夢追い旅 夢の中

夢の中

 夢の中で団長が書いた主人公のアンに会った。まだ周平が小学生の頃のあの写真通りの母いやアンだ。あの頃は時々まだ通天閣の地下の劇場で唄も歌っていた。不思議なことにアンは歳をとらないのに夢を見る周平はどんどん歳をとっていって今は同年代になっている。
 アンは機嫌の良い日は楽屋に入れてくれる。
「子供がいたのか?」
と常連が聞くと、死んだ妹の子を預かっているという。常連が気に入るとアンを飲み屋に連れまわす。そんな日は最後に二人分ほどの寿司箱をぶら下げて帰って来る。そのために周平は晩飯を食べずにお腹を空かせて帰って来る。でも常連客がつかない日が周平は一番待ち焦がれている。
「ついてくるかい?」
 その一言から始まる。楽屋の裏から細い露地を何度も曲がる。まるで夢心地の世界だ。もう10回以上行ったはずだが昼間一人では見つけられない店だ。
「よう、いつもの子供を連れて来たね」
 そういうと少し年輩だが男前のマスターが大皿から綺麗な盛り付けをこしらえてくれる。アンが言うにはこの人はお釜というらしい。ここではアンがマスターとデュエットで歌う。際限なく。時々ソファーで眠ってしまっているとふとアンの声が耳に響く。
「筆おろしは私がしてあげる。大学まで行かせてあげる。でもそこからは一人で生きていくのよ」
 何度も何度も繰り返す。
 いつの間にか目があいて頬が涙で溢れている。周平は2階の布団に潜って台本を読みながら眠ってしまったようだ。暗闇の中で暖かいものが口の中で膨らんでゆく。これは夢の中と同じだ。









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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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