夢追い旅 記憶の底の風景

記憶の底の風景

 本人死亡でM商事の会長が監査役の殺人教唆で立件され、同時にM商事の社長は会長を解任した。その後任に代表権のない会長に相談役が選ばれた。筋書き通りだ。Yテレビの株の買い戻しも始めた。これについてはM銀行の頭取が一枚かんだ。これについても周平は『噂の真相』に記事を書いているので、原稿料として社長から送金があった。
 夜、新橋のビルから日比谷に出た。『アンの青春』の舞台を見るためだ。テント公演だが1か月も予定よりロングランしている。テントの前に来るとケイ君が舞台に案内してくれる。
 幕が開く。後ろに大きな通天閣の景色が描かれている。暗転。舞台が現れて、目玉さんが懐メロを歌う。彼は昔地下道のトンネルでギターの流しをしていた。目が見えないとは観客は思わないだろう。次に腹の出た小人のデカ鼻が蝶ネクタイで現れる。アンをマイクで紹介する。
 団長の扮するアンが当時の流行唄を歌いながら華麗に踊る。踊りは外人部隊の時に教えてもらったようだ。唄は学生時代から上手かった。あまり顔を見ない若い女が一緒に踊る。幕端にケイ君の顔が見える。何やら合図を送っている。
 突然舞台が真っ暗になる。三色のライトが交差するように舞台の中央に現れた全裸の女を照らす。アンがゆっくり滑るように舞いながら弾き語りを始める。後ろにバイオリンを持った目玉さんが浮き上がる。
「・・・大きな夢にあふれこの街に来たの。でも今は舞台が終われば私は悲しい迷子よ。裸の私、可哀そうな私。もっと可哀そうな息子よ・・・」
 紙幣が紙吹雪のように舞う。暗転。
 いつの間にか舞台裏に変わっている。フランケンが大道具を運んでくる。小人のデカ鼻が集めた紙幣を籠に入れて半裸のアンに渡す。アンはいくらかをパンツに押し込んで後はみんなに配る。腹の出た背広男がアンの背中を撫でている。口説いているのだろう。何度も首を振るアン。そばに少年が。暗転。
 薄暗い部屋に疲れ果てて眠ってしまった少年ひろし。電球の上に通天閣が見える。アンは呻くようにひろしのズボンを下げて彼の命を吸い続ける。
 周平は涙をぬぐうのも忘れて記憶の底に眠っている風景を見つめている。






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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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