買われたら大阪のやくざの会社の土地は出口を塞がれることになるそうだ」
「ところで横浜で団長と会ったな?」
 返事がない。
「詳しいことは団長に聞いてくれ」
 しばらく間があって、それだけ言うと切れてしまった。















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大芝居

 新社長にD社長から貰った会社リストを軒並み回ってもらっている。
 合わせて『噂の真相』もベンチャー企業の連載を載せることにした。だがこれは世間で書かれている未公開株ではなく、この会社の規模を大胆に書いている。総売り上げが1兆を超えている。銀行借り入れも1兆だ。実に驚くべき数字を的確に載せている。これは本社の財務の数字だから外れることはない。銀行も一瞬凍りついただろう。
 旗手社長からは暗号で拘置所から弁護士から新社長に入りこちらに流れてくる。今の対応に満足してるとある。
「どうだ?段取りはできたか?」
 『噂の真相』の編集長だ。彼は今は総理の私設秘書時代より収入がいい。大手のクライアントも連携先の一般紙もできている。それは総理からの情報が出ているという風評だ。風評は手ごわいものだ。真実以上の力を与える。
「面白いところが餌に食いついた」
「思わせぶりが旨くなったな」
「君からOKが出たら大阪にこれから出かける」
「旗手社長の了解がいることもある」
「いやもう彼は君に投げているさ」
 あの人は信じるととことん信じるところがある。周平は信じられるととことん頑張ってしまうところがある。妙な関係だ。
「実はY新聞の大阪支社だ。唯一Yテレビの社長に反逆している部隊だ。話は担当記者にしていて部長のOKもとっている。原稿を持って大阪支社長に会う予定になっている」
 この原稿もほとんど周平が書いたものだ。すでにD社の社長にも見せている。
「・・・周平です。あの内容で行きます。Y新聞の大阪です」
「これは面白い!」
 D社の社長だ。 
「OKだ。『噂の真相』でも明日一番に新社長の行脚先で記事を載せてくれ」
 旗手社長はわが身を捨てて自分の分身を守ろうとしている。














 

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虚をつく

 今日は乳母車に乗ったカオルを連れて団長が山の手線の駅まで送ってくれた。周平のことをパパと呼び団長のことをママと呼ぶ。周平はカオルの瞳の中にカオルを見ている。まるでカオルは小さなカオルの体を借りて蘇ってきたようだ。
 周平は書き上げてきたノートが出来上がるたびに松七五三聖子の恋敵であった友人に送り続けている。でもそろそろ終わりにしようと何度か手紙を書きかけたがそのままになっている。
「行ってらっしゃい!」
 団長の声でカオルにバイバイをする。
 ベンチャー事件は収まるどころか日に日に燃え盛ってゆく。昨日は専務が新社長になって旗手社長が会長になる人事が発表されたが焼け石に水だ。それで新社長から神戸行きを頼まれて東京駅で総務部長から旗手社長の手紙を受け取る。
 新神戸に着くと知らされたホテルの部屋番号に直行する。
「いよいよだな」
 手紙を手にしてD社の社長が神戸を見渡せる広いガラス窓に向かってつぶやく。
「彼は自分の望んでいるものを伝えるために今の会社は守りたいと言っている」
「何をしようとされているのですか?」
「専務では持つまいと思っている。彼は常に縁の下の力持ちであり続けた。このままでは押しつぶされるとみている。それで私に会長職をしてくれと言っている。世間は二人の仲を知らない。だから虚をつくことになる。いい作戦だが、火の中の栗をつかむには段取りがもう少しいる。だがこれはうちの社員に係らせることが出来ん」
「何をすれば?」
「新社長に売り上げを落とすなと伝えてくれ。銀行もあまりにも巨額ゆえ融資を止めることはできない。だが彼らに任せておくと新社長を銀行から送ってくる。それでは潰れたも同然だ。新社長が会長をお願いに回っている噂を流してくれ」
「分かりました」
「彼を将来の人達が評価する日がきっと来る。私は信じている」







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かく乱工作

 小林がふけた。会社は民事裁判を取り下げた。問題は許の件だ。その調査は轟に任せている。裏の業界では約束を守ることが大切だ。
「結構大変な作業よ」
 ミーがテーブルに積みあがった雑誌の切り抜きをしている。
「Y新聞系がベンチャー事件を連載にしているけど、ここが一番過激ね。未公開株のリストに沿って実名で調査報告をしている」
「ファイナンスの方に査察が入った。リストの人間で借り入れをしてるケースが結構ある。ファイナンスの社長からは借入リストを貰ったが、裏のリストの人間はいないようだ」
「社長交代の議論が始まっているわ」
 これは定期的に総務部長から報告が入る。
「旗手社長は交代については腹案がありそうだ。でもここは裏のこちらは関わらない」
 チャイムが鳴って轟の顔が防犯カメラに映る。これは藤尾がつけてくれた。
「許の件だが大阪と東京の組が探し回っている。彼は京都駅裏の土地を買って双方に商談を持ちかけて値段を釣り上げていたようだ。それが買えなかったでは済まないな。殺される」
「どこにいる?」
「1日前までは京都の会社にいた。今は行方不明だ。小林は?」
「約束を守ってふけたよ。例の不動産の大阪支社長は?」
「調べてみたが会社にこもりきりで泊まり込んでいるという話だ。案外二人とも気が小さいな」
 ミーも周平も暗黙の内で考え続けていることがある。どこまでやるかということだ。これは旗手社長が拘留されるまでに旗手社長の意向は伝え聞いている。裏のリストさえ消してくれたら好きな道に進むがいいということだ。
「轟、この記事をいつものところに届けてくれ」
 『噂の真相』もしっかり業界紙の仲間入りをしている。今度はYテレビ社長がM商事会長と組んで乗っ取りを企んでいる情報を赤裸々に書いている。もちろん黒崎と舅も伏字で乗せている。
 だがベンチャー事件を消し去れないと思っている。ただ旗手社長の希望の核心だけそらしてくれということに全力を注いでいる。






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墓場まで持ってゆく

「まさか君が出てくるとはな」
 小林が腕を組んでテーブルの照り返しをじっと見ている。
 本社の総務部長に今回の裁判提訴で話し合いがあるということで、今は使われていない旗手社長の社長室に呼んでもらった。ここなら裏戸から入れる。
 テーブルにはケイ君が証拠を集めてくれた損害額のリストが5ページにもなっている。
「黒崎はあてにはならんだろう?」
 黙って答えない。
「旗手社長には貸しがあるようだね?教えてもらっていないが」
「ああ、貸しがある。これは誰にも言っていない。誰でもここまで上がって来るにはいろいろある。でも調子に乗りすぎたな。昔は同じ夢を見た仲だった。俺がやりすぎた」
「その話も、この事件も墓場まで持って行ってくれないか?」
「今度はお前が俺の立場になる日が来る」
「そうだろうな。でも表には出てゆく気がない。それにいつまで続けるかもわからない」
 それは真実だ。ただ区切りは付けたい。
 妙な沈黙が続く、二人が思い思いに始めてコーヒーに口をつける。
「黒崎にはあのリスト以外に情報がない」
「そうだ。彼奴は約束を守らない。そちらの条件は?」
「裁判の和解取り下げだ。今持ってる金は小林さんのものだ」
「悪くない話だ。だがもう一つ頼まれてほしい。許から脅されている」
 ケイ君の調べでは今回融資が実行されないことで、許の持っている土地も大阪のやくざの土地も接道部分を持たないことになる。話をまとめた許が詐欺をしたことになる。そもそも融資を止めた小林を責めるのだろう。
「こちらは調査して力を貸すとしか言えないが」
「それだけでいい。消えるさ」
 周平はその合図で総務部長と弁護士を呼んだ。小林は消えざる得ないだろう。














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激震

 長い夢を見ていたような疲れが体に残っている。でもそれは夢ではない。ホワイトドームの2階の部屋に母の赤い財布がカオルの写真と並んで置かれている。そして団長が買ってきた小さな額に若い時の母の写真が飾られている。
 だが何もまだ終わっていない。『噂の真相』のリスト公開が政界、経済界に激震を起こしている。
「少し整理して私から話すよね」
 ミーが様々の形の違う椅子に掛けているメンバーに声をかける。これらの椅子は赤坂の遺留品だ。
「社長は拘留が決まって、本社で専務が中心になって弁護士団を結成した。こことは私達は連携しない。リストについてはKジャーナルがこれは下書きで真実は別にあると主張しているわ」
「そうなのか?」
 藤尾が聞く。ケイ君も轟も参加している。
「知らないほうがいい。でもKジャーナルは先手を取られた形になっているわ。いよいよ大手の週刊誌がこぞって書き始めた」
 テーブルに何冊も積み上げてある。
「秘書と小林が釈放されたわ。秘書は本社の総務部長が面談した。彼は小林に焚き付けられて付き添っただけです。ほとんど何もわかっていない。それでしばらく解雇ということで雇用保険暮らしで様子を見て裏の会社で引き取ることに」
「小林はその足でKジャーナルの黒崎を訪問している」
 轟が補足する。
「向こうの記事は鈴木部長が書いている。だがそれほどの情報はないはずだ。問題は小林だな」
「それは本社の方ですでに損害賠償事件を提訴している。3億ほどの請求額ということ」
「最後は和解で口を塞ぐしかないだろう。ケイ君は訴状の事件の裏を固めてくれ。藤尾さんはSハウスの社長と赤坂の整理をしてくれ。必ず次は赤坂に飛び火する。ところでこのビルは?」
「今のところ無人の孤島のようだわ。玄関に小型の防犯カメラを藤尾さんに付けてもらった」
 当面このメンバーで当たることになる。






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カーネーション

 ホテルの支払いを済ませて、5人で約束の10時に不動産屋の前に着いた。作業着を着た年配の親父が腰に鍵をじゃらじゃらぶら下げて無言で先頭を歩いてゆく。昨日の話はホテルに戻って、ケイ君と買って貰っていた弁当と缶ビールを飲みながら周平が話をした。それでカオルも連れて行くと団長が決めた。
「あれから覗いてもいないからなあ」
 少し言い訳がましく独り言を言いながら鍵穴に差し込む。
 張り付けたべニアから朝のほのかな光が漏れて、年代物の小さな卓袱台を照らしている。
 周平は確かにそこにうつ伏せに寝ている母を見たような気がした。団長の手が肩をしっかり抱きかかえてくれている。母親譲りのカオルのくりくり目が不思議そうに周平を捕らえている。その端に缶ビールに萎れた花が語りかけるようにポツンと置かれている。
「カーネーションですか?」
「よく分かったねえ。アンさんはよく1本買ってきて挿していたよ。それで手向けのつもりでなあ」
 伯母は若い頃からカーネーションが好きだった。それで周平も彼女が機嫌の悪い時はそっとカーネーションを貰ってきて挿していた。これは捨てた男が初めてのプレゼントに贈ってくれた花だと話していた。でも1本なのは自分の灯なのだと言っていた。
 壁板に周平の写真が貼られていた。団長が大切にハンカチに包んで鞄にしまい込む。
 押し入れから首から下げていたという大きめの紅い財布を出してくる。これは伯母がいつも持ち歩いていたものだ。そっと中を開いてみる。郵便局の通帳に50万ほどが残っている。5万単位で毎月出金が続いている。それと田辺の印鑑。後は10数枚のデビュー当時のブロマイドが入っている。団長が宝物のようにカオルを背負った胸に抱きかかえる。
 母はついに語らず一人で旅立ってしまった。周平はぼんやりと卓袱台を抱きかかえるように残して行った母の香りに慕っている。
「さあ、一人ずつカーネーションを挿してね」
 いつの間にか団長が買ってきたカーネーションをカオルに握らせると全員に配る。親父が缶ビールに水を汲んできて卓袱台に置く。
「お母さんは今日から私達と暮らすの。家族よ」









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母の死

 丸一日市場の近くの文化住宅を回ったが、伯母いや母の消息はつかめなかった。ケイ君が3人分の塗りつぶした地図を整理した。それで夜に周平とケイ君で留守宅を再訪した。団長はユキとカオルの晩御飯を買って帰る。周平とケイ君は9時までは食事抜きで留守宅48件を回ってしまうことにした。
 9時前予定通り周平は後3件まで迫った。これといった情報がない。ここは昼には人が誰もいなかったところだ。気づかなかったが剥げた不動産の看板がかかっている。
「店は終わっている」
 70歳を超えたようなランニング姿の老人がテーブルに据えたテレビを見ながら缶ビールを飲んでいる。
「そういや、3人で営業してしていたみたいやが?」
「人探ししてたのです」
「写真か何かあるのか?」
「いえ、60歳くらいに見える女性なのですが。首から買い物かごを下げていたとも聞いていますが?」
 出してくれた椅子に腰かける。
「それなら知っているわ」
と言うと古いノートを出してきて調べる。
「そうや。これやな」
 すごくたどたどしい字で『田辺アン』と書いてある。
「芸名なのかと言ったら本名だと言ってたな。家賃はいつも月末に持ってきていた。若い頃は別嬪さんだったな」
 周平は何から尋ねたらいいのか迷ってただ話を聞いている。
「もう2年にもなるかな。北側の1階は雨漏りがひどくて半分は空いたままだ。一番安い部屋ということでその1階の一番奥に入ってもらった。それでもいくら何でもと思ったから板を探してきて打ち付けたんや」
「今教えてくれる?」
 いつの間にかケイ君が背中から声をかける。
「残念やが6か月前に亡くなったわ。家賃を持ってこないなと思って、月が替わった3日目に覗いたんや。部屋は閉まったままだったんで、警察も呼んで合鍵で開けたら、炬燵にうつ伏せになるようにすでに息はなかった」
 周平は長らく忘れていた涙があふれて剥げたテーブルに落ちて滲みるのを見た。ケイ君がその涙を拾うように手のひらを置く。
「苦しんでいた?」
「いや、笑っているようやった。そうや息子さんの写真に頬をつけて安らかに眠っていた」
















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証拠

 ユキはホテルでカオルとお留守番だ。周平と団長とケイ君は朝御飯を済ませると、地図の市場周辺まで歩いて別々に2階建ての文化住宅と呼ばれるアパートを塗りつぶしてゆく。12時になったら市場の前に集合ということにした。留守宅も多いが独り暮らしの老人も多い。
「原稿渡したよ」
 ミーから連絡が入った。
「旗手社長は?」
「朝、私のマンションから地検に出かけた」
「何か言ってた?」
「リストのことだけど、1枚目だけ出して後は絶対になかったものにしてくれって」
 2枚目は旗手社長自身が入れたリストだ。3枚目は小林の追加と最終修正が入っている。この2つは小林も知らないし、周平だけが後の段取りのためにコピーを取って1枚は旗手社長に残り1枚は今も持っている。ミーも中身は知らないはずだ。確かに2枚目が出ると会社はなくなるだろう。実は総理の名前も2枚目には入っていた。これは旗手社長のメモ書きのようなものだった。3枚目で総理の関係は外している。
「轟さんが来たので替わるわ」
「やはり頻繁に黒崎はYテレビに出入りしている。昨日から鈴木がカメラマンを連れてNビルに張り込んでいる」
 どうやら旗手社長に突撃取材でもしようとしているようだ。
「Kジャーナルからリストの公表があった?」
「今のところない。あれはKジャーナルでは出さない気がするな」
「Yテレビに高く売りつけるかな」
「それとYテレビにはM商事の会長もいたぜ」
「あの人はまだ返り咲きを狙っている。柳沢が気になるな」
 携帯を切って振り返ると、団長とケイ君の顔があった。首を横に振りながら、
「東京に戻っていいのよ」
「いや、今東京におらないほうがいいようだ」






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ジャンル : 小説・文学

時間の隙間

 疲れ果てて神戸駅のベンチにへたり込んでしまった。旗手社長の疲れも背負い込んでしまったようだ。ある日山手線を夢遊病のように回り始めてから、どうやら周平は時間の隙間に落ち込んだようだ。このまま時間の隙間で生き続けてよくのだろうか。これから東京までとんぼ返りする精神的な体力がない。無意識にポケットに手をやって携帯を取り出す。団長からのメールが入っている。
「ケイ君とカオルとユキを連れて今大阪にいます」
 折り返すが、呼び出すが応答はない。周平は取りあえず大阪のあの病院のある駅まで出ようと思った。
「よかった」
 大阪駅で団長に繋がった。
「どうした?」
「あの看護婦さんからケイ君に連絡があったの。市場の人に確かめてくれたら近くのアパートから買い物に」
「それでもう行った?」
「それが地図で見ると何棟もあるので明日行くことにした。周平は社長に会えたの?」
「ああ、重たい仕事を受けたよ」
「東京に帰る?」
「今どこ?」
「病院の近くのビジネスに入った」
「今から行くよ」
 携帯を切るとすぐにミーに連絡を入れる。
「とくに変化は?」
「ファイナンスにも査察が入ったわ。社長と会った?」
 小林が何か自供したのだろう。
「ああ、おそらく今日中に東京に戻ると思う。見せるものは見せる。隠すものはその中に混ぜてしまう。明日そちらにメールを送るので『噂の真相』に載せてくれと言っておいて」
「私が持って行けばいいのね?」








 

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出る杭は打たれる

 翌朝、カオルにお早う!の挨拶をしていたら、旗手社長から携帯があった。今日ミーが二人の携帯を買い替えに行く予定にしていた。
「段取りよく片づけてくれたようだな?」
 専務辺りから報告を受けたのだろう。
「問題があれば?」
「君に任した。ところで今から神戸に来てくれ」
と言ってホテルの名前を告げた。団長に声をかけて私服で家を出る。途中で社内からミーに連絡を入れる。
 昼前にはホテルに着いた。フロントに名前を告げると、最上階の部屋を教えてくれた。ドアをノックすると旗手社長が顔を出した。窓際の椅子にどこかで見たような恰幅のいい顔があった。
「スーパーD社の社長だ。昔からの先輩になる。昨日から泊まり込んで話を続けている。ようやく方向が決まったので来てもらった。専務は今日から地検に呼ばれている。だからこれからの動きは君に任せる」
 二人ともパジャマ姿で砕けているが、かなり疲れた様子だ。
「書き物はないから頭に入れてくれ。専務には君に伝えると言ってある。この調子なら明日の朝には呼び出しがある。どうも僕の夢のストーリーはここでお終いになるようだ」
「そこまで?」
「出る杭は打たれる。古い言葉だがまだしっかり生きているのさ」
 ここで初めて冷蔵庫からビールを出してきて栓を抜く。今まではコーヒーを飲んでいたようだ。
「おそらく長い裁判になるだろう。だが会社は潰したくない。そのためには本当のリストを見せるわけにはいかない。総理も同じだろう。小林が持ち出したリストを本物にしてしまうのだ。2つ目からは出したくない名前が並んでいる。これは僕以外総理と君だけだ真実を知っているのは」
「それで会社は生き残れますか?」
「残るいや、残す」
 どうやら旗手社長は真実を墓場まで持って行く気だ。
「いい時期を見て専務にバトンタッチした代表をD社の社長に譲る」
 D社の社長が頷く。ここまで話は決まったようだ。
「君も落ち着いたら、自分の将来を考えてくれ。しばらくは頼むよ」
 珍しく旗手社長が握手してきて、最後にD社の社長の手がそっと二人の手を包んでいる。旗手社長の涙を始めてみたと思った。
















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かなわない願望

 3日ぶりのホワイトドームだ。11時を過ぎているのだが、まだフランケン達が5人ほどカウンターにとまっている。団長がオムライスを作っている間に寝ているカオルをそっと抱く。この子は周囲の賑やかなのはお構いなく、時間が来たらおとなしく眠ってしまうようだ。背中でフランケン達がお金を投げ入れて出てゆく音がする。
 ビールの小瓶を黙っておく。
「心配をかけるね」
「一日中ベンチャー事件ばかりが流れているものね」
「心配が図に当たってしまったよ」
「でもそれは旗手社長の方針だったのだから仕方がないよ」
 団長には知らず知らず愚痴を言っていたのだろう。
「手は打てるだけは打った。運を天に任せるしかないな」
 それは周平の本音だ。団長は洗い場を済ませると、自分も小瓶を出す。
「ところでケイ君は報告をしたと言っているが?」
「ええ、15件の救急病院から伯母さんが運ばれた病院を探し出したわよ。全身癌だったようなの。3か月ほど病院にいたけど、ある日息子が迎えに来ると言って出て行ったらしいの。その時の看護婦さんを見つけたので詳しく話を聞いたと言っていたわ」
 息子が迎えに来るか。やはり伯母は最後まで周平を息子と認めていたわけだ。それは伯母、いや母のかなわない願望だったのだ。
「その看護婦さん周平の大学入学の時の写真を見せられたって。えらい若いのねって聞いたら、それから会ってないと言ってたらしいの。ケイ君面白い情報を見つけたの。その看護婦さん、半年後にばったり市場で伯母さんに会ったの」
 ケイ君が買った住宅地図を広げる。市場周辺を赤丸で囲っている。
「たった半年で痩せ焦げてお婆さんのようになっていた。買い物かごを首からかけて歩いていたから、そんな遠いところには住んでいないとケイ君の意見。もう一度彼には大阪に行ってもらう。何が何でも周平にお母さんに私を紹介してもらいたい。ここに来てもらって4人で暮らすのよ」
   








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査察

 翌朝、テレビにベンチャーの本社の玄関に段ボールを抱えたスーツ姿の一団が入るシーンが映し出された。どの番組でも同じシーンが繰り返し流されている。周平とミーは昨夜も毛布を持ち込んで泊り込んだ。運び込んだ段ボールの中身を再点検して、消却するものとここからも持ち出すものとに分ける。ミーはNビルに出かけて、社長室の整理をして、裏の会社の事務部をこのビルの空き室に移動させた。4tを2台藤尾が調達してきた。
「何か手伝うよ」
 昼過ぎにケイ君が顔を出した。
「団長の指示か?」
「これ3人分の弁当だ。大変なことになったな。逮捕されることは?」
「今のところない。伯母の?」
「すべて団長に話している」
「カオルは元気か?」
 こっくりと頷く。
「テレビ見ているかい?」
 総務部長の声だ。また公衆電話からかけているのだろう雑音が聞こえている。
「そちらの指示通り、小林の部屋はすべて調べてみた。とくに怪しいものはなかった。そちらの言うようにその他のものはそのままにしている。社長室も同様にした。あのリストは本社にはないだろうね?」
「表では一切触っていませんから。銀行の方はどうですか?」
「今後の判断待ちだそうだ。専務曰く、メインのS銀行とM銀行次第だそうだ」
「小林と秘書は?」
「まだ泊められている。小林はどこまで知っているんだ?」
「Kジャーナルに出たあのリスト以外はノンタッチです。彼も使い込みやバックがばれているのは了解していますから、駆け引きですべてを話すことはしないと思いますよ」
 だがこれからどうなるのか周平にもわからない。周平は目をこすりながら書いた『噂の真相』の記事をケイ君に運んでもらうことにした。Kジャーナルの黒崎が赤坂に絡んでいたことを記事にした。どこまで彼らを牽制できるか分からない。








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ベンチャー事件の始まり

 翌日のKジャーナルに未公開株のリストがぼやかせて載せられた。これを持って来たのは轟だ。周平もミーも思い思いにソファや椅子を並べて寝ていた。あれから裏会社に書類の段ボールを運び込んだ。手伝ってくれた藤尾と運転手は自分の事務所に戻って仮眠をとった。気が立っていたのかミーがなかなか寝付けず持ってきたワインを二人でいつの間にか空けてしまっていた。いつ寝たのかも覚えていない。
「Kジャーナルには黒崎の車が残っていて、部屋には数人がいるようだった。今ダチに張り込みを続けさせている。それからY新聞の系列の雑誌を買った。やはり同日であの小林と秘書の映像をベンチャー事件としてシリーズ掲載を始めた」
 ここにはまだリストらしきものは載せられていない。
 私設秘書から携帯が入る。
「やられたな。昨夜第1秘書から電話で3か月前付の解雇を言い渡されたよ。そちらとの関係もなかったということにしてもらえということだ」
「そうだろうね。これだけ聞きたいのだが、未公開株はあのリスト通りに配られた?」
「おそらくリストの半分もその通りに配られていないね。あくまでも想像だが」
 これは総理が自分で振り分けたのだろう。
「噂でいいから集めてくれ」
「分かったよ。失業者だからな」
 携帯を切った途端、本社の総務部長からの電話だ。
「銀座には公衆電話がないね。小林と秘書が警察に入った。解雇は済ませている。これからはこちらから電話を入れる。社長もそうだ」
「社長は?」
「ヘリで大阪に。任せたと言っておられた。でも未公開株の身内売買は業界の恒例だったはずだが?」
「でもそれを恒例としてきた人達が恒例でないと決めたらどうなるのでしょか?」
「私には考え付かないな」
 これが黒崎の言う上の人達なのだろう。










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導火線

 団長に連絡を入れて、今日はNビルに泊まり込みをすることになった。旗手社長も8時にはSハウスの社長と出て行った。専務と総務部長は1時間前に会社に戻っている。ミーは黙々と段ボール箱を作って書類を分けて入れ始めている。周平は藤尾に携帯を入れて腹心を連れて運び込みを手伝ってもらうことにした。
「ここまでしないとダメなの?」
「ああ、これはYテレビの社長の仕掛けだ。小林が導火線として利用された」
「彼は意志があるの?」
「ないだろうね。ファイナンスの社長を下されて、融資が否決になったことで完全に黒崎の手先になった。Yテレビの社長からいくらかの金が出ているのだろうな」
「金には敏感な男だからね」
 周平は未公開株の3つのリストを自分の鞄に入れる。一つは試案のリストであの野党の代議士の名前はない。2つ目は野党の代議士名が加わったもの。3つ目は旗手社長の修正が入った最終版。だが総理の手元では全く違うリストになっているはずだ。
「旗手社長はどう動くかしら?」
「最悪まで読み込むだろうね」
 10時には藤尾が3名を連れてきて、まず書類から軽トラックに積み込む。それから30分遅れて4tが到着する。こちらにも3人が乗り込んでいる。4tは赤坂の地上げ現場の一室に運びこまれる。これは周平の指示だ。おそらく大規模な査察がが始まると想定している。旗手社長も同じ考えだ。
「素早い対応だな」
 轟が黒づめの作業服で入ってくる。彼はパソコンからデータを抜き出して、その他は完全に消してしまう。それから携帯や防犯カメラにも取り掛かる。
「しばらくKジャーナルを張り込んでくれ」
「彼奴らが動いているのか?」
「間違いない」
 書類を藤尾と周平が乗り込んで裏会社に運び込む。4tは2時間遅れて赤坂の地上げの一室に運びこまれる。轟は作業を済ませるとKジャーナルに走る。
 周平が藤尾と作業を終えて戻ってきたのは、薄っすら空が明るくなってきている。がらんどうになった部屋の真ん中にミーが胡坐を組んで座っている。そこにワインボトルがある。これはミーが冷蔵庫にいつも入れているボトルだ。
「後ろ姿は男だね」
「待ってたのよ。3人でサヨナラの乾杯しようよ」




















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ツキを失う

 Nビルに戻ると、ミーがビデオを画面に映し出していて、本社の専務と旗手社長が並んでソファに掛けている。総務部長が電話にかじりついて情報を集めている。周平は軽く頭を下げて折りたたみ椅子を広げる。
「この議員は?」
「野党の議員でかなり曲者です」
 専務が答える。旗手社長の視線が周平に向く。
「小林さんが最後に入れてきた未公開株リストに入っていました。もちろんそれを加えた形であの代議士に提出しています」
「これを見ているとこの議員が株を貰えなくてねじ込んだというストーリーで、小林が秘書室長に金を持たせて謝りにそんな感じですよ」
 専務がビデオを見ながら解説を入れる。この専務が一番の生え抜きだと聞いている。
「やはり株が配られなかったということだな」
 旗手社長が足を組んで天井を見上げる。
「いつか言ってたな。総理が約束通り株をばらまいていない可能性を」
 総務部長が電話を置いて、
「昼前に小林さんが来て秘書室長を連れだしたということです。お金を持ち出す了解はとっていないということです。小林さんのところにはこの議員から何度も電話があったとのことです」
 チャイムが鳴ってミーが上気したSハウスの社長を迎え入れる。周平が自分の椅子を運んでくる。
「さすがに単独でこんな絵をこの議員が描いたとは思えない」
「後ろにYテレビの社長がいるのさ」
「こんな簡単にテレビ中継ができるわけがないな」
 ひよっとすると黒崎と舅がこの裏にいるのではないか。
 旗手社長が立ち上がって部屋の中を歩き回る。考えがまとまらない時にする癖だ。こういう時は誰も口を挟めない。わずか半時間の時間だが、恐ろしく長く感じる。
「ツキを失ったか」
 旗手社長の目は閉じられている。
「専務は明日一番役員会議を開いて報告をしてくれ。それからメインバンクを回ってくれ。続いてY新聞以外を押さえてくれ。Sハウスの社長は長老達をまとめてくれないか?総務部長は今から戻って今日付けで小林と秘書室長を解雇するんだ」
「私は?」
「Nビルを閉める。未公開株関係の書類は消すのだ。その他は藤尾のビルに移せ」








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事件の始まり

 昼に轟から携帯が入ってきて、黒崎、舅の任意呼び出しの後、ついに柳沢の指名手配が行われたという。だがもちろん行方不明だ。やくざのママを連れたまま姿を消している。M商事の社長からは会長も警察に任意で呼ばれて、会長の代表権復活についてはYテレビ側からは沙汰なしとなったようだ。それで調査費用の振り込みがあった。
 ラブホテルの取引は代表者の藤尾と裏の会社で使っている信組で午前中にすませた。藤尾は取引慣れていて、終わると昼から開いている居酒屋に誘う。それを予想してミーには直帰を告げてきた。彼女も今日は早く閉めて姉さんママのニューハーフの店に行く。夜に舞台で踊るそうだ。最近今の仕事から替わりたいと言っている。
「赤坂はどうなの?」
「一部グループで持っていた土地を裏の会社に移し始めているさ。これは旗手社長の直接の指示だ」
「こちらにはあまり情報が入らないが?」
「Sハウスが中心に動いている。問題の国営地もスーパーD社に等価交換で済ませている」
 旗手社長の中では赤坂はもう終わっているのだろうか。
 藤尾はロックを焼酎で飲む。周平は小瓶がないので中瓶を頼む。この店は昼なのに至る所で酒盛りが始まっている。写りの悪いテレビがついいている。
「あれ!小林じゃないか?」
 画面に小林と若い本社の秘書室長が写っている。
「なんだ!」
 ミーの携帯を無意識に鳴らしている。
「すぐに10チャンネルのビデオをとるんだ。これから戻る」
「野党の議員事務所だ。鞄から金を出しているところをカメラで撮られている」
 轟の声も聞かずにもう周平は立ち上がっている。
「今からNビルに来るんだ」
 続いて旗手社長からの電話が入る。














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余震

「目に隈ができてるよ」
 ミーは笑いながら言う。そう言うミーも隈ができている。だが気持ちは思い切り軽くなっている。
 今日は私設秘書が初めてNビルにやってくる。
「ラブホテルの話、社長にしてくれた?」
「いいよだって」
「ラブホテル7件だよ。24億になるんだよ」
「裏の事業部だからそのくらい報告もいらんと言っていたわ」
 周平は裏事業の再生に力を入れている。表の躍進についてゆけてなくなっている。もうすぐB勘が枯れてしまうのだ。それでは旗手社長の要望に応えられない。
 チャイムが鳴ってミーがドアを開ける。珍しく私設秘書が派手なジャケットを着て顔を出す。
「久しぶり!ミーさん」
 あえて握手をする。ミーは、
「汗臭い!」
 と大げさに手をこする。
「社長のOK採れた?」
「管理会社の方は?」
「うちの後援会社を使う。契約もそこが入る。1億負けさせたから」
 なかなかの商売人だ。
「半分は調査料としてそちらの調査会社に戻す。OKだね?そうそう総理から未公開株のリストを処分するように直接電話があった」
「何かあるな?」
「最近は議会の情報が入ってこない。ただ」
と言って、Kジャーナルの記事を広げて見せる。またもや田辺の記事だ。舅が書いている。
「今回初めて未公開株の記事を書いた。かなり詳しい内容だよ」
 やはり小林が逆襲に出てきたようだ。今日もあの稟議を否決にした社長に不動産の大阪支社長を連れて陳情に来ているということだ。









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筆おろし

 急いで帰ってきてと言われたが 、ホワイトドームの前に着いた時には9時半を回っていた。店のドアを開けたら目玉さん達が4名並んで飲んでいて、周平の顔を見ると一斉に立ち上がってお金を瓶に投げ入れて出てゆく。
「カオルは眠ったよ」
と揺り籠を指す。それから冷蔵庫からハムの盛り合わせを出して小瓶を2本抜く。どうやらいつの間にか団長も小瓶党になってしまったようだ。それに今日はスカートをはいている。
「気の重い話は先に済ませるよ」
「やはりケイ君の報告だな?」
 黙って瓶を上げて乾杯する。
「狐、いえ周平はもう自分ではすでに気づいていることだけど」
 周平は黙って頷く。
「ショウちゃんから伯母さんとの筆おろしの話を聞いたって。中学卒業の時にお祝いに伯母さんが」
「そうだ」
「ケイ君が動物園の近くの映画館のお釜に会った。1年ほど映画館に顔を見せていて時々一緒に飲んだって。やはりアンちゃんと仲間内に呼ばれていた。伯母さん、周平の大学に入った頃の写真を見せて自慢していたそうよ」
 アンちゃんが赤ちゃんを産んで帰ってきたのだ。
「アンちゃんは自分の子供だっと言ってた」
 周平が何か言おうとすると口を塞ぐ。
「私、母親に抱かれたのって素晴らしいと思うわ。私と周平の間では誇らしいこと。私も狐も裏の社会に生きている者同士なのよ。でもケイ君には口止めしたのよ。もしこの話が漏れたら縁を切るって」
「ありがとう。団長の籍を入れたいのだが?」
「それはいいのよ。でも周平の女にしてね」
「ああ」
「ケイ君は折り返しで大阪に行ってもらっている。最後救急車で運ばれたところまで分かっているの。この調査費は私に出させて。それから今夜は腰が抜けるくらい抱いて」






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歴史

 今日は団長が店を早く閉めるので飲まないで帰ってきてと厳命されている。それなのにファイナンスの新社長に小林の報告書の説明を旗手社長に昼過ぎに直接頼まれて、やっとのこと6時にファイナンスの社長室に行くことになった。ファイナンスも最近は秘書室長の名刺で出入り自由になっている。
 ほん最近まで小林の社長室であったがとドアをノックする。
 すでにコーヒーが二つ並んでいて社長が眼鏡を上げて書類を読んでいる。
「悪いね。忙しいところを」
 と言いながら、ソファに書類を持ったまま移動する。どことなくM商事の社長と同じ銀行員の臭いがする。
「小林さんはあれで強引なんだね?」
 その書類は融資の稟議書である。審査部長の印の上に小林の印があって、斜め横にグループの不動産会社の大阪支社長の印が並んでいる。
「こりゃ脅しだね。これが社長最初の承認印になるのかねえ」
「脅しましたか?」
「ああ、笑いながら本人が稟議を持ってきた。すべて審査は済んでいますからと言ったね」
「それで承認されるのですか?」
「取りあえず三等社長だからオーナーに尋ねたよ。そしたら秘書室長を向かわせるから話を聞いて判断を任せるからというわけだ。いつもあんな調子かい?」
「直接命令するタイプではないですね。とくに腹心には。常に自分の中で判断は持たれているようです」
「それなら尚更困ったものだ。試されたわけだね」
 周平は壁にかかっている時計を睨む。
「グループ会社から来た稟議は素通りだね。ここから直さないとダメだ」
 どうもこれは独り言のようだ。
「あの報告は?」
「すべて事実です」
「オーナーはなぜ自分で言わない?」
「いろいろここまで来るのに歴史があるようです。歴史は自らの手で崩せない。だから私達がいるようです」
「歴史か」
 そう言うと、眼鏡を上に上げて稟議に判を着く。否決欄だ。
「いいんですか?」
「だから頭取コースを外れてここに来た。これからも相談相手を頼むよ」








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盗聴

「お早う!」
 小さいカオルに声をかける。最近は団長はカオルの代役を務めてくれた少女を子守に雇っているようだ。
「団長は?」
「朝一番に横浜に劇団の打ち合わせに。朝御飯はオムライスがあるということです」
 少女は慣れた手つきで抱きかかえると、カオルを1階の階段の上り口に揺り籠を据え付ける。周平は昨夜は12時過ぎに戻ってきて、先に眠ってる団長に声をかけずそのまま寝てしまっている。ホワイトドームの壁掛け時計はすでに10時を回っている。久しぶりの休日だ。
「名前は?」
「ユキ」
「近く?」
「裏口から路地を10メートル」
 カウンターに素早く温めたオムライスにビールの小瓶を置いてくれる。
「ビールまで出してくれるのか?」
「はい。団長がそうするようにって」
「ユキはカオルを知っている?」
「お母さんの方?よく知ってる。ここで舞踏会があるときは裏口からよく見に来ていました。それでずっと劇団に入れてほしいと。最初に認めてくれたのはカオルさんでした」
 カオルが目を覚まして泣き出した。ユキが飛ぶように駆け寄って抱きかかえる。
「おお、起きてたか!」
 アロハシャツにサングラス、いかにもチンピラ臭い轟だ。
「遂にKジャーナルを首だ」
 カウンターにテープを出して、自分で冷蔵庫から氷を出してきて焼酎のロックを作る。
「仕事は回すから心配するなよ。それより小林と許は?」
「たっぷり3時間テープが入ってるぜ。ただ肝心な話は最初の10分と最後の3分だけだ。二人ともめっちゃな女好きだ」
「ポイントは?」
「京都駅裏の土地だが、B勘を3億もかましているそうだ。そこから小林が1億貰う条件だ。ばっちりテープに入っている」
 周平は持って降りてきた鞄から100万束を出す。轟は折りたたんだ領収書拡げて並べる。領収書は表の経理に載せて100万はB勘処理でミーに口頭で伝える。ミーはそんなこともいらないというが生真面目に今でも続けている。











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臭いものに蓋をする

 慌ただしい日が続く。轟が小林と許のクラブでの盗聴に成功したと報告があった。京都駅裏の更なる買い増しの融資の依頼で、小林がバックを1億を要求している。小林も代表権を外されたのでこの辺りで大きく稼いでと考えているようだ。
 ケイ君の携帯に入れると、まだ大阪にいるようだったので、もう一度京都によって帰ってもらうことにした。もう一度地元の新聞記者に会って、次の購入地と状況を調べてもらう。その後すぐにファイナンスの人事部長に大阪支店の稟議状況を調べてもらう依頼をした。
 周平は今日は直行で私設秘書の事務所を訪ねている。『噂の真相』の次号にこの京都駅裏地上げのシリーズの原稿を持ち込んでいる。
「いや何とか雑誌社のような感じになってきましたね」 
 最近リホームを入れて打ち合わせテーブルに本棚が並んでいる。それに若い女性事務員を入れている。
「雑誌が案外いい商売になるんだよ。それに法人会員が思ったより増えている」
「それは総理の秘書の名刺が効いているんですよ」
「今のうちに老後の準備をしとかなきゃな」
 彼は彼なりに今の総理が長くないことを感じているようだ。
「報告は読ませてもらいましたが、未公開株の現場での感触はどうなんですか?」
 出してもらったコーヒーを口に運びながら尋ねる。
「いやな燻りがあるな。これは総理にも内緒にしているのだが、リスト通りに未公開株が配られていない気がするんだ」
「それは?」
「今回は総理自身が第1秘書を使ってやったのでつんぼ桟敷なんだ。敢えて私を外したという気がしている」
「そっれはまたどうして?二人三脚でここまで来られたんでしょう?」
「だから臭いものに蓋をする。私設秘書の宿命かな。だからあんたとのこの仕事を大切にしている」
 未公開株がリスト通り配られていないとメモ書きする。
「この原稿を次にシリーズとして乗せてください。今回からペンネームを薫に変えてください」









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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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