夢追い旅
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手負いの野獣

 役員会議の中で会長派と社長派が紛糾した。舅が赤坂の裏口座の提出を求めたのである。これに社長が合意をしたが、会長はそんな口座は見たことがないとうそぶいた。柳沢も藤尾から引き渡しを受けたことがないと回答。これについて相談役が調査を進めてS銀行に依頼すると約束した。柳沢は逆に田上専務に組合の裏口座の提出を求め、これについても存在しないと逃げに出た。これについても相談役が調査を約束した。  その二つの難問がそのまま周平の肩にかかってきている。何とも頼りない経営陣だ。だがどちらも周平にはある程度の目途を持っている。  舅の目が虚ろだ。  逆に柳沢の目が燃えている。追い詰められた野獣の目だ。  二人が応接に入って出てこない。ともに仕掛けあったと信じているようだ。その間に藤尾を呼び出して赤坂の地上げ事務所で会うことにした。 「見ましたよ。大胆な記事書きましたな」 相変わらずコップ酒を飲んでいる。 「あの裏口座で確認したいことが?会社名が消えていたのだけど?」 「ああ、あれは使っている地上げ屋ですわ。今はこちらの仕事をしてもろてますがな」 「名義変更は?」 「おそらくそのままやろうな。通帳とカードは渡したが、印鑑はもともとその会社のもやから。でもこれも社員の名前で作った裏口座やさかい」 「記帳内容の依頼を銀行にかけたいのでお願いできますか?」 「いいですよ。銀行は私がついていきますわ。作成の時もそうでしたからな」 「柳沢に注意してください」  ここまで追い詰められたら何をするか分からない。

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

燻りだす

 匿名で藤尾の記事をKジャーナルが載せた。その後の赤坂について不良債権としてM商事が1000憶の負債を抱えてるという内容だ。これはすでに前に周平が書き上げていたのを活字にしたのだ。今回は使途不明金がこの不良債権に潜り込んでいるという藤尾の匿名の告発の形になっている。大胆に裏口座の銀行支店名まで公表されている。これを受けた形で舅が役員会議に赤坂の売却稟議を上げた。柳沢も参考人で呼ばれている。
 同日、やくざの兄貴の参考人として妹が警察に呼ばれている。
 周平は轟を呼び出して新橋の喫茶店で最近の進捗を聞いている。
「朝から焼きそばとビールかい?」
「熱海から五反田まで戻って飲んでる暇もなかったんでね。それに警察の方には元デカを張り付けた」
「熱海の毒殺のチンピラの調べがだいぶ進んでいるようや。妹も共犯とにらんでいるね。ただどうして殺されたのがはっきりしていない。柳沢の名前は出ていないようや」
「マドンナは?」
「おそらく半月前から準備していたようや。管理人の話ならかなり大胆に大ごみを出していたそうや。本人は模様替えをするといってたらしい」
「覚悟の上の引っ越しだな。最後の荷物は引っ越し業者ではなく身内が昨夜に運び出したようだ。行先はつかんでるようだな?」
 軽く頷いた。
「マドンナの実家も調べたが、こちらは2か月の前に引っ越ししてしまっている」
「舅が慌てていたよ」
「分かるな。女を好きになるとこうなるんや。俺も今の彼女も金の切れ目が縁の切れ目や分かっているさ」
 ぶつぶつ言いながらもう1本ビールを頼んでいる。
「しばらく柳沢を張ってくれないか?次には柳沢をひっぱり出す。これは黒崎さんところから金が出るように手配するからさ」


















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ラインを外れる

 マドンナの退職届で社内は持ちきりだ。
 轟から昨夜マドンナのいう熱海のホテルの状況の確認が取れたという報告と、今朝はマドンナがマンションを引っ越しを終えたとの連絡が入った。彼女の引越先はマキに聞けば心配ない。
 突然慌てた声で舅から内線が入り、不動産事業部の個室に呼ばれる。
「どうしたのです?」
 舅らしくない取り乱し方である。
「マドンナが・・・」
「本人から話はなかったのですか?」
「留守電が入っていた。それで朝一番マンションを覗いてみた。もぬけの殻だ」
「柳沢は?」
「先ほど会社に電話を入れた。向こうも慌てていた」
 周平は少し意地悪く、
「どんな話し合いになっていたのです?」
ととぼけて聞いた。
 舅は吸いさしの煙草を荒々しく揉み消す。
「入籍の準備もしていた。マンションも買った。後は柳沢を葬るだけだった」
「柳沢のところに行ったのでは?」
「それはない」
「親子ほど年が違うんですよ?余程彼女自身が愛していないと難しいように思いますが」
 昔の舅にこんな口をきくことはできなかった。彼も許さないだろう。
「今は周平の方が情報力は上だ。調べてくれないか?」
「心当たりを調べてみますよ。それより相談役と次の戦略を話されているんですか?」
「いや、妙に慎重になっている」
 やはり相談役は舅と距離を置きだしている。
「赤坂の100億円での処分をそちらから取締役会に上げてもらいませんか?」
「どうして?」
「Sハウスに意思表明しないと話は消えますよ」
「分かった」
 舅は浮足立ってしまっている。

















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根回し

 周平がSハウスの社長と会って赤坂の指値の話を持って帰ったことになった。黒崎と相談で100億という数字を出した。今日はそれで不動産事業部で会議が行われている。結論が出せることはないが、舅は評価はこれでも十分だという説を続けている。そこになぜ1000億の投資が100億になったのかについて調査をしている。それは全体の中で不透明な会計が行われているという指摘だ。
 久しぶりに相談役の部屋に呼ばれた。
「今朝M銀行の頭取から電話が入った。それで君が聞いてきた100億の話もしたよ」
 どうも黒崎も手早く動いたようだ。
「評価としてはそんなものだろうということだよ。買い手としては今のところSハウスしか考えられないから慎重に扱うようにと言われている。君は感触としては?」
 相談役は人はいいが自分の信念というのに欠ける。
「でもS銀行はそんな値段で担保は外しませんよ」
「頭取も同じことを言われた。この際会長を引退させる。社長も抱き合わせする。この辺をまとめたらM銀行もメインとして資金応援も可能になると」
「その話は課長の私では荷が重すぎますよ。鈴木取締役は?」
「いや、頭取が今回は伏せておくようにとのことだ」
 会長の処分と絡むと判断しているのだろう。舅は会長の懐刀だった男である。それにこの動きには黒崎の影が見え隠れする。旗手社長が柱だが黒崎が得意の根回しをしている。舅は確かに一歩先を歩いてここにたどり着いたが、でも手持ちの駒が少なすぎる。マドンナに捨てられる舅は見たくないと思う。男の目でしか女を見れていないのだ。
「もう一度Sハウスの社長に会えるか?」
「材料が用意できますか?」
「本社の建替えを任せるというのはどうかな?」
 この話はここ数年上がっているが、銀行の融資が決まらないでいたのだ。どうもこれもM銀行の案のようだ。
「しばらく内緒にしておいてください」











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密室

 カオルのお腹が目立つようになってきた。今日は団長が病院に付き添っている。ホワイトドームは誰がいなくてもお客が番をする。周平はカオルの写真を撮りだしている。生まれてくる子供に見せる母親の写真と周平の写真だ。どういうわけか団長は反対もせずにシャッターを押してくれたりする。
 サングラスの太田黒は日本から姿を消したようだ。
 周平は朝からSハウスに赤坂の売買の交渉に出かけていることになっている。どちらに転んでもこの件は旗手社長が時期を握っている。
 周平は昼過ぎにネクタイを締めてNビルに行く。旗手社長が盛岡から戻ってくるのである。黒崎も小林も呼ばれている。
 ミーはよそよそしく周平の紅茶を入れて部屋をさがる。
「専務から連絡が入ったが、不動産子会社の上場はほぼ決まったようだ。いよいよ赤坂の処理を始めなければならなくなったよ」
 機嫌がよい。
 だが華々しい舞台にはここにいるものは上がれない。すべて黒子だ。
「赤坂がらみはこの際すべて小林君のところに移してくれ。金がいる。赤坂か未公開株かどちらかで資金を作る」
「M商事も腹をくくったと思います」
 率直な意見を述べる。
「だったら1度Sハウスに指値をさせれば?」
「いくらで?」
「10分の2の200億でどうだろ?」
「それでは」
「計算ではどうなる?今までの儲けと差し引いて会長が食ってしまった200憶だけが食い込むじゃないか」
 旗手社長は計算をしているのだ。黒崎さんそれでM銀行と話をして下さい」
「S銀行のほうは?」
「Sハウスの新規貸し付けの方がメリットは大きい。それにS銀行の頭取はこのからくりはお見通しだから」





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夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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