夢追い旅 夢の中に住む少女
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夢の中に住む少女

「この子は好みなんだが」
 マントの男が、鋸を引くだろう男に小さな声で話しかける。何とも濃厚なデープキッスをする。小人が重そうな棺桶を起こして中を見せている。どうしてもキッスに目が行く。鋸男も、残念そうに棺桶の準備を手伝う。もう一度、全裸の少女の全身にスポットライトが当たる。
「私は、魔術師ではありません。これなる少女が人形でない生身であることはお分かりいただけたと思います。出来ればもう一日、この子の愛撫に時間をかけたいところなのですが、その気持ちを抱いてお別れする時に、私は生きがいを感じる人間なのです。愛するから、その命を奪いたい」
 マントの男が、少女を棺桶に寝かしつける。それからゆっくり小人も手伝って棺桶を床に寝かせる。鎖を巻きつける音がリアルにする。
「少し嫌な鋸の音がしますが、僅かの瞬間ですので我慢してください。ちょうど少女の体の部分にさしかかると、鈍い音がしますが、その音は嫌だという人は、今から耳をふさいでおいてください。その時、たまに微かな悲鳴が聞こえることもあります。これは私には読み込めないことです」
 すでに筋肉男が、棺桶に鋸を載せている。
 確かに、鋸を引く単調な音を出している。小人が例の耳をバタバタさせて舞台の前を動き回る。そして、はったと立ち止まって棺桶に耳を澄ませる。ぶにゅ~という嫌な音と同時に、微かにひ~という声がしたように思う。合わせて小人が尻餅をつく。鋸がゆっくり引き抜かれる。鋸に赤い血の跡が見える。舞台の照明が薄暗くなる。
 マントの男が、30センチほど切り離された棺桶を動かせてみせる。
 観客は誰も声を出さない。男はマントを脱いで、恭しく棺桶にかぶせる。
「ショーはこれにて終わりです。これはマジックショーではないですから、もちろんもう一度この舞台に少女を立たせることはできません。種明かしもなしです。私たちが住んでいるこの世界でも、こういう不思議なことは何時でも起こっています。でも、あえて気づかないことで、ほとんどの人は通り過ぎてゆきます。でも少女は、いつもあなたの夢の中にいます」
 照明が明るくなったときには、棺桶も、マントの男もいない。ベレイボーをかぶったケイ君が演出家として舞台で案内されて頭を下げている。
 周平は、自分の夢の中にも少女が住んでいると漠然と思った。







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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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