夢追い旅

時間の隙間

 疲れ果てて神戸駅のベンチにへたり込んでしまった。旗手社長の疲れも背負い込んでしまったようだ。ある日山手線を夢遊病のように回り始めてから、どうやら周平は時間の隙間に落ち込んだようだ。このまま時間の隙間で生き続けてよくのだろうか。これから東京までとんぼ返りする精神的な体力がない。無意識にポケットに手をやって携帯を取り出す。団長からのメールが入っている。
「ケイ君とカオルとユキを連れて今大阪にいます」
 折り返すが、呼び出すが応答はない。周平は取りあえず大阪のあの病院のある駅まで出ようと思った。
「よかった」
 大阪駅で団長に繋がった。
「どうした?」
「あの看護婦さんからケイ君に連絡があったの。市場の人に確かめてくれたら近くのアパートから買い物に」
「それでもう行った?」
「それが地図で見ると何棟もあるので明日行くことにした。周平は社長に会えたの?」
「ああ、重たい仕事を受けたよ」
「東京に帰る?」
「今どこ?」
「病院の近くのビジネスに入った」
「今から行くよ」
 携帯を切るとすぐにミーに連絡を入れる。
「とくに変化は?」
「ファイナンスにも査察が入ったわ。社長と会った?」
 小林が何か自供したのだろう。
「ああ、おそらく今日中に東京に戻ると思う。見せるものは見せる。隠すものはその中に混ぜてしまう。明日そちらにメールを送るので『噂の真相』に載せてくれと言っておいて」
「私が持って行けばいいのね?」








 

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出る杭は打たれる

 翌朝、カオルにお早う!の挨拶をしていたら、旗手社長から携帯があった。今日ミーが二人の携帯を買い替えに行く予定にしていた。
「段取りよく片づけてくれたようだな?」
 専務辺りから報告を受けたのだろう。
「問題があれば?」
「君に任した。ところで今から神戸に来てくれ」
と言ってホテルの名前を告げた。団長に声をかけて私服で家を出る。途中で社内からミーに連絡を入れる。
 昼前にはホテルに着いた。フロントに名前を告げると、最上階の部屋を教えてくれた。ドアをノックすると旗手社長が顔を出した。窓際の椅子にどこかで見たような恰幅のいい顔があった。
「スーパーD社の社長だ。昔からの先輩になる。昨日から泊まり込んで話を続けている。ようやく方向が決まったので来てもらった。専務は今日から地検に呼ばれている。だからこれからの動きは君に任せる」
 二人ともパジャマ姿で砕けているが、かなり疲れた様子だ。
「書き物はないから頭に入れてくれ。専務には君に伝えると言ってある。この調子なら明日の朝には呼び出しがある。どうも僕の夢のストーリーはここでお終いになるようだ」
「そこまで?」
「出る杭は打たれる。古い言葉だがまだしっかり生きているのさ」
 ここで初めて冷蔵庫からビールを出してきて栓を抜く。今まではコーヒーを飲んでいたようだ。
「おそらく長い裁判になるだろう。だが会社は潰したくない。そのためには本当のリストを見せるわけにはいかない。総理も同じだろう。小林が持ち出したリストを本物にしてしまうのだ。2つ目からは出したくない名前が並んでいる。これは僕以外総理と君だけだ真実を知っているのは」
「それで会社は生き残れますか?」
「残るいや、残す」
 どうやら旗手社長は真実を墓場まで持って行く気だ。
「いい時期を見て専務にバトンタッチした代表をD社の社長に譲る」
 D社の社長が頷く。ここまで話は決まったようだ。
「君も落ち着いたら、自分の将来を考えてくれ。しばらくは頼むよ」
 珍しく旗手社長が握手してきて、最後にD社の社長の手がそっと二人の手を包んでいる。旗手社長の涙を始めてみたと思った。
















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かなわない願望

 3日ぶりのホワイトドームだ。11時を過ぎているのだが、まだフランケン達が5人ほどカウンターにとまっている。団長がオムライスを作っている間に寝ているカオルをそっと抱く。この子は周囲の賑やかなのはお構いなく、時間が来たらおとなしく眠ってしまうようだ。背中でフランケン達がお金を投げ入れて出てゆく音がする。
 ビールの小瓶を黙っておく。
「心配をかけるね」
「一日中ベンチャー事件ばかりが流れているものね」
「心配が図に当たってしまったよ」
「でもそれは旗手社長の方針だったのだから仕方がないよ」
 団長には知らず知らず愚痴を言っていたのだろう。
「手は打てるだけは打った。運を天に任せるしかないな」
 それは周平の本音だ。団長は洗い場を済ませると、自分も小瓶を出す。
「ところでケイ君は報告をしたと言っているが?」
「ええ、15件の救急病院から伯母さんが運ばれた病院を探し出したわよ。全身癌だったようなの。3か月ほど病院にいたけど、ある日息子が迎えに来ると言って出て行ったらしいの。その時の看護婦さんを見つけたので詳しく話を聞いたと言っていたわ」
 息子が迎えに来るか。やはり伯母は最後まで周平を息子と認めていたわけだ。それは伯母、いや母のかなわない願望だったのだ。
「その看護婦さん周平の大学入学の時の写真を見せられたって。えらい若いのねって聞いたら、それから会ってないと言ってたらしいの。ケイ君面白い情報を見つけたの。その看護婦さん、半年後にばったり市場で伯母さんに会ったの」
 ケイ君が買った住宅地図を広げる。市場周辺を赤丸で囲っている。
「たった半年で痩せ焦げてお婆さんのようになっていた。買い物かごを首からかけて歩いていたから、そんな遠いところには住んでいないとケイ君の意見。もう一度彼には大阪に行ってもらう。何が何でも周平にお母さんに私を紹介してもらいたい。ここに来てもらって4人で暮らすのよ」
   








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査察

 翌朝、テレビにベンチャーの本社の玄関に段ボールを抱えたスーツ姿の一団が入るシーンが映し出された。どの番組でも同じシーンが繰り返し流されている。周平とミーは昨夜も毛布を持ち込んで泊り込んだ。運び込んだ段ボールの中身を再点検して、消却するものとここからも持ち出すものとに分ける。ミーはNビルに出かけて、社長室の整理をして、裏の会社の事務部をこのビルの空き室に移動させた。4tを2台藤尾が調達してきた。
「何か手伝うよ」
 昼過ぎにケイ君が顔を出した。
「団長の指示か?」
「これ3人分の弁当だ。大変なことになったな。逮捕されることは?」
「今のところない。伯母の?」
「すべて団長に話している」
「カオルは元気か?」
 こっくりと頷く。
「テレビ見ているかい?」
 総務部長の声だ。また公衆電話からかけているのだろう雑音が聞こえている。
「そちらの指示通り、小林の部屋はすべて調べてみた。とくに怪しいものはなかった。そちらの言うようにその他のものはそのままにしている。社長室も同様にした。あのリストは本社にはないだろうね?」
「表では一切触っていませんから。銀行の方はどうですか?」
「今後の判断待ちだそうだ。専務曰く、メインのS銀行とM銀行次第だそうだ」
「小林と秘書は?」
「まだ泊められている。小林はどこまで知っているんだ?」
「Kジャーナルに出たあのリスト以外はノンタッチです。彼も使い込みやバックがばれているのは了解していますから、駆け引きですべてを話すことはしないと思いますよ」
 だがこれからどうなるのか周平にもわからない。周平は目をこすりながら書いた『噂の真相』の記事をケイ君に運んでもらうことにした。Kジャーナルの黒崎が赤坂に絡んでいたことを記事にした。どこまで彼らを牽制できるか分からない。








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ベンチャー事件の始まり

 翌日のKジャーナルに未公開株のリストがぼやかせて載せられた。これを持って来たのは轟だ。周平もミーも思い思いにソファや椅子を並べて寝ていた。あれから裏会社に書類の段ボールを運び込んだ。手伝ってくれた藤尾と運転手は自分の事務所に戻って仮眠をとった。気が立っていたのかミーがなかなか寝付けず持ってきたワインを二人でいつの間にか空けてしまっていた。いつ寝たのかも覚えていない。
「Kジャーナルには黒崎の車が残っていて、部屋には数人がいるようだった。今ダチに張り込みを続けさせている。それからY新聞の系列の雑誌を買った。やはり同日であの小林と秘書の映像をベンチャー事件としてシリーズ掲載を始めた」
 ここにはまだリストらしきものは載せられていない。
 私設秘書から携帯が入る。
「やられたな。昨夜第1秘書から電話で3か月前付の解雇を言い渡されたよ。そちらとの関係もなかったということにしてもらえということだ」
「そうだろうね。これだけ聞きたいのだが、未公開株はあのリスト通りに配られた?」
「おそらくリストの半分もその通りに配られていないね。あくまでも想像だが」
 これは総理が自分で振り分けたのだろう。
「噂でいいから集めてくれ」
「分かったよ。失業者だからな」
 携帯を切った途端、本社の総務部長からの電話だ。
「銀座には公衆電話がないね。小林と秘書が警察に入った。解雇は済ませている。これからはこちらから電話を入れる。社長もそうだ」
「社長は?」
「ヘリで大阪に。任せたと言っておられた。でも未公開株の身内売買は業界の恒例だったはずだが?」
「でもそれを恒例としてきた人達が恒例でないと決めたらどうなるのでしょか?」
「私には考え付かないな」
 これが黒崎の言う上の人達なのだろう。










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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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