夢追い旅 歴史

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 今日は団長が店を早く閉めるので飲まないで帰ってきてと厳命されている。それなのにファイナンスの新社長に小林の報告書の説明を旗手社長に昼過ぎに直接頼まれて、やっとのこと6時にファイナンスの社長室に行くことになった。ファイナンスも最近は秘書室長の名刺で出入り自由になっている。
 ほん最近まで小林の社長室であったがとドアをノックする。
 すでにコーヒーが二つ並んでいて社長が眼鏡を上げて書類を読んでいる。
「悪いね。忙しいところを」
 と言いながら、ソファに書類を持ったまま移動する。どことなくM商事の社長と同じ銀行員の臭いがする。
「小林さんはあれで強引なんだね?」
 その書類は融資の稟議書である。審査部長の印の上に小林の印があって、斜め横にグループの不動産会社の大阪支社長の印が並んでいる。
「こりゃ脅しだね。これが社長最初の承認印になるのかねえ」
「脅しましたか?」
「ああ、笑いながら本人が稟議を持ってきた。すべて審査は済んでいますからと言ったね」
「それで承認されるのですか?」
「取りあえず三等社長だからオーナーに尋ねたよ。そしたら秘書室長を向かわせるから話を聞いて判断を任せるからというわけだ。いつもあんな調子かい?」
「直接命令するタイプではないですね。とくに腹心には。常に自分の中で判断は持たれているようです」
「それなら尚更困ったものだ。試されたわけだね」
 周平は壁にかかっている時計を睨む。
「グループ会社から来た稟議は素通りだね。ここから直さないとダメだ」
 どうもこれは独り言のようだ。
「あの報告は?」
「すべて事実です」
「オーナーはなぜ自分で言わない?」
「いろいろここまで来るのに歴史があるようです。歴史は自らの手で崩せない。だから私達がいるようです」
「歴史か」
 そう言うと、眼鏡を上に上げて稟議に判を着く。否決欄だ。
「いいんですか?」
「だから頭取コースを外れてここに来た。これからも相談相手を頼むよ」








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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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