夢追い旅 2019年02月
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人身御供

 『噂の真相』で赤坂事件を別の目で記事を書いた。これは総理の私設秘書のブラックジャーナルの創刊号である。もちろん周平が記事を書いた。もともとこの情報を持ちまわったのは某ジャーナル誌の編集長であり、情報源はM商事にいた元部長。またそこにかつていた某氏が田辺記者であるとの噂もある。そこまで書いてKジャーナルと舅と小林を牽制した。合わせて旗手社長にミーから小林に関する報告書を提出した。
 それからケイ君に再び京都に出張をお願いした。ダミーで融資した底地の上で許の子会社の社長が殺されたのだ。これは旗手社長からの直接の依頼だ。周平は自ら動こうとしたがミーから止められた。何か不穏な動きが続きそうな予感があったのだ。ケイ君にはショウちゃんの店に帰り覗いてもらうことも頼んだ。伯母の情報が入ったと連絡があったのだ。おそらくケイ君から団長に気の重い秘密が漏れるだろうと思った。
 珍しく轟がNビルを訪ねてきた。ミーも承知の間柄である。ミーが二人分のコーヒーを入れてくれる。
「今朝黒崎さんところに呼び出された」
「ばれたか?」
「ああ、それでお前はどちらだと言われた。でもそれは今更いい。いよいよ警察が黒崎のところに来たのや」
「警察なら黒崎にルートがあるだろう?」
「別のルートで押さえが利かないらしい。田辺記者を出せと言っている」
「遂に人身御供にされるか」
「そうもいかん。あんたはもう彼らでは切り捨てられない。知りすぎている」
「かもね。でもどうする気だ?」
「黒崎さんが弁護士を入れて話をしたいと言い出した。警察も下がらざる得ない。これは後で社員から聞いた話だが、鈴木さんが小林の情報で初代から引き継いで記事を書いている落ちにするようだ。それに今回の記事のタイミングだ。彼らも予想もしていなかったろうな」
「轟さん、乗ってくれるか?」
「毒を食らわば皿までやなあ」
「あのねぐらに舅と小林の痕跡が残せるか?」
「そんなの訳ないさ」
 もともとあのねぐらは周平が人身御供にされるストーリーだったのだ。
















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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

いわく

 どうも腑に落ちないことがある。あの合理的な発想の旗手社長が小林には歯切れが悪い。ケイ君の調査書もSハウスの報告も入れている。それなのに今回も何の明確な処分がない。
 わざわざ総理の私設秘書に周平が届ける記事をミーに頼んで、帰りにお返しで彼女の常連のスナックに誘った。ミーもカオルのことがあったので飲みたい気持ちを抑えていたのだ。
「飲みだけだよ」
「分かってる。でも団長とはこれからどうするの?」
「伯母になるな」
「複雑」
 マスターがミーにブラデイのロック、周平にはビールの小瓶を抜く。マスターはこちらが話しかけない時は空気になりきる。
「前から気になっていたんだが、旗手社長と小林にはどういう関係があるんだ?」
「聞いてる通りじゃない?」
 軽く流す。
「そうは思わない」
「仕方がないな。でも社長に知られたら周平首になるかもね」
 ミーはブランデイを飲み干して話し出す。
「もともと私が男だったときから小林はある店の常連だったの。この店は今のママもいた店だったけど、まだ男の子が手術代を稼ぐ店で有名なの。初めてそこで女になった時の最初の客が小林だった。足らない金は小林に援助してもらった。小林の女だったの。幻滅した?」
「いや」
 それぞれが重い歴史を背負っている。伯母のことが頭をかすめた。いずれミーのように団長に告白しなければならない時が来る。
「その小林が紹介してくれた銀座の店に社長を連れてきて来たの。そしたら社長が私に熱を上げてしまって、結果小林が私を譲ったことになっているの。社長は初めて女を知ったと大興奮だったの」
 男と女、窺い知れない世界があるものなのだ。











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獅子身中の虫

 今日は子供を病院から引き取る日だ。団長と一緒に病院に出かけ、買っておいた服を着せて団長が小さなカオルを抱きかかえる。並ぶ姿は幸せな子供を授かった夫婦に見えるだろう。小さなカオルはカオルと周平の子供として入籍されている。団長には籍がないのだ。
 ミーには事情を伝えてある。4時には川崎のスナックに集合と伝えられている。
「遅くなる?」
「ああ。旗手社長に呼ばれているからな」
 そう言って大通りからタクシーを捕まえて乗る。
 1時間半ほどでスナックに着く。ちょうどSハウスの社長の社用車も着いたところだ。
「京都で話を聞いてくれたんだな?」
「すでに社長には伝えてあります」
「今日は?」
「まだ聞いていない」
 どうも旗手社長が招集をかけたようである。
 すでに別室の円形テーブルには大皿と飲み物が並んでいて旗手社長が珍しく椅子に掛けている。今日は7名だけの集まりのようである。
「例の赤坂の国営地の件で野党から委員会で質問が出たという知らせだ」
「彼奴か?」
 Sハウスの社長が確認する。
「なぜ漏れる?」
「黒崎さんのところです」
 周平が答える。
「黒崎は外している」
 周平ではないかと言う視線が集まる。だが周平も身内の問題をここで話しにくい。
「小林か?」
「はい、こちらの調査では赤坂の問題が黒崎さんに漏れるのは小林さんのルートしかないと。これはまだ確認できていないのですが、この野党の代議士をリストに加えたのは小林さんです」
「取りあえず等価交換にはグループは外す。スーパーのD社に入ってもらうように頼んでおいた」













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綻び

「ごめんね」
 ミーが低い声で言う。カオルの火葬を終えてまだお骨は部屋にある。
 今日は用心して総理の私設秘書の事務所に出かける。車の中でKジャーナルの最新の記事に目を通す。やはり田辺の名前で書いているが舅と黒崎の合作だ。どうも赤坂の国営地の等価交換を見つけたようだ。この情報は轟にも教えていない。
「まだ詳しい情報までは入っていないから、軽く突いてみた感じだな」
 事務所に着くと、周辺を見渡してからエレベーターを上がる。この記事の指摘は総理の第1秘書からファックスがあったようだ。
「悪いな。第1秘書は鬼の首を取ったように・・・。でもあいつらは何も詳しいことは知らん。総理も知らん顔をしている。ただ関係者がびくついている」
「お金を受け取った人たちですね?」
「でも本人たちがしゃべらない限りまだ登記もさわっていないし、建設もまだまだ先の話ですよ。証拠が出ない」
「こちらでも調べてみたんだけど、どうも小林らしいのよ」
 ミーが口を挟む。
「なぜ?」
「どうも小林が未公開株の1部のリストを流したのではないかと思うの」
「あれは予定のリストがあり、次に総理の要望チャックが入ったリストと、最後の旗手社長自身がチェックを入れた最終版リストがあったはずだ」
「小林は予定リストを持っていてそれに追加してきたでしょ?」
 それを黒崎に流した。
「でも総理関係は記入していなかったはずですね?」
「それはこちらで確認したさ」
「それはそうと、ブラックジャーナルを出す準備はできていますか?」
「ああ準備OKだよ」
「その記事を書いて対抗しましょう」







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小さなカオル

 こんなにホワイトドームに常連がいたかと思うほど、昼過ぎには2階も1階も座る場所もないほどになった。昼過ぎに轟が珍しく喪服でやってきた。それから藤尾も喪服だ。団長が店中にある花瓶を並べてみんなが持ってきた花を挿している。周平は自分の周りを空けてもらって、轟と藤尾とケイ君の場所を作る。
「子供を産むことを選んだからさ。それは仕方がないさ」
 しきりにケイ君が慰めの言葉をかける。それは自分にかける言葉でもあるようだ。彼は時々飲んだ時にカオルの子は自分の子だと言う。それはホワイトドームの仲間はみんな知っていることだ。それにここにいる男性の大半がカオルを抱いている。カオルは小さい頃からセックスで生活の糧を得ていたし、セックスで自分の生きていることを確認していた。周平が抱いてやった数などしれている。でもカオルの温もりが今でも残っている。
「ミーさんよ」
 下から団長の声がした。
 ミーも喪服で上がってきて旗手社長の名前の入った香典を置く。周りの人間が驚いたように席を空ける。
「社長から」
「ありがとう」
 ミーにはカオルの話を時々していた。セックスを愛す仲間同士としてカオルに会いたいと言っていた。
 団長がブランディーを1本持って上がってくる。
「可愛い人ね」
 カオルの顔を見てミーが涙を流しながら言う。団長はカオルの薄くなった髪をそっと束ねてやっている。冗談で鬘を買わないと言っていたことがある。
「少し席を外すので店中の酒を開けてね」
 団長はそう言うと周平を外に連れ出した。それから黙々と病院に向かう細い道を歩く。
 いつの間にか目玉さんが廊下で周平達を迎えてくれる。ガラスの向こうに赤ん坊が寝ている。
「小さなカオルお帰り」
 周平にしか聞こえない声で団長が囁いた。
「今度こそ一緒に空を飛ぼう」
 団長が思いきり手を握ってきた。













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カオルを抱いて空を飛べなかった

 朝まだ暗いうちに、ショウちゃんの部屋を出てタクシーに乗った。そこで初めてミーからの留守電を聞いた。夜明け前の4時過ぎに入っている。
「団長さんから携帯に繋がらないのでと・・・。カオルさんが亡くなったって!急いで戻って!」
 カオルが亡くなった!それだけが頭の中を駆け回っている。
 新幹線の中から団長に何度もかけてみるが、呼び出しているだけで出てこない。東京駅からタクシーに飛び乗る。団長には繋がらないが、ケイ君にようやく繋がった。
「どこに行ってたんだよ」
「大阪だ」
「今朝カオルが亡くなった。これから店に運ぶ。店に来い」
 ケイ君も周平も気が動転している。心の中では予想はしていたことだが。
 タクシーを降りてホワイトドームに走り込む。カウンターに目玉さん達が所狭しと並んでいる。ケイ君の声がして階段を駆け上る。カオルと子供にのために作った部屋に蒲団が敷かれていてカオルが寝ている。団長が
「やっと帰ってきたよ。だめな人よね。でも叱らないと約束したし」
とカオルの小さな手を握って話しかけている。
「すまん」
「カオル狐まだかって待ってたよ。生まれた子にカオルって呼びかけて」
 周平は初めて団長の涙を見た。周平にも長らく、おそらく子供の頃に泣いたきり忘れてしまっていた涙が頬を伝う。狐はカオルを抱いて空を飛べなかった。
 周平は思い切りカオルを抱きしめた。なんという軽さだろう。こんなに軽くなってもカオルは子供を産むまで頑張った。そして最後の命を残して行ってくれた。
「幸せだったよそれが最後の言葉」
 そう言うと立ち上がって、
「これからカオルのために宴会してやって、あの子は寂しがり屋だったからどんと賑やかにね」

















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伯母の真実

 ショウちゃんの連れてきてくれたのは、飛田の中にある和風スナックである。この店に来た記憶は周平にはない。
「この窓の片隅に通天閣の帽子が見える」
 言われて見あげると、こんな場所からも通天閣が見えるのに驚いた。
「彼女はよくこの席にかけて朝まで飲んでいたわよ」
 伯母と同年代らしい女将が声をかけてくる。電話でショウちゃんがこの場所を押さえてくれたようだ。
「みんなよく知っているけど、一時彼女と同じ場所で立ちんぼしていた時期があるの。それから飛田に移って40歳の時に今の旦那と会ってこの店を持った。仲間では彼女が一番持てたのに、彼女はいい男に縁がなかったわ」
「では伯母は今?」
 ショウちゃんの焼酎のボトルを出してきて、水割りを作ってくれる。
「3年前にこの店にひょいっと現れて以来姿を見せないね。動物公園の近くの映画館で客を探しているとは言ってたよ」
 この情報はケイ君と同じだ。
「そうだおばちゃん」
とカウンターの洗い場に声をかける。80歳くらいに見える白髪の年寄りが顔を上げる。
「アンちゃんのこと覚えている?」
 伯母はアンちゃんと呼ばれていたようだ。
「アンちゃんはそうさなあ。昔ガードの近くの寿司屋に勤めていたんや。わしはその頃は立ちんぼしてて、よくお客とその寿司屋に寄っていた。そこの渡り職人と駆け落ちしよったんや」
 それは叔母から周平の母の話と聞かされてきたものだ。
「それは妹の話ではないですか?」
「いんやアンちゃんはアンちゃんだ。1年ほどしたら赤ん坊を抱えて戻ってきたさあ。しばらく地下の演芸場で歌っていたこともある」
 周平は伯母の写真を出して見せた。
「アンちゃんだ」
 














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邂逅

 団長からは連絡は入らない。通天閣からじゃんじゃん横丁を抜けて古いガードを抜ける。ギターが懐メロを奏でていて、古着が安物の暖簾のように風に揺れている。足はしっかりとこの道を覚えている。スーツ姿が珍しいのか時々じろじろと見つめてくる。周平は昔この道を日が変わるまでうろうろと歩き回ったり座り込んだりしていた。伯母の部屋は夜中まで客がいる。伯母が狭い路地の窓に手拭いをかけると周平は家に戻れるのだった。
 いつの間にか足は商店街からそれて空地の前に立つ。ケイ君の言った通りもうあのアパートはない。路地からいつの間に現れたのか、男娼が背中に立っている。
「このアパート?」
「尋ね人?娼婦が多かったからね。聞きたかったらその前の飲み屋覗いてみたら」
 視線の先にぼろぼろの提灯がかかっている。記憶に鮮明に残る店だ。
 暖簾を潜ると、労働者がカウンターに肘をかけて飲んでいる。年配の女が珍しいものを見るように周平を見る。周平は隣の男のビールを指さす。
「なんや、シューちゃんやないんか?」
 カウンターの奥から鍋を持った男が声をかけてくる。
「ショウちゃんか?」
 子供の頃からの遊び仲間だ。
「どこにいっとった?」
「東京や」
「そうか。お前は頭よかったものな」
「前のアパート?」
「相続でなあ、手放したんや。それよか伯母さんに会ったか?」
「いや始めて戻ってきた」
「そうか9時過ぎたらええとこに連れてったる。夜は俺とこに泊まれや。バツイチの一人暮らしや」
 








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癒着

「おやっさん元気ですか?」
 ミナミの歌舞伎座の裏にあるいかがわしいスナックで落ち合った。彼が藤尾の会社の大阪支店長である。とは言っても昨年に事務所を出して社員は2名ということだ。お釜バーということだが、ミーとは別世界のようだ。
「赤坂をやってたらしいね?」
「そうですわ。もともと大阪のグループの不動産会社にいたんですが、天皇と喧嘩をしてしまって藤尾さんに拾ってもらったんです」
 30歳前くらいで目は荒んでいない。
「小林さんと大阪支社長とは?」
「まだ浅いですね」
「では大阪支社長と兵庫の代議士は?」
「そりゃあ太いパイプです。でも実際はダミーの社長がほとんど中継してますわ。毎日ダミーの社長が自分の会社のように支社長室の応接に座り込んでいますよ。若い奴らを飲みに連れていきますわ。金はふんだんに持っていますよ」
「支社長は?」
「飲むときは会社であとは一人で出掛けます。用地の取得は彼の判がないとできない。ほとんど最近は支社長の肝入りばかりです。こちらもグループなのになかなか決裁しないんですわ。どうも藤尾さんがバックを拒んだのが原因ですね」
 体質は小林とそっくりだ。
「京都の今回の案件はご存知ですか?」
「底地ですね。さすがに批判が多く、ファイナンスの大阪支店では本店で否決になったと聞いています。それが小林社長が支社長と会って金が出たようです」
 周平はもう1軒という誘いを断って、すっかり真っ暗になった道をふらふら通天閣の灯りに向かって歩いている自分に驚いている。昔この道をダンボールいっぱい詰めてリヤカーを何度も走らせた。








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有名物件

 M商事の新社長に10ページほどの調査書を郵送した。赤坂の記事は黒崎の運営するKジャーナルで田辺記者の名前で書かれているが、書いているのはM商事の元鈴木部長であるという事実。もともと黒崎が当時のM商事会長らと赤坂の地上げを始めたが、彼は別ルートにもこの情報を流し今回の事件を起こした。鈴木部長もまた会長から離れて相談役を引っ張り出した。だが二人の野望は見事に外れてどうも今はYテレビの会長と連携している。さっとこのような内容に証拠をセットした感じである。
 珍しく旗手社長から直接携帯で京都に行くように指示を受けた。
 団長には子供が産まれたらすぐに連絡を頼んで新幹線に乗り込んだ。昼過ぎに八条口から降りて迎えに来ていた車に乗る。
「わざわざすいませんね」
 Sハウスの京都支社長の名刺を出す。周平は秘書室長の名刺を出す。
「どういうことなのですか?」
「お宅の不動産会社が京都の駅裏に土地を買い始めたのですよ。京都では有名案件になりつつあるのです。昨年も1人死者が出ています」
「なぜこちらの会社だと?」
「大阪支社長の有名なダミー会社にファイナンスが融資していますからね」
 資料を出してきてテーブルに置く。調査会社の資料によると、ダミー会社は兵庫の代議士の従兄弟が社長をしている。ここ3年で15物件を仕込んで地上げしている。最近はその半分をグループのファイナンスが融資をしている。融資額は20億になっている。銀行借り入れはない。
「それで?」
「当社も実はこの物件に2年前から手を突っ込んでいます。だが購入予定地に暴力団絡みの会社が入ってきて先月底地を購入したのです。その仲介をしたのが許と言う男で、どうもあのダミー会社にファイナンスというセットで、調べてみると迂回融資らしいのですよ」
 帰りがけに車で京都駅裏を案内してもらった。まるで廃墟のようなところだ。線引き見直しの話が湧いてきて、一斉に注目の土地になったようだ。
 藤尾に連絡を入れると、夜に大阪の地上げをしている部下を紹介してくれるという。
















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落とし穴

「いつも片隅で何を書いているの?」
 いよいよフランケン達が帰っていく。その頃はすでに団長は段取りよく洗い物を済ませている。
「団長は覚えてないだろうけど、これでも学生時代は小説家を目指していた。ずいぶん前に大阪に出張した時に、大学の友達に会ってこのノートを送って小説にしてもらうと約束した」
「あの恋敵ね?」
「そうだ。こちらは調査書は得意分野だけど、文才は彼の方がはるかに上だ。それでM商事の赤坂の話でお仕舞にする予定だったが、どんどん思いがけないところに繋がってゆく。1冊で済まなくてもう4冊目に入った。前の3冊はすでに彼に送っている」
「じゃあ、そこには松七五三聖子が出てきてるわけだ」
 まるで他人事のように言う。
 団長は手を上げてフランケン達を送っている。
「松七五三聖子との奇遇な再会で幕を閉じるつもりだったが、どうもそうもいかないんだなあ」
「産まれってくる子供のことも書いてやらないとね。名前は決めた?」
「それがなあ。笑わないでくれよ。『薫』しかないと思っている」
「母と娘が同じカオルか。でもいいかもしれないよ」
 最後のビールの小瓶を抜いて2本カウンターに置く。そろそろ寝るよという合図だ。
「でも周平はなんだか落とし穴にはまった感じしてない?」
「落とし穴か」
「つまりね、学生時代と今の間にある空間、落とし穴よね。私は学生時代の記憶もなく、傭兵だったころの記憶もなくただ私の恋人だったかもしれない男の記憶にぶら下がって今がある」
「こちらはある日落とし穴に落ちたら忘れていた自分に出会った」
「なんだかまだまだ終わりそうな感じしないよ」






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新しい動き

 さっそく不動産会社の人事部長が手配をしてくれた。
 大阪支社の古参の次長が会議の帰りにNビルに寄ってくれることになっている。自由に話をしてもらいたいからと、人事部長は同席しないことになった。
「わざわざすいませんね」
 周平は秘書室長の名刺を出した。Nビルの存在は有名なようだ。ミーが気を使ってコーヒーを入れてくれる。彼は感心したようにミーのすらっとした足を見ている。
「もともと住宅情報誌では私が上司でした。彼はもともとアルバイトで入ってきていましたが、成績はいつもトップクラスでした。結構強いコネがあるらしく一匹狼的な動きをしてました」
「社員採用は?」
「そうですね。兵庫県出身の代理士が直接社長に話をされたと聞いています。1年のアルバイトを経て、用地取得の課長になりました」
 兵庫出身と聞いてあの癖の強い代議士を思い出した。
「そういうことはよくあるのですか?」
「異例ですね。社員の中には不満を持った人たちもいましたが、どちらか成績を上げる人になびくのはこの会社の伝統ですね。政治家絡みの不動産をさわっていました。だから金額が張るのです。それで親分肌なので若手が集まっていましたよ」
「最近目立つことはありますか?」
 Sハウスの社長の耳に入る情報があるはずだ。
「そうでね。ここ2か月前にファイナンスの小林社長が大阪に来て、支社長とグラブで飲んだのが有名です。彼はクラブで許と言う外人を引き合わせました」
 許まで登場したか。
「先週許の関係するファイナンスに融資をしたようです」
 彼はメモ用紙にファイナンスの会社名と住所と京都の新聞の切り抜きを挟んでいった。








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裏の会合

 名前を決めないとと団長に言われて机に座って無意識に封筒の隅に『薫』と書いている。親子二人がカオルではまずいだろうとゴミ箱に丸めて捨てる。
「休んでもいいよ」
 机にうつ伏せになっているミーに声をかける。
「朝からゴルフ。夕方からは晩餐。夜はセックスしまくり。これじゃ持たないね。穴が広がって閉まらないよ」
 まことにグロテスクな表現を挨拶のように言う。
「メンバーは?」
「内緒にしろって。とは言っても周平にはそっと教えるよ」
 口止めされているようだ。
「30名ほどが彼女同伴で参加してたわ。知らない顔もあったけど」
 天井を見あげて、
「銀行の頭取クラスの人が4人、経済界から11名、そうM商事の会長もいたわ」
 まだ復帰を諦めていない。
「Yテレビの会長は?」
「いたよ。大御所という感じね。M商事の会長がずっと腰巾着してた。旗手会長のお友達ではSハウスの社長や3人ほどいたね」
「最終日にメールを入れたが見てくれた?」
「総理の秘書の会社の話だったね?それは面白いって言ってた。それと忘れてしまうところだった。上場した不動産会社の大阪支社長を調べろって?どうもSハウスの社長の情報らしいわ」
 眠い目でファックスを取り寄せていたのがこれだ。
 創業期に大阪支社に高卒で採用された。不動産会社では大半が住宅情報誌から転籍している。彼もその一人だが、不動産に入ってから用地取得で力を発揮して、今は大阪の天皇というあだ名もある叩き上げ社員だ。
「もう少し詳しい情報をあの人事部長に頼んでくれないか?」
 何かありそうだ。

 







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対抗馬

 任意で呼ばれた柳沢だが、警察は証拠不十分で釈放した。同様にやくざの兄貴も最後の決め手がないようだ。柳沢も舅と同様にM商事を辞めている。釈放された日はやくざの妹のママが車で迎えに来たようだ。これは轟の報告だ。彼は黒崎からも柳沢の動きの調査を受けているようだ。
 今日は珍しく代議士の私設秘書から飲まないかと誘いを受けた。
「また庶民的なところで」
 新橋の路地裏のスナックである。ケイ君にはぴったりの店の臭いがする。
「ここなら呼ばれても国会議事堂に近いからな。もう10年になる」
「急な話でも?」
 ビールの小瓶を抜いてもらう。秘書はウイスキーをロックで飲んでいる。
「総理になったら私設秘書はほとんどお呼びじゃない。第1秘書と毎日こそこそやってるよ。第1秘書は上司にでもなったように指示ばかりだ」
「それはこちらも同じですよ。社長もほとんど顔を見せない」
 何となく境遇が会う。ただ周平はそれを不満と思っていない。初めて自分の意志で物事を動かしている気がしている。
「赤坂のことを最近書かれているが、相手はつかんでいるのか?」
「ええ、相手は黒崎という代議士の秘書上がりのブローカーですよ」
「黒崎か、あいつならよく知っている。昔大物の代議士の私設をやっていた。それが金を抓んで追い出された」
「じゃあ、Yテレビは?」
「それがYテレビさ。あの時のYテレビの社長からの金をそのまま懐に入れていたんだ。でも仕事は彼がこなしていたという話だ。案外裏の仕事は秘書がしていて、代議士は知らないことが多い」
 やはり繋がった。
「それでこちらもあの裏の会社で顧問会社でも始めようって考えている」
「独立?」
「いや、そのくらい認めさせるさ。それくらいのことはしてきた」
「力を貸しますよ。社長も黒崎と縁を切ったので話に乗ると思いますね」
 黒崎の対抗馬と頭に浮かんだ。











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金づる

 周平は今二枚の名刺を使い分けている。Nビルの秘書室長は表向き旗手社長のグループ会社になるので、どちらの会社に入るのも勝手だが、ただベンチャーの本社にも秘書課がありそちらがメジャーだ。代議士界で言うと私設秘書という感じだ。もう一つはNプランニングの社長という肩書だ。まことに怪しいイメージだが周平はこの名刺が気に入っている。
「今日はミーさんは一緒じゃないのか?」
 Kジャーナルに遠くない轟の馴染の喫茶店で落ち合う。
「ミーは沖縄だよ。社長と同伴だ」
 どうも轟もケイ君もミーに関心が移っている。周平も最近は男だと思わなくなっている。つっけんどんな言葉を吐くが女より女だ。
「ちょっとやばいところまで踏み込んでしまったぜ。そっと関係を薄くしたかったんだけどな」
「ちゃんとお金出すんだから」
 お金はNプランニングから出している。こういう資金も旗手社長から自由裁量でいいと言われている。取り敢えず言い訳のようにミーには毎回伝えている。
「黒崎のところの運ちゃんを昨日は飲み屋に接待した」
 お抱えの運転手だ。どうも彼を抱きこんでいるようだ。
「最近4回Yテレビの本社事務所に通っているということだ」
「Yテレビ?」
「彼の言うのにはそこの会長も黒崎が言う裏のメンバーの一人らしい。二度目は鈴木さんも一緒に行ったらしいよ」
 それで少し思い出した。舅はM商事の元会長に頼まれてYテレビの用地買収の仕事をしたと言っていたことがある。会長のメンバーの一人だと言っていた。
「運ちゃん曰くだが、もともと黒崎はYテレビの会長と組んでいてM商事に乗り換えて、次はベンチャーの社長にという流れだと言っている」
 彼らしい派手な動きだ。
「Yテレビは大のベンチャー嫌いだぜ」
「なるほどな」
 黒崎も舅も次の金づるを見つけたところなのだろう。









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危険な臭い

 嫌がる轟に最近のKジャーナルの調査を頼んだ。
 いよいよカオルの出産がまじかになってきたので、団長は見舞いの後赤ちゃんの衣類などの買い物に出かけた。カオルが最近周平がお昼に来ないので食事を食べ残しているという。
 周平は小林の関係者を裏の会社から外し、新しく5社の新会社の受け入れを終えた。それから各子会社を自分の足で回ってみる。裏金作りが柱で運用されているので、事業として考えられたことがない。周平は訪ねて回るたびに問題点をメモに書きとめる。問題点は多いが事業として面白いものも多い。その点、ミーは淡白で放任主義だ。おそらく会社の運営経験がないからだろう。
「運営についての意見書は社長に見せてくれた?」
 二日酔いで薬を飲んでいるミーに声をかける。
「任せたってよ」
「ほんとに見せた?」
「ベットの上で表でも使えたなあと言っていたわ」
「ホテルに行く時間があるのに、ここに来る時間がないとはなあ」
「社長にそう伝えておこうかしら。そうそう忘れてしまうところだった」
 ミーはバンドバックから折りたたんだ雑誌を出してきた。
「例の黒崎が株を分けてもらえなかったと愚痴をこぼしてたそうよ」
 赤坂の記事にS銀行と旗手社長の繋がりが書かれてある。もちろん田辺記者の記事だが、これは舅の持っている情報ではない。黒崎自身がS銀行と旗手社長を結びつけた内容だ。黒崎は赤坂の情報をどこから仕入れて来たかは不明だが、S銀行がM商事に融資したと同時に旗手社長に持ち込んだと思える。わざわざ『第二の赤坂地上げ』と見出しまでつけて、2400憶というS銀行経由の借入額を公表している。
「黒崎から電話は?」
「留守電にして取ってないようよ」
「Nビルには?」
「2度あった。繋いでいない」
「黒崎を調べろということだな」
 旗手社長と黒崎はどこかで道を変えたのだろう。旗手社長は超合理主義で黒崎は独自のお金の臭いでそれぞれの道を選択したように思える。とくに今の黒崎は妙に焦っているから危険な臭いがする。









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脅し

 珍しく顧問、いや新社長から携帯が入った。
「退職願は受けていただいたと思うのですが?」
「ああ、残念だがそうすることにしていた。でも君の力を借りたい。どこかの会社に?」
「ええ、ちっぽけな会社ですがそこに勤めています」
 社長は旗手社長の手伝いをしていることや、黒崎との関係を全く知らない。
「Kジャーナルという業界紙を知っているかい?」
「電話でそんな話いいのですか?」
「社長室に鍵をかけている。前の会長室だ。会長は今は顧問室にいる」
「入れ替わりですね」
「Kジャーナルが裏交渉をしてきた。赤坂地上げの損害を公表するというんだ」
「今更ではないのでは?」
「いや、その記者は赤坂の資金から相当の資金が流用されているというリストを持っていると」
「記者?」
「田辺という記者だよ」
 田辺を生かしたのか黒崎か。それとも舅と組んでなのだろうか。彼らなら正確な情報を持っている。
「調査費は用意する」
「あの裏口座に手を付けたらだめですよ。次はそれで脅される」
「そこまで知っているのか?」
「社長よりM商事をよく知っています。これには殺人事件も絡んでいるのですよ。そうなるとM商事も火の海になるでしょうね」
「頼むよ」
「調査部の交際費の口座は?」
「あれは君が残しておけと言ったから、人事部で管理させている」
「あそこから出してください。取りあえずのらりくらりとやってください。誰が仕掛けているのか調べてみます」
 そこまでは周平にとって最後の仕事だという気がした。それにすんなりと終わりというメンバーではない。
 それにしても社長となると顧問の時の余裕は全くなくなっているようだ。

        








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上場

 華々しく旗手社長の不動産会社が上場した。周平の杞憂に無関係に株価も上がり旗手社長にスポットライとが浴びせられた。まさに新時代の旗手として大もてだ。ほとんどNビルに顔を出すこともなくなっている。銀座通りを中心に子会社のビルを集め出した。合わせてあの代議士も総理となった。だからもっぱら連絡は秘書となった。
 周平とミーはこの間に裏の会社群の見直しに入った。周平はM商事にいた頃のように朝8時半には出社、ミーは低血圧で無口で9時に顔を出す。この部屋は隣の社長室に接して作られていて、周平とミーだけの事務所になっていて、隣に関連会社の集中事務処理の部隊が6名いる。こことは扉は鍵がかかっていてこちらに入ることはできない。指示があれば周平が秘書室長の肩書で廊下から入る。ただ彼らはここが旗手社長の事務所だと知っている。どちらか言うと訳ありの人ばかり集めている。小林も一時その部屋にいたようだ。
「そろそろ目が開いてきたようだな」
「そうね。昨日はママの店ではしゃいでいたから」
「たまには社長から呼び出しあるの?」
「焼いてるのうれしい!何か走り回ってるみたい」
「ところで本論だけど」
と言ってここ数日でこしらえた会社群のファイルを出す。
「今7社あるが、この黄色のラインを引いた社長を交代させたいんだ」
「ほとんど小林関係ね。でも代打はあるの?」
「赤坂関係は藤尾さんに選んでもらった3名。その他はしばらく二人でというのはどう?」
「しかないね。小林は危険よ。これから5社を引き取れって言われているの」
 リストのファイルをテーブルに並べる。
「やはり会ってるんだな」
「これはプライベートの時に押し付けられた。この1社はあの代議士の会社よ。これからこの会社を挟むようよ。代表はあの秘書の母親よ。この調子ならあっという間に裏の会社で窒息しそう」










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ジャンル : 小説・文学

両輪

 轟が頻繁にホワイトドームに現れるようになった。それで妙にケイ君と仲良くなってどうやら地上げの仕事を手伝っているようだ。黒崎のところは呼び出されないといかないようである。周平が病院のカオルのお昼に付き合って戻ってくると、二人並んで止まり木にとまっている。団長は病院を出ると買い物に回る。
「またKジャーナルの記事が出たな」
 轟がどこで手に入れてくるのか拡げる。
「ただ田辺の名前で出されると困るんだがな」
 旗手社長に田辺が周平であることを知られていたら弁明ができない。
「鈴木さんのデスクが黒崎の事務所に置かれたようだぜ」
 やはりまた黒崎と舅は昔の繋がりに戻った。もう一人の小林はどうだろう。二人とも黒崎の事務所にいたのだ。
「小林の件だね。あの人はバックし放題だな。融資案件も調べてみたが半分は許という男絡みだ。残りの半分は赤坂の地上げ絡みだよ」
「それには黒崎が絡んでいるさ。もともとあのベンチャーの不動産会社は黒崎の顧問先の会社だって噂だ。それで小林が初代の社長になったわけさ」
 ケイ君が気をきかせて周平のビールの小瓶を抜く。いつの間にか団長が戻ってきていて、4人分の焼きそばを焼き始めている。
「上場が見えてきて社名が変わって小林も降ろされた。結構不満だったようだぜ」
 今回ファイナンスも上場はあまり遠くない。同じことが起こるのか。旗手社長は小林の様子を見ている節がある。なぜそこまでして旗手社長は小林を使うのだろうか。だが彼の会社の仕組みからすると裏を仕切る人間が必要だ。表の戦略と裏の戦略の両輪で回っている。確かにミーは安心できるが、現場の交渉はできない。周平がその立場を認められたら小林は用無しになるのか。
「Kジャーナルとベンチャーの付き合いはいつから始まった?」
「それはS銀行の本部長だと思うなあ」







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縁を切る

 ケイ君に小林の調査の続行を伝えた。手が空いたので周平自身も調査を行うことにした。ミーにファイナンス会社の人事部長に連絡を取ってもらって、Nビルに来てもらうようにしてもらった。とくに生え抜きの社員はNビルが旗手社長の事務所だと知られている。とくに各会社に忠実な部下を人事担当として配置している。
「この手紙は部長が書かれたものですね?」
「はい」
 彼は創業の頃からの社員で、今度上場を予定している不動産会社の人事部長からファイナンスに移ってきている。鞄の中からファイルの束を出してくる。
「彼が本体でビル事業部で部長をしている時、土地の買収で3千万を抜いたということで自己都合退職になっています。それからしばらくどこにいたか分かりませんが、赤坂の地上げ事業が始まった頃、まだ建て上げたばかりの不動産会社の社長に収まりました」
「赤坂の事業はどこから持ち込まれたかご存知ですか?」
「Kジャーナルの黒崎さんからです」
 赤坂は旗手社長に持ち込んだのは黒崎だったのか。なのに今は外されているのには不満なのだろう。黒崎の赤坂案件とセットで再び小林は復活したことになる。
「赤坂では地上げ会社と組んで中抜きをしていたと報告がありました。でもこれは旗手社長は黒崎さんとの関係もあり問題にしないとされました。どうも黒崎さんところも絡んでいるという調査報告がありました」
 人事部長はファイルを広げて説明します。
「ファイナンスでは社長が絡んでいる融資のリストです。この12件の融資はすべて社長の専決で決済されています。これは担当の営業部でも非難が出ています。それにすでに3件は早々に利息の延滞になっています」
「この資料は預からせていただけますか?」
「もちろんです」
「これはこちらで調べた彼の最近買ったマンションと2台の車の調査です」
 どうも旗手社長は黒崎との手切れで小林との縁を切ろうとしているようだある。小林は本来の性格だけではなく黒崎の関係も不透明さを作り上げているような気がする。ただ旗手社長の下では小林のような裏の人間が必要なのだ。















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気がかり

 ミーから呼び出しがあって久しぶりにNビルに出かける。何となくネクタイが窮屈に感じる。珍しく旗手社長がソファにかけて書類を読んでいる。ミーが気を使ってコーヒーを入れてくれる。
「辞めったってな」
 旗手社長にもミーから伝わっているようだ。
「黒崎がまた赤坂を記事にし始めたな。詳しい話を聞いているか?」
 Kジャーナル記事を読んでいるようだ。
「今回M商事を辞めるのを機に手を切ろうと考えています」
「それがいいかもな」
 何か情報があるのだろう。旗手社長も最近は黒崎を集まりに呼ばない。今まで周平が記事を書いてきたという情報があるのか分からない。ただ黒崎に何か焦っているという感じがする。
「赤坂をあんまり話題にされると、国営地の払い下げにスポットライトが当たりかねない。黒崎の動きをチャックしてくれ。それから未公開株の配布状況を調べてくれ」
「何か気になることでも?」
「いやもうすぐ上場するからな」
 ミーが背広を着せにかかる。社長は立ち上がると思い出したように、
「小林の件も調べてくれ」
と追加する。ミーが鞄を持って運転手をするようだ。彼女はテーブルの上にわざと手紙を置いてゆく。
 手紙はファイナンス会社の人事部長からである。
『・・・社長は最近特定の危ない会社に融資を続けています。審査部長から否決されても、社長決裁権限を使って可決にしてしまうので不満が出ています。それとこれは確認していませんが、それらの企業からバックを取っているようです・・・』






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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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