夢追い旅 種の出現
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種の出現

 卒業してから周平とは全く交渉がない。5年後、たまたま偶然に大阪に出張した時に、ふと周平を思い出して携帯をかけると、その夜に東京から大阪に来るということで再会した。さしたる時間がないので、現況の報告をビールを飲みながらした。もらった名刺には東京本社の商事会社。肩書に営業マネージャーとあり、
「来月にはこの名刺が変わるんだ」
と、結婚の話をした。
「どういうわけか、娘婿になることになったんだ。うちの会社の取締役の一人娘をもらうことになった。それですでに鈴木周平の名刺は出来上がってるんだ」
そう言いながらもう1枚の名刺もくれた。どうも玉の輿に乗ったそんな風にその時の私は受け取った。
 ここで自分ことを書くのは恥じるが、私は大学を卒業はしたが、学生運動がたたって1年ほどアルバイト生活に明け暮れていて、ようやく大学の紹介で京都の小さな印刷会社の見習い経理に採用された。そのうちに月並みに恋もして、同じ職場の経理担当の先輩節子と結ばれることになった。近くの文化住宅に住まいしながら、同時に続けていた同人雑誌もやめて、女の子を持つ平凡極まらないパッとしない父親になってしまっていた。でも 本人はそれほど不満でもない。
 本当によくあるちょっぴり現実から離れた大学時代のノスタルジーに酔いしれて、軽い相槌をしながら、周平の物語を書き記す約束を安易にしてしまったのである。それから 周平の大学ノートが何冊も送られてきた。2冊目までは、無造作に机の引き出しに投げ入れられていたが、いつも間にか、自分が周平の分身になっていく恐ろしさに夢追見るようになっていた。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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こんばんは。
学生運動と携帯と5年後というのに、若干引っかかりを感じつつ、面白く読ませていただいてます。
プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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