夢追い旅 幕を下ろす

幕を下ろす

 夜は眠れなかった。旗手社長ではなく自分が主人公になったような気持ちだ。
 カオルは夜泣きしない子だ。もうはいはいができるようになって、蒲団から周平の膝元までやってきてすやすや寝ている。
「寝不足じゃない?」
 団長が送り出してくれる。こんな平凡な男が一つの時代の大博打を打っていることを誰も知らない。
 銀座のベンチャー本社の玄関で受付を済ませる。今日は『噂の真相』の記者で招かれている。会場にはマスコミ関係が50社ほど集まっている。すでに朝刊にはY新聞のスクープが流れている。Y新聞の東京本社の腕章を巻いた男がつまらなそうな顔で自社の大阪支社の新聞を手にしている。どこから腕章を手に入れたのか轟がカメラを首にかけて周平に笑いかけている。
「お待たせしました」
 総務部長が脇のマイクから挨拶をする。
「まさに電撃だね。社長の他は大した人物はいないと聞いていたが?」
 横の雑誌社の記者が話しかけてくる。すぐにフラッシュがたかれる。D社の社長が壇上に上がってくる。
「社長とはそれほど馴染ではなかったのだが、この会社は新しい時代を背負っていると思っていました。・・・新社長の再三の訪問に根負けしましたよ」
 段取り通りの立派なうそをついている。
「D社は?」
「いずれ息子に社長職を譲ります」
 と言いながら新社長を呼んで肩を組む。D社の社長の目がしっかり周平を捕らえている。
「正式には?」
「代表取締役会長ですが、この業界のことは分からんから新社長を支えることになるね」
 周平はメモを取らない。筋書きを描いたのは周平なのだから。ゆっくり下がりながら幕の外に消えてゆく。ああ、終わったのだ。そう思うと妙に涙が流れてくる。周平の前に白いハンカチが差し出される。
「泣かないのよ。男の子でしょ」
 そばにリクルートスーツに身を固めたミーが受付嬢として立っている。


















スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Re: お邪魔します。

>  こんにちは。
> 順次、読んでおります。
> このブログのリンクを貼りました。
> 迷惑なら、ご連絡ください。

いつでも歓迎します。

お邪魔します。

 こんにちは。
順次、読んでおります。
このブログのリンクを貼りました。
迷惑なら、ご連絡ください。
プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧

Anonymous Note

写真とか小説(オリジナル)とかそのほか色々

自由少女  ~Dear you ~

ビーチサイドの人魚姫

龍の記憶 <きらきら@躁狂流星群>

蒼井凜花の日記
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR