夢追い旅 物語の余白2
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物語の余白2

 長い10日が夢遊病のごとく過ぎた。あの河原町のスナックに1度も飲みに行かず、印刷町工場を後にすると一人ぽっちの部屋に帰ってきて、びっしり万年筆で書き込まれた几帳面な彼らしい文字を追いかける。その間だけ周平の昔の友人で入れた。
 お前は約束していたように大会社のエリートになったじゃないか。なのにどうして女房と別れた。どうしてもありえない偶然に引き寄せられて松七五三聖子、いや団長と出会ってしまったのか。それほど東京と言うのは不思議な街なのか。そういうしがない私は京都の町工場に勤めて、町工場で知り合った節子と恋をして、仲間に祝福されて平凡な結婚生活に足を踏み入れた。そのうちにあれほど小説家になりたいと思っていた夢が色あせてしまい、ノートも開くことがなくなった。
 節子はあまりにも現実的な存在だった。マイホームを手に入れたいと自分も再びパートで印刷工場に舞い戻り、私の私生活はすべて彼女の手の中に入ってしまった。もうどんな夢も見れない。それでしがない経理の私は社長に内緒で経費を月に5万10万とくすねるようになっていた。ばれない分だけ私は自分から地獄に落ちて行った。周平のいた世界とここは別世界だ。
 同じような大学生活を送った人間がそれほど違った人生を歩くのだ。
 毎夜夢の中で松七五三聖子と会った。彼女は昔のままだ。彼女も小説を書く。その縁で3人は親しくなったのだ。初めて彼女を抱いたのも私だ。大学2回生の夏だ。彼女の下宿で酒を飲みながら彼が好きだと言う通天閣の街を描いた小説の話をしていた。実は松七五三聖子も私も密かな愛読者だったのだ。
「なぜ二人は別れたのだろう?」
「それは子供を下したからじゃ?」
と言う聖子に周平は、
「この小説に書かれていない話があると思う」
と言って酔いつぶれて眠ってしまった。
 その横で始めて私は松七五三聖子を抱いたのだ。
 この10日間は恐ろしく長く短い時間だった。



















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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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