夢追い旅
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女は逞しい

 朝一番藤尾から連絡があった。9時から5時までということでいよいよマドンナが任意で呼ばれた。周平は『噂の真相』によって原稿をまとめて引き渡した。監査役を殺したチンピラを赤坂の地上げ現場でかくまっていたが、やくざの兄貴を使って柳沢が殺したこと。そこまでを証拠を示しながら書いた。いずれ自分も呼ばれるか漠然とした不安はある。
 藤尾とはマドンナを連れてマキの銀座のクラブで落ち合うことになっている。
「久しぶりすぎるじゃない?」
 ママ自身が玄関に出迎えてくれる。
「稼ぎがないもんでね」
 確かにママが出迎える客のなりではない。ボックス席に案内して女の子は呼ばない。
「周平昔のよしみで不動産の取引手伝ってくれない?」
「えらい羽振りだな」
「それが会長のママの店よ。会長が死んでからは閑古鳥が鳴いてたわ。でも銀座じゃ一等地だからね。この店はマドンナに任せる」
「銀座は弱肉強食だね」
 藤尾が入ってきて着替えたマドンナが顔を見せる。
「すべて話したらすっきりした!M商事の何とかいう係長のことも話したわ」
「藤尾と結婚する?」
「しない。でも同棲はしてる。私はマキママと銀座を制圧するの。柳沢の手帳に全裸の私の写真が挟んであったらしいわ。でもそんなもの脅しにもならないわ」
 M商事の秘書課にいた彼女とは同一人物とは思えない。
「女は逞しいのよ」
 マキが周平を見て笑う。男にはそんな逞しさはない。











テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

遺言

 ミーから朝一番連絡が入った。本社の社長室の応接室に10時に来るようにという旗手社長の伝言だった。
 久しぶりにスーツにネクタイをつけた。今はすでに旗手社長の秘書室長ではない。『噂の真相』の記者の名刺を持っている。あの新橋のビルの事務所は藤尾の会社の倉庫というふうになっている。周平はすでに存在しない人間になっている。 
「待ったかい?8時から最後の役員会議をしてきた。会長と社長は会議室で引き続いて記者を集めて発表をしている。私が完全に会社から離れると言う説明と、1兆円の負債を10年で返済する声明を公表している。だがそれは大したことではない」
 総務部長がソファに座る。
「これから彼とやってもらう。今回常務として再建会議委員長を兼務する。だが裏は周平に任せる。辞めるのを止める権限はもうない。お願いするだけだ」
「そんな力はありません」
「役員会議ではファイナンス上場ではまとまらなかった。ファイナンスの社長が上場を延期すると反対した。来月には上場は決定している。それで負債を半分にする予定だった。彼はやはり銀行員だったよ。この事件は待って好転することはない。それで部長は不動産を処理してくれ。周平は裏の事業を清算して、一部は表の返済に一部はあしながおじさん資金に回してくれ」
「赤坂も?」
「それはSハウスの社長に伝えてあるのでうまくやってくれ。ツキを失ったような予感がする」
「今回の事件ですか?」
「もあるが、まだまだ予想もしないことが起こるような・・・弱気じゃない」
「そんな」
 部長が心配そうに周平を見る。
「命があるうちに終わりにできるだろうか。どう転がろうと周平はこれを書き物にしてくれ。だが死ぬまでは公表するな。死ぬまでは格好良くな。それとミーを妹として面倒見てやってくれ」
 部長が携帯に頷いて立ち上がる。収監の時間が来たようだ。
























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ジャンル : 小説・文学

夢の中

 夢の中で団長が書いた主人公のアンに会った。まだ周平が小学生の頃のあの写真通りの母いやアンだ。あの頃は時々まだ通天閣の地下の劇場で唄も歌っていた。不思議なことにアンは歳をとらないのに夢を見る周平はどんどん歳をとっていって今は同年代になっている。
 アンは機嫌の良い日は楽屋に入れてくれる。
「子供がいたのか?」
と常連が聞くと、死んだ妹の子を預かっているという。常連が気に入るとアンを飲み屋に連れまわす。そんな日は最後に二人分ほどの寿司箱をぶら下げて帰って来る。そのために周平は晩飯を食べずにお腹を空かせて帰って来る。でも常連客がつかない日が周平は一番待ち焦がれている。
「ついてくるかい?」
 その一言から始まる。楽屋の裏から細い露地を何度も曲がる。まるで夢心地の世界だ。もう10回以上行ったはずだが昼間一人では見つけられない店だ。
「よう、いつもの子供を連れて来たね」
 そういうと少し年輩だが男前のマスターが大皿から綺麗な盛り付けをこしらえてくれる。アンが言うにはこの人はお釜というらしい。ここではアンがマスターとデュエットで歌う。際限なく。時々ソファーで眠ってしまっているとふとアンの声が耳に響く。
「筆おろしは私がしてあげる。大学まで行かせてあげる。でもそこからは一人で生きていくのよ」
 何度も何度も繰り返す。
 いつの間にか目があいて頬が涙で溢れている。周平は2階の布団に潜って台本を読みながら眠ってしまったようだ。暗闇の中で暖かいものが口の中で膨らんでゆく。これは夢の中と同じだ。









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母はここで生きている

 もう3日会社に行かず、ホワイトドームのカウンターの片隅で『噂の真相』の記事を書き続けている。書き上げるとケイ君が編集局に届けてくれる。時々カオルを負ぶって公園をぶらぶらする。団長は劇団を引き連れて野外テント回りをしている。その間は客も少ない。常連たちはほとんどセルフサービスで手間がかからない。
「ユキはもう立派なちいママだな」
「ちいママって?」
「団長の代理ということだよ」
「嬉しい!」
 この時間はカオルはすやすや眠っている。棚に台本が載せられている。
「今回もケイ君の台本かい?」
「今回は団長の初台本だって」
 ついつい手を伸ばしてページを繰る。
 『アンの青春』の題名を見てはっとする。伯母いや母の物語だ。いつの間に書き上げたのだろうか。通天閣の下町が鮮やかに描かれている。そう言えば松七五三聖子も一時は物書き仲間で知り合ったのだ。だが実力では恋敵の友人が一つ頭を抜いていた。彼にノートを送り続けているが小説にしてくれているのだろうか。
「練習は見たことがある?」
「9時を過ぎるとここで読み合わせが始まるの。それを見る常連もたくさん来るよ」
「アンは団長だろう。少年ひろしは誰が?」
 少年ひろしは周平のことだ。
「うん。ほんとは私がやりたいと言っていたんだけど、店番とカオルの面倒があるので同じアパートの女の子を紹介したの。頭を男の子刈りされたので泣き出しちゃったけど、本当に似合っていたよ」
 話を聞きながら周平はすっかり少年ひろしの世界に引きずり込まれてしまっている。まるでアンがそこに生きているようだ。台本の中でアンは舞台に立って踊りながら唄を歌っている。
 母はここで生きている。







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暴く

 柳沢の事件を掘り下げて、2号、3号と書く。M商事の会長と組んだ柳沢が藤尾をマドンナの強姦という罠で退職に追い込む。会長によって取締役部長に昇進した柳沢によって片腕だった鈴木部長が押し出され、閑職であった創業者一族の相談役に近づき監査役に赤坂の地上げと不明金を指摘される。そこで柳沢の指示で暴力団のチンピラが追突事故と見せかけて監査役を殺した。もちろん記事はすべてイニシャルだが、見るものによってすべて実名が浮かぶ。
 今朝藤尾が任意で呼ばれた。彼とは入念に打ち合わせ済みだ。彼はいつの間にかマドンナとできているようだ。マドンナの任意も覚悟している。くすみかけていた赤坂事件がまた一般紙で旗手社長事件並んで特集記事になる。
 旗手社長は今朝の朝刊で全株をDの会長に譲ったと公表した。これで未公開株事件は旗手社長が背負い会社は志位体制の元、会長の指導で再建に向かうことになる。取引銀行は役員を派遣することもできず融資を続行を決めさせられた。
 夜、藤尾からこのビルの裏の怪しげなスナックに呼び出される。ここは地上げ時代からの馴染だそうで、このビルの露地から入れる。
「まいったね。昼ありの9時間だぜ」
 ボトルの焼酎の水割りを飲んでいる。周平にはビールの小瓶を頼んでくれる。
「調書のサインはした?」
「ああ、だがまた呼ばれるかもな」
「ポイントに整理して話してくれ」
 周平はメモを出してきて記入始める。
「まずマドンナの強姦についての事実確認だ。眠り薬を飲ませれて起きると半裸のマドンナがいた。それを柳沢に取り押さえられたという話をした。それで自己都合で退職する羽目になった。嵌められたと主張したよ。柳沢の手帳にそれらしいことが書かれていたのだろう疑わなかった。でもマドンナを呼ぶだろう」
「赤坂の地上げの不明金のことは?」
「それは次回のような話しぶりだ。ただ『噂の真相』と見比べていた。かなり信憑性があるという感じだ。最後に赤坂の地上げはどこから持ち込まれたかと聞かれたよ」
「そうか」
 周平は次号で赤坂の地上げがS銀行より会長に持ち込まれて始まったと書こうと決めた。















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プロフィール

夢人

Author:夢人
これは30年前から書き始められた小説です。
日記風に手書きされた原稿にもう一度読み返して書き加えたものもあります。この小説は本来活字にはしないことにしていましたが、某社長がなくなれた記念碑で発表を決意しました。

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