夢追い旅 落とし穴

落とし穴

「いつも片隅で何を書いているの?」
 いよいよフランケン達が帰っていく。その頃はすでに団長は段取りよく洗い物を済ませている。
「団長は覚えてないだろうけど、これでも学生時代は小説家を目指していた。ずいぶん前に大阪に出張した時に、大学の友達に会ってこのノートを送って小説にしてもらうと約束した」
「あの恋敵ね?」
「そうだ。こちらは調査書は得意分野だけど、文才は彼の方がはるかに上だ。それでM商事の赤坂の話でお仕舞にする予定だったが、どんどん思いがけないところに繋がってゆく。1冊で済まなくてもう4冊目に入った。前の3冊はすでに彼に送っている」
「じゃあ、そこには松七五三聖子が出てきてるわけだ」
 まるで他人事のように言う。
 団長は手を上げてフランケン達を送っている。
「松七五三聖子との奇遇な再会で幕を閉じるつもりだったが、どうもそうもいかないんだなあ」
「産まれってくる子供のことも書いてやらないとね。名前は決めた?」
「それがなあ。笑わないでくれよ。『薫』しかないと思っている」
「母と娘が同じカオルか。でもいいかもしれないよ」
 最後のビールの小瓶を抜いて2本カウンターに置く。そろそろ寝るよという合図だ。
「でも周平はなんだか落とし穴にはまった感じしてない?」
「落とし穴か」
「つまりね、学生時代と今の間にある空間、落とし穴よね。私は学生時代の記憶もなく、傭兵だったころの記憶もなくただ私の恋人だったかもしれない男の記憶にぶら下がって今がある」
「こちらはある日落とし穴に落ちたら忘れていた自分に出会った」
「なんだかまだまだ終わりそうな感じしないよ」






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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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