夢追い旅

母の死

 丸一日市場の近くの文化住宅を回ったが、伯母いや母の消息はつかめなかった。ケイ君が3人分の塗りつぶした地図を整理した。それで夜に周平とケイ君で留守宅を再訪した。団長はユキとカオルの晩御飯を買って帰る。周平とケイ君は9時までは食事抜きで留守宅48件を回ってしまうことにした。
 9時前予定通り周平は後3件まで迫った。これといった情報がない。ここは昼には人が誰もいなかったところだ。気づかなかったが剥げた不動産の看板がかかっている。
「店は終わっている」
 70歳を超えたようなランニング姿の老人がテーブルに据えたテレビを見ながら缶ビールを飲んでいる。
「そういや、3人で営業してしていたみたいやが?」
「人探ししてたのです」
「写真か何かあるのか?」
「いえ、60歳くらいに見える女性なのですが。首から買い物かごを下げていたとも聞いていますが?」
 出してくれた椅子に腰かける。
「それなら知っているわ」
と言うと古いノートを出してきて調べる。
「そうや。これやな」
 すごくたどたどしい字で『田辺アン』と書いてある。
「芸名なのかと言ったら本名だと言ってたな。家賃はいつも月末に持ってきていた。若い頃は別嬪さんだったな」
 周平は何から尋ねたらいいのか迷ってただ話を聞いている。
「もう2年にもなるかな。北側の1階は雨漏りがひどくて半分は空いたままだ。一番安い部屋ということでその1階の一番奥に入ってもらった。それでもいくら何でもと思ったから板を探してきて打ち付けたんや」
「今教えてくれる?」
 いつの間にかケイ君が背中から声をかける。
「残念やが6か月前に亡くなったわ。家賃を持ってこないなと思って、月が替わった3日目に覗いたんや。部屋は閉まったままだったんで、警察も呼んで合鍵で開けたら、炬燵にうつ伏せになるようにすでに息はなかった」
 周平は長らく忘れていた涙があふれて剥げたテーブルに落ちて滲みるのを見た。ケイ君がその涙を拾うように手のひらを置く。
「苦しんでいた?」
「いや、笑っているようやった。そうや息子さんの写真に頬をつけて安らかに眠っていた」
















テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

証拠

 ユキはホテルでカオルとお留守番だ。周平と団長とケイ君は朝御飯を済ませると、地図の市場周辺まで歩いて別々に2階建ての文化住宅と呼ばれるアパートを塗りつぶしてゆく。12時になったら市場の前に集合ということにした。留守宅も多いが独り暮らしの老人も多い。
「原稿渡したよ」
 ミーから連絡が入った。
「旗手社長は?」
「朝、私のマンションから地検に出かけた」
「何か言ってた?」
「リストのことだけど、1枚目だけ出して後は絶対になかったものにしてくれって」
 2枚目は旗手社長自身が入れたリストだ。3枚目は小林の追加と最終修正が入っている。この2つは小林も知らないし、周平だけが後の段取りのためにコピーを取って1枚は旗手社長に残り1枚は今も持っている。ミーも中身は知らないはずだ。確かに2枚目が出ると会社はなくなるだろう。実は総理の名前も2枚目には入っていた。これは旗手社長のメモ書きのようなものだった。3枚目で総理の関係は外している。
「轟さんが来たので替わるわ」
「やはり頻繁に黒崎はYテレビに出入りしている。昨日から鈴木がカメラマンを連れてNビルに張り込んでいる」
 どうやら旗手社長に突撃取材でもしようとしているようだ。
「Kジャーナルからリストの公表があった?」
「今のところない。あれはKジャーナルでは出さない気がするな」
「Yテレビに高く売りつけるかな」
「それとYテレビにはM商事の会長もいたぜ」
「あの人はまだ返り咲きを狙っている。柳沢が気になるな」
 携帯を切って振り返ると、団長とケイ君の顔があった。首を横に振りながら、
「東京に戻っていいのよ」
「いや、今東京におらないほうがいいようだ」






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時間の隙間

 疲れ果てて神戸駅のベンチにへたり込んでしまった。旗手社長の疲れも背負い込んでしまったようだ。ある日山手線を夢遊病のように回り始めてから、どうやら周平は時間の隙間に落ち込んだようだ。このまま時間の隙間で生き続けてよくのだろうか。これから東京までとんぼ返りする精神的な体力がない。無意識にポケットに手をやって携帯を取り出す。団長からのメールが入っている。
「ケイ君とカオルとユキを連れて今大阪にいます」
 折り返すが、呼び出すが応答はない。周平は取りあえず大阪のあの病院のある駅まで出ようと思った。
「よかった」
 大阪駅で団長に繋がった。
「どうした?」
「あの看護婦さんからケイ君に連絡があったの。市場の人に確かめてくれたら近くのアパートから買い物に」
「それでもう行った?」
「それが地図で見ると何棟もあるので明日行くことにした。周平は社長に会えたの?」
「ああ、重たい仕事を受けたよ」
「東京に帰る?」
「今どこ?」
「病院の近くのビジネスに入った」
「今から行くよ」
 携帯を切るとすぐにミーに連絡を入れる。
「とくに変化は?」
「ファイナンスにも査察が入ったわ。社長と会った?」
 小林が何か自供したのだろう。
「ああ、おそらく今日中に東京に戻ると思う。見せるものは見せる。隠すものはその中に混ぜてしまう。明日そちらにメールを送るので『噂の真相』に載せてくれと言っておいて」
「私が持って行けばいいのね?」








 

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出る杭は打たれる

 翌朝、カオルにお早う!の挨拶をしていたら、旗手社長から携帯があった。今日ミーが二人の携帯を買い替えに行く予定にしていた。
「段取りよく片づけてくれたようだな?」
 専務辺りから報告を受けたのだろう。
「問題があれば?」
「君に任した。ところで今から神戸に来てくれ」
と言ってホテルの名前を告げた。団長に声をかけて私服で家を出る。途中で社内からミーに連絡を入れる。
 昼前にはホテルに着いた。フロントに名前を告げると、最上階の部屋を教えてくれた。ドアをノックすると旗手社長が顔を出した。窓際の椅子にどこかで見たような恰幅のいい顔があった。
「スーパーD社の社長だ。昔からの先輩になる。昨日から泊まり込んで話を続けている。ようやく方向が決まったので来てもらった。専務は今日から地検に呼ばれている。だからこれからの動きは君に任せる」
 二人ともパジャマ姿で砕けているが、かなり疲れた様子だ。
「書き物はないから頭に入れてくれ。専務には君に伝えると言ってある。この調子なら明日の朝には呼び出しがある。どうも僕の夢のストーリーはここでお終いになるようだ」
「そこまで?」
「出る杭は打たれる。古い言葉だがまだしっかり生きているのさ」
 ここで初めて冷蔵庫からビールを出してきて栓を抜く。今まではコーヒーを飲んでいたようだ。
「おそらく長い裁判になるだろう。だが会社は潰したくない。そのためには本当のリストを見せるわけにはいかない。総理も同じだろう。小林が持ち出したリストを本物にしてしまうのだ。2つ目からは出したくない名前が並んでいる。これは僕以外総理と君だけだ真実を知っているのは」
「それで会社は生き残れますか?」
「残るいや、残す」
 どうやら旗手社長は真実を墓場まで持って行く気だ。
「いい時期を見て専務にバトンタッチした代表をD社の社長に譲る」
 D社の社長が頷く。ここまで話は決まったようだ。
「君も落ち着いたら、自分の将来を考えてくれ。しばらくは頼むよ」
 珍しく旗手社長が握手してきて、最後にD社の社長の手がそっと二人の手を包んでいる。旗手社長の涙を始めてみたと思った。
















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かなわない願望

 3日ぶりのホワイトドームだ。11時を過ぎているのだが、まだフランケン達が5人ほどカウンターにとまっている。団長がオムライスを作っている間に寝ているカオルをそっと抱く。この子は周囲の賑やかなのはお構いなく、時間が来たらおとなしく眠ってしまうようだ。背中でフランケン達がお金を投げ入れて出てゆく音がする。
 ビールの小瓶を黙っておく。
「心配をかけるね」
「一日中ベンチャー事件ばかりが流れているものね」
「心配が図に当たってしまったよ」
「でもそれは旗手社長の方針だったのだから仕方がないよ」
 団長には知らず知らず愚痴を言っていたのだろう。
「手は打てるだけは打った。運を天に任せるしかないな」
 それは周平の本音だ。団長は洗い場を済ませると、自分も小瓶を出す。
「ところでケイ君は報告をしたと言っているが?」
「ええ、15件の救急病院から伯母さんが運ばれた病院を探し出したわよ。全身癌だったようなの。3か月ほど病院にいたけど、ある日息子が迎えに来ると言って出て行ったらしいの。その時の看護婦さんを見つけたので詳しく話を聞いたと言っていたわ」
 息子が迎えに来るか。やはり伯母は最後まで周平を息子と認めていたわけだ。それは伯母、いや母のかなわない願望だったのだ。
「その看護婦さん周平の大学入学の時の写真を見せられたって。えらい若いのねって聞いたら、それから会ってないと言ってたらしいの。ケイ君面白い情報を見つけたの。その看護婦さん、半年後にばったり市場で伯母さんに会ったの」
 ケイ君が買った住宅地図を広げる。市場周辺を赤丸で囲っている。
「たった半年で痩せ焦げてお婆さんのようになっていた。買い物かごを首からかけて歩いていたから、そんな遠いところには住んでいないとケイ君の意見。もう一度彼には大阪に行ってもらう。何が何でも周平にお母さんに私を紹介してもらいたい。ここに来てもらって4人で暮らすのよ」
   








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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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