夢追い旅 終電
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終電

今日も、周平は飽きずに電車の長椅子にかけて夢を追いかけている。お酒をひっかけるのは、出来るだけあの状態と同じに持っていこうとしているのである。大学を卒業してからの周平には、こういう生産性のない非合理なことに時間を割くという習慣は全くない。大学時代の自分ならと考えるのだが、昔の自分はすっかり捨てた筈だった。
 目を閉じているうちに、ラッシュアワーの時間は過ぎていて、酔っ払いの姿が目立ち始める。
 あの時は、9時を少し回っていたと思う。あの公団の理事は、決まって9時前にはお開きを宣言して、電車に乗る。9時15分の快速に乗る。だが、それから記憶がすっかりなくなって、あの店の記憶に繋がっている。
 昔にも、こういう記憶を失ったことがあっただろうか。西成時代は、確かに不思議な世界がいくつも周平の周りにあった。あの町はああいう街なのだと思っていた。自分の知らない店がたくさんあって、自分の知らない人たちがたくさんいた。まさに、叔母の存在そのものが不思議の国だったのだ。
「お客さん!車庫に入りますよ」
 車掌の声に追い出された。
「寝ていると、財布を擦られますよ」
 いくら環状線と言っても、車庫にいずれはいるんだな。
 ホームに同じように放り出されたサラリーマンがこちらを見て煙草を吸っている。
「もう、電車はないね。タクシーなら駅で拾える」
 酔っ払いの乗り過ごしの同類と見られたようだ。
「もう少しだったんだけどね。あんたついてるよ。もう一駅あったら、その財布はもらっていたね」
 平然と言う。
「駅前に飲むところある?」
「もう一度チャンスをくれるわけ。でも知り合いからは擦らないね」
 笑いながら、改札を出る。
 赤ちょうちんを潜る。常連のようである。終電が過ぎても閉まる雰囲気がない。どこか西成に似た臭いがする。
「君はこれが本業かい?」
「いや、何となくぶらぶらしている。サラリーマンから落っこちたやつというくちさ」
「スーツを着ているわけ?」
「これが安パイなんだ。逃げる時は不便だけどね」
 冷酒を乾杯する。
「おっちゃんは普通のサラリーマンやないね」
「おっちゃんはやめてくれよ。そんなに歳は違わないと思うけど?」
「まあね。でも俺たちと同じ臭いがするよ」
 その言葉を聞いて、今の取締役、舅を思い出した。彼も周平に同じことを言った。
「顔の広いところで、この辺りで変わったスナック知らないか?」
「サドマゾの?それともお釜?」
「いやそういう趣味はない。背の小さな女の子と、マントを着た鼻の大きな男がいる」
 ぼんやりコップを見つめている。
「刑事やないな」
 周平はM商事課長の名刺を出して、そこに携帯番号を書いた。
「いいところに勤めている」
「知っている?」
「書類審査で落とされたよ」
「長い髪の毛を真ん中で分けた団長という・・・」
「団長か、分かるが、電話を入れるよ」








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Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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