夢追い旅

舅の読み

 さっそく原稿を書いて、黒崎のところに回した。
 とんでもない記事だ。今後ベンチャーは赤坂の地上げ地を買い上げないというのだ。M商事の未処分残地は幹線道路から離れた他人地に囲まれたいわゆる接道のない建築物が立たない土地ばかりになっている。明らかに意図して買い上げられたと思う。現在の土地だけで事業プランが立てられている。確かに現在売却した土地で利益は出しているが、残りは投下資本で類推しても1000億はある。これがただの紙切れになると言っている。
 黒崎のジャーナル誌が出ると、予想通りM商事はハチの巣をつついたようになった。
 即座に会長がS銀行の頭取に呼び出された。
 珍しく不動産部長になっている舅から呼び出しを受けた。
「さすが見込んだだけはある。懐に入ったな」
 二人だけになったのは久しぶりだ。
「離婚届けはまだ出してないようだな。娘と言っても会長の種だがね、先日子供が生まれて泣きついてきている」
「催促ですか?」
「いや単なる報告だよ」
 ゆっくり煙草を吹かす。
「会長は経団連の副会長のチャンスを逃すね。赤坂が命取りになる」
「予想していたわけですね?」
「ああ、なのに柳沢みたいなチンピラに乗って」
「だったら社長に乗るという手もあったのではないですか?」
「あれは捨て駒だね。M銀行の頭取の意志が全く読めていない。あの人は自分が繋ぎだということが分かっていない」
「では黒崎さんとは?」
「あの人は賭けに出ているんだ。ニューリーダーにかけている。だが年寄りたちの力はまだ絶大だな」
「マドンナのことは?」
 周平はまだ若い。ついつい内緒にしておくつもりのことを口にしている。
「そこが俺の弱点なのだなあ。好きな女は好きだ。だから柳沢と勝負をしている。マンションに時々柳沢が泊まっていることも知っている。だから勝負をしてやるんだ分かるか周平?」














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ジャンル : 小説・文学

野望

 翌日ベンチャーの旗手に呼ばれて、昼過ぎにNビルの社長室に入った。黒崎曰く気に入られたようだ。不必要なことをしゃべらないのがいいらしい。
「ここは古い仲間ばかりいる。銀座の本社は顔だが、あそこは表の顔だ」
 そう言うと、若い秘書を紹介した。
「出入りは彼女の許可がいる」
 目力の鋭い冷たい感じのする美人だ。背は周平とあまり変わらないから170センチはあろうか。
 彼女が社章と名刺を渡してくれる。秘書室長とある。
「黒崎さんからお聞きですか?」
「ああ」
「いいのですか?」
「いいよ」
 そんなのどうでもいいというような響きだ。
「ミー今日の予定は?」
 猫の名前のようだ。
「3時から役員会議で銀座で6時までです。6時半S銀行の頭取と会食です。それから・・・」
 説明が続いているが、社長はそれとは関係なく引き出しからファイルを出してくる。でもミーはそんなことは無関係に明日の予定まで入っていく。
「ミーは3か月前まで銀座のグラブにいたんだ」
「またその話ですか?」
「此奴の秘密はいずれ彼女から聞くといい」
 話が終わらないうちに、ファイルを広げて次の話に移ってしまっている。
「赤坂の残りを叩いて買い取りたい。ただこちらで調べてみたが、不良品が多い。藤尾に調査させてみたが、この黄色の部分がババになる恐れがある」
 よく調べている。柳沢はもともと再開発ということを考えていない。見よう見まねで買い込んで見せているに過ぎない。その点、藤尾は地上げの基本を心得ている。主要な土地を押さえると、後は安く買いたたく気でいる。
「この記事を次は書くんだ。今度は自分で文書を練ってくれ」
 もうコートを手に外に飛び出している。
「社長あんなにしゃべったのは久しぶり」
 ミーが突き放すように言う。

















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狼たち

 意外な結果でマドンナから遅れて出てきたのは舅の取締役だった。その電話をもらった時、思わず声を上げそうになった。あの舅が女性に恋するとはどうしても思えない。どう見てもマドンナは柳沢の女だ。でもなければ、加瀬の死の片棒を担ぐことなどするはずがない。だが、一切打ち明けない舅に告げ口をする義理もない。
 加瀬の後始末に新人を連れて回った。自殺したとなると悪い話ばかり出る。かなり強引に金をせびっていたようだ。それにツケが吃驚するほど出てくる。うんざりしてた頃にぼそぼそと携帯が入った。
「・・・」
 聞き取れない。携帯を見ると、ベンチャーの旗手からだ。
「新橋のNビルに来てくれないか?」
「何時に?」
「出来るだけ早く、下に来たら携帯を入れてくれ」
 それだけで切れる。
 Nビルに住んでいるという話は昔に噂で聞いたことがある。ビルの前まで来ると、社長の車がするりと出てくる。
 黙ったままで川崎まで走る。川崎に入ると細い路地の中をくねくね曲がる。1軒の古いスナックに入る。
「連れてきたよ」
「それはわざわざ」
 ソファにかけているのはなんと黒崎だ。
「もう20年来の悪がき仲間だ」
「私が一番若いが」
何人かは週刊誌やテレビで見た顔ぶれだ。
「いよいよ世代交代だ」
 だいたい40歳から50歳前半に見える。その中で黒崎が一番上だろう。8人ほどが気ままにグラスを傾けている。
「赤坂は俺たちでまとめ上げる」
「もちろんだ」
 彼らは口々にしゃべる。どうも周平の紹介などする気はないようだ。でもそのほうが気が楽だ。周平は水割りは苦手なのでビールを瓶ごと飲む。ママも客に酒を注ぐようなことをしない。
「この人たち狼よ!あなたは仮面を被った狼かしら?」











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加瀬の死

 加瀬の記事が載った日に地元の人が首つりをしていた彼を発見した。現場には轟が向かった。柳沢は2日前から開発部に入って書類の整理をしている。開発部はすでに舅の不動産事業部に編入されて、赤坂物件の整理にあたっている。
 加瀬の最後の記事を読んだが明らかにこれは他人の書いたものである。専務の隠し口座が記されていたが、これも彼の知りうるものではない。だが関係者はこれから疑われることになるだろう。そこまですることはないだろうと周平はつぶやいた。
 ケイ君にマドンナの見張りをお願いした。マドンナも柳沢と同じ日に出社している。マドンナが会社を出ると、秘書課から電話をもらうことにしている。それをケイ君に連絡を入れる。彼はそこから尾行を始める。初日から期待はしていない。周平は警察が加瀬の関係者とマークする人物のリストを作っている。
「柳沢はいるか?」
 ケイ君が確認の携帯を入れてくる。
 7時を回ったから、帰る可能性もある。元開発部の部屋を覗く。柳沢の姿はなく、担当者が段ボールを並べている。
「調査役は?」
「はい、今会長室に呼ばれて入りましたよ。長くなりそうだから伝えておきますよ」
「いや、また覗く」
 廊下に出ると、ケイ君に携帯を入れる。
「今赤坂のホテルに入った」
「直接?」
「ああ、予約してたみたいだな」
「柳沢はまだいる」
 どうしてマンションで会わないのだろうか。
「相手が来るまで頑張るさ。写真もだろう?」
「ああ、頼む」
















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敗戦処理

「どうだはかどっているか?」
 不動産事業部に挨拶に行く。舅の最初の言葉がそれだ。血色はいい。柳沢の机に座っている。
「彼が」
と相談役の次男を紹介する。もう一つ線が弱そうだ。
 壁に大きな赤坂の地図が貼ってある。
「青い部分は?」
「すでに売却済の部分だ。800億ほどある。この黄色部分が次の売却予定地。600億はあるな。これは品川の土地に充てる」
 品川と聞いて藤尾の話を思い出した。ベンチャー企業が買い上げていた土地が確か品川だった。藤尾の言うには将来ここから新幹線が出るというのだった。
「この赤い部分は?」
「これが問題だ。土地と建物がまとまっていないうえに、ここに合わない金を集めている。この損害を埋めるのに今までの利益で収まるのかよく分からない。ここは底地から買いに入っている。立ち退きの即決和解についての書類がないんだよ。前の藤尾部長の係った部分が多い。その後を柳沢か継いでいるから尚たちが悪い」
 九州に行ってから舅は雄弁になった。
「やはり赤坂は手放すのですか?」
「会長はもう身の保身に走ってるからね。変わり身の早い人だ」
「足の抜けない柳沢がいますよ?」
「そう問題だね。彼は視野が狭い。勝ち負けにこだわりすぎる」
 でもあんたの弱点は女ですよと口に出そうになった。これは一度マドンナの件は洗いなおしたほうがよさそうだ。
「彼女と別れたのか?」
「いえ、一度会ってと思っています」
「未練があるか?」
「未練じゃないのです。新しい出発のけじめです」
「マキ君かい?」
「いえ」
今の気持ちは舅には一生理解されないと思う。

























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