夢追い旅 周平が二人
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周平が二人

 車が連れて行ったところは、アパートからそれほど離れていない。運転手は車を車庫に入れると、そこからエレベーターに乗る。ここに取締役がいるのか。
「入ります」
 真面な会社の雰囲気ではなさそうだ。大きな皮のソファーに黒塗りの大きなデスクがある。
「座りたまえ」
 先ほどの運転手がコーヒーを運んでくる。柔和な表情だが、目が笑っていない。ビルは古いが、部屋の内装は豪華だ。まさか本物とは思えないが、大きな風景画がかかってある。
「鈴木取締役は?」
「先ほどまでここにいたよ。彼は、昔この事務所にいた。久しぶりに使える男にあったと思っていたが、今のM商事の会長に取り上げられたよ」
 この話は初めて聞いた。
「そうだな、彼は5年ほどここにいて、ライターの仕事をしていた。M商事は昔からのお得意さんだ。今の会長が、社長になる時に、初仕事で手伝いをした。社長の確率が一番低かった男が、なぜか社長になった。その時、彼が担当について、M商事の課長になった。仕事の時だけの貸し借りと思っていたが、気に入れられたようだ。今の初代の企画室長だ。何をしているのかは誰も知らない」
 そういえば、相談はたいてい会長の秘書からかかってくる。現在の社長は、資金繰りがしんどかった頃銀行から来たと聞いている。今でも会社の決め事は会長のツルの一声で決まる。
「裏話を簡単にしていいんですか?」
「いや、おいおいもっと深い話をする時が来る」
「たとえば、鈴木君の奥さんに会ったことは?」
「もちろん、義理の母になりますから。銀座のクラブの経営をされていますね」
「それは表向き。会長の彼女だったんだよ」
 そういう噂は一つも流れていない。
「娘さんは?」
「会長に似ている」
 確かに、ペイペイの結婚式に会長が顔を出した。それが周平の出世の神話になっている。
「入ります」
 先ほどの男がドアを開けて入ってくる。
「この名刺を使ってくれ」
 名刺には、田辺一郎とある。先程、アパートで書いた名前である。Kジャーナル記者とある。
「しばらく、君は二人だ。M商事は匿名の仕事と言うことで、話はできている」








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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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